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岡崎研究所
11月24日に始まったソロモン諸島の首都ホニアラでの暴動は、豪州など部隊の介入により、一応抑圧された。この暴動は、中国をめぐる地政学的文脈を持つものとして報道された。略奪された財産の多くは中国人所有のものであったし、ほとんどの暴徒の出身州であるマライタ州知事スイダニは、2年前ソガバレ(首相)が外交承認を台湾から中国へ切り替えた時に反対運動をしたという経緯もある。
ソロモン諸島は人口70万を擁し、太平洋島嶼国の中では大きな国だが、ここ20年余り政治状況は不安定である。その背景には、①中国と台湾・米国の間の競争(2019年に外交承認を中国に切り替えた。マライタ州は台湾を支持)、②経済発展の欠如(若者が職に就けない)と州間の経済格差の不満、③本島のガダルカナル島と最多人口を擁するマライタ島の対立と指導者の対立(首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争している)などが複雑に絡んでいるようだ。
フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張する。豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べている(11月26日付ローウィ研究所サイト)。
しかし、12月6日にはソガバレに対する不信任案が議会で投票に掛けられ(結果的には否決された)、その過程で野党代表がソガバレは「一つの大国の利益」だけを考えていると批判し、ソガバレはマライタ州は「台湾の代理人」であり、暴徒は政府転覆を謀っていると応酬したことなどを見れば、中台という地政学が大きな不安定要素になっていることは否定できない。
中央政府の要請を受けた豪州、フィジー、パプアニューギニア、ニュージーランドの軍・警察部隊の介入で平静を取り戻したことは評価される。しかし、ヒルが指摘するように、ソロモン諸島の経済や政治が変わらない限り、再発する可能性がある。日本を含め関係国が夫々の協力を強化するとともに、太平洋の安定のために島嶼国支援を強化していくべきである。
中国も食指を動かす太平洋島嶼地域
太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大している。恐らく中国は斯かる重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのであろう。何れ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になれば、それは危険である。
太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間である。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではない。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。
12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」には多くの島嶼国が招請されたことが注目される(フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ)。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようだ。
日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要である。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言う。地政学の舞台は益々大陸から大洋のオープン・エリアに拡大している。
フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張する。豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べている(11月26日付ローウィ研究所サイト)。
しかし、12月6日にはソガバレに対する不信任案が議会で投票に掛けられ(結果的には否決された)、その過程で野党代表がソガバレは「一つの大国の利益」だけを考えていると批判し、ソガバレはマライタ州は「台湾の代理人」であり、暴徒は政府転覆を謀っていると応酬したことなどを見れば、中台という地政学が大きな不安定要素になっていることは否定できない。
中央政府の要請を受けた豪州、フィジー、パプアニューギニア、ニュージーランドの軍・警察部隊の介入で平静を取り戻したことは評価される。しかし、ヒルが指摘するように、ソロモン諸島の経済や政治が変わらない限り、再発する可能性がある。日本を含め関係国が夫々の協力を強化するとともに、太平洋の安定のために島嶼国支援を強化していくべきである。
中国も食指を動かす太平洋島嶼地域
太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大している。恐らく中国は斯かる重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのであろう。何れ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になれば、それは危険である。
太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間である。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではない。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。
12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」には多くの島嶼国が招請されたことが注目される(フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ)。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようだ。
日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要である。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言う。地政学の舞台は益々大陸から大洋のオープン・エリアに拡大している。
【私の論評】中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させることに(゚д゚)!
