2022年9月2日金曜日

オーストラリア海軍要員、英の最新鋭原潜で訓練へ AUKUSで関係深化―【私の論評】豪州は、AUKUSをはじめ国際的枠組みは思惑の異なる国々の集まりであり、必ず離散集合する運命にあることを認識すべき(゚д゚)!

オーストラリア海軍要員、英の最新鋭原潜で訓練へ AUKUSで関係深化

英国の攻撃型原潜「HMSアンソン」

 韓国・ソウル(CNN) 米英豪3カ国による安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」の下で防衛面の関係が深化するなか、オーストラリア海軍の要員が近く英国の原子力潜水艦で訓練を始める見通しとなった。英政府が8月31日に明らかにした。

 ウォレス英国防相は「インド太平洋を始めとする地域で自由民主主義秩序への脅威が高まるなか、今日はこれに対抗する英国とオーストリアの準備作業において重要な節目になった」と述べた。

 英海軍がイングランド北部バロー・イン・ファーネスで最新鋭の攻撃潜水艦「HMSアンソン」を就役させた際の発言。就役式にはオーストラリアのマールズ副首相兼国防相も参加した。

 ウォレス氏は就役式で、国内の造船業や国際的な提携を称賛。国内の造船所で建造されたアンソンは英国産業の粋を示すものであり、「AUKUSに基づき緊密な同盟国であるオーストラリアや米国などとの共同安全保障に貢献する英国の意欲を明確に示している」と述べた。

オーストラリアのマールズ副首相兼国防相

 マールズ氏も「オーストラリアの潜水艦要員がHMSアンソンで訓練を受けるという今日の発表は、AUKUSの協力関係を構築する我々の将来の計画について全てを物語っている」と語った。

 昨年締結されたAUKUS協定に基づき、オーストラリアは2040年までに原子力潜水艦を取得したい考えを示している。

 建造予定のオーストラリアの原潜の設計はまだ不明。英国のアスチュート級潜水艦や米海軍のバージニア級攻撃潜水艦に似たものになる可能性があるが、オーストラリア独自の仕様の新型艦になる可能性もある。

【私の論評】豪州は、AUKUSをはじめ国際的枠組みは、必ず離散集合する運命にあることを認識すべき(゚д゚)!

英国海軍は2021年5月17日(月)、アスチュート級原子力潜水艦の5番艦「アンソン」を、イングランド北部の都市バロー=イン=ファーネスにあるBAEの造船所で進水させていました。

アスチュート級原子力潜水艦は、魚雷や対艦ミサイルなどで敵の水上艦や潜水艦などを攻撃するのが主任務の、いわゆる攻撃型原潜と呼ばれるタイプであり、大陸間弾道弾などを搭載する、いわゆる戦略ミサイル原潜ではありません。

イギリス国防省はアスチュート級を7隻建造する計画で、2007(平成19)年6月に1番艦「アスチュート」が進水、2010(平成22)年8月に就役して以降、これまでに4番艦「オーディシャス」までが同海軍に引き渡されていました。

今回、就役した「アンソン」は2011(平成23)年10月13日に起工。約10年後工期を経て2021年に進水し、今年8月31日に就役し海上公試に入りました。

水中排水量は約7700トン、全長97m、全幅11.3m。乗員数は約100名(最大109名)で、ロールス・ロイス製の加圧水型原子炉「PWR2」を1基搭載し、速力は30ノット(約55.6km/h)。533mm魚雷発射管を6門備え、国産の「スピアフィッシュ」魚雷のほか、アメリカ製の「トマホーク」巡航ミサイルなどを装備しています。

英国のように、原潜を製造する能力があっても、起工してから就役するまで10年以上もの歳月を必要とするのです。そうして、就役したからといってすぐに実戦に参加するわけではありません。

その後に海上公試があります。海上公試は、建造された艦船を海上で実際に運航し、要求通りの機能・性能が発揮できるかを確認するために、建造所から軍への引き渡し前に実施される試験です。

海上公試は、船の性能を調べる艦船公試と搭載兵器の性能を調べる武器公試(軍艦などの場合)に大別されます。試験期間は1泊2日、5泊6日など船の種類によって様々です。

 海自の場合だと、数十回の海上公試を行い、トータルシステムとしての艦船の完成検査を受け、合格して引き渡しを行い、契約の履行が完了という運びになります。

防衛省に引き渡された艦船は、ただちに防衛大臣により自衛艦旗が授与され、自衛艦としての位置付けが確立し、部隊に配属され、任務に就くことになります。

一隻の艦艇を製造するにしても、起工してから、任務につくまではこれだけの期間を要するのです。

オーストラリアには、そもそも自前で潜水艦建造の技術もなく、原子力産業も存在しません。そのオーストラリアが原子力潜水艦を持つということは、文字通り一つの産業を起こすくらいの大事業です。

