2022年1月1日土曜日

蔡総統、中国をけん制「情勢を見誤るべきでない」=元日の談話/台湾―【私の論評】現在の蔡英文政権に唯一心配な点は、過去の日本のように失われた20年を招いてしまう可能性(゚д゚)!

蔡総統、中国をけん制「情勢を見誤るべきでない」=元日の談話/台湾

新年の談話を発表する蔡総統

蔡英文(さいえいぶん)総統は1日、総統府で新年の談話を発表し、台湾と中国は地域の平和と安定を維持する責任を共同で背負うと強調。中国に対し「情勢を見誤るべきでない」とけん制した。

蔡氏は、今年は多くの課題に向き合わなければならないとした上で、台湾の国際参加▽経済発展パワーの維持▽社会安全システムの強化▽国家主権の防衛―を「堅実な政権運営」のための柱だと強調した。

国際参加については東南アジア諸国などとの関係を深化させるほか、自由貿易協定(FTA)締結に向けた米国との貿易投資枠組み協定(TIFA)協議、環太平洋経済連携協定(TPP)への加入などに注力する考えを示した。

経済面では、台湾産業の影響力と競争力を高めなくてはならないと指摘。インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図るとした。

また「香港の情勢を引き続き注視する」と表明。投票率がわずか3割にとどまった昨年12月の立法会選挙や多くのメディア関係者が逮捕されたことに触れ、香港の民主主義の発展と人権や言論の自由に対する懸念を示した。

蔡氏は民主主義と自由を追い求めることは犯罪ではないとし、台湾が香港を支持する立場は変わらないと語った。

中国との関係については、「圧力に屈せず、支持を得ても冒険はしない」とする台湾の立場を改めて説明。双方が努力して人民の生活に関心を払い、社会や国民感情を安定させてこそ、平和的な方法で問題に向き合い、解決策を見いだせると呼び掛けた。

【私の論評】現在の蔡英文政権に唯一心配な点は、過去の日本のように失われた20年を招いてしまう可能性(゚д゚)!

皆様、明けましておめでとうございます。昨年中はお世話になりました。今年もよろしくおねがいします。今年の当ブログは台湾の話題から始めようと思います。

蔡英文総統が、中国に対し「情勢を見誤るべきでない」とけん制したのには、それなりの背景があります。

「台湾有事」が切迫しているというシナリオがまことしやかに論じられ、中には尖閣諸島(中国名:釣魚島)奪取と同時に展開するとの主張すら出ています。「台湾有事論」の大半は中国の台湾「侵攻」を前提に組み立てられていますが、その主張が見落としているのは、中国軍の海上輸送力です。

これについては、昨年末も述べたばかりです。それを以下に要約すると以下のようになります。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。
以上の理由のため中国が、台湾に数年以内に軍事力を用いて侵攻するとは考えられません。まずは海上輸送力を増強し、一度の100万人程度の陸上兵力を発進させる能力をつける必要があります。

ただし、軍事的以外の方法での台湾浸透というやりかたもあります。国際社会から台湾を孤立させ、中国に頼る以外の選択肢をなくすとか、台湾社会に工作員を深く浸透させて、中国側に寝返らせ、最終的に台湾を傘下におさめてしまうななどのやり方もあります。

ただし、そもそも「危機管理」や「安全保障」とは、「事を起こさないようにどう備えるか」、また、「もし起こった時にどうするか」を考え、事前に準備することです。そうして、事が起こったら即座に対応する事が常道です。

その観点から台湾はさらに軍事力を増強するとともに、軍事力以外での中国浸透にも備えていくべきであるのは言うまでもありません。これに対して、日本が台湾有事にどのように行動すべきかを備えるべきであることも言うまでもありません。

ただ、少なくとも当面の軍事的侵攻は確率的にかなり低いことから、蔡英文総統は「情勢を見誤るべきでない」とけん制することができたのでしょう。さらに、日本ではあまり報道されないものの、上記のような内容は、詳細に台湾でも多くの国民に共有されていると思います。

もし、軍事的脅威が身近に迫っていれば、蔡英文総統は、もっと穏やかな表現を選んだと考えられます。それに、今頃台湾から脱出する人も大勢いて、ニュースになっているはずです。日本にも帰化を望む人など、大勢が来ているはずです。

それに台湾在住邦人も有事に備えて、台湾から脱出し日本に帰ってきているはずです。そのようなニュースは台湾でも、日本でも報道されていません。

2020年に一国二制度が踏みにじられた香港からはかなりの人が脱出しました。昨年はパンデミックのまっただ中にあったにもかかわらず、台湾だけで1万800人余りの香港市民が居住許可を取得しました。この数は前年のほぼ2倍です。

今年1月末に英国が海外市民(BNO)旅券の受け付けを開始すると、2カ月間で3万4300件の申請がありました。議会に提出された公的な見積もりによると、通年では約12万件と、1990年代前半に香港から移住した年間人数の2倍になりました。これは年金の脱退や、多くの移住プログラムで必要とされる犯罪歴の照会申請増加などでも裏付けられています。

このような動きは台湾ではみられません。もし本当に中国の脅威が身近に迫っているというのなら、昨年あたりからそのような動きがみられるはずですが、そのようなことはありません。

