ロシア軍の攻撃によって破壊された穀物の貯蔵施設=25日、ウクライナ・ドンバス地方 |
ウクライナのゼレンスキー大統領は29日までに、侵攻したロシア軍によるウクライナの主要港湾の封鎖で本来なら黒海やアゾフ海を通じて輸出されるはずの穀物の約半分の量が貯蔵庫内に滞留している状態にあることを明らかにした。
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インドネシアの外交問題のシンクタンクがオンライン形式で開いた会合で述べた。輸出出来ず滞っている穀物は2200万トン相当と指摘。世界規模での食糧の安全保障の確保にとって大惨事となりかねない要因になっているとも訴えた。
また、飢餓の被害者が今年は新たに5000万人増える可能性に言及した国連の分析に触れ、「低く見積もった数字」とし、実際はより多くなるであろうことを示唆。今年7月には多数の国で昨年の収穫分の在庫が尽きるだろうとし、「大惨事の現実的な到来が明白になるだろう」と予想した。
ゼレンスキー大統領はインドネシアが今年11月に同国バリ島で開く主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)への招待を受け入れる意向も表明。その上で同サミットには「友好国家」だけ集まるべきだとし、ロシアを除外するよう主催国に暗に促した。
【私の論評】ウクライナが穀物が輸出出来ないから世界も日本も大変だと思えば、プーチンの術策にはまるだけ(゚д゚)!
プーチン氏は独仏首脳に対し、穀物価格の高騰など世界的な食料危機を「西側諸国の誤った経済政策や対ロ制裁の結果だ」と批判しました。米欧による制裁が強化されるなか、食料供給への協力と引き換えに制裁解除を促したかたちです。
確かに、ロシアもウクライナも小麦の大輸出国(それぞれ国としては第1位と第5位)となっている。ただし、EU諸国をまとめると、EUが6100万トンで首位、続いてロシア(3700万トン)、アメリカ(2600万トン)、カナダ(2600万トン)、ウクライナ(1800万トン)と続きます。
1973年の食料危機が旧ソ連の穀物大量買い付けによって引き起こされたように、かつてロシアは世界最大の小麦輸入国だったのであり、輸出国となったのは、2000年代以降です。このため、黒海周辺の両国は、新興輸出国と言われます。
また、両国の小麦は、品質的には、米国等に劣り、仕向け先としては中東が主です。ただし、両国が、戦争による物流の混乱などにより小麦を輸出することが困難になると、世界全体の小麦供給量が減少し、高品質な小麦を含めて、価格水準は上昇します。
何人かの民間エコノミストが、テレビに出演して、小麦の用途は裾野が広く、パン、ラーメン、うどん、スパゲッティなどさまざまな食品の原料なので、家計が影響を受けると指摘していました。
しかし、これは本当なのでしょうか。今回と同様、2008年小麦の国際価格が2~3倍に上昇し、パンなどの価格も上がったとき、食料品全体の消費者物価指数は、2.6%上がっただけでした。2012年ころ穀物価格が騰貴したときも、食料品の消費者物価指数はほとんど変化していません。4月の消費者物価指数は、2.1%の上昇に過ぎません。
大きな理由は、小麦の輸入額は、日本全体の飲食料費支出の0.2%に過ぎないことです。我々が払う飲食料費の9割は、加工、流通、外食に帰属します。農産物への帰属はわずかで、特に小麦を含めた輸入農産物への支出は2%です。
さらに、先ほどの、原油と穀物(ガソリンとエタノール)のように、消費には代替性がある。牛肉の値段が上がると、豚肉の消費を増やそうとする。我々は、パンやラーメンなどの小麦製品だけを食べているのではない。パンの値段が上がれば、その代替品である米の消費が増える。2008年には、それまで減少していた米の消費が増加した。さらに、最近は米粉も普及しており、これによってパンなどもつくることができます。
財やサービスに代替性があり、消費者が、一定の所得を前提に、財やサービスの相対価格を考慮して、適正な財の組み合わせを決定することは、ミクロ経済学の初歩です。食料の消費や需給を検討する際に、「代替性」は重要なキーワードです。
なお、2008年米の消費が増えたのは、スーパーの棚にフリカケが並んだからだという(珍)説が、農水省の中でもっともらしく伝わり、かなりの職員が信じていたようです。実際にはパンなどの小麦製品の価格が上がったから、相対的に価格が低下した米の消費が増えたのです。
米の消費が増えたのでスーパーはフリカケの販売を増やしました。因果関係は逆です。この説が正しいなら、フリカケをたくさん売れば米の消費は簡単に増やせることになります。残念ながら、農水省の職員のほとんども、経済学を知らないで、農業政策を作っているようです。
これは、このブログでもよく取り上げているように、経済学を知らないで、財政政策を作る財務省職員と似たりよったりです。日本の省庁の職員に共通するのは、経済学を知らないといことかもしれません。
