2022年5月28日土曜日

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り―【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り

 日米豪印首脳会合に臨む(左から)オーストラリアのアルバニージー首相、バイデン米大統領、
 岸田文雄首相、インドのモディ首相=24日午前、首相官邸

 中国外務省は24日、東京で開かれた日米首脳会談や日米豪印による協力枠組み「クアッド」首脳会合で中国に関する後ろ向きで間違った言動があったとして、日本側に厳正な申し入れを行い強烈な不満と重大な懸念を表明したと発表した。北京の日本大使館は「中国側の申し入れは受け入れられないと反論した」と25日未明に公表した。

 中国外務省アジア局長が24日夜、日本の駐中国特命全権公使を呼び出した。

 日本側は「一方的な中国側の行動に対して懸念を表明し、適切な行動を強く求めた」と明らかにした。また中国とロシアの爆撃機が24日に日本周辺を共同飛行したことに対し重大な懸念も伝えた。中国側は「正常な活動で、どの国も対象にしていない」と応じたという。

【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

今回のQuadの共同声明に対する、中国側の発言は、日本に対する「内政干渉」以外の何ものでもなく、日本側の駐中国特命全権公使が、上記のような反応をしたのは当然のことです。

それに、この共同声明では中国を名指しもしていませんでした。なかったのは問題だと思います。また、クアッドの枠組みができてから数年経ちます。そろそろNATOのような、安全保障の枠組みに具体的に進めるべきです。このままでは形式的なもので終わる恐れもあります。

にもかかわらず、これに対して中国がなぜこのような反応を示すのでしょうか。

それは、中国がQuadがいずれNATOのような軍事同盟になることを恐れているからでしょう。一方で中国は、バイデン大統領が日本に来てからの一連の動きや、台湾問題も含めて、クアッドに対しては神経を使っています。 

中国は、バイデン大統領の台湾問題に対する発言に関して、中国はそれほど激しく反応しませんでしたが、クアッド首脳会合の開催当日にロシアと爆撃機の共同飛行をしたり、日本大使館に対して異議を申し立てるなど、かなり過剰に反応しています。クアッドという枠組みがNATO的な軍事連携に発展していくことを、中国が恐れているからです。

中国と共同飛行した爆撃機と同型のロシアのTU95爆撃機

中国は、以前は日本を見下していました。実際に、1994 年中国の当時の李鵬首相が、オーストラリアを訪問した時に、当時の オーストラリアのジョン・ハワード首相に向かって 「い まの日本の繁栄は一時的なものであだ花です。 その繁栄を創ってきた世代の日本人がもう すぐこの世からいなくなりますから、20 年もしたら国として存在していないのではないで しょうか。 中国か韓国、 あるいは朝鮮の属国にでもなっているかもしれません」 という 発言をしました。 

ところが安倍政権が誕生して以降、気がつけば日本が中国包囲網の中心になっていたのです。 
安倍総理大臣が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を2016年8月の第6回アフリカ開発会議(TICADVI)の場で提唱してから5年以上が経過し、アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を実現することの重要性が、国際社会で広く共有されてきています。

当時の安倍首相がこの構想を出したとき、中国はほとんど気にしていませんでした。しかし、その枠組みが目の前にでき上がってしまったということが、彼らの誤算でした。しかも「AUKUS(オーカス)」、「ファイブ・アイズ」という2つ枠組みがあり、アジアのなかでは日本だけが枠組みの一部に入るような事態も招いたともいえます。

しかし、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

 そもそもわずか数年前まではオーストラリアもインドも、中国との関係は悪くありませんでした。 中国は戦狼外交や覇権主義戦略を進めてしまったのために、インドもオーストラリアも、自分たちの方から敵に回してしまったのです。クアッドができ上がったいちばんの功労者は習近平といえるかもしれません。

米戦略問題研究所(CSIS)の上級顧問であるエドワード・ルトワック氏は、著書『ラストエンペラー 習近平』の中で「大国は小国に勝てない」と主張しています。この論理の重要な点は、「1対1では戦わない」という点です。

1対1では大国が勝利するのは当然です。片方が大国の場合、周辺諸国は、次は自分かも知れないと恐怖を感じ小国に肩入れするであろうことから、大国が目的を達することが難しくなるという理屈です。理屈としては理解しても、実際の国際情勢ではどうだろうかという疑問があらりましたが、まさにその通りの状況が展開されています。それは、中国と台湾の関係です。

習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、当の台湾がこれを脅威に感じ、周辺諸国の日本、オーストラリア、インドが台湾に肩入れするようになったのです。それ以外の英米等もそうするようになったのです。

最近では、オーストラリアは政権が変わりました。労働党になっても、中国に対しての反応は変わりはないようです。 新たな首相が就任してからクアッドに参加しています。オーストラリアの新首相が就任してすぐに、李克強首相が祝電を送ったのですが、何の反応も示していません。

ただ、インド太平洋地域には、懸念材料もあります。

中国の王毅外相は、4月に安全保障協定を締結した南太平洋のソロモン諸島を訪問し、両国関係を強化し「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調しました。

王毅外相は今月26日、8カ国歴訪の最初の訪問国となるソロモン諸島でソガバレ首相らと会談し「ソロモン諸島の主権と安全、領土保全を断固支持する」と述べ、「できる限りのあらゆる支援を行う」とアピールしました。

また、マネレ外相との会談では両国関係を「中国と島しょ国との協力の手本にしたい」と強調し、ソロモンとの協力関係を他の南太平洋の島しょ国にも広げる考えを示しました。「中国の軍事基地を建設する意図はない」と強調しました。また、協定はソロモン諸島の治安能力を高めるのが目的で、他の国と対抗するためのものではないと説明しました。

