対中「先制降伏」論の何が危険か
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国旗掲揚式で中国国旗を掲げる子供たち=香港で2021年10月1日 |
【まとめ】
・日本には中国に攻められたら「先制降伏」するのが正解との趣旨を公言する評論家や「学者」がいる。
・中国に無抵抗降伏した途端、アメリカは瞬時にして「最凶の敵」に転ずる。
・「先制降伏」すれば、占領中国軍による暴虐と、アメリカによる攻撃の両方に晒されることになろう。アメリカの次期大統領選に出馬を検討するマイク・ポンペオ前国務長官は、かつて米陸軍の戦車部隊長として東西ドイツ国境地帯で偵察任務に当たった経験を持つ。
その時期、常にレーガン大統領の言葉を肝に銘じていたという。
「アメリカが自由を失えば、どこにも逃げる場所はない。我々は最後の砦だ」
日本には、中国に攻められたら逃げればいい、無理に抵抗せず降伏するのが正解との趣旨を公言する評論家や「学者」がいるが、歴史およびアメリカを知らない発言という他ない。
例えばテレビコメンテーターの橋下徹氏は、ロシアの侵略に軍事的抵抗を続けるウクライナに関し、抵抗すれば死傷者が増えるだけだから「政治的妥結」(降伏と同義だろう)をし、将来起こるかも知れない(と氏が仮定する)状況の好転に期待すべきだと、在日ウクライナ人研究者らに繰り返し説諭してきた。
これは、尖閣諸島への領土的野心を隠さない中国共産党政権(以下中共)の習近平総書記に対して、暗に「少なくとも僕はテレビを通じて、一切抵抗するなと、日本国民の説得に当たります」とメッセージを送っているに等しい。
中共は常に日本世論の動向を注視している。プーチン氏同様、独裁病の進行が懸念される習近平氏が、大手地上波放送局に頻繁に登場する橋下氏らの影響力を過大評価し、無謀な軍事行動に出るといった展開もあり得ないわけではない。
しかし橋下氏の勧めに反して、自衛隊はもちろん多くの国民は戦いや抵抗を選ぶから、日本はウクライナのような状況に陥るだろう(専守防衛を改めない限り、本土が戦場にならざるを得ない)。
トップに遵法精神も人権感覚もない国の軍隊は、占領地で歯止めなき暴行略奪集団と化す。現に、非武装のウクライナ人商店主らを背後から射殺し、略奪、乾杯に及ぶロシア兵たちの姿が監視カメラに捉えられている。
橋下氏は次のようにも述べている。
《軍事的合理性に基づく撤退は当然あり得る。問題は一般市民をどうするかだ。ロシア軍はウクライナ市民を虐殺するので戦うしかないと言っていたのなら一般市民を置き去りにする撤退はあり得ない》(2022年5月28日付ツイート)
当初は、降伏すればロシア占領下で平穏に暮らせるとのシナリオを提示していたはずだが、ロシア軍の残虐行為が次々明らかになるにつれ、ウクライナ軍は市民を全員引き連れてどこかに撤退し、町を無人の状態でロシア軍に引き渡せとの立場に変わったらしい。
中国軍日本侵攻の場合に置き換えれば、自衛隊は一般市民を先導していち早く僻地まで撤退せよ、あるいは海外に逃避せよ、との主張になろう。無傷のまま明け渡された家屋は中国兵が利用し、やがては一般の中国人が住むことになる。
要するに、中共に攻撃を逡巡させるような抵抗や反撃の態勢(すなわち抑止力)を日本は放棄し、中国の植民地になる運命を甘受せよというのが橋下論法の行き着く先となる。
こうした議論は、「アメリカの怖さ」を理解していない点でも致命的である。今でこそ同盟国だが、日本が中国に無抵抗降伏した途端、アメリカは瞬時にして「最凶の敵」に転ずるだろう。
東アジアにおいて、地理的位置、経済力の点で戦略的に最重要の日本が、中国軍の基地およびハイテク拠点として使われるのを座視するほどアメリカはのんき者ではない。
戦わずに手を挙げれば平穏無事どころか、占領中国軍による暴虐と、アメリカによる攻撃の両方に晒されることになろう。歴史はそうした事例に満ちている。
例えば第二次世界大戦初期の1940年7月3日、イギリス海軍が、直前まで同盟国ながらドイツに降伏したフランスの艦隊に総攻撃を加えた。地中海に面した仏領アルジェリアの湾に停泊していた船舶群だった。
その2週間前、フランスはナチスのパリ無血入城を許していた。そのためイギリスは、陸軍力、空軍力に比し海軍力が弱かったドイツが、フランス艦隊を組み込むことで一挙に海においても強敵となり、軍事バランスが決定的に崩れかねないと懸念した。そこでまず、艦船の引き渡しをフランス海軍に要求したが拒否されたため、殲滅作戦に出たわけである。
この間、フランス海軍のダーラン司令官は、ドイツ軍の傘下には決して入らないと力説したが、英側の容れるところとはならなかった。
結局、イギリス軍の爆撃によって、フランス側は、艦船多数を失うと共に、1297人の死者を出した。
アメリカも、戦略的に最重要の横須賀海軍基地(巨大空母が入港できるドックがある)をはじめ、日本にある軍事施設や戦略インフラを相当程度破壊してから去るだろう。
アメリカに甘え、アメリカを知らない「先制降伏」論は、日本を、かつて「中東のパリ」と言われるほど栄えながら、その後、戦乱とテロで荒廃の地と化したレバノンの東洋版へと導くだろう。
【私の論評】日本が対中「先制降伏」すれば、米国は日本に対して大規模な焦土作戦を実行する(゚д゚)!