以下の図は、小麦輸出国の生産と輸出の関係を示しています。主要な輸出国において、輸出が生産に占める割合が大きいことに気づかれるでしょう。この割合は、ロシアで43%、ウクライナでは73%にも達します。アメリカ、カナダ、オーストラリアなど日本が輸入している国も同様です。
これらの輸出国が、小麦を輸出できなかったとすると、国内で小麦があふれることになります。小麦価格は大幅に低下すると同時に、サイロに収納できない小麦が農家の庭先に野積みされることになります。
かつて手痛いダメージを受けたアメリカが輸出制限をすることはないでしょう。1979年アフガンに侵攻したソ連を制裁するため、アメリカはソ連への穀物輸出を禁止しました。しかし、ソ連はアルゼンチンなど他の国から穀物を調達し、アメリカ農業はソ連市場を失いました。あわてたアメリカは、翌年禁輸を解除したのですが、深刻な農業不況に陥り、農家の倒産・離農が相次ぎました。
最近の米中貿易戦争で、中国がアメリカ産大豆の関税を大幅に引き上げたときにも、輸出できなくなったアメリカの中西部の農家は多額の政府援助に頼らざるを得なくなりました。
輸出できなくなったり、輸出制限を行ったりすると、アメリカが経験したと同様のことがロシアやウクライナに起きることになります。
しかし、これまでロシアは国際的な穀物価格が高騰した際、輸出制限を行ってきました。自由に輸出が行われると、価格の低い自国から国際市場に穀物が供給され、国内の供給が減少し、価格も国際価格と同水準になるまで上昇します。
このとき、所得の高いアメリカやカナダなどと異なり、ロシアのように、所得が低く(年収100万円前後)、そのかなりを食料品に割いている国では、穀物価格上昇に国民が耐えられなくなるからです。輸出を制限すると、国内価格を国際価格よりも低く抑えることができます。
ロシア政府は3月14日、ベラルーシやカザフスタンなどの近隣諸国への小麦など穀物の輸出を一時的に制限することを決めました。大幅なルーブル安で生活物資の価格が高騰しています。自給できる小麦などの穀物価格は低く抑え、国民生活の負担をできる限り少なくしようとしたのでしょう。
ロシアにとってベラルーシは、ウクライナ侵攻の直前まで共同軍事演習を行い、またウクライナへの派兵を要請したという報道がなされるくらいの同盟国です。そのベラルーシへの輸出を制限しなければならないことは、ロシアの国民生活が相当厳しい状況に追い込まれていることを示唆しています。
一方ウクライナは、たしかにせっかく戦争下で小麦を作っても輸出できないですから、小麦農家は大変でしょうが、できれば政府が買い取って備蓄用に保存するような措置が望ましいと思います。ただ、戦争によって農家だけではなく、他の職業の人々も、酷い目にあっているのですから、農家だけに手厚い保護をすることは難しいでしょう。
こうなった責任はすべてロシアにあるわけですから、農家も含めて、戦後にはロシアに賠償させるなどのことをすべきでしょう。ただ、ロシアに請求してもそのようなことはしないでしょうから、世界中の国々が制裁で凍結したロシアの資産をそれに用いるべきと思います。
フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相も当然のことながら、自国のインテリジェンスを通じてこの位のことは理解しているでしょう。
先にも掲載したように、プーチン氏は、米欧による制裁が強化されるなか、食料供給への協力と引き換えにフランス、ドイツに対して制裁解除を促したかたちですが、プーチン氏もこのような状況については、当然ドイツも、フランスも知っていると認識しているでしょうから、試しに言ってみたくらいのことなのだと思います。
そもそも2018年時点で、世界では9人に1人、約8億もの人々が飢餓に苦しんでいます。もともとこのような状態なのに、ウクライナの小麦の輸出が滞ったことだけにより、急激に飢餓被害者が増えるとも考えられません。
バチェレ国連人権高等弁務官 |
これには、同自治区への訪問を「調査ではない」とする中国側の意向に同調するようなバチェレ氏の発言が報じられ、実効性への疑念が強まったためです。中国側は、強権的な少数民族政策を正当化すべくプロパガンダを積極化させるとみられます。
日本では、経済も世界情勢もよくわかっていないような民間エコノミストがテレビに出演して、語ったり、国連関係機関などか何かを公表すると、無条件で信じる傾向が強いです。特に、ワイドショー民といういわれる、高齢でテレビなどが主な情報源の人たちには、そういう人か多いようです。
やはり、自ら統計などを見たりすれば、そのようなことは防げると思います。インターネットが発達した現在、そのようなことはさほど難しいことではありません。
それをしないで、ウクライナが穀物2200万トン輸出出来ないから世界が大変だー、日本も大変だーなどと信じ込んでしまえば、それこそロシアのプロパガンダに加担することになります。
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