2022年9月14日水曜日

トラス英首相の積極財政路線 日本との経済面では緊密関係 安全保障でも対中包囲網の強化を―【私の論評】本格的な「地政学的戦争」の先駆者英国と日本は、これからも協力関係を深めていくべき(゚д゚)!

日本の解き方


リズ・トラスト英首相

 英国でリズ・トラス首相が誕生したが、中国やロシア、欧州連合(EU)などとの関係は変わるのか。日本はどのように連携すべきか。

 就任したばかりのトラス氏は、早速1500億ポンド(約25兆円)規模のエネルギー費対策を発表した。

 トラス氏は保守党の党首争いで、リシ・スナク前財務相と争ったが、スナク氏が財務相経験者らしく緊縮路線だったので、党首争いの流れのまま、積極財政路線を貫いたのだろう。

 具体的には、家計のエネルギー料金の上限を2年間、年2500ポンド(約42万円)程度に抑える計画を発表した。

 家計の年間エネルギー代の平均は4月に54%値上がりして1971ポンド(約33万円)となり、10月には80%上昇して3549ポンド(約59万円)に達する見通しだった。今回の措置は4月よりは高いが、当初予定より引き下げる形になっている。

 英国では、インフレがひどい状況になっている。インフレ率は7月時点で10・1%と1982年2月以来の高水準だ。ロシアによるウクライナ侵攻が主原因であるが、英国がEUを離脱したため、安価な労働力が利用できなくなって、供給サイドの拡大もままならないことも背景にある。

 イングランド銀行(英中央銀行)は10月のインフレ率が13%を超えると予想している。政府は今回の措置がインフレ率を最大5ポイント押し下げると期待する。

 大規模財政出動を懸念する声もあるが、家計や企業が直面している問題の解決には財政出動は大きくないといけない。トラス氏は正しい方向の経済政策を実行しようとしている。

 経済面でいえば、EU離脱後の英国が各国との経済連携を模索する中、日本と経済連携協定(EPA)を締結した。当時の担当大臣はトラス氏だった。このため、経済関係では日本にとってなじみが深い。

 さらに、英国は日本主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)にも参加の意向を示している。これらの英国の取り組みは、日英にとって好ましいもので、経済関係ではかなり緊密になっているといえるだろう。

 筆者は、日英関係を経済だけに限らず、安全保障まで広げたらいいと思っている。

 もともと経済圏と安全保障圏は、EUと北大西洋条約機構(NATO)との関係を見ればわかるように、かなりオーバーラップしている。経済関係と安全保障関係は互いに補完的であるので当然のことだ。

 であれば、日英が安全保障関係でも連携するのは自然だ。日米安保の関係は揺るぎないが、日本としては英国との関係があってもいい。かつて、日英同盟があり、当時の日本は輝いていた。いま第2の日英同盟があれば、対中包囲網がより強化されるだろう。これをオーストラリアやニュージーランド、さらにはインドまで広げると、対中戦略はかなり万全になるはずだ。

 日本の周辺には、中国、ロシア、北朝鮮と3つも専制国家があり、世界の危険地帯だ。日本の安全保障のためには、民主主義の同盟国が多いほどいい。そのカギを英国は持っている。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】本格的な「地政学的戦争」の先駆者英国と日本は、これからも協力関係を深めていくべき(゚д゚)!

実は、日英には大きな共通点があります。それについては、あまり語られることもないのですが、本当に重要な共通点があります。それについては、以前このブログでも述べたこがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米空母カールビンソン、ベトナム・ダナンに寄港 戦争終結後初 BBC―【私の論評】新たな日米英同盟が、中国の覇権主義を阻む(゚д゚)!
この記事は、2018年のものです。詳細は、この記事ご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
日本と英国といえば、昨年は事実上の日英同盟の復活がありました。2017年8月30日、英国のテリーザ・メイ首相が日本を訪問しました。アジア諸国の歴訪でもなく、メイ首相はただ日本の安倍晋三首相らと会談するためにだけに、日本にまで出向いて来たのです。その目的は、英国と日本の安全保障協力を新たな段階に押し上げることにありました。
日本を訪問した英メイ首相と安倍首相
英国は1968年、英軍のスエズ運河以東からの撤退を表明しました。以来、英国はグローバルパワー(世界国家)の座から退き、欧州の安全保障にだけ注力してきました。ところが、その英国は今、EUからの離脱を決め、かつてのようなグローバルパワーへの返り咲きを目指しています。

そして、そのために欠かせないのが、アジアのパートナー、日本の存在です。日本と英国は第二次世界大戦前後の不幸な時期を除いて、日本の明治維新から現代に至るまで最も親しい関係を続けてきました。

