2020年8月20日木曜日

中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか―【私の論評】米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されている(゚д゚)!

中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか

岡崎研究所

最近、イランと中国の接近に注目が集まっている。報じられているイランと中国の協定案は、投資と安全保障に関する25年間の包括的戦略パートナーシップを語っている。具体的には、中国はイランの空港、港湾、電気通信、運輸、石油・ガス田、インフラ、銀行に投資し、イランから25年にわたり、1日1000万バレルに達する需要を満たす大量の原油を値引いて受け取るという。


 報じられているイランと中国の協定は、両国の経済にとって重要であるのみならず、地政学的にも大きなインパクトを持ちうる。中国が今後25年にわたりイランから一日1000万バレルの需要を満たす石油を輸入することは、トランプ政権から最大限の圧力をかけられているイランにとってまさに生命線であり、中国にとっては経済の運営に不可欠な石油を確保することになる。中国によるイランの港湾などインフラへの投資はイラン経済に活を入れることになるであろうし、中国は資機材などの輸出で経済の活性化にプラスとなる。兵器開発や情報共有など軍事面でも関係を強化するという。

 中東の地政学への影響について、フィナンシャル・タイムズの国際問題編集長デイヴィッド・ガードナーによる8月3日付けの論説は、「サウジアラビア、エジプト、UAEとバーレーンは3年以上カタールを封鎖してきたが、ここにきて米国はサウジなどにカタールの封鎖を止めるよう言っている。それはイランと中国の同盟の見通しが強まったためである。中国が、バーレーンの米国第5艦隊の基地、カタールのアルウデイドの中東最大の米空軍基地のすぐそばのイランのペルシャ湾岸への進出を考えているとしたら、アラブ諸国の対立は有害である」と解説している。

 ただ、協定はまだ草案の段階である。イランは元来大国との付き合いに慎重であり、どこまで中国との関係に深入りするか分からない。米大統領選挙の民主党候補に確定しているバイデンは、イラン核合意に復帰すると明言しており、バイデンが次期大統領になれば米国の対イラン制裁が再び解除され、イランの西側との経済関係が復活することが予想される。しかし、選挙結果は分からず、イランとしては双方の可能性にヘッジする必要がある。

注:チャートはブログ管理人挿入

 イランの慎重さは2015年のイラン核合意の際にもみられる。核合意締結に際してのイランの第一の選択肢は西側との経済関係の再建であったと思われる。しかし、その一方で、イランは核合意の翌年の2016年に習近平を招聘し、中国との提携を模索している。

 中国にとってイランとの関係強化は経済面のメリットにとどまらず、南西アジア、さらにはペルシャ湾への進出の足掛かりを得ることになる。中国は一帯一路計画の西進を図っており、イランは重要なパートナーとなりうる。また、中国はイランのChahbahar港を支配下の置くかもしれないと報じられている。Chahbahar港はインドが開発したものだが、米国の圧力で手放したものである。中国は、西アジアに足場を築くことは、この地域及びさらにはペルシャ湾での影響力行使に欠かせないと考えているようである。

 ただ、イラン国内では、経済が低迷する中では不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も聞かれるとのことで、イラン特有の慎重さも見られるとのことである。イランの内閣は協定案を承認したが、まだ国会には提出されていないと報じられている。

 イランと中国の協定は両国にとってのみならず、中東情勢、中国の外交に大きな影響を与えるものである。中国が乗り気であることは間違いないが、何事にも慎重なイランが最終的にどう対処するか注目される。

【私の論評】米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されている(゚д゚)!

トランプ大統領の就任後、米国はイランに対し継続的に非常に厳しい制裁を行っています。中共はこの協議の中でかなりのことを行っ、すでに米国の制裁に違反している疑いがあります。

以前に複数の中国企業がイランと違法な取引を行って制裁に違反したとして、米国から制裁を受けたことがあります。この点から見ると、中共は米国の対イラン制裁を破壊し、イランの核開発計画を陰で推進する最大の黒幕のようです。

国際社会が制裁を継続する中、イラン政府に経済、外交、軍事分野で支援を提供する国は中共しかありません。

中国とイランは表面的には一種の政治的同盟を結んでおり、経済面では相補互恵の関係にありますが、実際のところは中共が、長年にわたり制裁を受けてきたイランが空前の孤立無援という困難の中にあることを利用して、イランを手中に収めて操ろうとしていると考えるべきだと思います。

