沖縄東方で訓練する原子力空母エーブラハム・リンカーン(右から2隻目)など日米の艦艇 |
リンカーンは沖縄周辺への展開を続けており、海自が共同訓練を公表したのは1月中旬以降、今回で3回目となる。日米は台湾有事への懸念を念頭に、短期間に共同訓練を重ねることで、中国に対するけん制姿勢を強く示す狙いだ。
防衛省によると、東シナ海や太平洋にかけての海域では今週、中国のミサイル駆逐艦や情報収集機が沖縄本島と宮古島の間を往復するのを確認している。日米と中国側のにらみ合いが激しくなっているとみられる。
【私の論評】米国は最早プーチンの「ロシア大国幻想」に付き合うつもりはない(゚д゚)!
このブログでも何度か掲載してきたように、現在のロシアにはウクライナに侵攻して、全土を制圧するだけの力はありません。にもかかわらず、バイデン政権がロシアのウクライナ侵攻の可能性を非難する背後には、ロシアがウクライナに侵攻すれば、米国は経済制裁の大義を得て、ロシアを孤立させ経済的に弱らせることができるということがあるのでしょう。
「ノルドストリーム2」を葬り去り、自国産のシェールオイル・ガス、小型原発などのエネルギーをドイツへと輸出する道も開けるかもしれないです。
それにロシアの関心を西方に縛り付け、インド太平洋地域で中露両国と向き合うというリスクを避けながら、問題を長期化させロシアの力をじわじわと削ぐこともできます。
そうした考えは、先日もこのブログで紹介したばかりの、バイデン政権による初の「インド太平洋戦略」にも透けて見えます。
バイデン政権は最近バイデン政権としては初の「インド太平洋戦略」を公表した |
先日もこのブログで指摘したように、この戦略には、ロシアという言葉が一つもありません。その部分を以下に再掲します。
インド太平洋戦略について述べているわけですから、出てこないのは当たり前といえば、当たり前なのかもしれませんが、それにしても、インド・太平洋地域というと、ロシアもオホーツク海を介して太平洋と繋がっているのですから、何らかの影響力があれば、言及されるはずです。米国としては、ロシアのインド・太平洋地域における影響はなしとみているといえると思います。実際そうなのでしょう。ロシアの太平洋艦隊も、ロシアの原潜等も、米国には脅威とみなしていない、少なくとも米国のコントロール下にあると見ているのだと思います。無論、それには日本の強力な対潜水艦戦闘力(ASW)等が関係していると思います。そうして、この地域における最大の脅威はとりもなおさず、中国であるということです。そうして、これこそが米国にとって大きな脅威であると認識しているのです。しかも、軍事力だけではなく、経済力や技術力などによるこの地域への浸透と不安定化を懸念しているでしょう。
この声明は、ロシア側でも公表され、サイトに掲載されています。これは英語でも掲載されており、その一部を以下に日本語訳をして掲載しました。
この声明については、各種報道がなされていますので、この声明の全文の内容を知りたい方は他のメディアにあたっていただきたいと思います。
私は、この声明のうち特に「IV」に注目しました。以下にその内容の日本語訳を掲載します。長い文章なので、時間のない方は赤字の部分にだけ読んでいただいても結構です。
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新時代を迎えた国際関係と世界の持続可能な開発に関するロシア連邦と中華人民共和国の共同声明
2022年2月4日
中華人民共和国の習近平国家主席の招待により、ロシア連邦のウラジーミル・V・プーチン大統領は2022年2月4日に中国を訪問しました。両首脳は北京で会談を行い、第24回冬季オリンピック大会の開会式に参加した。
IV
ロシア側は、中国側が提案した「人類運命共同体」構築という構想が、国際社会の連帯を強め、共通の課題に対応する努力を強化することに意義があることを指摘する。中国側は、国際関係の公正な多極化システムを構築するためにロシア側が行っている努力の意義に留意する。
双方は、第二次世界大戦の成果と既存の戦後世界秩序を強く支持し、国際連合の権威と国際関係における正義を守り、第二次世界大戦の歴史を否定し、歪曲し、改竄しようとする企てに抵抗するつもりである。
世界大戦の悲劇の再発を防止するため、双方は、ナチスの侵略者、軍国主義者の侵略者およびその共犯者の残虐行為に対する責任を否定し、戦勝国の名誉を傷つけ、汚損することを目的とする行為を強く非難する。
