2022年2月1日火曜日

バイデン政権をかき乱す文在寅の北朝鮮交渉―【私の論評】文在寅5年間の対北融和政策の失敗等で、北・韓国が派手に外交の表舞台にでてくることはなくなる(゚д゚)!

バイデン政権をかき乱す文在寅の北朝鮮交渉

岡崎研究所

 北朝鮮は新年早々、新たなミサイル実験を繰り返している。極超音速ミサイルではないかとも言われている。米国は従来同様、同盟国と非難声明を発出し、新たな制裁を発表した。しかし、バイデンの「戦略的忍耐」は持続可能ではないように見える。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロウギンは1月13日付けの論説‘We can’t neglect North Korea for another year’で、北朝鮮をもう一年無視することはできない、人道支援のキッカケを掴むべく北を試していくべきだと述べている。

 ロウギンは、⑴ 北朝鮮は2021年世界保健機関(WHO)からの医療物資支援の受け入れを再開し、国際赤十字が同国内で活動を行うことを許可した、⑵ 金正恩の最近の動きは米のワクチンを含む大規模の人道支援を受け入れる兆候とも受け取られ、米国はこれを試すべきだ、⑶ それは交渉のキッカケになるかもしれない、と言う。

 コロナ対策を含む人道支援の可能性は以前より多くの者が言ってきたことであり、誰も異論はないであろう。しかし、目下バイデンが、対中関係、ウクライナなど対露関係、より良い再建法案の議会通過などに忙殺されている現状には留意せざるを得ない。しかし、北が真剣に重大なシグナルを出してきているのであれば、米国は逃すことなく追求していくべきだろう。

 1月17日にも北は再びミサイルを発射した。今年になって4回目となる。北のシグナルは判然としない。北が交渉に出て来ることを拒んでいる以上、他に良いオプションはない。その間に北の武器開発が進むことは、我方にとりジレンマだが、北に交渉の主導権を与えることも得策ではない。当面は国際社会の結束を維持し、ワクチン支援などあらゆるキッカケを見つけながら、辛抱強く対処するしか妙案はない。

 北には硬軟両様の対応が必要である。1月12日の米の独自制裁は評価できる(ロシア人を含めたことも良い)。また、米国がこれを基に安保理による制裁拡大を提案していることも適切である。日本など関係国の非難声明発出も良かったと思われる。

 目下対中国、ロシア関係は厳しいが、北の問題には努めて中国とロシアの関与を求めることも必要だろう。中露の対北協力(政府の関与だけなく民間の関与、取引を含めて)を遮断することが重要である。北が武器の委託実験場になっているのではないかと勘繰りたくもなる。

バイデン政権を苦しめる文在寅のこだわり

 文在寅は、朝鮮戦争終了宣言の発出に執着している。文は豪州訪問(12月)中、米中と南北は戦争終了宣言に原則合意したと述べ、北の条件は米国による対北敵視政策の終了であり、そのために南北や米朝が交渉につけないでいると述べた。

 これに関連して、米国のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャが、「(韓国は)同盟国をコーナーに追い詰めるな」と題する異例の批判記事を書いている(12日付朝鮮日報英文)。文在寅政権のやっていることは、まさにバイデン政権を追い詰めていると言ってよい。文在寅政権による自分のアジェンダ推進のための不正確な記者発表や過早な発言の事例はしばしば見られてきた。

 なお、文在寅は戦争終了宣言を米と合意し、北の同意も得て、2月の北京冬季五輪に乗り込み、南北外交を展開することを構想してきた。しかし、12月6日に米国は北京五輪の「外交ボイコット」を発表、1月5日には北が北京五輪不参加を正式に通知した(金正恩の訪中もない)。

 文在寅は12月上旬から「北京五輪ボイコットは検討しない」と言い続けたが、1月12日に青瓦台は、文在寅が北京五輪には出席しないと正式に表明した。これで文在寅の戦争終了宣言構想や南北五輪外交構想は霧散した(退任の5月までにまた動くかもしれないが)。文在寅の構想は余りにも現実を無視した、独善的な構想だと言わざるを得ない。

【私の論評】文在寅5年間の対北融和政策の失敗等で、北・韓国が派手に外交の表舞台にでてくることはなくなる(゚д゚)!