最も分かりやすい例が、中共が一帯一路というエサを撒いて、それから交換条件として戦略的価値の高いイランの2つの港を手に入れようとしていることです。

一方、中共が協議に基づきイランに対する巨額の投資を行えば、間違いなくより多くの中国企業が巻き込まれ、米国の制裁対象になるでしょう。

さらに中国がイランと同盟を結んだ場合、米国から大きな打撃を被るほか、中共が中東地域で行っている外交政策全体も大きく損なわれる可能性があります。

何十年もの間、中共はイスラエルから高度な軍事技術を入手してきましたが、そのイスラエルの最大の敵がイランであるため、中国とイランが手を結んだ場合、イスラエルが疎遠になる可能性があります。

2018年王岐山国家副主席がエルサレムを訪れてネタニヤフ首相と会談

さらに同様の状況がサウジアラビアを筆頭とするスンニ派諸国(イランはシーア派)との間にも発生して、中共がこれらの国とのビジネスチャンスを失う可能性もあります。

このパートナーシップは、中国イランの双方にとって良いことばかりではないようです。

中東においては、やはり米国が中国よりは、戦略的に動いているようです。イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)は、犬猿の仲でした。これを、先日もこのブログに掲載したように、米国が仲介して「歴史的な和平合意」を成立させたのです。

イスラエルとアラブ諸国はもともと対立関係ですが、イランとの対立で共通していました。アラブ人とペルシャ人は共にイスラム教徒ですが、スンニー派とシーア派で対立しています。さらにイラン(ペルシャ人)はアジアに属するので、アラブ諸国から見れば異質な存在です。

それでもアラブ諸国とイランは対イスラエルで共闘していました。そのためイスラエルとアラブ諸国は犬猿の仲でした。それだけにイスラエルとUAE国交正常化は歴史的な転換点です。これは、中東の安定化を意味します。同時に対イランで共通しています。サウジアラビア諸国+イスラエル連合によるイランとの対立です。

米国は中国共産党・イランと対立しています。仮にイラン・中国と米国とが戦争になれば、米軍は中東とアジアに戦力を二分することになるはずでした。これでは米国が不利になります。ところがイスラエルとアラブ諸国が同盟すれば、この状況は変わってきます。

結果的に米軍は、戦略の選択肢を増やすことが可能になります。米軍主力でイラン戦を実行してから、その後の追撃戦はイスラエル・アラブ同盟軍にまかせ、中国共産党との戦争に挑めるし、中国共産党との戦争に専念できます。

状況によっては、イスラエル・アラブ同盟軍とイランが対峙していることを前提として、最初から中国だけと対峙に挑む事が、可能になります。

こうなれば中国共産党は、遅かれ早かれ米国と真正面から対峙することを覚悟しなければならなくなります。これが米国の当面の戦略でしょう。「一帯一路」を掲げながらも具体的戦略に欠ける中国とは大違いです。

トランプ米大統領は19日、イランとの核合意で解除された同国に対する全ての国連制裁の復活を国連安全保障理事会に求める意向を明らかにしました。この動きは、中国とイランのパートナーシップと無関係ではないでしょう。

ポンペオ国務長官がニューヨークの国連本部を20日に訪問し、「スナップバック」と呼ばれる制裁復活手続き開始を正式に申し入れます。

ポンペオ国務長官

トランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で、「イランが核兵器を手にすることは決してない。われわれは、中東和平を不可能にした失敗した構想、失敗に終わった政策に高い代価を支払った」と語りました。

2015年のイラン核合意に盛り込まれたスナップバック手続きを米国が申し立てた場合、国連安保理は制裁緩和継続に向けた決議案を30日以内に採決する必要があります。米国が拒否権を行使し、決議が採択されなければ、イラン核計画の制限と引き換えに緩和された制裁が復活し、核合意の実質的崩壊につながります。

トランプ政権の下で18年に核合意から離脱した米国に国際的制裁を再び発動させる権限はないというのが、同盟国を含む世界の主要国の立場であり、衝突は避けられそうにありません。

この制裁復活手続きは、イラン・中国のパートナーシップに対するさらなる牽制です。できるできないは別にして、イランに対しては相当の圧力になります。

イランとしては、イスラエルとUAE(アラブ首長国連邦)の和平や、その後の他のアラブ諸国の出方や、上で述べた中国とのパートナーシップの負の部分と、メリットを天秤にかけ、メリットが少ないと考えた場合、慎重なイランは、最終的に中国とのパートナーシップを蹴る可能性もあります。

米国の冷静な詰将棋は、対中国だけではなく、中東でも着々と実行されています。

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