2022年9月13日火曜日

ロシアが北朝鮮に頼るワケ 制裁と原油価格低下で苦境 「タマに使うタマがないのがタマに傷」日本の自衛隊も深刻、切羽詰まる防衛省―【私の論評】中国がロシアを最後まで支持して運命を共にすることはない(゚д゚)!

日本の解き方


 ロシアに北朝鮮が砲弾などを提供すると報じられた。その背景や、日本への影響を考えてみたい。

 米国防総省のライダー報道官は6日の記者会見で、ウクライナへの侵攻を続けるロシアが、北朝鮮から武器を購入せざるを得なくなっているとの見方を示した。「ロシアが侵攻の維持や後方支援で困難を抱えていることを示している」と指摘した。西側諸国の制裁により、ロシアの軍用品などの供給能力が低下しているためだと別の政府高官は明らかにしている。

 ウクライナとロシアの紛争は長期化している。2週間で侵攻完了というロシアの当初のもくろみはかなり外れて、武器供給までも行き詰まってきているのだろう。それとともに、経済制裁の効果がじわりじわりと出てきている。

 ロシアは欧米など先進国との交易が経済制裁の対象となっているものが多いため、経済制裁を実施していない新興国との貿易を拡大させている。原油などの輸出だけでなく、家電や機械、食品といった輸入も増やしている。ロシアの石油は本来禁輸されているはずの欧州にも「裏」輸出されているという指摘もある。これも、ロシア経済が苦しいという傍証である。

 原油価格の指標であるWTI原油先物は、2月のロシア侵攻時に1バレル=90ドル程度だったのが、130ドル程度まで急騰した。その後は100~120ドルあたりで推移していたが、7月以降、100ドルを割り込み、今では侵攻時の水準より低い80ドル程度だ。

 エネルギー価格の低下は、西側の経済制裁とともにロシア経済を苦境に陥らせている。ある意味で、ロシア経済は抜け道の多い経済制裁よりも直接的に交易収入減となるエネルギー価格の下落のほうが効果が大きい。

 一方、経済制裁をしている西側諸国の経済にとってはメリットが大きい。さらに言えば、西側諸国からのウクライナ支援も継続できるチャンスでもある。

 エネルギー価格の低下は、エネルギーの大半を海外に依存している日本経済にもプラスである。しかし、安全保障面でみると、ロシアですら弾不足になるという現実は、日本の防衛を考えると、空恐ろしいともいえる。

 日本の自衛隊では、自嘲ともいえるジョークがあるという。「タマに使うタマがないのがタマに傷」というものだ。ただし、笑っている場合ではない。

 これまではこのような深刻な話が外に出にくかったが、さすがに防衛省としても切羽詰まってきているのだろう。来年度予算について財務省への概算要求が8月末に行われたが、その中で、「共食い」と言われる実態が要求資料の中にある。ある装備の備品が足らなくなると、新規に調達するのではなく、他の装備から部品を取ってくるというのだ。

 当然のことながら、部品を取られた装備は使用できない。なお、この概算要求の資料は防衛省のウェブサイトにあるので、興味のある方は参照していただきたい。まともに防衛力強化を考える時期だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】中国がロシアを最後まで支持して運命を共にすることはない(゚д゚)!

ロシアが北朝鮮に頼ることはロシアの窮地を表す象徴的に表しています。ロシアが窮地に追い込まれているのは間違いありません。

ただ、ロシアが最も頼りにしたいのは、ロシアの極東地域で実施した大規模軍事演習「ボストーク2022」にも参加した軍事大国・中国のはずです。国防費を毎年上げ続け、世界屈指の陸軍力を誇っています。

ただ、中国外務省は侵攻が始まった当日に「武器の提供はない」と明言していました。

中国外務省・華春瑩報道局長「我々は、アメリカがウクライナに軍事物資を提供したように、相手国(ロシア)に武器を提供することはない。ロシアも実力ある大国として、中国や他の国からの武器支援は必要ないでしょう」

中国外務省・華春瑩報道局長

ロシアがウクライナへの侵攻を開始した2月24日、中国外務省は定例の記者会見でロシア支援の可能性について問われた際、「武器の提供はない」と明言していました。

ロシアは大国で支援は必要ないとの認識も示しています。

ただ、ロシアが中国に支援を要請したと欧米メディアが報じた3月13日以降は、「偽の情報だ」と反発はするものの、前回のように支援を否定する発言はしていません。

中露ともに、当初は、ロシアのウクライナ侵攻は、数週間で何らかの形で決着がつくものと考えていたのでしょうが、その予想は完璧に外れた形になっています。

中国共産党機関紙、人民日報(海外版)は12日付で、中国共産党序列3位で、習氏の最側近として知られる栗戦書・全人代常務委員長が7~10日、ロシアを訪問してプーチン氏と会談したと伝えました。栗氏からウクライナに関する直接的な言及はなかったようで、習政権の慎重な姿勢は継続されているようです。

