2022年1月26日水曜日

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略―【私の論評】ウクライナで失敗すれば、それは米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのデビッド・イグネイシャスが、1月6日付け同紙に、バイデン政権はウクライナをロシア軍に攻め込まれてもこれに頑強に抵抗するハリネズミのような国にすることを検討しているとの論説(‘Biden wants to turn Ukraine into a porcupine’)を書いている。


 要点を一部抜粋して紹介すると次の通りである。

 「ロシア軍が国境線を越えれば、米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国は長期の抵抗戦のための兵器と訓練を提供する。米国と同盟国は、訓練とスティンガー防空ミサイルを含む兵器をもってウクライナの反乱を支援する方法を考え始めている。ランド研究所のアナリストによれば、そのような反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要する。だとすれば、ロシアは88万6000人の占領軍を必要とする計算になる。明らかに非現実的であり、反乱を鎮圧するのは困難だ」

 「ウクライナの抵抗能力を強めるために、最近になって、米国とNATOは防空、ロジスティックス、通信、その他の枢要な部分の調査のためのチームを派遣した。米国はロシアのサイバー攻撃と電子戦争に対するウクライナの防衛能力の梃入れもしたようだ」

 敵に侵攻を断念させるため抑止を働かせることが望ましいが、米国と欧州にはウクライナの防衛のために欧州を戦場としてロシアと戦う意思がない。そうであれば、ロシアが一旦国境を越えれば、これに抵抗するウクライナの反乱闘争を武器の提供をもって支援し、泥沼に足を取られるロシアに最大のコストを払わせることをもって戦略とせざるを得ないであろう。厳しい経済制裁だけでは抑止として不十分だと思われるので、この戦略を加えて抑止とすることが重要と考えられる。

 筆者のイグネイシャスは政権の内部情報に通じた人物であるので、論説に書かれているウクライナをハリネズミとする戦略が米国とNATOで検討されていることは事実であろう。もし、1月から始まった一連のロシアとの協議を通じて、ロシアがディエスカレーションに関心がなく、協議を侵攻のための口実作りに利用しているに過ぎないことが明らかになる場合には、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきであろう。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討に値しよう。

NATOとロシアの政治的合意も形骸化

 イグネイシャスは上記論説で、侵攻があれば、NATOは兵を前方に動かすことを議論している、とも書いている。その具体的な内容は分からないが、もはや、1997年5月のNATO・ロシア議定書の規制に縛られる必要はない。

 この議定書はNATOの東方への拡大が議論されていた当時、ロシアを慰撫し、ロシアとの関係を維持するために作成された政治的合意(法的拘束力はない)であるが、その中でNATOは旧共産圏諸国への実質的戦闘部隊の常駐を控えるとの自己規制を表明している。それゆえに、NATOは、バルト三国とポーランドへの部隊の派遣はローテーションによることとしてきた。

 しかし、この規制は「現在および予見し得る安全保障環境」と「ロシアが同様の抑制を行使する」ことを前提とすることが議定書に記述されている。ロシアのクリミアの奪取とウクライナ東部への干渉、更には昨年来のウクライナ国境における軍事的威圧に鑑みれば、規制は死文化していると言うべきであろう。

 恐らく、プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう。

【私の論評】ウクライナての失敗は米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

このブログでは、以前からロシアによるウクライナ侵攻の可能性は低いことを掲載してきました。特に、ロシアがウクライナに侵攻して、全土を掌握することは、かなり難しいことを掲載してきました。

その根拠としては、現在のロシアの一人あたりのGDPは、韓国を大幅に下回るろ(ロシア10,126.72 USD、韓国 31,489.12 USD)こと、さらにロシア軍の兵站は主に鉄道に頼っており、非常に脆弱であることをあげました。

韓国とロシアは国としては、GDPは大体同じくらいでロシアの方が若干少ない程度ですが、韓国の人口は5174万5000人であり、ロシアは1.441億です。韓国よりは、ロシアのほうが軍事技術ははるかに進んでおり、大きな軍隊を持っていますが、それにしても韓国程度の経済力で軍事的に何ができるかと考えれば、ロシアのできることは限られているとみるのが普通だと思います。

韓国とロシアのGDPは同じくらいだが、一人あたりGDPではロシアは韓国よりはるかに低い

この2つをもっても、ロシアがウクライナ侵攻して、全土を掌握するのはかなり困難だということがいえると思います。鉄道に兵站を頼っているロシア軍は、鉄道を破壊されてしまえば、補給が絶たれることになります。

そのため、特にロシア陸軍は国境付近では高い能力が発揮できますが、ウクライナ奥地に入り込むに従い、兵站をウクライナ軍や、NATO軍などにより破壊され、弾薬、水食料、燃料などが手に入りにくくなり、進撃をストップせざるをえなくなります。ちなみに、線路の破壊は、手榴弾でもできます。

