2022年1月18日火曜日

使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策―【私の論評】中国は台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!

使命を終えた米国の台湾に対する戦略的曖昧政策

岡崎研究所

 リチャード・ハース米外交問題評議会会長及びデイヴィッド・サックス同研究フェローが連名で、2021年12月13日付のフォーリン・アフェアーズ誌に、台湾に対する米国の戦略的曖昧さはその使命を終えたとして戦略的明快さに転換すべきことを論じている。


 この長文の論文を読むと論点は言い尽くされている。このまま戦略的曖昧政策を継続することは中国の計算違いを招く可能性があるという意味で危険であり、米国は戦略的明快さに転換すべきものと思う。

 その政策は台湾に対する直接的な侵略およびその他海上封鎖のような間接的な侵略に対して米国が台湾を防衛するとの意思を明確にすることを必要とする。もとより、張子の虎であることは許されず、台湾防衛を最重要課題と位置付ける米国の軍事力強化が必要であることは論を俟たない。

 問題は、戦略的明快さの政策自体の問題と言うよりは、むしろ政策転換のプロセスの管理の問題にあるのではないかと思われる。即ち、この政策転換が中国に対して挑発的と映ることは出来る限り避けるべきことである。挑発的と映れば、台湾とその周辺の情勢の不安定性を増幅する恐れがあるであろう。

 1947年3月、トルーマン大統領が議会で演説して、ギリシャとトルコを共産主義の脅威から守るために両国の経済と軍に対する支援を表明したが、台湾を巡る情勢が現在よりも更に切迫し一刻の猶予も許さない状況となれば、このトルーマン・ドクトリン演説の例に倣うことも考えられようが、そういう事態ではない――ということは戦略的明快さへの最適の転換時期如何という別の論点を提起するかも知れないが。従って、何等かの工夫が必要ではないかと思われる。

 挑発的であることを避けるという意味では、この論文にも言及があるが、中国に一定の保証を与えることは考慮の必要があろう。しかし、「台湾の独立を支持しない」という言い方には疑問がある――いわゆる「一つの中国」政策を誓約した米中の共同コミュニケの文言を繰り返し「両岸問題の平和的解決を促す」(4月16日の日米首脳共同声明)ことにとどめるべきものと思われる。

日本は米国の軍事オプションへの留意を

 工夫としてどういうことがあり得るか分からないが、例えば、議会で大統領に台湾有事の際の軍事力行使の権限を与える超党派の法案を成立せしめ、その機会を捉え、大統領が戦略的明快さを内容とする声明を発出することも検討に値しよう。

 この政策転換の反対論として説得的な議論を目にしないが、台湾の政策・行動がどうであれ無条件に安全保障のコミットメントを提供することを疑問視する見解がある。しかし、それは戦略的明快さの内容次第であり、一切の政策判断を排除する必要はないように思われる。

 バイデン政権が戦略的明快さを追求すると否とにかかわらず、台湾侵略に対し、米国がこれに対抗することに失敗すれば、この地域の秩序は修復不能なまでに損なわれるであろう。この論文はその末段で、米国の軍事オプションを可能とする前提条件は地域の諸国に米国と共に中国の侵略に抵抗する用意があることにあると指摘しているが、それが厳然たる実態であり、そのことに日本は留意せねばならない。

【私の論評】中国には台湾に軍事侵攻できる能力がないからこそ、日米は戦略的曖昧政策を捨て去るべきなのだ(゚д゚)!

昨年4月15-18日当時の菅総理訪米の際に、4月16日に発せられた日米首脳共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と、台湾という語が明記されました。


これは、日米首脳の共同声明としては、1969年の佐藤・ニクソン会談以来のことであり、日本国内では大きく報じられました。この他にもバイデン政権は、4月9日に国務省が、米台当局者の接触についてのガイドラインを改定し、台湾との接触の制限を緩和することを明らかにするなど、トランプ政権の路線を変えず台湾支援を強化しています。

「戦略的曖昧さ」とは、台湾が中国に武力攻撃を受けた際に、米国がこれにどう対応するか明言しないでおくという政策です。中国を挑発せず、他方で、台湾が独立を宣言し、中国の台湾進攻につながることを避けることを意図しています。

3月9日には、インド太平洋軍のデイビッドソン司令官(当時)が、上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると指摘したうえで、「戦略的曖昧さ」を見直すよう明言した。

一方米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は3日、中国が台湾を侵攻する可能性は当面は低いとの考えを改めて示しました。米シンクタンク、アスペン研究所のフォーラムで「中国は近い将来、台湾へ行動を起こそうと準備しているか」と問われ「私の分析によれば半年や1、2年という近い将来に起こり得るとは思わない」と否定しました。

