2022年3月10日木曜日

「世帯所得の減少」議論した経済財政諮問会議の読み方 マクロ経済失策には言及せず…金融所得課税強化への誘導も―【私の論評】参院選後には、本当は財務省カラー出すだけなのに岸田カラーを出したと悦に入るかもしれない困った総理(゚д゚)!

日本の解き方
経済財政諮問会議で令和4年度予算編成について議論する岸田文雄首相ら =3日午後、首相官邸

 経済財政諮問会議の中で、この25年間で、働き盛りの世帯の所得が100万円以上減少しているとして、非正規雇用の若年単身世帯の割合が大きく上昇していることなどが指摘された。

 経済財政諮問会議をめぐっては、筆者は小泉純一郎政権当時、竹中平蔵大臣の命を受け、民間議員ペーパーの下書きをしていた。当時、同会議はマクロ経済を首相に説明する唯一の機会だった。もちろんマクロ経済だけではなくミクロ経済の話題もあったが、それでも財政再建に関わるマクロ経済を議論する場として有用だった。

 だが、今の経済財政諮問会議の民間議員には、マクロ経済の専門家がいない。民間議員4人のうち2人は産業界代表枠、2人は学者・エコノミスト枠だが、後者枠では東大大学院教授の柳川範之はミクロ経済、BNPパリバ証券の中空麻奈氏はいわゆる「債券村」の出身だ。

 3日に開催された経済財政諮問会議の議題は、(1)マクロ経済運営(金融政策、物価等に関する集中審議)と(2)所得向上と人的資本の強化だった。開催時間は45分だけだが、その資料は大量で、ほとんど役人が書いたものを一部だけ委員が首相に説明しているのだろう。

 議題(1)に関する民間議員ペーパーで、「コロナ前のGDP水準を回復した今こそ」という記述があった。2021年10~12月期の実質GDP(季節調整済み)は541・4兆円だ。コロナ前とは19年10~12月期の542・2兆円を意味しているのだろう。

 しかし、その1期前の7~9月期は557・6兆円だったので、本来であれば、そこまで回復しないといけないが、マクロ経済のゴールポストを低く設定し、財政出動しないと誘導しているようにみえる。実際、民間議員ペーパーでは「公需から民需主導の持続的な成長経路への移行を図るときである」とされている。まんまと、政府・財務省のシナリオ通りである。

 冒頭の話は(2)に関係する。民間議員ペーパーでは、非正規雇用の割合が増えたことが所得減少の原因とはいわずに、現象面だけを書き、いきなり「賃金引き上げ、人材投資や働き方改革」という政策提言になっている。

 所得減少は、マクロ経済政策の失敗による「失われた30年」だ。それには言及せずに、「成長の果実を、賃金や人材投資に加え、配当・利払い等という形でも国民に幅広く還元し、好循環を拡大すべきである」としている。これだけなら支障はないが、その前後に、今後、政策誘導する布石も打っている。

 「若年世代、子育て世代は将来不安から消費を抑制し、依然、預貯金中心に貯蓄している」とし、その注釈で「我が国資産所得の格差は他の主要国と比べて大きく、例えば、家計資産総額約1億3000万円以上の高資産世帯が利子・配当金収入総額の約60%を占める状況にある」としている。

 これは、昨年の自民党総裁選以降、岸田文雄首相が「岸田ショック」をもたらした金融所得課税について、政府・財務省は諦めていないというメッセージである。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】参院選後には、本当は財務省カラー出すだけなのに岸田カラーを出したと悦に入るかもしれない困った総理(゚д゚)!

以下に、35歳~44歳の1994年と2019年の世帯・所得分布(内閣府作成)のグラフを掲載します。


この世代には就職氷河期世代(2019年時点で大学卒なら37歳~48歳)が含まれるため、全体的に所得の差が25歳~34歳より拡大しました。「全世帯」で所得の中央値が1994年の657万円に対して、2019年は565万円と、92万円低下しました、また「単身世帯」でも25年前に比べ、300万円以上~400万円未満の割合が2倍以上に上昇しているのが特徴です。

このため、単身世帯の所得の中央値が1994年の498万円に対して、2019年は400万円と、98万円も低くなりました。ただし、「夫婦と子」世帯では、中央値が1994年の670万円に対して、2019年は677万円と、若干だが7万円増えています。つまり、就職氷河期によって結婚しない単身世帯が増えたうえ、その人たちの所得が下がったため全体の水準を押し下げているといえそうです。