栗戦書(左)とプーチン

習氏は、プーチン氏から支援要請があった場合、動くのでしょうかか。

ただ、欧米などの監視もあり、中国が直接の支援に動く可能性は低いです。一方、中国やロシアと並び「新・悪の枢軸」という枠組みで語られるイランや北朝鮮は、戦闘用の無人機(ドローン)や弾薬の販売に積極的です。

中国がロシアに武器を供与するとすれば、イランや北朝鮮を経由することになるでしょう。中国としては、ロシアから石油や天然ガスを安く購入できる利益もある。現在の両国関係は、中国が完全に優位なかたちに傾いているようです。

習近平は、そもそも米国の制裁自体が一般人を苦しめ、制裁が拡大すれば世界経済が大混乱に陥るとして、制裁自体に反対しています。しかし、中国・ロシア関係に世界の注目が集まっている状況において、ロシアを支援すれば中国は国際社会からロシアの戦争犯罪の共犯者と批判されることを覚悟しなければならないでしょう。

中国が本気でロシアと同盟を組み、米国と対峙しようとしているとは到底思えません。 ロシアにとっても中国にとっても、米国との関係こそが戦略的に重要で、逆に言うと、米国との関係が悪いときには、お互いが必要なのです。ロシアと中国の関係自体は「戦略的同盟関係」というより、「戦術的なパートナー」でしかありません。

ロシア軍と中国軍の艦艇が日本列島を周回したり、中国ボストーク22の軍事演習に参加したのも戦術的なものです。 NATOには、ベルギーに欧州連合軍最高司令部という司令部があります。しかし、両国にはこれに相当するような両国統一の司令部がないですから、一緒に戦えるとは考えられませんし、戦おうともしていないと考えられます。

欧州連合軍最高司令部

両国による合同軍事演習や訓練は、政治的なデモンストレーションに過ぎないと考えられます。もちろん政治的な意味はありますし、それを無視するべきでもありませんが。しかし、彼らの動きは極めて戦術的で便宜的な部分が多いと考えられます。ただ、これからロシアや中国を追い込めば追い込むほど、お互いの絆は強まることにはなるでしょう。

しかし、仮にロシアが米国との関係を改善できるのなら、中国そっちのけで米国に専念することになるでしょう。中国も同じでしょう。現在は、米国と対立しているから互いに相手を利用しようとしているだけです。

9月15日からウズベキスタンで習主席とプーチン大統領の会談が行われることになっていますが、これは、どちらから声を掛けたかはわかりませんが、習近平がプーチンに会いたくて会いに行くというわけではないでしょう。

むしろ中国としては、ここまで来てしまった以上、ロシアをある程度は支援せざるを得ないのですが、米国との関係もあり、ロシアを支援しすぎると米国との関係がこじれるので、それ以上リスクを取ってまでロシアにのめり込むことはしないでしょう。

ただ、習近平は、北京オリンピックの直前に、北京でプーチンと首脳会談をし、そうして共同声明を出し、「中国とロシアの友情にリミットはない」と発言してしまいました。

当初はもっと早くロシアのウクライナ侵攻はは、終わると考えていたのでしょう。しかし、これだけ戦争が長続きしてロシアに対する反発が高まれば、当然、ロシアに関与しているとみられる中国に対する批判が激しくなることになります。

中国はそのことにやっと気が付いたようで、ずいぶん軌道修正をしました。それ以来、中国はロシアに対して必ずしも完全に支持しているわけではありません。急に状況が変わったとは考えられず、ロシアとはつかず離れずになると思います。

ただ、ロシアを完璧に切るわけにはいかないでしょう。そうすれば、米国が中国に強く出る可能性もあるので、ロシアに頑張ってもらわないといけないです。でも、中国がロシアを最後まで支持して運命を共にすることはないでしょう。

何しろ、中露はかつて中ソ国境紛争で戦った仲です。現状では、戦術的には結びついてはいますが、元々はユーラシア大陸で覇権を争う、隣国同士です。現状では、人口でも経済でも、中国がロシアを圧倒しているということと、米国との関係が、両国とも悪くなっているので、今は結びついていますが、いずれかが米国との関係さえ良くなれば、米国側に近づくことが戦術ということになります。

今は、影を潜めていますが、根の部分では敵対していると見るのが、正しい見方であると考えられます。両国とも米国との関係が改善されなくても、中国の経済がかなり悪くなれば、その根の部分が表に出てきて、両国関係は悪化することになるでしょう。

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