このブログでも、中国による台湾侵攻は、海上輸送力の脆弱さによる不可能であることを何度か掲載しています。それに中国が台湾に侵攻するとすれば、台湾を併合するためであり、台湾を破壊することが目的ではありません。併合するのは、実はかなり難しいです。

台湾を破壊することだけが目的であれば、台湾に核ミサイルを数発発射するだけでよいですが、武力で侵攻して併合するとなると、そのような単純なことではすみません。攻撃して撃破して、捕虜を捉えて、拘禁し、さらに大兵力を進駐させて、台湾を統治しなくてはならなくなります。

昔から知られている軍事法則の中に、攻撃三倍の法則があります。戦闘において有効な攻撃を行うためには相手の三倍の兵力が必要となる、とする考え方です。攻者が勝利すると言われる攻者と防者の兵力比率が三対一であるために、三対一の法則とも言われます。

ただ、この考えは、現在は当てはまらない場合も多いとはされていますが、それにしても台湾は島嶼であり、西側に平野が広がり、東側は山岳地帯です。上陸の主力部隊は西側から上陸するでしょう。台湾は東側にはあまり力を割くこと無く西側に集中できます。

台湾地図

それに、台湾は攻撃力の高い、対艦ミサイルも装備しています。無論、対空ミサイルも、中長距離ミサイルも装備しています。これらにより、中国の艦艇、航空機等が破壊されるでしょうし、場合によっては本土も攻撃にさらされることになります。これらを考慮に入れると、やはり三対一の法則に近いことになりそうです。

台湾陸軍は10万人ですから、中国軍が確実に勝利するためには、陸上兵力を30万人は送り込まなければならないことになります。しかし、中国人民解放軍がいくら精強な着上陸部隊を整備しても、上陸地点まで輸送する手段がなければ意味がありません。中国海軍の近代化の過程で、揚陸艦は最優先の整備対象ではなく、輸送能力は現在のところ台湾本土への侵攻には不十分とされています。

中国研究誌「中共研究」の14年5月の論文は、中国の揚陸艦艇を約230隻と推計し、約2万6000人と戦闘車両1530両が輸送可能としています。現在は、さらに増強されたと仮定して、2倍の輸送力になっていたとしても、これでは30万人は到底不可能です。この状況では、中国による台湾武力侵攻はないとみるのが、普通だと思います。

このようなことを述べると、空挺部隊やフェリーなども使えば良いではないかという人もいるかもしれません。しかし、中国の空挺部隊に所属するのは30,000人です。フェリーなどは、補助的に使えるかもしれませんが、軍事作戦には向きません。

そうなると、中国による台湾武力侵攻はあり得ないので、これでめでたしということで、戦略的曖昧政策で良いということになるでしょうか。

私は、そうは思いません。中国による台湾による武力侵攻がないからこそ、「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきなのです。

私が懸念するのは、中国による台湾への武力侵攻ではありません。中国による台湾への武力以外による浸透です。

最近報道されたように、中国共産党による、英国内での工作活動の一端が明らかになっています。英メディアによると、外国スパイの摘発や、国家機密の漏洩(ろうえい)阻止などの防諜活動を行う情報機関「情報局保安部(MI5)」は、中国共産党の女性工作員が、英議員らに献金を通じて「政治的な介入」を行っていると、議会に異例の警告を発したといいます。専門家は、日本国内でも同様の工作活動が広がっている危険性を指摘しました。

MI5によると、クリスティン・チン・クイ・リーという名の女性が中国共産党のために、現職の英下院議員と下院議員を目指す人との「つながりを確立」していたという。

蔡英文総統の民主進歩党が政権の座についてから、台湾では中国の影響力はかなり低下しました。ただ、中国は台湾に対して浸透工作をこれからも強めるでしょう。それだけではなく、さらに中国は台湾を国際的に孤立させたり威信を低下させる挙にでるでしょう。経済的に不利益を被るように仕掛けるでしょう。

この浸透工作、台湾の国際的地位低下工作によって、台湾に親中政権ができたとしたら、どうなるでしょうか。しかも、その親中政権が中国の傀儡政権に近いものだった場合どうなるでしょう。

中国はある程度時間をかけて、少しずつ中国に人民解放軍を上陸させるでしょう。場合によっては、目立たないように、民間人を装って入国させるかもしれません。仮に30万人以上も上陸させてしまったとしたら、時すでに遅しです。台湾は事実上、中国領になってしまいます。それも、合法的にそうなるのです。

