2022年3月19日土曜日

橋下氏らの執拗な「降伏」「妥協」発言、なぜそれほど罪深いのか ウクライナへの“いたわりに欠ける”姿勢で大炎上!―【私の論評】自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げていると指摘するのは、無礼と無知の極み(゚д゚)!

有本香の以読制毒

フジテレビ系「めざまし8」に生出演しロシア軍に侵攻されたウクライナ人に、国外退避を強く勧めた橋下氏。

  14日発行の夕刊フジで、ロシアの隣国、ジョージア出身の学者、ダヴィド・ゴギナシュヴィリ氏が、日本のテレビコメンテーターらのウクライナに対する「降伏しろ」発言に異を唱えた。名指しを避けたが、元大阪市長で弁護士の橋下徹氏らの発言を指すと拝察する。


 本コラムではあえて実名を挙げて書き、橋下氏らの一連の発言の罪深さを改めて論じたい。 先月24日のロシア軍の侵攻開始から3週間、祖国防衛のため必死に戦うウクライナに対し、多くの日本国民は深い同情と敬意を寄せている。だが、橋下氏はじめとする日本の一部著名人はなぜか、在日ウクライナ人に執拗(しつよう)に、「降伏」や「妥協」を迫るような発言をしている。

  発言の一端を紹介すると、まず3月3日、フジテレビ系の情報番組「めざまし8(エイト)」で、橋下氏はウクライナ出身の政治学者、グレンコ・アンドリー氏に向かい、次のように言っている。

  「今、ウクライナは18歳から60歳まで男性を国外退避させないっていうのは、これは違うと思いますよ」「アンドリーさん、日本で生活してていいでしょう。未来が見えるじゃないですか。あと10年、20年、頑張りましょうよ。もう一回、そこからウクライナを立て直してもいいじゃないですか。(ロシアのウラジーミル・)プーチン(大統領)だっていつか死ぬんですから」

  このときグレンコ氏は、ウクライナの現状を懸命に説明していた。その発言に割って入ってまで、橋下氏は「ウクライナ人は国外へ逃げろ(=つまり、国土をロシアに明け渡せ)」と言ったのである。

  案の定、この橋下発言は大炎上した。後日、橋下氏は別の番組で、「全面降伏しろとは言っていない」と説明に努めたが、多くの視聴者が「降伏」の強要のように受け取って、違和感を覚えたことは間違いない。

  橋下氏は翌週も、グレンコ氏に同じ理屈で食い下がり、6日にはやはりフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で、自民党の高市早苗政調会長にも迫った。

  このときは、「中国を取り込まないと(対露)制裁の効きが弱いともいわれている」と指摘し、「中国に頭を下げてでも、こっちに付いてもらう必要があるのでは」と問いかけ、高市氏はあきれ顔となっていた。

  筆者が考える、一連の橋下発言の問題点の第1は、事実・史実に基づいていないことだ。

  まず、ウクライナ人が、帝政ロシアとソ連の支配のもとで、どれほどの辛酸を嘗めてきたかを橋下氏はおそらく知らなかっただろう。歴史の一例を挙げると、世界的な穀倉地帯であるウクライナは、1930年代、スターリンの圧政のもとで起こされた人為的飢餓により、年間400万から1000万人超が餓死させられた。こうした歴史を知っていたら、ウクライナ人に向かって安易にロシアの軍門に下れと言えるはずがない。

  さらに、「プーチンが死ぬまで待てば、ウクライナを再興させられる」という、何の根拠もない、無責任な〝提案〟はさらにあり得ない。

  事実に基づかない発信はまだある。 橋下氏は15日、自身のツイッターを更新し、次のように述べている。

  「今の中国は欧米の制裁に負けたというのを最も嫌がる。アヘン戦争の敗北の歴史からの脱却が原動力なんやから。中国をこっちに引き寄せるには、お願いかお土産が先やろ。制裁をちらつかせるのは最後の手段。こんな建前政治は、解決能力なし。ほんまアカン。」(2022年3月15日)

  「お土産」とまで書いて中国に「頭を下げろ」という橋下氏は、もう一つご存じないことがあるとみえる。

  米国がプーチン氏のウクライナ侵攻を阻止するため、12回にわたって中国に働きかけていたことは、米紙ニューヨーク・タイムズが報じている。インテリジェンス情報を中国側に提供してまで、ロシアの軍事侵攻を警告し説得したが徒労に終わったのだ。

  橋下発言に煽られたのか、ニッポン放送のラジオ番組では、テレビプロデューサーのテリー伊藤氏が、在日ウクライナ女性に対して、「ウクライナ勝てませんよ」「無駄死にしてほしくない」と説き、女性は「降参するっていうことですね」といい、口論の様相を呈した。

  いま自身の故郷が爆撃にさらされ、家族や友人の命が危ないという人たちに対する、惻隠の情というものが、橋下氏や伊藤氏、テレビ、ラジオの制作者にはないのだろうか。一連の〝降伏発言〟の最大の問題点は、このいたわりに欠ける姿勢にある。

【私の論評】自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げていると指摘するのは、無礼と無知の極み(゚д゚)!