米国による第二次世界大戦後における日本の占領は世界史上稀にみるほど、穏当なものでした。無論、問題がなかったかといえば、そのようなことはなく、極東裁判そのものには問題があり、GHQによるプレスコードによる言論統制は今でも日本に悪影響を与えているなどの問題はあります。
しかし、戦前のソ連内におけるウクライナなどへの圧政、第二次世界大戦中のドイツによる東欧諸国の占領、戦後のソ連による東欧諸国の占領政策等の苛烈さから比較すれば、米国の日本占領政策は穏当なものでした。
このブログでは、当時ソ連に属していた、ウクライナに対する圧政について掲載したことがあります。
その記事のリンクを以下に掲載します。
橋下氏らの執拗な「降伏」「妥協」発言、なぜそれほど罪深いのか ウクライナへの“いたわりに欠ける”姿勢で大炎上!―【私の論評】自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げていると指摘するのは、無礼と無知の極み(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。ここでは、スターリンの圧政のもとで起こされた人為的飢餓により、年間400万から1000万人超が餓死させられた大飢饉(ホロドモール)に関してのみ引用します。
さて、ここではホロドモールについてさらに詳しく述べていこうと思います。
当時限られた農作物や食料も徴収された人々は、鳥や家畜、ペット、道端の雑草を食べて飢えをしのいでいました。それでも耐えられなくなり、遂には病死した馬や人の死体を掘り起こして食べ、チフスなどの疫病が蔓延したとされています。
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ウクライナの飢餓を伝える当時の米国の新聞 |
極限状態が続き、時には、自分たちが食事にありつくため、そして子どもを飢えと悲惨な現状から救うために、我が子を殺して食べることもあったと言います。おそるべきディストピアです。
通りには力尽きて道に倒れた死体が放置され、町には死臭が漂っているという有様でした。当時は、飢饉や飢えという言葉を使うことも禁じられていたそうです。
飢饉によってウクライナでは人口の20%(国民の5人に1人)が餓死し、正確な犠牲者数は記録されてないものの、400万から1450万人以上が亡くなったと言われています。
また、600万人以上の出生が抑制されました。被害にあった領域はウクライナに限らず、カフカスやカザフスタン、ベラルーシ、シベリア西部、ヨーロッパ・ロシアのいくつかの地域にまで及んでいます。
ソ連では長きにわたってホロドモールの事実が隠蔽され、語られることはありませんでした。結局、ソ連政府がこの大飢饉を認めたのは1980年代になってからです。
この飢餓の主な原因は、凶作が生じていたにもかかわらず、ソ連政府が工業化推進に必要な外貨を獲得するために、農産物を飢餓輸出したことにあります。
このことからウクライナでは、ホロドモールはソ連による人為的かつ計画的な飢餓であり、ウクライナ人へのジェノサイド(大虐殺)とみなされています。
しかし、ソ連は飢饉の存在自体は認めたものの、被害を被ったのはウクライナ人だけではないとして、虐殺については否定しました。
ソ連は虐殺を否定したものの、これは同じような被害を被ったのはウクライナ人だけではないと語っていることから、当時のソ連領内の他の地域でもこれと同様なことがあったことを暗に認めているわけです。
工業化推進に必要な外貨を獲得するために、農産物を飢餓と引き換えに輸出したというのですから、酷い話です。
ソ連の悪行はこれにとどまりません。
旧ソ連時代の共産党による「犯罪」を正当化するプーチン氏 ロシアが再び中・東欧諸国を脅かし始めた今、日本も対峙すべき―【私の論評】日本はプーチンの価値観を絶対に受け入れられない(゚д゚)!
