2022年1月15日土曜日

令和4年度物価上昇率見通し1%台に上げか 日銀、17日から決定会合―【私の論評】実は、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしい(゚д゚)!

令和4年度物価上昇率見通し1%台に上げか 日銀、17日から決定会合

日銀黒田総裁

 日本銀行は17、18日に金融政策決定会合を開き、四半期に一度公表する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、令和4年度の消費者物価上昇率の見通しを引き上げる方向で検討する。昨年10月の前回リポートで示した0・9%から1%台前半にするとの見方が有力だ。原材料価格の高騰などを受け値上げの動きが出ているためだが、日銀が目標とする物価上昇率2%を達成する状況ではなく、大規模な金融緩和策は維持される方向だ。

 背景にあるのが原油高や円安の進行などによる企業の輸入コストの上昇だ。企業同士の取引価格を示す国内企業物価指数は昨年11月に前年同月比の伸び率が比較可能な昭和56年以降で最大の9・2%を記録し、12月も8・5%(速報)で過去2番目の大きさだった。

 こうした輸入コスト高を販売価格に反映する動きが食品業界などで相次いでおり、12月の日銀企業短期経済観測調査(短観)では、販売価格が「上昇」したと答えた割合から「下落」の割合を差し引いた指数が大企業の製造業でプラス16と6ポイント上昇、非製造業でプラス10と4ポイント上昇した。

 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は今月12日の支店長会議で、物価の先行きに関して「徐々に上昇率を高めていく」との見通しを示した。日銀はこれまでの展望リポートで物価動向について「下振れリスクが大きい」と評価してきたが、今回の会合では今後の物価上昇を見据え表現を改める可能性がある。

 ただ、岸田文雄政権が求める企業の賃上げが進まなければ値上げの動きも広がりを欠き、市場では物価上昇率が2%になる状況には当面ならないとの見方が強い。このため、日銀は短期金利をマイナス0・1%とし、長期金利を0%程度に誘導する金融緩和政策を維持する見通し。

【私の論評】実は、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしい(゚д゚)!

日銀は5日、2021年末の国債保有残高が20年末と比べて約14兆円少ない約521兆円だったと発表しました。前年末比で国債の保有残高が減少するのは、08年以来13年ぶりです。日銀は2%の物価上昇目標の達成に向けて大規模な金融緩和を続ける姿勢を崩していないが、金融市場では「事実上の量的緩和の縮小」(エコノミスト)との受け止めもあります。

日銀は13~20年の8年間で国債保有を421兆円増やし、全体の国債発行額に占める保有比率は4割を超えた。日銀は20年の新型コロナウイルス禍など非常時には購入量を増やす一方、平時は購入を減らしてきました。


21年3月には日本株に連動する上場投資信託(ETF)の購入方針も市場が動揺したときに大規模に買う方向へと改めました。21年末の残高(購入簿価)は36兆3400億円で、前年からの増加額は1兆400億円となり、20年の年間増加額(7兆500億円)から急減しました。

この状況は、白川日銀前総裁以来です。白川氏といえば、日銀はインフレをコンロールできないという、「日銀理論」の論者で、インフレ目標に頑強に反対してきました。

過去の日銀の金融政策の間違いは、まずは06年3月の福井俊彦元総裁時代に株価・地下は上がってはいたものの、一般物価は量的緩和停止を実施したことにはじまりました。

それに続き白川日銀時代には、日銀が保有する長期国債の残高を銀行券の発行残高の範囲内とする「銀行券ルール」に縛られ、結果として国債購入ができず、マネタリーベース(銀行券+当座預金)の拡大をしなかったことです。

2014年に黒田氏が日銀総裁になってから、2016年までの日銀は異次元の緩和を実施していましたがが2016年にイールドカープ・コントロールを導入して以来中途半端な緩和に転じてしまいました。

13年4月から16年9月までのマネタリーベース対前年同月比の平均は37%増ですですが、それ以降は11%増にとどまっています。直近の状態は10%にも達していないです。

「銀行券ルール」で縛られた白川日銀は、マネタリーベースを増加させるために、国債購入ではなく金融機関への貸出増加を行いました。ピーク時には、貸出のマネタリーベースに占める割合は4割程度でしたが、十分なマネタリーベース増はありませんでした。

黒田日銀は、国債増によってマネタリーベース増を行ったので、貸出はマネタリーベースの1割程度と安定していました。しかし、20年のコロナ危機以降、貸出は増加し、今や2割程度まで上昇しています。

政府の国債発行量が多くないので、マネタリーベース増を維持するために、コロナ危機を契機に貸出増となった事情もあるとは思います。

黒田総裁が大規模な金融緩和を始めてから9年近くとなりますが、早期達成するとしていた2%の物価目標はいまも「相当遠い」(黒田総裁)状況が続いています。この状況なら、本来ならさらに量的・質的金融緩和を拡大して継続すべきです。

