2022年1月19日水曜日

不安な政府のオミクロン対策…「柔軟な対応」強調するが、先読まず場当たり対応目立つ 菅政権より仕事をしていない―【私の論評】岸田政権は「日米中の正三角形政策」を捨て去り、「日米中二等辺三角形政策」を志向すべき(゚д゚)!

日本の解き方


岸田首相

 岸田文雄政権は、新型コロナウイルスの感染者の濃厚接触者について、待機期間を短縮するなど「柔軟な対応」を強調している。一方でワクチンの3回目接種は進まず、米軍基地の感染でも米国との交渉は遅きに失したとの見方もある。政府のオミクロン株対策は十分なのだろうか。

 新型コロナの感染症法上の分類を「2類相当」から「5類」に引き下げることについて、岸田首相は、「感染急拡大している状況で変更するのは現実的ではない。2類から5類にいったん変更し、その後、変異が生じた場合、大きな問題を引き起こす」と消極的だ。

 このような変更の決定は、新型コロナの感染者数が極めて少なかった昨年10~11月にやっておくべきだった。ワクチンの3回目接種も在庫があったにもかかわらず、やらなかった。そのため、沖縄県では医療従事者が感染し医療にも支障が出ているという。分類変更もそれとも同じで、波が静かなときに何も準備しなかったことが問題だ。今さら手遅れで、手順が前後していると言わざるを得ない。

 今後変異があるから変更すると大問題を起こすので対応できないというロジックもおかしい。これは、やらないことを正当化する「官僚答弁」である。

 一般論であるが、ウイルスは変異するたびに感染力は強くなるが弱毒化していく傾向がある。当てはまらない場合も少ない確率であり得るが、そのときには再び分類を変更すればいい。「柔軟に対応」と岸田首相は言うが、こうした柔軟性をもってもいいだろう。変異があるからこそ迅速に対応すべきだ。

 こうしてみると、岸田政権と菅義偉政権の差が著しい。菅前首相は昨年、厚生労働省に任せていたらワクチン接種は11月までかかるといわれたので、河野太郎氏をワクチン担当相に任命し、実務主体を厚労省だけではなく総務省を加えて地方自治体が動きやすいように工夫したという。その結果、驚異的なスピードでワクチン接種が可能になった。

 ワクチンの調達でも、菅前首相は、バイデン米大統領と西側諸国で初の対面での首脳会談を行った。合わせてファイザー社のCEOとも会談し、日本にとって有利なワクチン調達に成功した。

 岸田政権では、堀内詔子ワクチン担当相の存在感が小さく、実務対応力はかなり貧弱になっている。岸田首相はいまだに対面での日米首脳会談が開催できない異常事態だ。ファイザー社を含めてワクチン調達では対面のトップ会談が行えていないので、スムーズな関係とはとても言えない。現場の医療関係者からも、菅政権のときのほうがやりやすかったという声もある。

 岸田政権は、先手、先手と口では言うが、先を読まずに、場当たり対応しているだけのようにみえる。しかも、本コラムで書いたように、官僚を後ろから撃つようなこともしているので、ますます官僚の初動が鈍くなっている。国民に対して仕事するという観点からみれば、岸田政権は菅政権と比較して仕事をしていない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】岸田政権は「日米中の正三角形政策」を捨て去り、「日米中二等辺三角形政策」を志向すべき(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事では、岸田首相のオミクロンへの対応の貧弱さを語っていますし、それについては上の記事で十分に語り尽くされているので、以下では主に岸田政権の外交の貧弱さについて述べようと思います。

岸田首相は12月6日召集予定の臨時国会前に訪米し、バイデン大統領との首脳会談を調整していました。しかし、訪米は先送りになりました。米国内の事情があるにせよ、対中外交での歩調が日米間で合わなかったことが不安視されたことも仕切り直しの理由と言われています。

林外相は「米中両方とも話ができるのが日本の強み」と語っていましたが、この発想は鳩山政権時代の「日米中正三角形」論を思い出させるものです。


日米中が「正三角形」に近づいていくということは、日米同盟の距離を広げ、日中関係の距離を縮めるということです。

産経新聞は「日米中正三角形論は、中国の覇権主義戦略であり「日米分断の論理」だと論じています(2006年7月5日)。

正三角形論の歴史は古いです。1982年に中国の趙紫陽首相(当時)が打ち出した新外交路線に端を発するものです。当時は中ソ関係が 悪化しており、趙氏は「中米日の3国は互いに親密な三角形であるべきだ」と述べ、ソ連を牽制したのです。