さて、蔡英文総統の、「新年の談話」では、ほとんどの話が同意できるのですが、一つ気になることもあります。

それは、経済面では、特に国内で、インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図るとした点です。実際にインフレ率はどうなのか、以下に日本・米国・台湾のインフレ率の推移を示すグラフを掲載します。

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インフレ率に関しては、日台は米国と比較して低めです。米国は昨年は単月では、6%を超えたこともあります。台湾では、2021年の推計値では、1.6%です。これは、日本の-0.17%と比較すれば、まともですが、それでも高いとはいえません。失業率は、2021年の推計値は台湾は4%近いです。日本は、2%半ばです。

日本を筆頭に、韓国、台湾などの国々はなぜか、あまり金融緩和をしない傾向があります。それでも、日本では安倍内閣が成立した、2013年4月より金融緩和に踏切、その後はイールドカーブ・コントロールで控えめながらも、現在でも緩和を続けており、失業率は比較的低い状況を維持しています。それ以前は、金融引締を継続していました。

米国はもともと失業率が高いですが、それでも2021年の推計では、 5%台であり、若干高めの水準ではありますが、昨年末では4.2%(前月:4.6%、市場予想:4.5%)と前月から▲0.4%ポイント低下し、市場予想を上回る改善を示しました。(3%〜4%は米国では普通)

日台と米国とでは、明らかに政策の違いがあります。米国は一時高いインフレ率を許容し、中央銀行が量的緩和を拡大し、さらに政府もこれに呼応して積極財政を実施しました。これは、「高圧経済」といっても良い政策です。

「高圧経済論」とは潜在成長率を超える経済成長や完全雇用を下回る失業率といった経済の過熱状態を暫く容認することで、格差問題の改善も含めて量・質ともに雇用の本格改善を目指すというものです。

米国はこの高圧経済政策はコロナ禍に見舞われた後のトランプ政権時代から、さらにバイデン政権でも継続されました。バイデンはインフラ投資法案を成立させ、さらに大型予算「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」を組もうとしましたが、議会に阻止されてしまいました。ただ、今年はまたこれに取り組むことでしょう。

日本や米国との対比からみると、台湾は失業率が3%台もしくはそれ以下になるまでは、金融緩和の余地が十分にあると思います。このあたりは、まともな台湾経済の専門家の意見を聞きたいものです。ただ、余地はあるとはいえると思います。

蔡英文総統の発言には気になるところがあります。それは、「インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図る」としている点です。

インフレは一般物価でみるものであり、住宅価格は個別物価であり、一般物価と個別物価を同一次元でみるべきではありません。インフレ・デフレの問題はあくまで一般物価をものさしにしなければなりません。実際現在の台湾のインフレ率は高いとはいえません。

日本では、一般物価をみないで、○○の物価が上がった、□□の物価が上がった、△△の物価も上がったなどと大騒ぎして、挙げ句の果に「スタグフレーションになる」と騒ぐ、マスコミや識者までいます。愚かとしか言いようがありません。

日本では、どちらかというと、デフレ気味ですか、住宅価格は人手不足で上がり続けています。住宅価格が高騰すると、家を購入することを諦めた人は、それを他の消費に振り向けるける傾向がみられようになります。そうなると、他の物価が上がりやすい傾向になります。

個別の物価だけ注目しても全体は見えてきません。だから、住宅価格だけで物価の全体の動向をみるのではなく、一般物価でみるべきなのです。台湾が現在の状況で金融引締などすると、景気が落ち込むことになるでしょう。

日本では、1990年代のバブル時代に日銀が土地・株価が高騰していることを理由に金融引締に転じてしまいました。そもそも、土地・株価は一般物価とは別ものです。しかも、その当時の一般物価をみてみると、決してバブルではなく、適正範囲内に収まっていました。

日銀があの時期に必要のない金融引締に転じたため、その後バブルは崩壊し、失われた20年という、日本はデフレから抜け出せない時代が続いたのです。日本国内では、なぜかあまり、そのことがあま理解されていませんが、台湾ではどうなのかと心配になってしまいます。

台湾にも、このような日本の過去の間違いを繰り返してほしくありません。韓国では、近年金融緩和をせずに、機械的に最低賃金だけをあげ、雇用が激減するという、考えられないような致命的なミスをし、その余波はまだ続いています。

台湾は、今後しばらくは、「高圧経済」を目指すべきです。その上で、失業率が下がらない状態が続けば、高圧経済をやめれば良いのです。それが、実質所得の増加や生活水準の向上を図る最大の近道です。今の段階で、金利を上げるとか、量的緩和をやめるとか、金融引締に転じるというようなことはすべきではありません。

経済が悪化すれば、国民の不満が鬱積しそれこそ中国に浸透されやすくなります。国民党が勢いを盛り返すことにもなりかねません。国内の経済の安定も安全保証上重要なのです。蔡英文政権で唯一懸念することといえば、このことです。もちろん、これは私が老婆心から言っているだけで、これが外れている可能性は高いかもしれません。

ただ、やはり蔡英文政権には、正しい経済政策をとって欲しいです。そうして、経済政策では煮えきらない、日本の岸田政権に手本を見せてほしいものです。そうして、日台首脳会談が開催されることにでもなれば、その手本について、人の話を聞く耳を持つ岸田総理に話していただきたいものです。無論、対中国政策についても然りです。

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