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は7日、同国オリンピック委員会と体育省が中国オリンピック委員会などに書簡を送り、北京冬季五輪への不参加を伝えたと報じました。

これを受け、中国が落胆ないし不快感を覚えることはないでしょう。北朝鮮選手団の不参加が五輪に与えるダメージは大きくないですし、中国は北朝鮮の窮状を誰よりも理解しているからです。

こけれに比べ、韓国の文在寅大統領の落胆はかなり大きなものだっだでしょう。

任期が残りわずか(来年5月9日に任期満了)となった韓国の文在寅氏にとって、最大の外交的課題は朝鮮戦争の「終戦宣言」を実現することでした。もし、北朝鮮が金正恩総書記か、妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長を北京五輪の開会式に送ったとしたら、文在寅氏は自ら現地に乗り込んで米国との対話を促し、終戦宣言への道筋をつけようとしたはずです。

しかしそれも、北朝鮮が五輪不参加を表明した以上、実現可能性はなくなりました。しかし、北朝鮮が北京五輪に参加していたとしても、終戦宣言には到達できなかった可能性の方が高いです。

米国政府は先月10日、人権侵害などを理由に北朝鮮の李永吉(リ・ヨンギル)国防相と中央検察所を制裁指定しました。これは、バイデン政権発足後に初めて出された人権問題に関する制裁だ。政治犯に対する虐待や公開処刑などの人権侵害を、決して見過ごさないという態度表明と言えます。

金正恩氏(右)と李永吉氏(左)/2015年10月朝鮮中央通信より

米財務省は「北朝鮮の個人は強制労働と持続的な監視、自由と人権の深刻な制限に苦しんでいる」とし「中央検察所と北朝鮮の司法体系は不公正な法執行をし、これは悪名高い強制収容につながる」と説明した。

続いて、外国人も北朝鮮の不公正な司法体系の被害者になることがあるとし、オットー・ワームビアさんの事例に言及した。オットー・ワームビアさんは大学生だった2016年、北朝鮮訪問中に体制転覆容疑で逮捕され、昏睡状態で米国に送還された後に死亡しました。

米財務省は「生きていれば今年27歳のワームビアさんに対する北朝鮮の処遇は非難されるべき」とし「北朝鮮政府は人権に関連する悲惨な事件に対して今後も責任を取らなければならない」と主張しました。

米財務省は外貨稼ぎの手段として悪用される北朝鮮労働者の海外違法就職斡旋会社も制裁の対象に含めました。

バイデン政権に入って北朝鮮に新たな制裁を加えたのは今回が初めてです。バイデン政権はその間、北朝鮮との対話が必要だという立場を守り、従来の制裁を維持してきました。

米財務省は12日、北朝鮮の核・ミサイル開発などに関わったとしてアメリカ財務省が、12日、北朝鮮の男6人とロシア人の男のあわせて7人と、モスクワにある企業に対して、資産の凍結などの制裁を科したと発表しました。

今回の制裁にあたって米財務省は「北朝鮮は去年9月以降、弾道ミサイルを6回発射し、国連安保理の複数の決議に違反している」と、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮を強く非難しました。

文在寅氏の望みは事実上、これらの米国の態度表明により潰えました。

一部では、米国が北朝鮮を非核化交渉テーブルに引き出すために制裁カードを活用することもできるという一種の警告メッセージを送ったという解釈もあります。

金正恩氏が、人権問題で非難されるのを何より嫌っていることは広く知られています。それなのに敢えて、人権問題で制裁を加えたのは、バイデン政権に金正恩体制を甘やかす気がないことの表れと言えます。

そうして、最近の北によるミサイルの連続発射は、この警告メッセージへの反発ともみてとれますが、それは先日もこのブログに掲載したように、みせかけであり北朝鮮の苦しい現状を反映したものではないかと考えられます。

北朝鮮では、今年が故金日成(キム・イルソン)主席の生誕110年、故金正日(キム・ジョンイル)総書記の生誕80年に当たります。

2018年に開催された〝太陽節〟金日成主席の生誕祭

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。しかし、それを盛大に祝うための成果が、ミサイル発射以外にないという状況です。

