外務省のザハロワ報道官は2016年5月19日、「ロシア・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議」の公式レセプションで、ロシアの民族舞踊「カリンカ」を披露した |
発言したのは、ロシア外務省のザハロワ報道官です。
ザハロワ報道官は、日本の外務省の宇山秀樹欧州局長が2月28日、国会で「ロシアが北方領土を占領した」と話したことを受け、「日本の外交官の発言に秘められた"報復主義"を指摘したい。我々は(宇山局長の発言は)日本の政界で特定の勢力がロシアに領土を引き渡すよう求めていることを念頭に置いている証拠とみなしている。このやり方は永久に忘れることを勧めたい」と述べました。
日本政府は一貫して「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島からなる北方四島は、一度も他国の領土となったことがない日本固有の領土で、ロシアの不法占拠が続いている」との立場です。
ロシアは2020年7月、憲法に「領土の割譲を禁止する条項」を盛り込み改正していて、北方領土の交渉そのものが難しくなったという立場を示す発言が目立ちますが、日本側は平和条約締結に向け、帰属問題の解決を目指す立場を堅持しています。
ザハロワ報道官の発言は、ウクライナ侵攻で国際社会から孤立するロシアが強硬姿勢を強めていることを示唆したもので、今後の領土交渉がより一層、難航する恐れがあります。
【私の論評】ウクライナ人も多数居住する北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつある(゚д゚)!
外務省の宇山秀樹欧州局長 |
宇山秀樹氏なる人物、私は上のニュースを見るまで知りませんでした。日本国内でも、宇山氏が上記のような発言をしたことなど、報道されていません。
これが、岸田総理とか林外務大臣などの発言であれば、理解できなくもありませんが、なぜザハロワ報道官がこのような発言をしたのか理解に苦しみます。
このようにあまり有名でもない人物の発言、しかもほとんど報道されもしない発言をわざわざ取り上げるということは、ロシアは北方領土に関して、神経質になっていると考えざるをえません。
なぜ神経質になっているかといえば、2つほど理由があると思います。
1つ目は、現在ロシアはウクライナに侵略をしており、極東の守備が疎かになっているということがあります。極東ロシア地上軍はソ連邦崩壊前では、40数個師団あったものが、現在では、半数以下の12個旅団(師団の半分から2/3の規模)と2個師団合計8万人です。これは、4分の1以下になったということになります。軍の地位も下がり、予算も多く削減され、兵員の士気は下がっています。
極東の東部軍管区には8万人しか配備されていない |
もう一つは、北方領土にはウクライナ人が多く住んでいるということです。1989年の調査では12%、1991年の調査によると全人口の4割がウクライナ人とする調査もあります。2016年時点で、国後島に7914人、択捉島に5934人、色丹島に2820人の計16,668人のロシア国籍の住民が在住していますが、そのうち1割~4割ほどが民族的にはウクライナ人とされます。
北方領土の代表的な町はユジノクリリスク(7048人、2002年調査で8.2%がウクライナ人)、ゴリャチエ・クリュチ(2025人)、マロクリリスク(1873人)、クリリスク(1666人、2002年調査で9.2%がウクライナ人)、クイビシェフ(1757人)等です。
2014年に起きたウクライナ内戦の混乱から逃れるため、ドネツィク州等の東部の親露派地域からウクライナ人がウクライナ系住民が多い北方領土に難民として入植してきた例も報告されています。
北海道新聞は、北方領土・国後島の中心地、古釜布(ユジノクリーリスク)で2014年3月17日、ウクライナ支援集会が開かれたことを報道しました。北方領土はウクライナ出身者が特に多く「3人に1人(国後島民)とも言われ、出身者を含む約500人が集まり「故郷を支えよう」などの声明を採択し、ウクライナ東部やクリミア半島のロシア語系住民との連帯を表明しました。参加した出身者の一人は「故国の混乱が早く収まってほしい」と話しました。