これは、昨年2月23日の記事です。この記事では、ソ連の東欧に対する過去の圧政に対して掲載しました。江崎道朗氏の元記事からその部分のみを以下に引用します。
第二次世界大戦後、ポーランド、チェコ、ハンガリーなどの中・東欧諸国はソ連の影響下に組みこまれ、バルト三国は併合された。これらの国々は50年近く共産党と秘密警察による人権弾圧と貧困に苦しめられてきた。
意外かもしれないが、そうした中・東欧の「悲劇」が広く知られるようになったのは、1991年にソ連邦が解体した後のことだ。日本でも戦後長らく、ソ連を始めとする共産主義体制は「労働者の楽園」であり、ソ連による人権弾圧の実態は隠蔽されてきた。
ソ連解体後、ソ連の影響下から脱し、自由を取り戻した中・東欧諸国は、ソ連時代の人権弾圧の記録をコツコツと集めるだけでなく、戦争博物館などを建設して、積極的にその記録を公開するようになった。
そこで、私は2017年から19年にかけて、バルト三国やチェコ、ハンガリー、オーストリア、ポーランドを訪れて、各国の戦争博物館を取材した。それらの博物館には、ソ連と各国の共産党によって、いかに占領・支配されたか、秘密警察によってどれほどの人が拷問され、殺されたのか、詳細に展示している。
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リトアニア KGBジェノサイド博物館(江崎道朗氏撮影) |
旧ソ連時代の共産党一党独裁の全体主義がいかに危険であり、「自由と独立」を守るため全体主義の脅威に立ち向かわなければならない。中・東欧諸国は、このことを自国民に懸命に伝えようとしているわけだ。
それは、ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアの指導者たちが再び、中・東欧諸国を脅かすようになってきているからだ。プーチン氏らは、旧ソ連時代の「犯罪」を「正当化」し、ウクライナを含む旧ソ連邦諸国を、再び自らの影響下に置こうとしている。
以下にこの記事の【私の論評】から一部を引用します。
ウイグルや香港など、中国共産党からみれば彼らの私有物なのです。助ける方法などありません。むしろ今の中国は他人の持ち物を奪おうとしているのです。
欧米と中露の根本的な違いは何でしょうか。「人を殺してはならない」との価値観が通じる国と通じない国です。日本は明らかに「人を殺してはならない」との価値観の国々と生きるしかありません。そうして、同盟の最低条件は「自分の身を自分で守る力があること」です。
国際社会では軍事力がなければ何も言えないのです。ようやく「防衛費GDP2%」が話題になりましたが、それで間に合うのでしょうか。 いきなり核武装しろとまでは言いませんが、国際社会での発言力は軍事力に比例します。金を出さなければ何もできないです。
欧米でも、西欧人に対しては「人を殺してはならない」という価値観をはやくから持っていましたが、西欧人以外は事実上の適応除外的な扱いをし、植民地においては苛烈な圧政を強いるようなことを平気でしていました。
国際会議において人種差別撤廃を明確に主張した国は日本が世界で最初です。第一次世界大戦後のパリ講和会議の国際連盟委員会において、日本が主張した、「国際連盟規約」中に人種差別の撤廃を明記するべきという提案をしました。ところが、この提案に当時のアメリカ合衆国大統領だったウッドロウ・ウィルソンは反対で事が重要なだけに全員一致で無ければ可決されないと言って否決しました。
その後第二次世界大戦を経て、戦後に多くの国々が独立して、今日では人種差別撤廃は民主主義国においては当然のこととされています。
しかしこれを未だに軽んじているのが、ソ連の承継国ともいえる現在のロシアです。その残虐性は今もウクライナで発揮されています。ロシアのミサイルは、民間人施設を徹底的に叩き、多くの町を廃墟にしています。戦闘以外での殺人、略奪、強姦などが行われていたことが、報道さています。
それは、ウクライナ人に対してだけではなく、自国民である予備役に対しても遺憾なく発揮されています。
イギリス国防省は5日、ウクライナ侵攻を続ける
ロシアの予備役が、弾薬不足のために「シャベル」を使って「接近戦」を行っている可能性が高いとの見方を示しています。
督戦隊まがいのようなことをしているという報道もあります。
