2022年1月30日日曜日

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ

昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議に参加した金正恩

 バイデン米政権がウクライナ危機の対応に集中する中、北朝鮮が今年7回目のミサイル発射を行った。対話の門戸を開き続けるだけの対北政策の行き詰まりは明白だ。核・ミサイルの脅威に対する優先度の低さを金正恩(キム・ジョンウン)政権に印象付け、開発を進める時間を与えている。

 「われわれの皿の上にはたくさん(の課題や脅威が)のっていて、その一つ一つに集中している」

 国防総省のカービー報道官は今月27日の記者会見でこう語った。ロシアによるウクライナ侵攻危機、中国による台湾への統一圧力と同時に、北朝鮮の挑発にどのように対処するのか-という質問に対する釈明は、米国が陥ったジレンマを浮き彫りにしている。

 バイデン政権は昨年、「現実的アプローチ」という対北政策を打ち出した。「最大限の圧力」を使い首脳間対話を実施したトランプ政権と、「戦略的忍耐」というオバマ政権の中間といわれてきたが、実情は個別の発射実験に声明で非難と対話呼びかけを繰り返すのみだった。

 米国が中国とロシアとの二正面の対処に追われていく過程で、北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻度を増し、受け身の対北政策は「もはや機能しないという結論」(米誌フォーリン・ポリシー)が出たといえる。

 ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は本紙取材に「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したり、金正恩氏が首脳会談を提案したりすれば、バイデン大統領は北朝鮮に集中するだろう」と語る。そうした優先度の低い姿勢が、同国がICBMや核実験に踏み切るまで「傍観する」というシグナルを与えてしまった。

 その間に、北朝鮮は極超音速や多弾頭のミサイル開発など「米国と同盟国のミサイル防衛網を突破する」(米議会調査局の報告書)目標に着実に進んでいる。

 バイデン氏が今、プーチン露大統領に毅然(きぜん)と対処できなければ、金氏や中国の習近平国家主席を喜ばせるだけだ。米主導の世界秩序に挑戦する複数の脅威に対峙(たいじ)しつつ、対北圧力強化へ早急な転換が迫られる。

【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分対応している(゚д゚)!

北朝鮮はこのところ、なぜミサイルを発射し続けるのかということについて、様々な憶測が流れていますが、私はマスコミが報道するようなことはほとんど根拠がないと思います。

これには、北朝鮮が今年大きな節目を迎えることが関係していると思います。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は4日付の記事で、2022年は「わが党と人民にとって特別に重要で意義深い年」だと伝えましたた。

今年が故金日成キム・イルソン)主席の生誕110年、故金正日キム・ジョンイル)総書記の生誕80年に当たることを踏まえ、「意義深い今年を革命的大慶事の年として輝かせることは、偉大なる首領様の子孫、偉大なる将軍様の戦士、弟子たちであるわが人民の本分だ」と指摘しました。

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。

2018年に開催された〝太陽節〟金日成主席の生誕祭

北朝鮮が金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)について金日成主席から3代続く「白頭血統」の正当性を連日強調し、結束を図っていることからも、先代の節目の生誕記念日を一段と際立たせるとみられます。

しかし、金正恩は体調不良説が噂されているとともに、この節目に相応しい成果をほとんど何も上げていません。コロナ対策は無論のこと、食糧増産、経済強国を目指したリゾート開発でも何も成果を上げられませんでした。

ただ、一つだけ例外があります。それが、核開発やミサイル開発です。党指導部は、その優れた技術力、特にそれが韓国に先んじているということを喧伝し、「国内における政権の正当性」を強化したいと考えているのでしょう。これは同時に日米韓への国外へのメッセージにもなっていると、国内に向けての大きなメッセージになります。

北朝鮮は今年から、新たな経済5カ年計画を始めました。正恩氏は昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議で「国家経済が安定的に管理され、わが党が重視する農業部門と建設部門で大きな成果を収めた」と語りました。