中国は、様々な面でソロモン諸島と親交を深めつつあります。
外交部の趙立堅報道官は26日の定例記者会見で、中国の援助物資を満載したチャーター機が26日、ソロモン諸島の首都ホニアラに到着したことを明らかにしました。
趙報道官は、「ソロモン諸島側の要請に応じて緊急提供した5万回分の新型コロナワクチン、2万人分の検査キット、6万枚の医療用マスクなどの感染症対策物資と、これより以前に中国がソロモン諸島政府の治安維持と暴動防止を支援するために約束した約15トンの治安用物資が含まれる」と説明しました。また、中国側の治安顧問チームと建設支援プロジェクト専門家チームも同じチャーター機で到着しました。
趙報道官は、「中国側は今後も引き続きソロモン諸島の国内の安定維持、国民の安全と健康の保護、経済発展と国民生活改善のためにできる限りの支援を提供し、両国の良好な関係の恩恵が両国民に行き渡るようにしていく」と表明しました。
これには、大きな中国マネーが動いたと言われています。2019年10月24日号の英エコノミスト誌によれば、中国土木・建設会社は、外交関係の変更のために50万ドルの借款・贈与を提供しました。
他にも、中国鉄道会社は、金鉱再生のために8億2500万ドルを貸すと約束しました。中国政府はスポーツ・スタジアムを建設し、台湾への借金120万ドルを肩代わりすると申し入れました。
上の記事では「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と指摘しています。
ソロモン諸島の経済はどうなのか、一人あたりのGDPを以下にあげておきます。
一人あたりのGDPは、2千ドル台ですから、これは日本円になおすと大雑把に2万円台です。いかに貧しいかがわかります。中国の一人あたりのGDPは1万ドル前後ですから、これは中国よりもかなり低いです。
以前このブログで私は、中東欧諸国が中国から離反して、台湾への接近を推し進める理由をあげたことがあります。それを以下に再掲します。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。中東欧諸国は、先進国のように豊かではありませんが、リトアニアを含めほとんどの国々が一人あたりのGDPは、中国を上回っています。そのため中東欧諸国は、中国に取り込まれる危険はなくなったというか、最初から取り込まれる危険はなかったといえると思います。
一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。
台湾も一人あたりGDPが中国をはるかに上回っています。だからこそ、台湾人は大陸中国に飲み込まれることを嫌がるという側面は否めません。
しかし、ソロモン諸島は違います。時間をかけ民主主義を値付け、政治と経済の分離を図り、法治国家化をすすめることにより、多数の中間層を生みだし、それらが自由に社会活動をした結果富を生み出した西欧諸国のような発展方式より、短期間に政府主導で経済を成長させた、中国の方式のほうが通用することが考えられます。日米豪などが、対応を間違えば中国に取り込まれてしまう危険は十分にあります。
そうして、ソロモン諸島は人口が70万弱ということも、西欧諸国と違った形で経済成長する可能性を示唆しています。たとえば、シンガポールです。シンガポールは、都市国家であり、人口は568万人です。
シンガポールは一党独裁状態にあります。日本をはじめとする先進国の政治体制とは仕組みが異なりますので、一概には比較できないですが、①政治の強いリーダーシップと、それに伴う迅速な意思決定力があり、②1971年に発表された長期計画(コンセプトプラン)の維持と、見直しが継続的に行われていること、③他政府の事例等を学びながら、良いところと課題を抽出し、シンガポールに合った形に組み換え実行すること。この3つの力がシンガポールの経済発展をもたらしました。
ただ、私自身はシンガポールは都市国家であったからこそ、管理が行き届き、一党独裁であっても優れた経済政策を打ち出すことができ経済発展できたのでしょう。しかし、逆に優れた経済政策が打てなければ、一党独裁であるが故に、経験交替が起こらず、経済が低迷した状況が長く続くことになると思います。
ただ、ある程度以上の人口を抱えた国では、1党独裁であっては経済発展できないです。それは高橋洋一氏が作成した以下のグラフではっきりと示されていると思います。
ソロモン諸島は、当面一党独裁で中国やシンガポールのような発展をすることもできますし、西欧諸国のように民主化をすすめて経済発展をすることもできます。しかも、ソロモン諸島の人口は70万弱です。そうなると、シンガポールのように一党独裁を保ったままでも、かなりの経済発展ができる可能性すらあります。
しかも、中国の援助を受けながら、将来的には中国と貿易をしながら、経済発展するという道もあります。そうなると、ソロモン諸島等が中国に飲み込まれる可能性は、中東欧諸国やASEAN諸国よりもはるかに高いと認識する必要があります。
第2次世界大戦中、この地域は日米の激戦地でしたが、これらの諸島が持つ地政学的価値があるからです。特に、これらの諸島は米国と豪州を結ぶシーレーンの上にあります。日米豪印が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって、中国の進出は、その戦略を進めていく上で、大きな阻害要因になります。これは日米豪間で話し合うべき問題です。
太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間です。中国が今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させます。
中国は、A2AD(anti-access と area-denial)戦略をとっていると言われてきました。これは防衛的戦略とも言えますが、中国の戦略的意図はそういう防衛的な考え方からより積極的な影響圏の拡大になって来ていることを、この南太平洋への進出は示しているといえます。
中国は、A2AD(anti-access と area-denial)戦略をとっていると言われてきました。これは防衛的戦略とも言えますが、中国の戦略的意図はそういう防衛的な考え方からより積極的な影響圏の拡大になって来ていることを、この南太平洋への進出は示しているといえます。
中国が進出する前に、あらゆる手段を講じて、阻止すべきです。中国はすぐに軍事基地を設けたりはしないかもしれません。南シナ海のように、サラミ戦術を用いてゆっくりと数十年かけてソロモン諸島を傘下に収め、軍事基地を設営するかもしれません。
日米豪印は、南シナ海の失敗を繰り返さないように早めにを手を打つべきです。一度南シナ海のように、既成事実化されてしまうと、それを元に戻すことは難しいです。
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