双方は、相互尊重、平和的共存、互恵的協力を基礎とする世界の大国間の新しい種類の関係の確立を求める。両者は、ロシアと中国の新しい国家間関係は、冷戦時代の政治的・軍事的同盟関係より優れていることを再確認する。両国の友情には限界がなく、協力の「禁じられた」領域もなく、二国間戦略協力の強化は、第三国を狙ったものでも、国際環境の変化や第三国の状況変化に影響されるものでもない。
双方は、国際社会の分裂ではなく統合の必要性、対立ではなく協力の必要性を再確認する。双方は、国際関係を、弱者が強者の餌食となるような大国間の対立状態に戻すことに反対する。また、国際問題に合意なしに間接的に取り組むことに反対し、パワーポリティクス、いじめ、単独制裁、治外法権の適用、輸出管理政策の乱用に反対し、世界貿易機関(WTO)のルールに沿った貿易円滑化を支持する。
双方は,外交政策の協調を強化し,真の多国間主義を追求し,多国間プラットフォームにおける協力を強化し,共通の利益を擁護し,国際及び地域のパワーバランスを支持し,グローバル・ガバナンスを向上させる意図を有することを再確認した。
双方は、世界貿易機関(WTO)の中心的な役割に基づく多国間貿易システムを支持・擁護し、WTO改革に積極的に参加し、単独アプローチ及び保護主義に反対する。双方は、パートナー間の対話を強化し、共通の関心事を有する貿易・経済問題についての立場を調整し、グローバル及び地域のバリューチェーンの持続可能かつ安定的な運用の確保に貢献し、より開放的、包括的、透明、無差別な国際貿易・経済ルール体系を促進する用意がある。
双方は、G20が国際経済協力問題及び危機対応措置を議論する重要なフォーラムであることを支持し、G20内の連帯と協力の精神の活性化を共同で促進し、国際的な疫病対策、世界経済の回復、包括的持続可能な開発、公正かつ合理的に世界経済の統治システムを改善し、グローバル課題に集団的に取り組む等の分野における同協会の主導的役割を支持する。
双方はBRICS内の戦略的パートナーシップの深化を支持し、政治・安全保障、経済・金融、人道的交流の3つの主要分野での協力拡大を促進する。特に、ロシアと中国は、公衆衛生、デジタル経済、人工知能技術を含む科学・イノベーション・技術分野での交流、及び国際プラットフォームにおけるBRICS諸国間の協調の強化を奨励する意向である。双方は、BRICSプラス/アウトリーチ形式を、地域統合協会や途上国・新興市場国との対話の効果的なメカニズムとして更に強化するよう努力する。
ロシア側は、中国側が2022年に同協会の議長を務めることを全面的に支持し、第14回BRICS首脳会議の実りある開催を支援する。
ロシアと中国は、上海協力機構(SCO)を包括的に強化し、国際法、多国間主義、平等、共同、不可分、包括的かつ持続可能な安全保障という普遍的に認められた原則に基づく多心的世界秩序の形成におけるその役割を更に強化することを目指す。
両者は、SCO加盟国の安全保障に対する挑戦と脅威に対抗するメカニズムの改善に関する合意を一貫して履行することが重要であると考え、この課題に対処する文脈で、SCO地域反テロ機構の機能拡張を提唱する。
双方は、貿易、製造、輸送、エネルギー、金融、投資、農業、税関、電気通信、イノベーション及びその他の相互利益分野におけるSCO加盟国間の経済交流に、先進技術、省資源技術、エネルギー効率及び「グリーン」技術の使用を含め、新たな質及びダイナミクスを付与することに貢献する。
双方は,2009年の国際情報セキュリティ分野における協力に関する上海協力機構加盟国政府間の合意に基づくSCO内及び専門家グループ内の実りある相互作用に留意する。この文脈で、2021年9月17日にドゥシャンベで開催されたSCO加盟国首脳会議において、2022年から2023年の国際情報セキュリティの確保に関するSCO共同行動計画が採択されたことを歓迎する。
ロシアと中国は、SCOの進歩的な発展にとって、文化的・人道的協力の重要性がますます高まっていることから進める。SCO加盟国の人々の相互理解を強化するため、文化的なつながり、教育、科学技術、医療、環境保護、観光、人と人との接触、スポーツなどの分野における交流を効果的に促進し続ける。
ロシアと中国は、アジア太平洋地域における経済問題についての多国間対話の主要なプラットフォームとしてのAPECの役割を強化するために引き続き努力する。双方は、地域における自由、開放、公正、無差別、透明かつ予測可能な貿易・投資環境の創出に焦点を当て、「2040年までのAPEC発展のためのプトラジャヤ指針」を成功裏に実施するための協調行動を強化する意向である。特に、新型コロナウイルス感染症のパンデミック対策と経済復興、幅広い様々な生活領域のデジタル化、遠隔地における経済成長、APECと同様のアジェンダを持つ他の地域の多国間協会との間の相互関係の確立に重点を置く予定である。
