2022年3月1日火曜日

バイデンの対ロシア政策は吉と出るか凶と出るか―【私の論評】米国が力を分散せず、あくまで集中して中国を封じ込むのは世界にとって良いことだ(゚д゚)!

バイデンの対ロシア政策は吉と出るか凶と出るか

岡崎研究所

 ブッシュ政権時代に国家安全保障会議(NSC)と国務省に勤務していた、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)外交・防衛政策担当ディレクターのコーリ・シェイクが、バイデンの対露政策を批判する論説を2月11日付ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)に掲載した。


 ウクライナ情勢は緊迫状態が続いているが、最近の欧米メディアにおいては、バイデン大統領の対露政策の対応や手法を問題視するものも目立っている。特に、NYT紙は、2月11日付で、このコーリ・シェイクの投稿の他に、オバマ時代のウクライナ担当の国防次官補代理であったエブリン・ファルカスが、クリミアなどへの対応が不十分であったとして誤りを繰り返すべきではないとして、より強硬な政策を求める投稿を掲載している。

 シェイクの投稿は、バイデンのリーダーとしてのマネージメント全般にも関するものでもある。シェイクは、バイデンの最大の問題は、ウクライナ危機の初期の段階で米軍をウクライナに投入しないことを明言したことであり、これによりロシアは安心して軍事介入の準備を進めることになったと指摘する。

 シェイクは、その背景として、安全保障チームに意見を同じくする昔の部下らを任命し政権内でしっかりした議論をせずに、自分の好む政策決定を行っている結果、人権外交、貿易政策、対中国政策、更にはアフガニスタン撤退などの失敗を引き起こしているのもバイデンの責任であるとする。

 ロシアは、その要求を実現するため正規軍10万人をウクライナ国境に集結し軍事演習を行っている。この段階で既に、国連憲章第2条4項の「武力による威嚇」の禁止義務違反の疑いが強い。また、仮に正規軍が国境を越えれば、明らかな武力攻撃、或いは侵略行為であり、憲章51条の「個別的又は集団的自衛の固有の権利」の行使の対象となる事態であり、米国はウクライナを軍事的に支援する集団的自衛権を国際法上の権利として持つことになる。バイデンは、なぜ早々にその権利を放棄するかのごとき発言をしたのであろう。

 シェイクは、バイデンが、ロシアとの直接対立の可能性を打ち消したのは、核大国である米露の軍事衝突リスクを避けたかったからであろうと指摘する。しかし、それではプーチンの交渉立場を極めて有利にし、その要求を断念させることが難しくなることは明らかであった。
核保有国への対応の前例に

 2014年のクリミア併合や15年のドンバス地域への間接侵略に対する米国および欧州諸国の制裁措置が甘く、その後のドイツのノルド・ストリームへの対応、更にはトランプのプーチン礼賛がプーチンを増長させたことは間違いないであろう。ウクライナで譲歩すれば、バルト3国が次の標的となることは目に見えている。

 そして、シェイクは、アフガニスタン撤退によりさらに弱まった米国の抑止力を回復するためにも、より強硬な対応が必要だと主張する。

 しかし、バイデン政権も、その後、周辺国に米軍を派遣し、バイデン自身が2月12日、ウクライナのゼレンスキー大統領に電話で、侵攻があればロシアはすぐにも「過酷な代償」を支払うことになるだろうと述べ、また2月13日、サリバン安保担当補佐官も、同盟国などと団結し、「断固と対応する準備もできている」と述べ、その表現は厳しくなってきている。種々の準備が進んでいることも背景にあるのであろうが、いずれにせよ、それは経済・金融上の制裁と見られている。

 他方、ロシアでは、2月15日、プーチンがショイグ国防相やラブロフ外相に対して今後の対応につき意見を求め、両大臣が回答する場面が国営放送で中継された。ラブロフは外交的解決の可能性はあるとして交渉継続を進言し、如何にも芝居がかっている印象を受けた。

 なお、ウクライナ情勢が今後どう推移しようとも、バイデンが、ロシアの軍事侵攻に対しても対策は経済制裁だけで軍事的介入は行わないとの方針を表明したことは、今後、核兵器国による同様の問題に関する米国の対応についての先例と見られてしまうことが懸念される。

【私の論評】米国が力を分散せず、あくまで集中して中国を封じ込むのは世界にとって良いことだ(゚д゚)!