そのため、ロシアはウクライナ侵攻はできません。できるとすれば、ロシア国境に近いいくつかの州を掌握できるくらでしょう。それも無理かもしれません。いくつかの州のロシア寄りの狭い部分を掌握できるだけかもしれません。それも、いわゆるハイブリット戦を駆使しまくってもその程度でしょう。

上の記事にもあるように、ランド研究所のアナリストによれば、ウクライナによる反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要するとしています。これが、どのようにして計算されたものかは知りませんが、これが正しいとすれば、ロシアのウクライナ全土への侵攻は全く不可能ということになります。

上の記事では、ロシアはウクライナを占領するのに、88万6000人の占領軍を必要としますが、ロシア陸軍の兵力は、2016年現在、約27万人の兵力と戦車を約2,700両(その他保管約17,500両)保有している(国境警備隊や内務省軍などの準軍事組織を含まない)に過ぎません。これでは、ロシア全陸軍を投入したとしても到底不可能です。

1945年から1948年にかけて、動員解除によってソ連軍は1130万人から280万人に減らされ、1946年には33に増加していた軍管区が21に減らされました。また、地上軍は982万2000人から244万4000人に人員を減らしました。減らしたといっても、244万ですから、現状のロシアとは全く異なります。

過去40年では最大のツゴル演習場で行われた露中合同軍事演習「ボストーク2018」にて

ロシアというと、かつての超大国ソ連のイメージが強く残っており、軍事力も世界で第二位とされるので、ロシアによるウクライナ侵攻などを簡単に思ってしまう人も多いようですが、少し数字を確認すれば、そうではないことがわかります。

このことが理解できない人たちは、ロシアがウクライナを破壊することと、ロシアがウクライナを占拠することとは、大違いであることを知らないのかもしれません。破壊するだけなら、核ミサイルを数発発射したり、航空機等を用いれば、それで良いです。

しかし、破壊するだけであれば、ほとんど意味を持ちません。ロシアの狙いは、NATO拡大を防ぐことです。破壊してしまえば、NATOに格好の口実を与え、NATOはウクライナに軍隊を進駐させることでしょう。

しかし、占拠するとなると、多数の軍隊を派遣して、これらに兵站を通じて、弾薬・水・食料(一日3000kcal)等を補給し続けなければなりません。これは、経済力がなければなし得ないことです。現状では、NATO諸国と比較すると、ロシアの経済力はかなり見劣りします。現在のロシアでは、米国を除いたNATOにさえまともに対峙できる状況ではないです。

ただ、ロシアは旧ソ連の核と、軍事技術を継承しています。その点では、決して侮れる相手ではありませんが、過大評価はすべきでないです。あくまで、等身大で見るべきと思います。

そうして、上の記事の結論部分の「プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう」も正しいと思います。

プーチンは、バイデンを値踏みしているともいえると思います。どの程度圧力をかけられるか、その限界はどこまでか、またどの程度圧力をかけるとどの程度の譲歩をするかなどを推し量っていることでしょう。これが、プーチンの目的といえるでしょう。

バイデンとしては、ここで下手な譲歩はするべきではありません。昨日も述べたように、もはやウクライナ情勢一つとっても、米国とロシアの対決という単純なものではなくなっているからです。

昨日も述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあるからです。北朝鮮は危険ではありますが、すでに世界の対立軸からは姿を消したとみるべきでしょう。北に接近し、対立軸の中に入ろうとした韓国も姿を消しました。

バイデンがウクライナで下手な譲歩をすれば、バイデンの失敗ではなく「米国連合」の失敗ということになり、「反米枢軸」は「米国連合」の脆弱な点を見つけ出し、その点を突き、自分たちに有利になるように、あらゆる攻勢をしかけてくることになります。

「米国連合」側である、日本やその他の同盟国は、そうした観点からウクライナ情勢を見るべきであり、ウクライナで失敗すれば、それはバイデンの失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となるとみるべきです。

上の記事にもあるように、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきです。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討すべきです。

「枢軸側」が勝利を収め続けることになれば、日本にも悪影響がでてくるでしょう。たとえば、一見ウクライナ情勢とは無関係にみえる、「北方領土交渉」もかなり不利になる可能性があります。

逆に、「米国連合」が勝利を収め続け新冷戦に勝利すれば、日本は旧ソ連との冷戦・中国との新冷戦の両方の戦勝国となり、世界における日本の存在感が増し、「北方領土交渉」どころか、多くの面で有利になるのは確実です。2回におよぶ冷戦の勝利により、名実ともに日本は真の独立を勝ち得ることになるでしょう。

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