オーストラリア政府が、原子力潜水艦を2040年までに取得したいとしている理由が、これでおわかりになると思います。それだけ、原潜の開発には、手間と時間がかかるのです。

それを早めるために、潜水艦を最初から建造するのではなく、建造されたものを購入するという手もあります。それにしても、すぐに運用するには、乗組員を訓練しておく必要があります。今回のオーストラリアの潜水艦要員がHMSアンソンで訓練を受けるという発表は、そうしたことも視野に入れている可能性もあります。

ただ、2040年までというとかなり長期です。その期間中誰が首相になろうが、英豪間の強いコミットメントが必要です。さらに、20年後までAUKUS内でオーストラリアを機能させないままにするのかという議論にもなると思います。それは、あり得ないでしょう。

このことから、元トランプ政権高官シュライバー氏は、豪州に原潜は来ないかもしれないと警告しています。それは、多いにありえることです。

これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
AUKUSで検討されている新戦略―【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論は、あってしかるべき(゚д゚)!

2020年2月、蔡英文台湾総統(右)を表敬訪問したシュライバー氏(左)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、シュライバー氏は以下のような提案をしています。

シュライバー氏は「両国の政治指導者の持続的なコミットメントが必要であり、それがなくなれば豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べた上で、①原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)が必要だ、②B-21(最新長距離爆撃機)の調達を検討すべきだと主張しています。

B-21は高い柔軟性、早い補充性等の利点を有するといいます。しかし、B-21も最新技術を使用しており、米国の技術供与同意は簡単ではないでしょう。

いずれにしても、AUKUSという組織をつくったにしても、その組織の一員である、オーストラリアが2040年に原潜を取得するまで、何もしないというわけにはいかないでしょう。

原潜計画は進めるにしても、2024年まで、オーストラリアが何かに貢献すべきことは明らかです。

現在中国に対抗するため、様々な軍事的あるいは経済的な枠組みが作られています。ただ、これらの枠組みが将来にわたって不変で継続し続けるかどうかなどわかりません。それを考えると、シュライバーの指摘は正しいと思います。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

AUKUSを読む上で重要な地政学的視点―【私の論評】同盟は異なった思惑の集合体であり必ず離合集散する。AUKUS、QUAD、CPTPPも例外ではない!我々は序章を見ているに過ぎない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を掲載します。

インド太平洋には、もう一つ、QUAD(クアッド)という対話の枠組みがあります。日本が主導して始めたもので、米国、オーストラリア、インドが加盟しており、9月には初めての対面形式の首脳会議がホワイトハウスで開催されました。首脳会議は今後、毎年開催される予定です。

AUKUSが今後、発展していくにつれて、QUADとどのように連携していくのかが、大きなテーマになるでしょう。

英国はCPTPPへの加盟を検討していますし、日本も将来、AUKUSへの加盟を検討しなくてはならない時期が来るでしょう。やがて、インド太平洋では、政治はQUAD、安全保障はAUKUS、経済はCPTPPという役割分担が成立するかもしれないです。

歴史を見ればわかるように、同盟は異なった思惑の集合体ですから、必ず離合集散します。これらの枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。

AUKUS、QUAD、CPTPP、それらはやがて一つにまとまり、作り替えられて、将来、インド太平洋同盟として花開く可能性を秘めています。

今、われわれが目にしているのはその始まりにすぎないのです。

ただ、オーストラリアには潜水艦を所有したいという強い意思があるのも事実です。中国の艦艇がオーストラリアの近くの海域を航行するのは珍しいことではなくなりました。オーストラリア国防省は2月19日、豪州北部沖合の上空を飛行していた哨戒機が海上の中国軍艦艇からレーザー照射を受けたと発表しています。

中国の潜水艦が航行している可能性もあります。こうしたことに備えるためには、中国は対潜哨戒能力がオーストラリアよりも低い(米国より対潜哨戒機P-8等を導入し対潜哨戒能力を高めている)ことを考えると、攻撃力に優れる攻撃型原潜を手に入れることは理にかなっています。

それにしても、同盟は異なった思惑の国々の集合体ですから、必ず離合集散します。現在の国際的な枠組みもいつかは統合し、分裂し、さらにNATOや日米同盟もこれらに吸収されることになるかもしれないです。

オーストラリアも、こうした国際的枠組みの離合集散に備えておくべきと思いますし、現在のAUKUSへの貢献も考えるべきでしょう。

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