2022年1月5日水曜日

空軍、F16Vの「エレファントウォーク」初公開 戦力を誇示/台湾―【私の論評】ハイコストパフォーマンの軍備をすすめる台湾軍(゚д゚)!

空軍、F16Vの「エレファントウォーク」初公開 戦力を誇示/台湾

F-16Vのエレファントウォーク

中国の軍用機の台湾防空識別圏進入が相次ぐ中、空軍は5日、嘉義基地で戦闘機「F16V」12機を用いた「エレファントウォーク」の訓練を実施し、戦力を誇示した。F16V(ブロック20)によるこの種の訓練を外部に公開するのは初めて。

国防部(国防省)の統計によれば、台湾の防空識別圏に昨年進入した中国軍機は延べ約960機に上る。台湾海峡の中間線越えや台湾の南東海域への進入も複数回あった。

「エレファントウォーク」とは、多数の航空機を滑走路に集結させ、矢継ぎ早に地上滑走させる訓練。多数機運用能力や即応態勢を誇示する狙いがある。

また、この日はF16Vの緊急発進(スクランブル)の訓練のほか、昨年11月のF16V部隊発足式で初公開されたヘルメット装着式統合目標指定システム(JHMCS)も再度お披露目された。

ヘルメット装着式統合目標指定システム(JHMCS)

【私の論評】ハイコストパフォーマンの軍備をすすめる台湾軍(゚д゚)!

米国が台湾に「F-16V」の売却を決めたのは、トランプ政権のときです。トランプ米政権が2019年11月20日、台湾に対し米国製戦闘機「F-16V」の最新型を66機売却することを決めました。

当時、中国は「断固として反対する」「内政干渉だ」(外務省の華春瑩(か・しゅんえい)報道局長)と強く反発しましたが、裏を返すとF-16Vの高性能に対する警戒の現れでもあります。

中華民国(台湾)国防部は昨年11月18日(木)、性能が大幅に向上したF-16V戦闘機が台湾南西部にある嘉義市の空軍基地に配備されたと発表しました。

昨年11月18日、台湾・嘉義県の空軍基地で行われた、F-16V戦闘機部隊の発足式

F-16Vは、台湾空軍が運用する既存のF-16A/B戦闘機と外見的には似ているものの、桁違いの性能を持つ新型機で、レーダーやアビオニクス、コックピット周りなども一新され、エンジンもより出力の向上した新型を搭載しています。

特に搭載されているAESAレーダー「APG-83」は、旧型(APG-66)に対し総合的な能力は2倍に向上しているといいます。電子機器の性能向上により、軽く小さなレーダーとなっています。

実戦で最も際立つ結果を残した現代ジェット戦闘機といえば、F-15「イーグル」です。F-15は1979(昭和54)年に最初の撃墜を記録して以降、現在に至るまで100機以上を撃墜し、なおかつ空中戦で撃墜された機数はゼロという、100対0のキルレシオ(撃墜、被撃墜比)を達成しています。これまで一度も負けたことがない圧倒的な戦歴から、F-15は(少なくともF-22やF-35が登場するまでは)強い戦闘機の代表格として知られています。

しかしF-15は高性能と引き換えに、あまりに高価すぎるという欠点がありました。開発国であるアメリカ空軍さえ十分な数を揃えることが困難であり、F-15はとっておきの切り札としつつ、同時に数的な主力を担う安価な戦闘機が必要となりました。こうした経緯から、安価で軽量なF-16「ファイティングファルコン」が開発されました。

F-16とF-15のエンジンは同一のものです。したがってエンジン1基を備えるF-16のエンジンパワーは、2基を備えるF-15の半分しかありません。F-16は劣化F-15であるという認識は古くからあり、F-16の開発計画名「LCF」は「ローコストファイター(低価格戦闘機)」の頭文字ではなく「ローケイパビリティファイター(低性能戦闘機)」である、などと陰口を叩かれたことさえありました。

ところがF-16は実戦へ投入されると、安さだけが取り柄の低性能機ではないことがすぐに証明されました。1982(昭和57)年、イスラエル空軍へ供与されたF-16は「ベッカー高原上空戦」において、たった1週間で44機のシリア空軍機を撃墜し損害ゼロという圧倒的な戦果を挙げます。これは同航空戦におけるF-15の40機撃墜損害ゼロを上回る戦果であり、F-15に比肩しうる強い戦闘機であることを実証しました。

「ベッカー高原上空戦」のイスラエル軍F-16ガンカメラによる画像

ちなみに、F-16のキルレシオは実に80対2に達し、撃墜された事例も事故であることを考慮すると、100対0のF-15にほぼ比肩しうる実績を残しました。

F-16の強さの秘訣は、意図的に安定性を落とし機動性を高める「静安定緩和」など、新技術を惜しみなく投じた点にありました。F-15は強い戦闘機ですが、その設計思想は極めて保守的であり、どちらかというと「高性能なF-4」といえる古い部類の飛行機です。両機は同じエンジンを搭載した兄弟でありながら、実に対照的であり、弟分のF-16はエンジンパワーのハンデを技術で克服しました。

F-15と同等の高性能機でありながら、F-15より安価なF-16が売れない筈はなく、2020年現在までに29か国が導入し、生産数は約4588機を数えるに至りました。いまなお政治的な事情からF-35を導入できない国にとっては魅力的な選択肢です。さらに、現在でも様々な改造が繰り返されています。このようなF-16を母体として、改造されたF-16Vです。台湾が中国と戦うには、十分な性能を有しているといえます。

一部報道によると、性能が陳腐化している既存のF-16A/Bについても、保有する141機すべてについて、1100億台湾ドル(約4500億円)を投じて改良する方針だそうで、これまでに64機の改良が行われたといいます。

これらF-16Vの新規導入と、F-16A/Bのアップデートによって、旧式化したF-5E/F戦闘機は退役させる計画のようです。

台湾は、このブログにも以前掲載したように、対潜哨戒機P3Cを備え、潜水艦の開発にも着手しています。強力な地対艦ミサイルや、地対空ミサイル、長距離巡航ミサイルも装備しています。

そうして、概していえると思うのですが、非常にコストパフォーマンスの高い軍備をしていることがうかがわれます。特に中国軍対するコストパフォーマンスが高いです。このあたりは、徹底的に検討してから、配備しているのでしょう。まさにF-16Vの配備はその象徴であると思います。

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