さて、マクロ経済政策はなにかという教科書的な内容を以下に掲載します。

マクロ経済政策とは、市場の失敗に対して政府が対処する政策のことです。これには、個々の産業に対する規制や課税、補助金等の政策や、福祉・労働等の社会政策がありますが、不況を防ぐことによって十分な総雇用を維持し、一般物価を安定させることも経済政策の重要な役割です。これが「マクロ経済政策」と呼ばれ、財政政策と金融政策に二分されます。
 
財政政策は政府によって担われ、不況からの回復には、政府支出の拡大や減税が行われ、景気の過熱を冷ますためには、政府支出の削減や増税が行われる。
 
金融政策は中央銀行によって担われ、通常は特定の利子率(「政策金利」)を目安として、経済に出回っている貨幣の量(「貨幣供給量」)を調節します。不況やデフレの時は、貨幣供給量の増加を目指して金融緩和を行い、景気が過熱してインフレの時は、貨幣供給量を減らすために金融引き締めを行います。
 
上の高橋洋一氏によれば、所得減少は、マクロ経済政策の失敗による「失われた30年」です。この失われた30年のほとんどの期間を政府は、政府支出の拡大や減税をすべきだったのに、増税や緊縮財政を繰り返しました。

日銀は、この期間本来金融緩和すべきだったのは、金融引締ばかり繰り返しました。

これが、所得減少の根本原因です。これ以外に理由はありません。本来マクロ経済政策とは、市場の失敗に対して政府が対処する政策なのですが、日本では失われた30年間のほとんどの期間にわたって、政府のマクロ経済政策が間違っていたのです。

なお、上のマクロ経済政策の説明は、教科書的としましたが、高校の「政治・経済」の教科書にも似たりよったりのことが書かれているでしょう。これ以外のことをいえば、「政治・経済」の試験では間違いとされます。

高校の「政治経済」の教科書

そうして、これは古今東西いずれの国でも成り立つ事実です。逆のことをして成功したという例はありません。財務省は過去に、不況時に増税で成功した事例を探したといわれていますが、そのような事例は未だ財務省からは公表されていません。そのような事例は皆無だったのでしょう。

そうして、このくらいの認識があれば、政治家もその時々で、財政政策や金融政策の方向性を間違うことないはずです。

財務省はこうした教科書にも書かれているような事実をまげて、高校の「政治経済」のテストであれば、間違いとされる、屁理屈をこねて増税に増税を重ね、緊縮財政を推進してきたわけです。それどころか、財務省の抵抗があまりに多くて、安倍政権において結局2回も増税せざるをえなくなってしまったのです。

財務省はとにかく増税さえできれば、良いと考えているのです。さすがに現時点の諸費税増税は国民からの反発が必至とみられるため、それよりは金融所得課税のほうが徴税しやすいと考え虎視眈々とねらっているのでしょう。

一方、日銀は2013年に黒田総裁に変わってから、異次元の包括的金融緩和に踏切り、まずは雇用が劇的に回復したのですが、2016年からいわゆるイールドカーブ・コントロールにより、抑制的な緩和に転じてしまいました。

岸田総理の基本的姿勢は、内閣支持率がコロナ感染と世論が連動していることから、世論が新型コロナの感染拡大しかみてないことと、最近ではロシアのウクライナ侵攻が話題となり、マスコミの批判が安倍・菅政権に比してないに等しいことから、とにかく参院選まではほぼすべて重要事項は、検討する姿勢を見せるだけで何もせず、それで参院選までやり過ごし、比較的高い支持率を維持するつもりのようです。


ただ、例外は米国等に注文をつけらたときに限られているようです。そうして、本格的に意思決定するのは参院選後と決めているような節があります。そうなると、参院選でも何とか勝利して、国民から信任を得たとして、参院選後に金融所得課税を含めた、財務省主導の経済対策を実行し始めるのではないかと思います。

そうして、マクロ経済大音痴の岸田首相は、本当は財務省カラーを出すだけなのに岸田カラーを出したと悦に入るのかもしれません。本当に困ったものです。ただ、目論見どおりいくかどうかは、定かではありません。


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