ウクライナの歴史を少しでも知っていれば、確かに橋下氏のような安易な批判はできないです。以下に外務省のサイトからウクライナの略史を以下に掲載します。


上の記事で、有本氏が「スターリンの圧政のもとで起こされた人為的飢餓により、年間400万から1000万人超が餓死させられた」という記述は、上の表の1932年の大飢饉(ホロドモール)のことです。

特に、1917年〜1921年以降のソ連によるウクライナへの虐待は凄まじいものがあります。

詳しくは、グレンコ・アンドリー氏の以下の記事を下のリンクからご覧になって下さい。
在ウクライナ日本大使館のサイトも参考になります。
ウクライナ概観 (2011年10月現在)
さて、ここではホロドモールについてさらに詳しく述べていこうと思います。

当時限られた農作物や食料も徴収された人々は、鳥や家畜、ペット、道端の雑草を食べて飢えをしのいでいました。それでも耐えられなくなり、遂には病死した馬や人の死体を掘り起こして食べ、チフスなどの疫病が蔓延したとされています。

ウクライナの飢餓を伝える当時の米国の新聞

極限状態が続き、時には、自分たちが食事にありつくため、そして子どもを飢えと悲惨な現状から救うために、我が子を殺して食べることもあったと言います。おそるべきディストピアです。

通りには力尽きて道に倒れた死体が放置され、町には死臭が漂っているという有様でした。当時は、飢饉や飢えという言葉を使うことも禁じられていたそうです。

飢饉によってウクライナでは人口の20%(国民の5人に1人)が餓死し、正確な犠牲者数は記録されてないものの、400万から1450万人以上が亡くなったと言われています。

また、600万人以上の出生が抑制されました。被害にあった領域はウクライナに限らず、カフカスやカザフスタン、ベラルーシ、シベリア西部、ヨーロッパ・ロシアのいくつかの地域にまで及んでいます。

ソ連では長きにわたってホロドモールの事実が隠蔽され、語られることはありませんでした。結局、ソ連政府がこの大飢饉を認めたのは1980年代になってからです。

この飢餓の主な原因は、凶作が生じていたにもかかわらず、ソ連政府が工業化推進に必要な外貨を獲得するために、農産物を飢餓輸出したことにあります。

このことからウクライナでは、ホロドモールはソ連による人為的かつ計画的な飢餓であり、ウクライナ人へのジェノサイド(大虐殺)とみなされています。

しかし、ソ連は飢饉の存在自体は認めたものの、被害を被ったのはウクライナ人だけではないとして、虐殺については否定しました。

ホロドモールの被害者

1991年のソ連崩壊によって、統治下にあったウクライナは独立を果たしました。しかし、ソ連の財産継承をめぐる両国間の問題は未解決であり、ユーロマイダン革命やロシアによるクリミア編入など、現在のウクライナ危機へとつながっています。

ホロドモールに関しては、現在になってウクライナ国内でも意見が割れています。ヴィクトル・ユシチェンコが大統領を務めていた2006年、ウクライナ最高会議はホロドモールをウクライナ人へのジェノサイドと認定する決定を採択。

しかし2010年、ユシチェンコの後継であるヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領は、「ホロドモールはウクライナ人に対するジェノサイドと見なすことはできず、ソ連国内の諸民族の悲劇」と強調し、見解を修正しました。

一方の現代ロシアでは、歴史家を中心に飢饉の事実認識には同調しますが、被害はロシア人やカザフ人にもおよんだと指摘し、ウクライナ人に対する民族的なジェノサイドであることを否定する声が挙がっており、見解の相違は埋まっていません。ただ、ウクライナ人の犠牲が最大であったことは否めないです。

多くの人が命を落とすこととなったホロドモール。しかし、ソ連による歪められた情報工作が影響してか、日本では現在も認知が高くないのが現状です。在日ウクライナ大使館では、ホロドモール被害者追悼の日にあたる11月第4土曜日に、追悼祈祷式と礼拝が行われています。