ソガバレ首相は中国国営テレビのインタビューで、安全保障協定は暴動鎮圧などのためで基地建設の意思はなく、中国側からも提案はないと強調しました。

周辺国などからの中国の軍事拠点化が進むとの懸念をあえて否定した形です。

ソガバレ首相はまた、「一つの中国」原則を堅持すると述べ、台湾問題で中国政府の立場を指示する姿勢を示しました。


オーストラリアやインドが中国から離れて、クアッドやAUKUSもできました。中国はそれに対抗する新たな枠組みをつくらなければなりません。しかし、ついてくる国が少ないので、結局、中国の経済援助なしでは成り立たないような国々を束ねて対抗することになります。

中国の経済援助なしで成り立たない国々というところに注目していただきたいです。中国がいくら大国になったからといって、一人あたりのGDPは未だに10000ドル前後(日本円で約100万円前後)です。その中国がクアッドなどに対抗するために新たな枠組みを作るのには限界があります。

これについては、以前もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ―【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

ソロモン諸島の海岸

中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベース(個人所得≒一人あたりのGDP)ではこの程度(10000ドル、日本円で100万円程度) です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。

ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。

Quadが今より軍事的な色合いを深めたり、日豪印などが、NATOに加入するようなことがあったとすれば、中国もソロモン諸島などと構築する枠組みを軍事的なものにして、ソロモン諸島に中国の軍事基地をつくるかもしれません。

しかし、考えてみてください。Quadに比較すれば、中国がたとえこれに対抗するするためにインド太平洋で新たな枠組みを作ったとします。それにいくつかの国が加入するかもしれません。たとえば、仏領ニューカレドニアが独立して、この枠組みに参加するかもしれません。しかし、ニューカレドニアの一人あたりのGDPは中国を超えており、東欧諸国がそうであったように、結局中国からはなれていくことでしょう。

そうして、残るは一人あたりのGDPが10000万ドル前後以下の貧乏国にばかりになります。これはロシアなど旧ソ連6カ国でつくる軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に所属している国々を想起させます。これらの国々の首脳会議が16日、モスクワで開かれました。

ザシ事務局長によると、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻について説明したのですが、CSTOの侵攻への参加は議論されなかったといいます。同盟強化を目指すロシアに対し、加盟国間の思惑の違いも取りざたされており、ロシアの孤立が浮き彫りになりました。

ちなみに、CSTOの加盟国はロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アルメニアです。これらの国々の共通点は、ロシアも含めて一人あたりのGDPが10000万ドル前後よりも低いということです。ロシアだけが、10,126.72ドルですが、それにしてもこれからは、これを下回ることはあっても伸びる見込みはありません。

結局貧乏国の集まりでは、いざ戦争になってすら、協力することすらままならないですし、したくてもできないというのが本音でしょう。中国の新たな枠組みもそういうことになるでしょう。有利な点としては、国連などの国際会議の決議で、貧乏国であっても、国連加盟国であれば投票する権利があり、一票の重みとしては大国とは変わらないというくらいなものです。

ロシアの人口は1億4千万人であり、中国の人口はその10倍の14億人です。ただ、人口が10倍なので、国単位としてのGDPでは中国はロシアの10倍です。ロシアは国単位では、GDPは韓国や東京都なみです。

ただ一人あたりのGDPでは、ロシアも中国も10000ドル(100万円)台なので、両国とも一人ひとりの国民を豊かにするノウハウなど持ち合わせていません。

中国が仮に、Quadに対抗できるような新たな枠組みを作ったにしても、CSTOくらいのものしか作れません。

しかし、中国は、先に述べたように、習近平政権がこの数年間、戦狼外交や覇権主義戦略を進めた結果、このようなことを招いてしまったということに彼らは気が付いていなようです。

であれば、中国が何らかの新しい枠組みをつくれば、Quadに対抗できるると思い込む可能性はあります。その挙げ句の果に、プーチンのように、勘違いして、NATOに対抗するためにウクライナに侵攻すれば、短期間で制圧できると思い込んだように、中国も勘違いし、台湾などを含むインド太平洋地域の国々に侵攻しないという保証はありません。

そうなっても、結局習近平は、プーチンが明らかにウクライナで失敗したように、インド太平洋で簡単に軍事作戦を遂行しても具体的な成果をあげることはできないでしょう。結局失敗するでしょう。

それに、ソ連は中東欧諸国まで衛星国や属国にしていたことはありますが、中国はインド太平洋地域全域を一度たりともそのようにしたことはありません。台湾に関しても、清朝が一時的に統治したことがあるのみです。

ムスリム系出身の鄭和がインド太平洋地域に大航海をしたという記録がありますが、それは古代の話ですし、鄭和艦隊は後のヨーロッパ人による大航海時代とは対照的に、基本的には平和的な修好と通商を目的とし、到着した土地で軍事行動を起こすことはあまりありませんでした。

中国がインド太平洋地域に侵攻する大義は、ほとんどありません。現代の中国が、これらの地域に武力攻撃を行えば、ロシアのウクライナ侵攻と同じく、国際法違反になるのは間違いありません。しかし、南シナ海を実行支配したことを国際司法裁判所で不当なものと判決されても、中国はそれを無視しました。

習近平が誇大妄想に陥りこの地域で軍事作戦を遂行すれば、取り返しはつきません。結局その中国のその試みは失敗する可能性が高いですが、甚大な被害を受ける国がでてくる可能性は否定できません。それが日本ではないという確実な保証もありません。

このようなことは絶対避けるべきです。そのためにも、Quadは、これからも習近平にプーチンのような勘違いをさせないように、緊密に連携し、中国に対応していくべきですし、ロシアのウクライナ侵攻に対しては、習近平に勘違いさせないためにも、厳しい対処を継続すべきです。


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