双方は、「ロシア・インド・中国」形式での協力を発展させるとともに、東アジアサミット、安全保障に関するASEAN地域フォーラム、ASEAN加盟国国防相会議、対話パートナーなどの場での交流を強化することを意図している。ロシアと中国は、東アジアにおける協力の発展におけるASEANの中心的役割を支持し、ASEANとの協力の深化に関する調整を引き続き強化し、公衆衛生、持続可能な開発、テロ対策及び国際犯罪対策の分野における協力を共同で促進する。双方は、地域アーキテクチャの重要な要素としてのASEANの役割の強化という利益のために、引き続き協力する意向である。
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しかも中露首脳会談声明文には、明らかに日本に対する記述もあります。それが赤字の部分です。
以下に赤字の部分を再掲します。
「双方は、第二次世界大戦の成果と既存の戦後世界秩序を強く支持し、国際連合の権威と国際関係における正義を守り、第二次世界大戦の歴史を否定し、歪曲し、改竄しようとする企てに抵抗するつもりである。
世界大戦の悲劇の再発を防止するため、双方は、ナチスの侵略者、軍国主義者の侵略者およびその共犯者の残虐行為に対する責任を否定し、戦勝国の名誉を傷つけ、汚損することを目的とする行為を強く非難する」
この部分は明らかに日本に向けて発せられているといえると思います。後ろの段落の「軍国主義者の侵略者」とは日本を指しているのでしょう。
にもかかわらず、バイデン政権の「インド太平洋戦略」ではロシアに関しては、一言の言及もないのです。
これは、インド太平洋においては、ロシアは一切関わらせないという意思表明とも受け取れます。これは、ロシアがインド太平洋地域に関われば、ただでさえこの地域は中国の浸透などで複雑化しているものがさらに複雑になるからであり、それを避けたいという意図があるのでしょう。
そもそも、このブログでも何度が述べてきたように、ロシアの一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、国単位では人口の少ない韓国とほぼ同程度の現在のロシアでは、できることは限られており、そうしたロシアにこの地域をかき回されたくないという考えがあるのでしょう。
それもあるため、ロシアのウクライナ侵攻の可能性を非難し、あわよくばロシアに対してさらに大きな制裁を課して、ロシアのインド太平洋地域での行動を封じてしまう腹づもりなのだと思います。バイデン政権としては、プーチンの「ロシア大国幻想」に付き合うつもりはないのでしょう。
ロシア大国幻想に浸るプーチン |
ロシアは旧ソ連の核と軍事技術を継承する国であり、決して侮ることはできませんが、それしても軍事的にも経済的にも超大国ではありませんし、中国のように人口も多くはなく、大国と呼べるような存在ではなくなりました。
さらに、将来的にロシアが勢力を盛り返し、ソ連のように強大になることもほとんどあり得なくなりました。そのロシアができるのは、北朝鮮のように核ミサイルを発射するなどのことをして、存在感を増すことであり、それがロシアにとってはウクライナ侵攻であり、極東での艦隊行動の活発化です。
現在のロシアは北朝鮮よりは、経済的に良い状態なので、いずれも不十分ながらもウクライナ侵攻準備や極東での艦隊行動の活発化などで存在感を増すことができますが、ウクライナに侵攻して、米国などから厳しい制裁を課せられた場合、それもできなくなり北朝鮮のようにミサイルを頻繁に発射するようになるかもしれません。ただ、それでは何も変えることはできず、物事を複雑化させるだけです。
北朝鮮のミサイル発射 |
そんなロシアに、米国は日米と中国の対峙には関与させるつもりはないのでしょう。
そうして、中露首脳会談の共同声明ではで上記で示したように、「日本」と明記はしなかったものの、日本に対して歴史問題を蒸し返そうとしているのは明らかです。そうして、その日本はG7では唯一ロシアと領土問題を抱えています。
しかし、米国としては歴史問題を蒸し返すつもりも、蒸し返させるつもりもないことを明確に示すため、日米共同訓練を直近で3回も繰り返しているのだと考えられます。
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