ソロモン諸島の海岸 |
ソロモン諸島政府は23日の声明で、「将来の騒乱への対応能力を強化することが急務だ」と述べ、中国から警察関係者6人の派遣を受けると発表した。警察官の訓練などを担当するという。ヘルメットや警棒など装備の提供も受ける。
ソロモン諸島の首都ホニアラでは11月、ソガバレ氏の退陣を求める反政府デモが暴徒化し、中華街で略奪や放火が相次ぎました。
デモ参加者の多くは、ホニアラがあるガダルカナル島と長年対立するマライタ島出身者だった。マライタ島は親台湾派住民が多く、ソガバレ氏が中国と国交を結んだことに反発が強まっている。地元マライタ州政府は中央政府の親中的な政策に反発し、中国企業の島内での活動を禁止する措置を取っている。
また、ソガバレ政権はデモ隊を沈静化させるために近隣国オーストラリアに支援を要請し、兵士や警察官約100人の派遣を受けていた。中国がソロモン諸島の警察力向上を支援することに対し、豪州が警戒を強めそうだ。
(シンガポール支局 森浩)
【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!
太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的な存在感を確立している地域です。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。
12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」にはフィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ等の島嶼国が招請されたことが注目されました。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようです。
日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要です。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言われています。地政学の舞台は益々大陸から大洋の開かれた地域に拡大しています。
だがこの暴動に先立ち、ソロモン諸島で最も人口の多いマライタ州では、ソガバレ首相の率いる現政権が2019年に台湾と断交して中国を公式に承認したことに対する住民の抗議行動がありました。
ソガバレ首相 |
中国との外交関係樹立という決定は、マライタ州とソロモン諸島政府との緊張を招くだけでは終わらなかったのです。人口65万人のソロモン諸島は、大国間の地政学的な対立に巻き込まれてしまったのです。
中国と台湾はここ数十年、南太平洋を巡るライバル関係にあります。この地域の島しょ国の中には、一方から他方へと関係を乗り換える動きもあり、中台双方が影響力を高めるために援助やインフラの提供を競い合っているという指摘も表面化しています。
台湾と公式の外交関係を維持している国は15カ国。台湾と断交し、中国に乗り換えた最も最近の2例が、2019年9月のソロモン諸島とキリバスです。
ところがソロモン諸島マライタ州のダニエル・スイダニ州首相は、州内から中国企業を追放し、米国からの開発援助を受け入れたのです。
スイダニ州首相は5月に治療を受けるために台北を訪問し、ソロモン諸島の中央政府および駐ホニアラ中国大使館から抗議を受ける事態となりました。
担当医師らは、スイダニ州首相には脳腫瘍の疑いがあり、外国の病院での治療を推奨していたと話しています。州首相の帰国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連で数回にわたり延期されいましたが、10月にはマライタ州に戻っています。
首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争しているという状況にあります。
ソロモン諸島の首都ホニアラの中国系住民が多い地区で起きた火災(先月25日、交流サイトの動画から) |
ただ、中台問題だけが暴動の要因ではなく、そこには経済的な問題もあります。フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張しています。
豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べています(11月26日付ローウィ研究所サイト)。
IMF2021年10月13日の資料によれば、ソロモン諸島の一人あたりのGDPは、2,281ドル(世界140位)、中国は10,511ドル(世界84位))、台湾は28,358ドルです。これだと、ソロモン諸島そのものが貧困であるのは確かです。この貧困が対立の根本的要因になっていることは十分に考えられます。
中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベースではこの程度です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。
一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。
ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。
ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。
結局のところ、為政者の考え一つで大きく変わりますが、忘れてはならないのは、ソロモン諸島では大陸中国で行われていない選挙制度があり、有権者が将来を決めることができるということです。
米国や日本、台湾、それに太平洋に領土を持つフランスやイギリスなど、当然のことながら、ソロモン諸島が中国の覇権の及ぶところにはなってもらいたくないでしょうから、やはりソロモン諸島の住民に対して啓蒙活動や、一人ひとりの住民が豊かになり、自らの力で持続的に繁栄できるように支援をすべきでしょう。そのための、ノウハウなら中国にはありませんが、先進国ならあります。
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