この論は、冷戦が崩壊した90年代初めに脚光を浴び、その後、影を潜めたものの、その後左翼・リベラル系学者や評論家にもてはやされるようになった時期がありました。

しかし、正三角形論は、中国の一貫した外交方針であり、日米分断の論理に過ぎません。そして、このような虚構の論理を説く政治家は、党利党略に目がくらみ国家的立場を見失ったか、
北京と特殊の関係ができたか、と勘ぐらざるを得ないです。

そもそも、これまでの「日米中二等辺三角形論」は、
(1)自由主義陣営vs共産主義陣営という政治体制の違い、
(2)中国の覇権主義(急激な軍拡)に対して、日米軍事同盟によって防波堤を築く、
(3)全体主義国家、一党独裁国家、周辺国への侵略と弾圧・虐殺、人権蹂躙国家に対する牽制という意味合いがありました。
この三つの意味合いは、現在でも全く変わっていません。

自民党政権の対米関係を批判した鳩山政権はアジア外交強化を唱え、民主党の小沢一郎幹事長や山岡賢次国対委員長らが日米中3カ国を等距離とするスタンスをとったことがあります。小沢氏率いる総勢約500人の大訪中団は中国で厚遇されましたが、鳩山首相の対米外交はギクシャクし、米軍普天間飛行場移設問題で迷走の末に辞任を余儀なくされました。

当時「正三角形論」を説いた小沢幹事長は、「党利党略に目がくらみ国家的立場を見失ったか、北京と特殊の関係ができたか」という両者が的中していると言わざるを得ません。その小沢氏はどうなったかといえば、昨年の衆院選において岩手3区で、無敗を誇ってきた立憲民主党の大ベテランであるにもかかわらず落選しました。

岩手政に絶大な影響力を持ち、「小沢王国」に君臨してきた「帝王」の選挙区敗北は、最早小沢氏は過去の人になったという象徴でもあると思います。

鳩山政権の外交を岸田首相や林外相も批判していたはずですが、 岸田、林両氏は自民党内のリベラル派、ハト派(穏健派)を代表する宏池会に所属しています。そもそも「日米中正三角形」論は宏池会の先輩も語っていたことであり、その考えは骨の髄まで2人に染みついているのでしょう。

岸田氏の近著『岸田ビジョン 分断から協調へ』には、宮澤喜一元首相ともう一人、宏池会(現・岸田派)の会長を務めた人物が取り上げられています。それは加藤紘一元幹事長であり、彼こそが「日米中正三角形」論を元々主張していました。

岸田氏の近著『岸田ビジョン』

岸田氏は9月の記者会見で「権威主義的・独裁主義的体制が拡大している」と中国を批判し、「言うべきことは言う」とも強調してきました。自民党総裁選で掲げた公約通り、人権問題を担当する首相補佐官を新設し、人権問題をめぐり制裁を科せるようにする「日本版マグニツキ―法」(人権侵害制裁法)などの必要性を訴えてきた中谷元衆院議員を起用しました。

ところが、その中谷氏は11月24日のBS番組で「制裁を伴ってどういうことが起こるか、しっかりと検証しないといけない」などと慎重な姿勢に変わり、岸田政権は同法制定を見送る方針とも報じられました。

近著で「外交・安全保障の分野では、私以上に経験豊かな政治家はあまり見当たらないと自負しています」とつづっている岸田首相のスタンスが中谷氏を抑えているのは明らかでしょう。

米国や英国は来年2月の北京冬季五輪への政府高官派遣を行わない「外交ボイコット」を早々ときめましたが、岸田首相は「それぞれの国において、それぞれの立場があり、考えがあると思う。日本は日本の立場で物事を考えていきたい」と曖昧な言葉に終始していました。