北のミサイル連発に、バイデン政権はすで答えを出しています。それは、先日もこのブログにのべたように、一つはトライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港させたことです。

弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

もう一つは、米軍は空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻を同じ時期にインド太平洋地域に派遣したことです。これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結です。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしています。

バイデン政権としては、中露や北朝鮮が新たな政治的なカードを持ち出すことを封じるためにこのようなことをしているのでしょう。バイデン政権としては、北や韓国、ロシアの撹乱を防ぎ、中国と本気で対峙しているという覚悟をみせた形です。

バイデンを応援する米国メディアは、どちらもありそうもない、中国の台湾侵攻を煽ったり、ロシアのウクライナ侵攻を煽っていますが、これによって、厳しく中露に対峙するバイデン政権をアピールしたいのでしょう。

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

米国内や米国議会における超党派での反中世論の高まり、アフガニスタンでの失敗や、今秋の中間選挙に向けての劣勢挽回のためにも、バイデン政権は中国に対する融和策を取ったり、大きな失敗はできません。北朝鮮や韓国の撹乱等を真に受けている暇などありません。

北と韓国は、最近ロシアからミサイル関連の技術の供与を受けているようです。上の記事にもあるように、北が武器の委託実験場になっているのではないかという憶測もあります。

一方韓国では2021年9月15日のSLBM発射に合わせて、航空母艦キラーと呼ばれる超音速巡航ミサイルも公開されました。射程距離500キロメートルのミサイルがマッハ3の速度でターゲットに命中する映像が公開されたのですが、ロシアの超音速ミサイル(P800、ヤホント)をコピーしたとみられます。韓国はロシアから兵器を導入する「プルゴム事業」プロジェクトを進めてきました。

これは、韓国が1991年にソ連に提供した経済協力借款14億7000万ドルについて、ロシアが現物償還を提案し、1995年から行われてきた事業です。韓国はロシアから携帯用対戦車誘導弾、携帯用対空ミサイル、戦車(T-80U)、装甲車(BMP3)、空気浮揚艇などを受けました。 2007年からは「韓露軍事技術協力事業」の形でロシアの軍事技術を取り入れています。

ロシアの支援で韓国は弾道ミサイルや巡航ミサイルなど各種の核心軍事技術を手に入れました。今回公開された超音速ミサイルはその一環でしょう。SLBM関連技術もロシアからもらった可能性を排除できないです。

韓国のSLBM開発にロシアが貢献したのなら問題は簡単ではないです。

もし、ロシアが韓国にSLBM関連技術を提供する代わりに、韓国に対して何か相応の情報を求めていたなら問題です。

韓国が有する軍事情報の中で、ロシアが関心を持つのは米国製兵器と運用方法に関することです。 日本をはじめとする自由陣営が対中国や対ロシア牽制に余念がないなか、中国に歩み寄り、ロシアと軍事技術協力事業を行う韓国を米国は疑っていることでしょう。韓国は、のようなことをする前にすべきことがあるはずです。

文在寅氏の、5年間にわたる対北融和政策は失敗に終わりました。その最大の原因は、何より彼自身が、米国との信頼関係構築に失敗したことです。

北朝鮮も結局、長期にわたるミサイル発射により、大きく世界を変えることはできませんでした。

文在寅や金正恩は、結局何も変えられませんでした。何一つ世界に貢献することはありませんでした。プーチンもそうです。結局、韓国・北朝鮮、ロシアは米中対立を複雑にしただけです。

今後、韓国や北朝鮮が、外交の表舞台に出てくることはなくなるのではないでしょか。あるとすれば、北や韓国が直接ということではなく、北は中国やロシアが仲介することになるでしょう。韓国の場合は米韓の首脳級の会談などあまりなくなり、事務方の話し合いが中心になるのでないでしょうか。日本も韓国に力添えすることもないでしょう。

そもそも、北や韓国が派手に外交の表舞台に立っていたことこそが、異常だったのかもしれません。今後はそのようなことはなくなるかもしれません。

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