バイデン政権は発足間もない昨年3月、発表した国家安全保障戦略の中で中国を唯一の競争相手に位置づけました。中国に対しては同盟国や友好国と共に協力しながら対抗していく姿勢を強調し、ロシアにも懸念はあったものの、対抗相手として中国とロシアには大きな差があります。

このブログでは、何度も述べたように、ロシアの現在のGDPは韓国より若干下回り、一人あたりのGDPでは韓国を大幅に下回っています。そのロシアにできることは限られています。ただ、ロシアは旧ソ連の核兵器と軍事技術を継承する国であり、軍事力も世界第二位とされており、決して侮れる相手ではありません。

対ロ関係は難しいですが、対中国でロシアと少なからず協力するという選択肢もあったのかもしれません。バイデン政権は中国を唯一の競争相手と位置づけることで、対中国に集中したかったのでしょう。

その思いは、バイデン政権による初の「インド太平洋戦略」にもにじみ出ています。先日もこのブログで指摘したように、この戦略には「ロシア」というキーワードが一つもでてきません。

米国の「インド太平洋戦略」は以下のリンクからご覧いただけます。
INDOPACIFIC STRATEGY OF THE UNITED STATES
バイデン政権による初の「インド太平洋戦略」の表紙

 このサイトで「Japan」で検索すると、10個でてきます。それだけ日本はこの地域で米国は、重要視しているということでしょう。


一方「Russa」で検索すると、一切でてきません。これは、いくらロシアの現状の海戦能力が低いからとはいえ、正直驚きました。

バイデン政権が「インド太平洋地域」でも、中国を唯一の競争相手と位置づけることで、対中国に集中しようとする姿勢を強力に打ち出したことにより、プーチンはウクライナに軍事侵攻したとしても、極東で米国に脅かされる懸念はないか、あったにしても少ないとみたでしょう。

そのバイデン政権の思惑を巧みに利用するかのように、ロシアのプーチン政権は思い切った行動に出ました。すでに米ロ関係が急速に冷え込み、バイデン政権は多正面作戦を回避したかったようですが、その思惑は確実に裏目に出ました。

ただ、バイデンが中国に集中するというのなら、ウクライナが脅威になるとは考えにくいわけであり、そこが矛盾するようにも見えます。ただ、現在の状況がいつまで続くかわからないという考えもプーチンにはあるのかもしれません。

米国には地政学を専門に扱うコンサルティング会社「ユーラシアグループ」がありますが、同社の社長である国際政治学者イアン・ブレマーは以前から「Gゼロの世界」を提唱してきました。

イアン・ブレマー

Gゼロの世界とは、簡単に言えばグローバルリーダシップを発揮できる指導者がいない世界ということを意味します。米国の力が相対的に弱くなり、中国が影響力を高め、ロシアが拡張主義的行動をエスカレートさせる今日の世界は、まさにGゼロの世界なのかもしれません。

プーチンもGゼロの世界になったとみなし、この世界はいつまで続くかもわからないし、今こそチャンスだとばかりにウクライナに侵攻したのかもしれません。

今後の世界は現在より不安定化する可能性が高いです。今回のウクライナ問題では、中国はその行方を第三者の立場で静かに注視し、欧米の死角や政治的間隙を縫う方策を探っているでしょぅ。

今後ロシアやイラン、北朝鮮など安全保障上懸念される国々は米国の反応をこれまでほど窺わなくなり、自主的な行動をさらにエスカレートさせる可能性もあります。

また、米国や日本、オーストラリア、欧州などは今後も対中国、対ロシアで協力することがあるでしょうが、第三世界の国々がそれにどこまで付いてくるかがポイントとなります。

21世紀に入り中国は着実に力をつけ、一帯一路などによって周辺地域やアフリカ、中南米諸国などとの経済関係を強化しており、すでに第三世界の国々にとって欧米陣営に付いていけば安心という国際関係ではない。今日ウクライナ情勢はGゼロの世界を加速させるプロローグなのかもしれません。