しかし、金正恩は「制裁が続く限り、生産設備の保守・更新に必要な資材が入ってこない。自力更生路線だけでは、徐々に生産量は落ちていくだろう。このままなら、新たな5カ年計画も失敗に終わるだろう」とも語っています。

そうして、それは現実のものになりつつあります。そうなると、今年大きな節目に成果を誇れるものは何もないということになってしまいます。それを打開する窮余の策が、新技術を用いた核ミサイルの発射なのでしょう。

そのため、ミサイル発射は北京五輪の前には終了し、五輪開催中は実施しないでしょう。五輪が終わってからは、また再開するかもしれません。

そのあたりは、米国も見抜いているのでしょう。それにしても、万一に備えて、米国はそれに対して手を打っています。

このブログにも以前掲載したように、一つはトライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港しました。弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

もう一つは、23日、日本の海自と米海軍と沖縄南方で17~22日に大規模な共同戦術訓練を実施したことです。欧米諸国がロシアのウクライナ侵攻に警戒心を募らせるなか、北朝鮮は今年に入って極超音速ミサイルや弾道ミサイルの発射を繰り返している。中国が台湾への軍事的圧力を強める可能性も指摘される。日米共同訓練は、これらに対して牽制をする意味もあります。

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

北朝鮮もこうした米国の動きに抗って、わざわざ核ミサイルを日本や韓国などに打ち込むつもりなど、全くないでしょう。

このブログにも述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあります。

とりわけ、米国の制裁に対抗しようとするイランの動きが目立ちます。イランは昨年9月、ライシ師がタジキスタンで開催された「上海協力機構(SCO)」首脳会議に出席、機構への正式加盟が承認されたのですが、これもそうした動きの一環です。

このSCOに北朝鮮は参加していません。ちなみに、SCO参加国は、中華人民共和国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタン・イランの9か国にです。

これらの国々による多国間協力組織、もしくは国家連合です。中国の上海で設立されたために「上海」の名を冠するが、本部(事務局)は北京です。加盟8か国の人口は世界の4割、国内総生産は世界の2割、面積はユーラシア大陸の6割を占める。アメリカ一極集中への対抗軸としての性格が濃いうえ、紛争地帯を域内や隣接地帯に抱えるという地政学的意味合いもあり、国際的に存在感を強めています。

北朝鮮はSCOに加入するどころではないのでしょう。あるいは、SCO加盟国、特に中露イランなどからは、戦力外とみられているのでしょう。実際、北朝鮮にはミサイル発射実験くらいしかできないです。

だからといって、危険であることには変わりはなく、これに対する対処は考えなくてはなりません。特に日本はそうです。

それにしても、上の記事のように米の対北政策行き詰まりなどというこはないです。通常潜水艦の行動は、いずれの国も表に出さないのが普通ですが、上で述べたように、ネバダがグァムに寄港したことを公表し、さらに2つの空母打撃群が日本と共同訓練をしていますが、現状では海外で作戦中の米海軍の原子力空母は計4隻ですが。このうち地中海で中東関連の任務を担当する「ハリー・トルーマン」(CVN75)を除いた残り3隻がインド・太平洋で集結しています。

このように空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

ワスプ型強襲揚陸艦「エセックス」

2017年11月の北朝鮮の核・ミサイル危機当時、米空母3隻が韓半島近隣で訓練しました。このため北朝鮮に対する警告性のメッセージだという解釈が出ていました。

米海軍勢力が2017年当時と異なるのは最新ステルス戦闘機F35を搭載している点です。「カール・ビンソン」「エイブラハム・リンカーン」はF35C(空母搭載型)を、「アメリカ」「エセックス」はF35B(垂直離着陸型)をそれぞれ搭載しています。

ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

装備はなお移動中ですが、当局者や専門家は、ロシアによる軍備増強の次の段階なのか否かを見極めようとしています。

以上のような事実から、米国が対北政策行き詰まりと見るのは明らかに筋違いです。米軍は、中露北の不穏な動きに対して十分に対応しているといえます。

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