ソ連によって引き起こされた人為的な大飢饉であるホロドモール。そこにあるのは、単なる国家間の争いが招いた、被害者と加害者という構図のみではありません。繰り返されてきた戦争や人種問題も影響しています。私たちは、血塗られた歴史に目を背けず受け入れなくてはならないですし、この惨劇を忘れてもならないです。

多くの人が人為的に餓死されられたという事実は、ウクライナでは様々な形で語り継がれてきたことでしょう。

現在人口4400万人のウクライナで過去に1/5の人が亡くなったのですから、多くのウクライナ人の家族や親戚の誰か、あるいは周りの人の関係者の誰かは亡くなっているでしょう。そうした歴史的記憶を持つウクライナ人が、ロシアの侵攻に徹底抗戦しようという気持ちになるのは当然といえば当然です。

ロシアよる占領では、多くの人々が粛清されることになるでしょう。命を守る、といっても、降伏さえすれば全員が生き残れるという保証などありません。逃亡すれば良いといわれても、逃亡中に命を落としているウクライナ人も多数出ています。それに、誰もが安心にたる逃亡先が提供されるとは限りません。

降伏後も逃亡後も、抑圧・困窮は必至で、命がけの生活になるでしょう。ロシア支配下では、ウクライナという国の実質的あるいは形式的な存続も危ういです。

ロシアのウクライナ侵攻を成功裏に終わらせることは絶対に避けなければならないです。プーチンの核の恫喝に妥協し融和的解決を模索することは、将来の国際秩序に大きな禍根を残すことになります。まさにウクライナ侵攻をプーチンの誤算まま終わらせる努力と覚悟が国際社会に求められているといえます。ウクライナは国際社会の秩序の維持のためにも戦っているともいえます。

多くの人は安易に「生命よりも大事なものはない」といいます。ところが「生命を守る」というのは、簡単なことではありません。ただ降伏したり逃亡したりすれば、万人の生命が長期にわたり保障される、などというのは幻想にすぎません。

特にロシアに関してはそうです。特に日本人なら、違法な日本人将兵のシベリア抑留や、北方領土の違法占拠などの記憶があるはずです。第2次世界大戦後に、日本がソ連に占領されていたら、とてつもないことになっていたことは容易に想像がつきます。

ガニ大統領が国外逃亡した後に残されたアフガニスタン人の多くは、現在のタリバン支配の状況下で、苛烈な状況に置かれています。旧政府の治安関係部門で働いていたとわかれば、確実に粛清対象です。

現在のアフガニスタンでは公開処刑されている者も多数いますし、失踪した人も多数存在します。女性の権利のために運動しているだけで、深夜に自宅のドアをぶち破られ、連れ去られて行方不明にされてしまうのです。なんといっても多くの若者の夢や人生設計が大幅に狂わされました。特に、女性のそれは絶望的です。彼女たちの将来は、タリバン支配が続く限り閉ざされたままになります。

国外逃亡したアフガニスタンの前ガニ大統領は、外国メディア関係者に向かって「私はアフガニスタン人の生命を救った」などと寝惚けた主張をしていますが、実際には、ただ自分の生命救っただけです。

たとえ日本のテレビ番組であったとしても、日本のお茶の間の視聴者向けであったとしても、自由と独立のために戦うウクライナ人など馬鹿げている、降参すべきだ、逃げるべきだなどと指摘するのは無礼の極みです。

こんな馬鹿げた主張をしても、それに気がつなかない、そのような主張を聴いても、おかしいと思わない人は、相当頭の中がお花畑になっていることを自覚すべきです。

無論、ホロドモールの原因をつくりだしたスターリンは過去の人物であり、プーチンではないと考える人も多いでしょう。しかし、このブログでも以前指摘した通り、元KGBである彼の故郷はロシアではなくソ連邦なのです。プーチンにとっては、ウクライナはあくまで自分たちの持ち物なのです。このような考えには、ロシア人でさえ賛同できないでしょう。

ウクライナ人からすれば、ブーチンがいつスターリンのような政策をとるかもしれないと疑心暗鬼になるのは無理もありません。ましてや今回現実にプーチンはウクライナに本格的に侵攻をはじめその疑心暗鬼は現実のものとなりました。そのウクライナ人がプーチンの目論見を実現させないように立ち上がるのは当然です。それをただ犠牲がでるからといって、降伏しろ、逃げろというのはあまりに理不尽です。

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