このブログでは、以前からロシアのウクライナ侵攻は、確率が低いこと、中国の台湾侵攻や、尖閣侵攻はないだろうことを主張してきました。ただ、それは純粋に軍事的に見た場合の観点から主張したものです。

中露がGゼロの世界になったとみなせば、軍事的に不可能とみられた行動も起こすかもしれません。まさに、それが今回のロシアによるウクライナ侵攻といえます。

ただ、このウクライナ侵攻はまだ結論が出ていません。これからもバイデンの政策いかんによっては、ロシアにそうして、中国に対しても未だ世界は「Gゼロ」ではないと思い知らせることはできます。

何よりも、ロシアの経済力ではウクライナで長期わたって戦争を継続することは不可能です。もう、その兆候はみられています。

バイデンが、ロシアの軍事侵攻に対しても対策は経済制裁だけで軍事的介入は行わないとの方針を表明を撤回すべきです。本当に介入するかしないかは別にしても、条件づきで介入する可能性を打ち出すだけでも良いでしょう。

さらに、米国およびその同盟国が結束して、返り血を浴びてもロシアを経済的に壊滅させる動きにてでいます。

それによって各国の国債のCDSがどうなったか、以下に本日の数字をあげておきます。

CDSとは、企業や国などの破綻リスクを売買するデリバティブ(金融派生商品)で、投資対象の破綻=デフォルトに備えた保険です。CDSの買い手は売り手に一定の手数料を支払う一方、投資先がデフォルト(債務不履行)した場合には売り手が損失を肩代わりし、「保険金」を支払います。

国家破綻のリスクが高くなった!というときに、国債の金利が上昇しますが、国債金利以上に端的に破綻リスクの高まりを表すといわれるのが「国債CDS」です。

以下に5年間の国債CDSの本日の一覧表を掲載しておきます。


ちなみにPDは破綻確率です。ロシアの破綻確率は6.87%です。日本は、0.31%です。日本というか、先進国では0%以下というのが普通です。日本は、どう考えても、破綻しようにもありません。しかし、ロシアやトルコは破綻確率がかなり高いです。

ロシアの金利は10%台にまで跳ね上がっています。国債金利の危険水域は7%ですから、ロシアはかなり危険ということです。

ロシアも、今後さらに破綻確率があがっていくことが考えられます。

ロシアは今回のウクライナ侵攻後には、いずれ二桁台で経済が落ち込みとてつもないことになるでしょう。そうなると、今後ロシアは戦争どころではなくなります。

ロシアがウクライナに侵攻している最中でも、米国は決して台湾海峡から目を逸らさないです。そういう意味では欧州の戦争に派兵しない米国の方針は大局的には、正しいかもしれないです。ロシア以上に世界の平和に対する脅威はまさに中国です。

ロシアのGDPは今や韓国を若干下回る程度です。一人あたりのGDPでは、韓国を大幅に下回ります。ロシアと中国の一人あたりのGDPは同じくらいですが、ロシアの人口は1億4千万人ですが、中国の人口は14億人で、GDPはロシアの10倍です。

力を分散せず、あくまで集中して中国を封じ込むのは良いことです。最悪の事態が生じても、NATOがこれに対峙できます。しかし、中国が相手では、QUADも結成されたばかりのAUKUSもまだ十分対応しきれるかどうかは、わかりません。やはり米国が前面にでて、中国に対峙しようとしているのです。

これは、大統領がだれであろうと、いまや米国の方針なのでしょう。

そのことを理解したからこそ、ドイツをはじめとするEUの国々も、方針を変えてウクライナに武器の支援等をしようとしているのでしょう。

以上を注視している中国は「Gゼロ」的な世界観を当面捨て去るかもしれません。

日本としては、以上のような状況を良く認識しておくべきでしょう。今後の世界は、いつ「Gゼロ」になるか、あるいロシアにようにそうなったと思いこむ国が出てくるかわかったものではないです。

そのときには、現在のロシアのような行動を、中国が起こすかもしれないです。それに対処するには、日本は安倍元総理が主張するように、たとえば米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について、国内でも議論すべきです。その他の抑止力についてもタブーにすることなく議論すべきです。

議論そのものすら受け付けないという人は、代替案を上げた上で反対すべきです。

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