中国は、ウイグル、チベット、内モンゴル自治区などで、苛烈な圧政をしています。
中露北等はいまでも、「必要とあらば人を殺しても構わない」という価値観を有している国です、このような国と我が国のような「人を殺してはならない」という価値観の国とは理解し合えるはずもありません。日本は同じ価値観の国々と生きるしかないのです。
にもかかわらず、日本が中国に無条件降伏してしまえば、中国は日本の優れた技術力を我がものにして、それで様々な軍事品から民生品まで、日本人に安い賃金で製造させ自国内に輸入したり、海外に輸出したりで自国を豊にするとともに、日本を米国に対する防波堤にすることは確実です。それどころか、日本を米国に対峙するための前進基地するでしょう。
米国からみれば日本は、中国を制裁すべき国なのにそれどころか、中国に無条件降伏してしまえば、積極的に中国を助けることになります。これは、米国に対する著しい裏切りであり、敵対行為であり、国際法違反でもあります。それだけで厳しい制裁対象になります。それどころか、世界から爪弾きされます。
そんなことは最初から分かりきっていますから、そもそも、米国が日本から引きあげるということになれば、将来に敵なる日本、しかも強敵になりそうな日本をそのまま中国に引き渡すはずもなく、軍事施設、艦船、航空機、武器などは破壊できるだけ破壊しつくし、日本の原発、火力発電所などの大部分を破壊し、鉄道、空港、港湾主要インフラも破壊するでしょう。
物理的には破壊しないかもしれませんが、ハッキング等で、破壊して使えないようにすることは十分にあり得ます。
さらに、当然のことながら、金融システムなども破壊するでしょう。無論米国資産は、できるだけ、持ち帰るでしょう。知的財産なども破壊するでしょう。それどころか、優秀な技術者その他米国に大きく寄与するような有能な人たちは、米国に引き抜かれることになるでしょう。
しかし、怒りを顕にした米国は、日本の皇族等を受け入れないかもしれません。他の国に受け入れてもらい、細々と日本文化が継承されることになるかもしれません。
これは、いわゆる焦土作戦というものです。これは、戦争等において、防御側が、攻撃側に奪われる地域の利用価値のある建物・施設や食料を焼き払い、その地の生活に不可欠なインフラストラクチャーの利用価値をなくして攻撃側に利便性を残さない、つまり自国領土に侵攻する敵軍に食料・燃料の補給・休養等の現地調達を不可能とする戦術及び戦略の一種です。
米国はアフガニスタンからの撤退は失敗していますが、それでも現状のアフガンは国外からの支援は枯渇し、物価は急騰。現地通貨の価値は暴落し、アフガンが持つ94億ドルの準備金も米国に凍結されて引き出せません。そのため、タリバンは経済では八方塞がりになっています。日本が対中「先制降伏」となれば、米国にとっては、アフガン失うどころではなく、大きな損失であり、しかも事前にそれは余地できるでしょうから、当然焦土作戦をできるだけ実施することになるでしょう。
本当に米軍が立ち去ることになれば、焦土作戦はかなり大規模なものになることが予想されます。無論、民間人や自衛隊員等を積極的に殺すことはしないでしょうが、この焦土作戦に反対するものは、殺傷される可能性もあり得るでしょう。そのようなことになっても、日本は米国を裏切り、国際法違反をしているのですから、米国側にためらいはないでしょう。特に、米国民の多くも、これに積極的に反対する人は少ないでしょう。
さらに、日本の弱点を知り抜いた米国は、通商破壊まではしないでしょうが、あらゆる方法で通商妨害を行い、日本は、エネルギーや食糧などを海外から輸入する道を絶たれるかもしれません。中国から多くを輸入するようになり、日本人は中国なしでは、生活できなくなるでしょう。
米軍の焦土作戦でめぼしいもの何もなくなった日本に進駐してきた中国は、日本から富を得るどころか、多数の日本人を当面養わざるを得ないことになり、何もない日本に怒りを顕にして、日本人をウイグル人やチベット人らと同じように強制労働させることになるでしょう。
挙げ句の果に、中国は「計画的、組織的、統一的な政策」として「長期的に日本人の人口削減」を実行し、日本人を地上から消そうとするかもしれません。そうして、日本を中国の領土の一部にして、多くの中国人が日本に移住することになるでしょう。