今回のロシアのウクライナ侵攻に関しては、このような報道はされてはいないものの、このような声が高まることはあり得ると思います。
ウラジーミル・プーチン大統領はロシア連邦大統領で、ロシア連邦内にはいくつもの共和国が存在し、共和国には大統領も存在します。ロシア連邦の行政・地方区分システムはかなり複雑で、州、地方、連邦市、共和国、自治州、自治管区、連邦管区などが存在します。これらの地方自治体は、憲法上同等ですが、実際には相互に大きな差があります。
私自身は、北方領土が戻ってくる可能性はかつてないほど高まりつつあると思います。
現在ロシアによるウクライナ侵略多数の難民がウクライナを出国しているといわれています。いまのところ、こうした難民が北方領土に入植しているという報道はありませんが、今後のウクライナ情勢いかんでは、入植する可能性もあります。そうなると、北方領土のウクライナ人の比率はさらに高くなります。
ロシア革命の前後、ロシアから日本へ亡命してきた人(白系ロシア人)の中には、シュウエツ家に代表されるようにウクライナ人も多数いました。多くのウクライナ人は日本領である南樺太に定住していましたが、函館や神戸などで活躍したウクライナ人やユダヤ系ウクライナ人もいました。
亡命者は北海道や関東、関西を中心に在住し、一部は太平洋戦争前に米国などへ渡りましたが、残ったものは日本国籍を取得し、ウクライナ系日本人の系譜となりました。
戦後しばらくはウクライナ人と日本人の交流は停滞していましたが、90年代末以降、日本政府が興行ビザの発給を緩和して以降、在日ウクライナ人の人口が増加しましたた。日本に在留しているウクライナ人の数は2003年には最大の1,927人にまで急増したが、2005年の興行ビザ発給制限の影響で減少し続け、興行ビザの人口は2020年に29人にまで減りました。
2020年12月現在では1,867人となっています。
ロシア軍は、ウクライナのドネツク州、ルガンスク州のロシア系住民が虐待されたこと(真偽はあきらかではないが) をウクライナ侵略の理由の一つにしています。日本はロシアのように極悪非道なことはしませんが、ロシア側からみれば、日本が北方領土のウクライナ人が迫害を受けていることを理由に自衛隊を進駐させることもロシア側からみれば、理論的にはあり得るわけです。
だからこそ、ロシアとしては警戒しているのでしょう。
多くの人は、今回ロシアがウクライナに侵略したことをもって北方領土返還交渉が難しくなると考えているようですが、私はそうではないと思います。
現在ロシアは厳しい経済制裁を受けています、それによりいずれロシア経済はかなり低迷することになります。そのときには、ロシア経済は北朝鮮なみになる可能性があります。そうなったときに、ロシアは自らの根幹部分を守ることで精一杯となり、北方領土を守備したり、自らの領土として行政サービスをする能力すらなくなってしまう可能性が大きいです。
そうなれば、地震や津波のような深刻な自然災害が起こっても放置するしかなくなってしまうでしょう。医療や教育、さらには福祉政策もおろそかなになっとしまうでしょう。
ロシア連邦が経済的に苦しくなれば、軍事的にも守備できる範囲は狭まり、ロシアはモスクワを中心とした部分のみを自らのテリトリーとして他は手放す可能性が高まることが考えられます。
とはいいながら、ロシアはなるべく多くのテリトリーを維持したいと考えるでしょうが、それにしても極東はかなり無理になり、その中でも北方領土は放棄する可能性が高いです。
その頃には、極東にも別の国ができているかもしれません。そうなると北方領土はロシアとの交渉ではなく、その国との交渉となります。その頃には、極東の新しい国も経済的に低迷し、日本支援に期待するようになっている可能性もあります。
そのときが、日本が北方領土を取り戻す最大の機会だと思います。現在のロシアもそうした可能性も意識の上に顕在化はしていないものの、潜在的にはありうると感じているのではないでしょうか。
だからこそ、そのようなことは断じてあってはならないという思いから、あまり有名でもない人物の発言をわざわざ取り上げ異例ともいえる報道官の発言となったのではないでしょうか。
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