日本の安倍首相とメイ首相は「安全保障協力に関する日英共同宣言」を発表し、その中で、「日英間の安全保障協力の包括的な強化を通じ、われわれのグローバルな安全保障上のパートナーシップを次の段階へと引き上げる……」と述べ、日英関係をパートナーの段階から同盟の関係に発展させることを宣言しました。

そして、「日本の国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の政策と英国の『グローバルな英国』というビジョンにより」と述べ、英国がグローバルパワーとして、日本との同盟関係を活用して、インド太平洋地域の安定に関与していく方針を明確にしました。

この突然ともいえる、日英同盟の復活ですが、これにはそれなりの背景があります。日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っているといえます。
ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本
日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

そうして日英同盟は結局、日英米の三国による同盟関係の追求に発展することでしょう。それは覇権の三国同盟ではなく、新しい安全保障の枠組みとしての「平和と安定の正三角形」になることでしょう。そうして、それこそ、新日英同盟の本当の意味があり、それが実現すれば、日本の国際的地位と外交力は飛躍的に向上することになるでしょう。

昨日は、このブログでユーラシア大陸の中国とロシアについて述べました。 これも以下に引用します。

NATOには、ベルギーに欧州連合軍最高司令部という司令部があります。しかし、両国にはこれに相当するような両国統一の司令部がないですから、一緒に戦えるとは考えられませんし、戦おうともしていないと考えられます。
欧州連合軍最高司令部
 
両国による合同軍事演習や訓練は、政治的なデモンストレーションに過ぎないと考えられます。もちろん政治的な意味はありますし、それを無視するべきでもありませんが。しかし、彼らの動きは極めて戦術的で便宜的な部分が多いと考えられます。ただ、これからロシアや中国を追い込めば追い込むほど、お互いの絆は強まることにはなるでしょう。

しかし、仮にロシアが米国との関係を改善できるのなら、中国そっちのけで米国に専念することになるでしょう。中国も同じでしょう。現在は、米国と対立しているから互いに相手を利用しようとしているだけです。

9月15日からウズベキスタンで習主席とプーチン大統領の会談が行われることになっていますが、これは、どちらから声を掛けたかはわかりませんが、習近平がプーチンに会いたくて会いに行くというわけではないでしょう。

むしろ中国としては、ここまで来てしまった以上、ロシアをある程度は支援せざるを得ないのですが、米国との関係もあり、ロシアを支援しすぎると米国との関係がこじれるので、それ以上リスクを取ってまでロシアにのめり込むことはしないでしょう。

ただ、習近平は、北京オリンピックの直前に、北京でプーチンと首脳会談をし、そうして共同声明を出し、「中国とロシアの友情にリミットはない」と発言してしまいました。

当初はもっと早くロシアのウクライナ侵攻はは、終わると考えていたのでしょう。しかし、これだけ戦争が長続きしてロシアに対する反発が高まれば、当然、ロシアに関与しているとみられる中国に対する批判が激しくなることになります。

中国はそのことにやっと気が付いたようで、ずいぶん軌道修正をしました。それ以来、中国はロシアに対して必ずしも完全に支持しているわけではありません。急に状況が変わったとは考えられず、ロシアとはつかず離れずになると思います。

ただ、ロシアを完璧に切るわけにはいかないでしょう。そうすれば、米国が中国に強く出る可能性もあるので、ロシアに頑張ってもらわないといけないです。でも、中国がロシアを最後まで支持して運命を共にすることはないでしょう。

何しろ、中露はかつて中ソ国境紛争で戦った仲です。現状では、戦術的には結びついてはいますが、元々はユーラシア大陸で覇権を争う、隣国同士です。現状では、人口でも経済でも、中国がロシアを圧倒しているということと、米国との関係が、両国とも悪くなっているので、今は結びついていますが、いずれかが米国との関係さえ良くなれば、米国側に近づくことが戦術ということになります。

今は、影を潜めていますが、根の部分では敵対していると見るのが、正しい見方であると考えられます。両国とも米国との関係が改善されなくても、中国の経済がかなり悪くなれば、その根の部分が表に出てきて、両国関係は悪化することになるでしょう。
中国とロシアは、根底ではユーラシア大陸の覇権をめぐり互いに争う、覇権国家ですが、現在では、ロシアのGDPは韓国より若干下回る程度です。中露ともに一人あたりのGDPは1万度を若干上回る程度に過ぎませんが、ロシアの人口は1億4千万人であり、中国の人口は14億人であり、経済では中国が、ちょうどロシアの十倍程度の規模です。

