2022年2月10日木曜日

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る―【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

ウクライナ危機はプーチン政権崩壊にもなり得る

岡崎研究所

 ウクライナ危機は、プーチン政権の終わりにつながり得るかもしれない。ウクライナ危機が深刻化する中、こうした指摘も増えてきているようだ。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジェニファー・ルービンは、1月26日付けで‘The West may not be able to deter Putin. But at least he knows the consequences will be devastating.’(西側はプーチンを抑止することができないかもしれない。しかし少なくとも彼は結果が破壊的であることを知っている)と題する論説を書いている。

 上記のルービン論説の他、ウォールストリート・ジャーナル紙も1月26日付で同紙コラムニストのホルマン・ジェンキンズによる‘Waiting for the Last Days of Putin’(プーチンの最後の日々を待つ)と題する論説を掲載している。また、ワシントン・ポスト紙は1月28日にもカール・ビルト(スウェーデン元首相)の‘Why Putin’s gamble on Ukraine is insane’(なぜプーチンのウクライナについてのギャンブルは気違い沙汰なのか)という論説を掲載、ビルトは「ロシアの侵攻は長期的対決の始まりになり、結果としてより大規模な戦争とロシアの政権の崩壊につながる可能性がある」としている。

上記ルービンは、今回のウクライナ危機についての諸問題を、次のように指摘する。

・ロシアが侵攻すれば、西側同盟を再活性化し、ロシアは経済的にどうしようもない国、国際的な「のけ者」になる。プーチンはこれを理解しているだろう。

・ホワイトハウス高官は、「もしロシアがウクライナに侵攻すれば、従来のような漸進主義はとらず、今回はエスカレーションの梯子のトップから始め、そこにとどまる」と言っている。

・米政権は、北アフリカ、中東、アジアを含む世界の各地で、ロシア産でない天然ガスの追加量を見出し、欧州に割り当てようとする努力をしている。ノルドストリーム2は閉鎖されうる。

・米政権は、人工知能、ロボット、レーザー、防衛、航空宇宙のような分野(プーチンが石油・ガスから経済を多様化させようと力点を置いている)で対ロ制裁の構えを見せている。

・ロシアの侵攻は、スウェーデンやフィンランドの北大西洋条約機構(NATO)加入、NATOの拡大につながるだろう。

・ウクライナ軍の抵抗によるロシア側の死傷者を考えると、軍事的冒険は、国内での愛国的プーチン支持を巻き起こすよりもロシアを混乱させるだろう。しかし、プーチンは自らを追い込んでおり、後戻りするのは難しいかもしれない。

 その上で、ルービンは、今後の見通しについて、ロシアにおけるプーチン政権の終りにつながりうると論じている。ルービンの論旨には賛成できる。

ソ連の栄光は取り戻せない

 ロシア人は、今ウクライナと戦争をすることを支持する気分にはないだろう。ウクライナとの戦争でロシア国民が愛国心を高揚させて、プーチンの支持率が大きく上がるというようなことは考えられない。

 プーチンは何かを勘違いしているように思われる。小規模であっても、旧ソ連を復活させることは、歴史を書き換え、逆回転させることであって、昔の栄光を取り戻したいという、いわばノスタルジア政治であるが、そのようなことは起きないし、無理にそうする力は今のロシアにはない。プーチンが今の路線を突き進むとプーチン政権の崩壊に至る可能性もあるとのルービンその他の指摘は、その通りであろう。今度の危機は、まさに現実が見えなくなった独裁者の末期的な誤判断であると思われる。

 プーチンの退場が早ければ早いほど、世界平和のためにも欧州の平和のためにも良い。今すぐにというわけではないが、キエフでのレジーム・チェンジより、モスクワでのレジ-ム・チェンジの可能性が、出てきたのではないだろうか。プーチン後の政権は、今の政権よりはましであろうから、それが出てきたときに日露関係の改善も考えたらよいだろう。

【私の論評】弱体化したロシアは現在ウクライナに侵攻できる状況にない(゚д゚)!

2017年当時も、北朝鮮はミサイルを連射し、トランプ政権は3つの空母打撃軍を朝鮮半島付近に派遣し、さらにこの打撃群には、外見は空母のように見える、日本のヘリコプター搭載護衛艦も旭日旗を掲揚しつつ随伴していました。

        星条旗を掲げ航行する米原子力空母「ジョージ・ワシントン」(奥)と
          これに伴走する旭日旗を掲げた海自「いづも型」護衛艦(手前)


その姿は米国で毎日のようにテレビで報道され、米国では今にも日米合同軍が、北朝鮮に攻め込むのではないかという雰囲気だったと、知り合いの米国人が語っていたのを思い出します。

無論、冷静に考えてみれば、日本の海自が北朝鮮に攻め込むなどということはあり得ないし、さすがに米国の報道機関も、日本が北朝鮮に攻め込むなどとは報道はしてはいないのですが、日本のことをあまり知らない多くの米国人はそのように思ってしまうのかもしれません。