政府が国債発行量をさらに少なくして、日銀がさらに量的緩和の縮小をするようなことにでもなれば、また日本は深刻なデフレに見舞われなかねません。

過去の深刻なデフレの期間に何が起こっていたかといえば、自殺者の増加です。これについては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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堺屋太一氏

堺屋太一氏は、2019年に他界されましたが、この記事は2016年のもので、まだご存命のときです。この当時は、日銀は異次元の緩和から、イールドカーブ・コントロールで緩和を手控える直前でした。異次元の緩和で、雇用情勢が劇的に変わっている最中でしたが、それにしても、酷いデフレと、就職氷河期の記憶が生々しく残っている時期でした。

この記事は、結果として堺屋氏を批判することにもなっていますが、その批判の矛先は、主に過去の政府や日銀による政策に向けられたものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事から一部を引用します。
自殺者数と景気は相関が高いことが知られていますが、この数年間の経済状況の改善と、さらに自殺対策にここ数年経費を増加させていく方針を採用していることもあり最近は自殺者数が減っています。類似の事例はホームレス対策にもいえ、ホームレス数は景気要因に関わらず対策費の増加に合わせて減少しています。

自殺者数の減少については、マクロ(景気)とミクロ(自殺対策関連予算の増加スタンス)の両方が功を奏していると考えられます。

自殺対策関連予算の推移はまとまったデータがないので拾い集めてみると

平成19年 247億円 平成20年 144億円 平成21年 136億 平成22年 140億 平成23年 150億 平成24年 326億 平成25年 340億 平成26年 361億 となってます。

以下に、失業率と自殺者数の推移のグラフを掲載しておきます。
日本がデフレに突入した、97年あたりからそれまで、2万台であった自殺者数が、一挙に3万人台になっています。このグラフをみただけでも、経済政策の失敗は自殺者数を増やすということがいえそうです。
経済政策の失敗は自殺者を増やすであろうことは、容易に想像できます。私は、2000年代に会社で人事を担当していたことがありましたが、そのあたりに採用した新人から、様々な話をきき、その当時の若者はとてつもない状況におかれていたことを肌身で感じたことがあります。

とくにかく、就職が悪夢のようになかなか決まらないこと、国立大学を卒業しやはり国立の大学院に行った女性の新人が卒業と同時に奨学金などの名目で数百万円の借金を抱えていることや、その当時の学生たちの極めて質素な生活ぶりなどを聞き、これはただ事ではないと、ひしひしと感じていました。

だからこそ、自殺者の推移に関しても、他人事ではなく、身近に感じられたのだと思います。

ただ、当然のことながら、採用は極めてやりやすく、逆に不気味さを感じたことを覚えています。その当時は、多くの企業が採用を手控え、採用するにしても能力などは二の次にして、いわゆるコミュニケーション能力を重視していました。

ただ、このコミュニケーションという言葉が曲者で、要するに「調整型」の人材を採用したいのですが、「調整型」というのでは、格好が悪いので「コミュニケーション」という言葉を用いていたようです。

実際、当時「コミュニケーション能力重視」というキャッコピーを用いていた企業の採用担当者に「御社におけるコミュニケーション能力」とは何かという質問をしてみたところ、「報・連・相」重視などと答え、コミュニケーションの本質に迫るような答をした人はいませんでした。

そうして、この記事では、『経済政策で人は死ぬか』という書籍を紹介していますが、この書籍でははソ連が崩壊した直後のロシアで男性の平均寿命が自殺や病気で60歳未満になった事例などを丹念に分析し、経済政策のまずさが自殺者を増やす可能性がかなり高いことを示しています。

経済政策が極端にまずく、特に失業者が増えるような政策をしてしまえば、自殺者が増えるのは当然のことだと思います。それに、若者のやる気を削ぐことにもつなかります。これに思いが至らないひとは、想像力が欠如しているのではないかと思います。

現状では、オミクロン株の脅威がメディアで盛んに喧伝されていますが、感染者は増えたものの、死者はほとんど出ていません。

私は、経済政策の不味さが、自殺者を増やす可能性が高いことを考えると、オミクロン株よりも日銀が金融引締に転じることのほうが、はるかに恐ろしいと思います。白川貧乏神のように、日銀が金融引締に転ずることがあれば、景気が悪くなり、失業者が増え、自殺者が増加する悪夢が再燃しかねません。

企業の採用で再び「コミュニケーション重視」という空疎なキャッチフレーズが目立ってくれば、悪夢の再来かもしれません。

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