そうして、いずれ台湾は正式に中国の省になるか、あるいは対岸の福建省に取り込まれてしまうでしょう。

これを取り戻すには、米軍にとっても大変なことです。傀儡政権が出来上ってから、米国がこれに対応すれば、ベトナム戦争のように泥沼化する可能性もあります。

そうなる前に、対処すべきです。そのためには、今から「戦略的曖昧政策」を捨て去り、米国は戦略的明快さに転換すべきです。

そうして、中国が非合法なやりかたで、台湾の政治などに介入した場合は、制裁を加えるべきでしょう。さらに、非合法な手段で傀儡政権を樹立して、軍隊を派遣しようとしたときには、これを阻止する構えをみせるべきでしょう。

日本も、昨年4月16日に発せられた日米首脳共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」とあるのですから、積極的な役割を果たすべきです。

日本は冷戦期にソ連SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)封じ込めに極めて重要な役割を果たしていました。特に対潜哨戒により、結果としてソ連原潜の行動を封じ込めたことで、多大な成果をあげました。この日本の貢献は、西側全体にとっても対ソ戦略上極めて重要な価値を有していました。

特に、日本が対潜哨戒機を多数導入して、オホーツク海において大々的な対潜哨戒活動に踏み切ったことは特筆に値します。これには、軍事費を膨大に投じる必要もありましたし、要員の訓練に時間を要します。これを最初に提案した米国の官僚は後に「まさか、日本がこの要求を飲むとは思わなかった」と述懐しています。

オホーツク海上を哨戒飛行するP3C

このときの、経験がもとになり、日本の対潜哨戒能力は世界のトップクラスになりました。日本は、冷戦期において米国をはじめとする西側諸国に対して、大きな貢献をしたのです。

その後冷戦は、西側諸国が勝利して、日本は冷戦勝利国になりました。日本ではあまり意識されていませんが、日本は冷戦戦勝国であり、しかも巷でいわれているように、基地を米国に提供しただけではなく、積極的にソ連の原潜の行動を把握し、その情報を米国などの西側諸国と共有することによって、結果としてソ連原潜の封じ込めに成功し、大きな貢献をしたのです。

だからこそ、安倍元総理大臣が、「インド太平洋戦略」や「QUAD」を提案して、米国などの西側諸国等に受け入れられたのです。

今回との中国との新冷戦でも、日本は冷戦時と同じような貢献ができるはずです。日本には、現在でも世界トップクラスの対潜哨戒能力を有しており、さらにステルス性の高い通常型潜水艦を有しています。そうして、潜水艦22隻体制がまもなく達成できます。(本当はできていたが、昨年の事故で1隻が就航不能になっています)

これを有効に用いて、新冷戦でも冷戦時と同等もしくはそれ以上の貢献ができます。昨年7月中国が台湾に侵攻した場合の対応について、麻生副総理兼財務大臣は、安全保障関連法で集団的自衛権を行使できる要件の「存立危機事態」にあたる可能性があるという認識を示しました。

これをさらに一歩すすめて、中国が台湾に軍隊を送る場合は、戦争であろうとなかろうと「存立危機事態」とみなすと台湾とともに宣言すれば良いのです。日本も曖昧なことをいうのをやめて、戦略的明快さに転換すべきなのです。

それとともに、冷戦時のように東シナ海、台湾海峡においても無論台湾の許可を得た形で、哨戒活動にあたり、結果としてしてかつて日本が、ソ連の潜水艦を封じ込めたように、中国海軍を封じ込めれば良いのです。

岸田政権には、このようなことは考えも及びつかないようです。そもそも、日本は冷戦戦勝国であり、中露北朝鮮は敗戦国だという認識もないようです。米国にはこれを見透かされ、日米首脳会談すらまだ開催されていません。これは異例中の異例です。

日本の安全保障に関しては、岸防衛大臣が頑張っています。しかし、それにも限界があるでしょう。自民党は岸田政権は短期で終わらせて、新たな総裁がのもとで、安全保障を見直すべきです。軍事侵攻ではなくても、台湾が中国の手のうちにおちれば、日本は根底から戦略を見直さなければならなくなります。

人材がいないというのであれば、短期的でも良いので、安倍元総理大臣に返り咲いていただき、道筋をつけてもらうというのもありだと思います。

日本が新冷戦に勝利した暁には、国外では日本の貢献は冷戦時から十分認識されていますから、国内で国民に対して広くこの意味合いを啓蒙すべきでしょう。そうして、今度こそ安倍元総理が語っていたように「戦後レジームからの脱却」を果たすべきです。

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