2022年2月20日日曜日

中国艦が豪哨戒機にレーザー照射、「脅迫行為」とモリソン首相―【私の論評】背後には中国海軍の脅威を無効にしかねない、P-8A哨戒機への中国のいら立ちが(゚д゚)!

中国艦が豪哨戒機にレーザー照射、「脅迫行為」とモリソン首相


オーストラリアのモリソン首相は20日、中国軍の艦船が豪軍の哨戒機にレーザー照射したことを「脅迫行為」だと非難し、中国政府に説明を求めた。

首相は会見で「脅迫行為に他ならない。(レーザー照射は)挑発がなかったにもかかわらず行われたもので、正当化できない。このような脅迫行為は断じて受け入れられない」と述べた。

オーストラリア国防省は19日、同国北方の排他的経済水域(EEZ)上空を17日に飛行していた哨戒機が中国軍の艦船からレーザー照射を受け、操縦士が生命の危険にさらされたと発表した。同国防省によると、中国艦はもう1隻とともにアラフラ海を東に向けて航行していた。同海域はオーストラリアとパプアニューギニアの間に位置する。

同国防省は「未熟で危険な軍事行為」だとした。

【私の論評】背後には中国海軍の脅威を無効にしかねない、P-8A哨戒機への中国のいら立ちが(゚д゚)!

上の記事によると、レーザー照射した中国の艦艇は、アラフラ海を東に向けて航行していたといいます。以下にアラフラ海の地図を掲載します。


アラフラ海はかなりオーストラリアに近いです。上の地図で「チモール海共同石油開発地域」とは、2011年に国際石油開発帝石が、インドネシア共和国アラフラ海マセラ鉱区のアバディガス田の開発でロイヤル・ダッチ・シェルを戦略的パートナーに選定し、保有権益90%のうち、30%をシェルの関連会社に譲渡することで合意し、両者で開発をすすめている地域です。

今回中国の艦船から、レーザー照射を受けたオーストラリアの哨戒機は、おそらくは米国製のP-8哨戒機だと思います。

このP-8は多くの国々で採用されています。日本は、自前のP-1を運用していますが、ご存知のようにこれは過去に韓国艦艇からレーザー照射を受けています。

米軍のP-8A哨戒機

このP-8は過去にも中国の艦艇からレーザー照射を受けています。

2020年2月28日付米ブライトバートオンラインニュースに「中国軍艦、米軍機に対して“危険かつ不当な”レーザー照射を浴びせる挑発行為」という記事が掲載されました。その記事の内容を翻訳して以下に掲載します。

米海軍は2月27日、西太平洋のグアム基地沖を飛行中の米軍機が2月17日、近くを航行する中国軍艦から“危険かつ不当な”レーザー照射を受けたことを明らかにした。

米太平洋軍の報道官が同日、『ネイビー・タイムズ』紙(1951年発刊)のインタビューに答えたもので、グアム基地の380マイル(約600キロメートル)西沖を飛行中のP-8Aポセイドン哨戒機に向けて、中国軍駆逐艦から浴びせられたもので、海上衝突回避規範(CUES、注後記)に違反する不当な行為だと非難した。

同報道官によれば、有事の場合を除き、飛行中の飛行機にレーザー照射を行うことは、乗員の健康・安全を脅かすだけでなく、計器等にも被害をもたらし、衝突や墜落等の重大事故を引き起こす可能性があるという。

シンガポールのS.ラジャラトナム防衛研究所コリン・科(コー)研究員は香港『サウス・チャイナ・モーニング・ポスト』のインタビューに答えて、“至近距離のレーザー照射は無用な衝突等を引き起こしかねず、非常に危険”だと語った。

同研究員は更に、“P-8A機が中国軍艦に近すぎたとされたのかも知れないが、それでも同艦に衝突する恐れなどないはずで、レーザー照射は無用で危険な挑発行為だ”とも言及した。

これと反対に、香港軍事評論家の孫中平(ソン・チョンピン)氏は同紙に対して、中国軍艦が余りにグアム基地に近すぎ過ぎたことを“不満に”思って、米海軍がレーザー照射の問題を殊更強調したものだと批評した。

同氏によれば、“近すぎ過ぎた相手に警告を発するのは通常の行為”だという。

ただ、肉眼で見えない危険なレーザー照射で“警告”することは、別の話だとも言及した。

なお、米海軍によれば、同機はフロリダ州のジャクソンビル基地から沖縄嘉手納基地に派遣されていて、同海域を監視飛行していたものだが、事態発生後嘉手納基地に戻り、“損害状況について調査中”だという。