実際、日本による北朝鮮侵攻はありませんでしたし、米国によるそれも結局ありませんでした。

ロシアのウクライナ侵攻もこれと似たようなところがあるのかもしれません。連日のように、ロシア軍の動きをテレビなどで報道されると、多くの人はそう思ってしまうのかもしれません。


ただ、一番の責任はプーチンにあるのではないかと思います。このブログでもすでに何度か述べたように、現在のロシアはウクライナに攻め入り、ウクライナ全土を占拠する力はありません。

その理由ははっきりしています。まずは、現在のロシアのGDPが韓国なみであるということです。しかも、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回ります。そのロシアが、いくら旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承する国家であったにしても、大戦争を遂行する力はありません。

上の記事では、「プーチンは何かを勘違いしているように思われる」としていますが、私はプーチンは意図的にロシアによるウクライナ侵攻を喧伝しているか、喧伝するのを許容しているのだと思います。

そうでなければ、すぐにウクライナ国境付近から軍隊を引き上げさせ、通常の守備レベルに戻すと思います。そうすれば、西側諸国もすぐにロシア批判をやめるでしょう。

プーチンとしては、現状のように西側諸国が、ロシアの軍事的脅威を煽るのは、決して悪いことではないのでしょう。

プーチンは旧ソ連に戻ったような気分が味わえますし、ロシア国民にもそのような気分を味合わせることができます。何よりも現状のロシアやプーチンの立場の弱さを糊塗し、さらに米国やEUに対して大きな譲歩を迫ることができる可能性もあります。プーチンとしては、現状を放置したままにして、そうした機会をうかがっているというのが実情でしょう。

実際、ロシアは弱体化傾向にあります。

まずは、直近で一番国民生活を苦しめているのはインフレです。ロシアでは2020年から食料品を中心にインフレが進んでいます。昨年12月のインフレ率は8.4%と中央銀行の目標値(4%)の2倍以上となりました。日本でも、原油価格の高騰によりインフレになるのではと心配する人もいますが、日本では日銀の物価目標2%にも到達していない有様です。ロシアと比較すれば、杞憂に過ぎないです。


ウクライナ情勢の緊迫化により通貨ルーブル安も進み、「輸入品の価格上昇でインフレ率が2桁になる」との懸念が高まっています。

ロシアの中央銀行は昨年12月、主要政策金利を7回連続で引き上げており、金利高による景気悪化も現実味を帯びつつあります。

プーチン政権の長期化への不満がこれまでになく高まっている中で、インフレと不景気の同時進行(スタグフレーション)が起きるリスクが生じています。

上のグラフご覧いただければ、2015年あたりには、ロシアはかなりのインフレだったことがわかります。これは、無論ロシアのクリミア侵攻に対する西側諸国の報復制裁の悪影響によるものです。これは、最近のことなので、多くのロシア国民の記憶にも新しいでしょう。

ロシアでは、ソ連崩壊後の1990年代前半のインフレや経済の混乱は極めて深刻でした。男性の平均寿命がいっとき60歳を切った時期さえありました。忍び寄るインフレの足音がソ連崩壊時の悪夢を多くの国民やプーチン大統領の脳裏に呼び覚ましていたとしても不思議ではないです。

販売できる商品が何もない魚介類専門店で店員に詰め寄る市民たち(1990年11月22日、モスクワ)

さらに、現在のロシアは人口が減少傾向です。ロシア連邦統計局は1月28日に、「同国の人口が昨年に100万人以上減少した」と公表しました。

減少幅はソビエト連邦崩壊以降で最悪であり、日本の年間の人口減少数(約50万人)をも上回っています。経済が悪化したことで出生率が低下し死亡率が上昇しているロシアに対し、新型コロナのパンデミックが追い打ちをかけた形です。

ロシア政府は2020年夏に世界で初めて新型コロナのワクチン(スプートニクV)を承認したのですが、自国産ワクチンに対する国民の根強い不信感から接種率40%台と低迷しています。このことも出生率に悪影響をもたらしているようです。

最後に、ロシアでは、石油資源が減少化傾向にあります。ロシアの昨年の原油生産量は前年比25万バレル増の日量1052万バレルだったのですが、ソ連崩壊後で最高となった2019年の水準(日量1125万バレル)に達していません。

ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯でした。巨大油田が集中し、生産コストが低かったのですが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、過去10年で約10%減少しています。

ロシアが原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないのですが、2014年のロシアによるクリミア併合に端を発する欧米諸国の経済制裁の影響で技術・資金両面から制約を受け、期待通りの開発が進んでいません。

ロシア政府が2020年に策定した「2035年までのエネルギー戦略」では「2035年時点の原油生産量は良くても現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と予測しています。その後ロシア政府高官が相次いで「自国産原油の寿命は20年に満たない可能性がある」とする悲観的な見方を示しています。

このような状況で、西側諸国の制裁がさらに強まれば、ロシアはとんでもないことになります。

ただ現在のような状況をいつまでも続けているわけにはいきません。会津の什の掟ではありませんが、「ならぬことはならぬものです」。いずれプーチンは、ウクライナ侵攻をきっぱりと否定しなければならなくなります。その時期を誤れば、プーチンのロシア国内での威信は地に落ち、それこそプーチン政権崩壊につながりかねません。

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