蔓延防止等重点措置は解除されたが、消費回復に向けた取り組みが求められる |
新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)防止等重点措置解除から1週間が経過したが、「プーチン・ショック」で原油や食品価格のさらなる高騰が懸念される。政府は追加経済対策を策定する方針だが、年金受給者らへの5000円給付といった小手先の策ではなく、抜本的な景気刺激策が必要だ。専門家は「5~8%の消費減税」を提言する。
岸田文雄首相は29日にも新型コロナ対応を含む追加経済対策を関係閣僚に指示する方向で調整。自民党も30日から党内議論を始める。
新たな景気悪化要因となったのがロシアのウクライナ侵攻だ。経済協力開発機構(OECD)は、ウクライナ侵攻以降の1年間で、世界の実質経済成長率を1ポイント超押し下げ、物価上昇率は2・5ポイント超押し上げるとの見通しを発表した。
すでに国民生活に直結するエネルギーや食料品の値上がりは顕著だ。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁は4月以降に2%の物価目標に上昇する可能性があるとするが、「見せかけのインフレだ」と指摘する上武大の田中秀臣教授(日本経済論、経済思想史)。
「菅義偉政権が一昨年実施した携帯電話料金値下げの影響が物価統計の処理上消えてしまうことで、エネルギーや生鮮食品を含めた全ての価格が反映される『総合指標』がインフレにみえるだけだ。エネルギーや食品の価格は経済の実勢と離れやすく、日本経済の実勢はいまだにデフレだ」
米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを実施したことから、為替が一時、1ドル=122円に乗せるなど円安ドル高が進み、一部では日銀が進めてきた金融緩和を縮小すべきだとの主張も出ている。だが、田中氏は「もし縮小すると賃金が下がり雇用が悪化することになる」と警告する。
夏の参院選をにらみ、ガソリン税の一部を減税するトリガー条項の凍結解除や、年金受給者らへの5000円給付などの対策も浮上するが、需要を喚起するには不十分だという。
「ガソリン税と消費税の二重課税になっている中で、トリガー条項はガソリン税の減税に過ぎない。給付金も少額で、そもそも年金生活者を支える現役世代の負担軽減を考えていない」と田中氏は批判する。
蔓延防止等重点措置が解除されたなかで、消費を拡大させるために求められる対策は何か。
【私の論評】「みせかけのインフレ」に煽られるな!今必要なのは、財政・金融政策のフル稼働(゚д゚)!
にもかかわらず、あろうことが岸田文雄政権は財務官僚の均衡財政主義に引きずられ、日銀審議委員人事では反金融緩和派を指名する有様です。
デフレとは物価の継続的な下落を指します。世界共通のインフレ指標はコア消費者物価と呼ばれます。天候に左右される生鮮食料品や国際情勢の変動に左右されるエネルギーを除き、需要と供給の関係が決める経済法則を反映します。
デフレとは物価の継続的な下落を指します。世界共通のインフレ指標はコア消費者物価と呼ばれます。天候に左右される生鮮食料品や国際情勢の変動に左右されるエネルギーを除き、需要と供給の関係が決める経済法則を反映します。
日本のコア物価上昇率は2020年8月以降、ゼロ%以下で推移しています。1990年代後半以来の慢性デフレに日本がどっぷりつかったまま抜け出せずにいます。
デフレは国民経済全体の収縮を引き起こします。経済力が衰退する国の通貨は、外国為替市場で絶好の投機売り対象になります。現局面の円安がそうです。
この円安を巡って、一部のマスコミが牽引している「悪い円安」や「悪いインフレ」報道があります。円安とは、金融緩和スタンスの言いかえすぎません。国内的にはインフレに作用します。これから4月になると菅政権で行った携帯料金引き下げの効果が、統計処理上、無視されることになります。そのため公表される物価が一気に上昇するでしょう。
予想されるのは、ワイドショーなどで盛んに「物価が高い」ことを過剰に喧伝されることです。それは日銀の金融緩和姿勢への批判になるでしょう。4月以降の物価をみると、携帯料金引き下げ効果の剥落によって、生鮮食品やエネルギーを含んだ総合指数は対前年度比2%(現状は0.9%)を上回る可能性があります。
「日銀は2%のインフレ目標を立てているのでこれで目標達成だ」とかいう皮相な意見も出てくるでしょう。しかし、これは日本経済の実勢を表していません。
価格の変動の激しい生鮮食品やエネルギー関連を除いたものの方が、経済の実勢をよく反映しています。携帯料金効果の剥落は、1%程度の物価高を統計上もたらすことになるでしょう。
生鮮食品を除く物価指数(コアCPI)は対前年比1.6%(現状は0.6%)、生鮮食品とエネルギーを除く物価指数(コアコアCPI)は対前年比0.9%(現状はマイナス0.1%)です。ウクライナ戦争の影響などで多少まだ上がる可能性はあります。しかし日本実体経はいまだデフレ体質のままです。米国は7.9%、英国は5.5%、ユーロ圏は5.9%です。まったく日本と欧米ではインフレをめぐる事情が異なるのです。
「悪い円安」や「インフレ急増!」というマスコミに報道には、煽られるべきではないのです。
財務省の政権に対する影響力は絶大です。2012年12月に発足した第2次安倍晋三政権は脱デフレを目指したアベノミクスを打ち出し、異次元の金融緩和と機動的な財政出動を組み合わせたのですが、消費税増税と緊縮財政に追い込まれました。
もとより財務省の影響が強い宏池会代表の岸田首相は昨年12月の国会所信表明、今年1月の国会施政方針演説で「デフレ」の一言も発しませんでした。
現在まで続いているのは金融緩和ですが、日銀の伝統的な金融政策の考え方は、金融政策では物価を押し上げられない、中央銀行の主要な役割は民間金融機関の経営の安定だというものです。
現在まで続いているのは金融緩和ですが、日銀の伝統的な金融政策の考え方は、金融政策では物価を押し上げられない、中央銀行の主要な役割は民間金融機関の経営の安定だというものです。
日銀は2014年1月当時、安倍政権の強い要請を受けて、消費者物価上昇率2%の物価安定目標の下、金融緩和を推進すると約束しましたが、2%目標は達成されないままで、日銀とその周辺では日銀理論派が再び勢いづいています。
安倍元政権時に就任した金融緩和積極論者の片岡剛士氏ら2人の日銀審議委員が7月に任期満了になります。岸田政権が片岡氏の後任に指名したのがみずほ銀行出身の岡三証券エコノミストの高田創氏です。
高田氏は金融緩和が銀行収益を圧迫するなどの副作用を重視し、2%の物価目標を見直すべきだと主張してきました。高田氏の考えはデフレをもたらす緊縮財政によって国債相場の安定をめざす財務省の意向にも沿うものです。
来春には黒田東彦日銀総裁が任期を終えます。岸田首相は次期総裁に誰を選ぶのでしょうか。日銀理論と財政均衡主義の双方に目配りする人物を指名するようなら、日本再生の見込みは完全に失せ、国家と国民はデフレの泥沼に沈んで行くでしょう。国会はぼやぼやすべき時ではないです。
【関連記事】
0 件のコメント:
コメントを投稿