この状態では、中露が現状で対峙することは得策ではないことが明らかであり、そのため中露は戦術的に結びついています。

そうして、中露はいずれもランドパワーの国であり、中露ともに海軍を有していますが、その実力はやはり未だランドパワーの国の海軍であり、いまでも日英におよばないです。

特に、日英には強力な潜水艦隊が存在しています。日本は、通常動力のステルス性に優れた22隻の潜水艦艦隊を持ち、これは対潜哨戒能力が未だ低い、中露を脅かしています。英国はアスチュート級を7隻建造する計画で、2007(平成19)年6月に1番艦「アスチュート」が進水、2010(平成22)年8月に就役して以降、これまでに4番艦「オーディシャス」までが同海軍に引き渡されていました。

さらに、今年就役した「アンソン」は2011(平成23)年10月13日に起工。約10年後工期を経て2021年に進水し、今年8月31日に就役し海上公試に入りました。

水中排水量は約7700トン、全長97m、全幅11.3m。乗員数は約100名(最大109名)で、ロールス・ロイス製の加圧水型原子炉「PWR2」を1基搭載し、速力は30ノット(約55.6km/h)。533mm魚雷発射管を6門備え、国産の「スピアフィッシュ」魚雷のほか、アメリカ製の「トマホーク」巡航ミサイルなどを装備しています。

これらは、攻撃型原潜であり、現在の攻撃型原潜として最新型であるとともに、かなりの攻撃力があります。米国にも攻撃型原潜が多数あるのですが、旧式化しつつあるため、今後の製造計画から、一時的に攻撃型原潜の数が減るこどか予想され、まさにそれを補うのが英国の攻撃型原潜であるといえます。

英国はいわゆる「グローバル・ブリテン」を標榜していますが、現在では空母「クイーン・エリザベス」による空母打撃群だけでは、役不足であり、この裏付けとなるのが、まさにアスチュート型攻撃型原潜であるといえます。

日英は、対潜哨戒能力でも中露を大幅に上回る能力を有しており、そのため対潜戦闘力はかなり強いです。実際に日英・中露が海戦ということになれば、中露はかなり不利です。中国は艦艇数は多いですが、対潜哨戒力が劣っており、実際に海戦ということになれば、かなり苦しい戦いを余儀なくされることになります。ロシアも同じです。

これに、シーパワーの雄である、米国が加わり、日米英で、中露と対峙ということになれば、中露としては絶望的です。中国海軍のロードマップによれば、2020年には第二列島線を確保することになっていましたが、それどころか、2022年の今年になってすら、台湾や尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できていないという現実が、それを如実に示しています。

ランドバワー国が、シーパワー国になるのは、そう簡単なことではないのです。ランドパワー国が、多数の艦艇を建造して、海洋に乗り出したからと言ってそれで、すぐにシーパワー国になれるわけではありません。そうして、ランドパワーの国と、シーパワーの国が海で戦えば、ランドパワー国にはほとんど勝ち目はないのです。

現在の中国は鄧小平が劉華清(中国海軍の父)を登用し、海洋進出を目指した時から両生国家の道を歩み始めました。そして今、それは習近平に引き継がれ、陸海併せ持つ一帯一路戦略として提示されるに至っています。しかしこれは、マハンの「両生国家は成り立たない」とするテーゼに抵触し、失敗に終わるでしょう。

劉華清(中国海軍の父)

事実、両生国家が成功裏に終わった例はありません。海洋国家たる大日本帝国は、大陸に侵攻し両生国家になったため滅亡しました。大陸国家たるドイツも海洋進出を目指したため2度にわたる世界大戦で滅亡しました(ドイツ第2、第3帝国の崩壊)。ソビエト帝国の場合も同じです。よもや、中国のみがそれを免れることはないでしょう。一帯一路を進めれば進めるほど、地政学的ジレンマに陥り、崩壊への道を早めてゆくことになります。

そうして、もう一つ忘れてはならないことがあります。英国は、地政学的戦いの先駆者であるという事実です。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

米中の争いも、軍事的なもので本格的に対峙すれば、互いに核保有国であり、最終的には核ミサイルの打ち合いになりかねません。そのため、軍拡競争的なことはするでしょうが、互いに真正面から軍事衝突することはしないとみられます。そうなると、米中の本格的な争いの領域は「地政学的」なものにならざるをえません。

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。これは、かつての英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

中国企業がスパイ行為などにより技術の窃盗を繰り返したり、貿易のルールを平然と破ったりするのは、それがビジネスであると同時に、国家による戦争だからです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎(とが)め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

そうして、英国は本格的な「地政学的戦争」における、先駆者であるのです。香港を中国に蹂躙された英国としては、その憤りをいずれ何らかの形で晴らそうとするのは当然であり、その意味でも日英は手を携えるべきです。

日本にとっては、これから中国と対峙していく上で、英国は強力な助っ人となるのは確かであり、EUを脱退した英国としてもTPP加入は、念願であり、日英の協力関係は、今後ますます強めていくべきです。

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