同日付中国『環球時報』では、「軍事専門家;中国軍艦がレーザー照射を行ったとの米軍の非難は“中国の脅威”を誇大宣伝するものと批評」という記事を掲載しています。これも日本語に翻訳したものを以下に掲載します。

中国人民解放軍海軍研究所の軍事専門家である張軍事(チャン・チュンシェ)上級研究員は2月28日、米海軍が前日、グアム島沖を飛行中の米軍のP-8A哨戒機に中国軍駆逐艦“呼和浩特(フフホト)”からレーザー照射を浴びせられたと非難した事態について、米軍機が同艦に異常接近してきたことから防衛手段として行ったものだと明言した。

同研究員は『環球時報』のインタビューに答えて、米海軍は、レーザー照射が乗員を危険にさらすもので、CUESに違反するものだとしているが、米軍機が同艦に猛スピードで接近してきて、同艦の航行及び通常訓練を妨害しようとしてきたための止むを得ない対抗措置だったと説明している。

更に同研究員は、目下米議会で予算折衝が行われている最中、米国防総省がより多くの国防予算を得るため、そのタイミングに合わせてこのレーザー照射事件を殊更強調して、“中国の脅威”について誇大宣伝しているものだとも付言した。

(注)CUES:他国の海軍同士が西太平洋地域の洋上で不慮の遭遇をした場合に取るべき艦艇及び航空機の行動を定めた規範。2014年に合意され、日米中ロ豪加等太平洋圏の21ヵ国が署名。

2020年には米国のP-8にレーザーを照射し、今度は北京で五輪開催中にオーストラリアのp-8に照射するということで、中国としてはかなりP-8に神経をとがらせているようです。

それは、なぜなのでしょうか。それはこの海域で中国海軍がオーストラリアに気付かれてはならないことに気付かれたか、あるいは気付かれたと思ったのかもしれません。

そういう特殊事情があるかもしれませんが、先の米国のP-8といい、今回のオーストラリアのP-8といい、共通するのは、中国の哨戒機よりも、はるかに哨戒能力が高いということです。

そうなると、オーストラリア海軍は中国の潜水艦をより発見しやすくなり、相対的に中国海軍の海戦能力が劣ってしまうことになります。オーストラリアは現状では、潜水艦は旧式のものを数隻保有しているだけで、中国のほうが圧倒的に多数の潜水艦と艦艇を保有しています。

しかし、オーストラリアは中国潜水艦を探知する能力が高ければ、中国の潜水艦のオーストラリアへの脅威をより低減することができます。もし、中国がP-8並の性能の哨戒機を製造できれば、互角ということになりますが、そうではないので、相対的に中国海軍のほうが、海戦能力が劣ることになってしまいます。

このP-8は米国とオーストラリアだけではなく、他国でも配備したり、配備を計画しています。

以下に配備国、配備を計画している国のリストを掲載しておきます。なお、配備を計画とは、配備するかしないかを検討しているという意味ではなく、配備すること自体を決めている国ということであり、いずれ配備するということです。

〈配備中の国〉

米国、インド、オーストラリア、イギリス

〈配備予定の国〉

ノルウェー、ニュージランド、韓国、ドイツ

今後さらに、配備を予定する国も増えてくるでしょう。

なぜ、このようなことを各国がするかといえば、無論中国海軍に対抗するためです。現代の海戦の主役は潜水艦であり、水上に浮かぶ艦艇はミサイルや魚雷の標的になり、すぐに沈められてしまうからです。

そのため、対潜水艦戦闘力(ASW)こそが、本当の戦力です。中国よりもASWが優れていればいるほど、中国海軍の脅威を低減できます。

オーストラリア軍のP-8A哨戒機

オーストラリアは原潜の配備も検討しています。すでにP-8を導入したオーストラリアが、潜水艦も配備すれば、日米英のように中国海軍はさほど脅威ではなくなります。

このようなことによる中国の苛立ちも、今回のレーザー照射の背景にあると考えられます。

【関連記事】

AUKUSで検討されている新戦略―【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論は、あってしかるべき(゚д゚)!

0 件のコメント:

トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能性も...「本当に怖い存在」習近平の中国との関係は?―【私の論評】発足もしてない政権に対して性急な結論をだすべきではない

トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能性も...「本当に怖い存在」習近平の中国との関係は? まとめ トランプ次期大統領はNATO加盟国に国防費をGDP比5%に引き上げるよう要求し、ウクライナへの支援は継続すると伝えた。 現在のNATOの国防費目標はGDP比2%であり、ク...