それでも岸田文雄首相は先月24日、来年2月の北京冬季五輪・パラリンピックに、閣僚や政府高官ら政府関係者を派遣しない方針を正式に表明しました。日本オリンピック委員会の山下泰裕会長と参院議員で東京大会組織委員会の橋本聖子会長は、現地で開かれる国際オリンピック委員会の総会に合わせて出席するとしました。

ただ岸田首相をはしめ岸田政権の閣僚ぱ、「外交的ボイコット」と名言していません。それに、現職議員でもある橋本聖子JOC会長の出席を認めています。マスコミなどは、「実質的な外交的ボイコット」などと報道しています。

今年迎える日中国交正常化50周年を前に日中間で摩擦が生じることは避けたいとの思惑も透けて見えました。欧米と足並みをそろえられずに孤立していくとの不安は消えないです。

それでも、米ホワイトハウスは16日、岸田文雄首相とバイデン大統領が今月21日にオンライン形式で協議すると発表しました。16日の声明で、日米同盟を強化する方針を確認し「自由で開かれたインド太平洋という共通のビジョンを推進する」と記しました。中国の脅威を念頭に抑止力を高める安全保障協力も話し合う見通しです。

岸田政権も総選挙で勝利したものの、これから新型コロナウイルスの感染拡大が再び始まれば、オミクロン株への対応、外交、経済なとでお粗末な対応をこれからも継続していけば、支持率が徐々に削られていくことになるでしょう。

自民党総裁選の決選投票では支持してくれたとはいえ、安倍晋三元首相がどこまで岸田首相を支えるのかも定かではありません。今年夏には参院選も控えています。自民党は16年夏の参院選で大勝しており、来夏の参院選での議席維持のハードルは高いです。

参院選で敗北すれば、政権が一気に傾く可能性もあります。こうした不安が一層、貧弱ぶりに拍車をかけているのかもしれません。「何とか、経済でも、コロナ対策でも、外交でも強い岸田政権をアピールしなければ」という焦りにが、岸田政権の貧弱ぶりに繋がっているのかもしれません。

こういうときには、菅前首相のように、腹をくくって安倍政権を継承したように、岸田政権も安倍・菅路線を継承し、その上で両政権の懸案事項でありながら、できなかったことを実施し、その後に岸田カラーを打ち出すのが政権を安定させるためには、最も良い行き方ではないかと思います。

特に中国政策ではそうです。岸田氏と比較するとバイデン米大統領は、対照的です。中国に対して、厳しいという点では、バイデン大統領は、トランプ政権を継承しています。

これは、もちろんすでに米国議会が超党派で、中国に対して厳しいからでしょう。バイデン政権が、中国に厳しい議会に引っ張られていく流れは続くでしょう。特に今年は議会の中間選挙があります。議会の誰もが、中国に甘いと思われたくないでしょう。そうしてバイデン政権が議会を怒らせるリスクを冒すとは思えません。

中国に対して厳しい姿勢を堅持するバイデン米大統領

トランプ大統領やポンペオ国務長官らが次々と厳しい姿勢を打ち出していった前政権と比べるとバイデン政権の「顔」は見えにくいところがあります。しかしバイデン政権の米国はワシントン全体の空気を反映しながら、徐々に中国への圧力を強めています。いまのところこの流れを変える要素は出てきていません。

にもかかわらず中国に配慮をみせる岸田首相に、バイデン大統領が距離を置くのは当然です。せっかく厳しい対中政策を打ち出しているのに、岸田氏と親しい関係を構築すれば、議会やマスコミなどからも批判される隙を与え、中間選挙に悪影響を与えかねません。

米国のピューリサーチセンターの調査では、日米とも中国に対して負の感情を持っている人が圧倒的に多いことが指摘されています。

岸田政権は「日米中の正三角形」を捨て去り、「日米中二等辺三角形」を志向すべきでしょう。そうしなければ、岸田政権は国内保守派からも、バイデン政権や米議会からも、国民からも見放され、鳩山政権のように徐々に弱体化していくだけになるでしょう。

そうして、民主党が政権交代をしたときには、こぞって民主党を応援したマスコミやリベラル左派も、さすがに末期の鳩山政権は批判したように、いまのところ表立って岸田政権を批判しないマスコミも、いずれ批判攻勢に転じることになるでしょう。

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