2022年5月22日日曜日

高いロシア依存で苦境に 綱渡り状態の台湾の電力問題―【私の論評】日本はエネルギー分野で独走し、エネルギーで世界を翻弄する国々から世界を開放すべき(゚д゚)!

高いロシア依存で苦境に 綱渡り状態の台湾の電力問題


 ロシアが4月末、ポーランドとブルガリアへの天然ガス供給停止を通告したことは、台湾を震撼させた。台湾が輸入する天然ガスの10%はロシア産。万一、供給が止まれば、慢性的な電力の需給逼迫に悩む台湾は、一気に危機を迎えることになる。

 台湾経済部(経済省)エネルギー局によると、2021年の電源構成は83.4%が火力発電。うち石炭が44.3%、天然ガスが37.2%だ。天然ガスのうち9.7%を占めるロシアは、台湾にとって豪州、カタールに次ぐ第3位の供給国。石炭も14.6%がロシア産で、豪州、インドネシアに次ぐ第3位。エネルギーの対露依存度は高い。

 台湾政府は2月のウクライナ侵攻後、直ちにロシアへの制裁を発表。4月には経済部が、対露輸出を禁止する電子製品などハイテク57品目のリストを公表した。ポーランドなどと同様、ロシアから「非友好国・地域」に指定されており、天然ガスなどの供給停止の「資格」は十分だ。

 元々、台湾は近年、電力逼迫に苦しんでいる。高い経済成長率や、半導体工場の増設、米中対立を背景とした台湾企業の域内回帰が、本来はめでたい話だが、電力状況をさらに厳しくしている。

 台湾では昨年5月と12月に計3回の大停電が発生。今年3月にも、発電所の事故をきっかけに全国規模の停電が起きた。停電の頻発は、送電網の脆弱さや管理の杜撰さのほか、蔡英文政権が、脱原発にこだわり原子力発電を縮小する一方、頼みとする再生可能エネルギーのシェアが伸び悩んでいることも原因とみられている。

 蔡政権は、25年に原発稼働ゼロ実現の目標を変えておらず、この年の目標電源構成のうち再エネの比率は20%。経済部エネルギー局は今年初め、25年の再エネのシェアが目標を下回る15.2%になるとの見通しを示したが、専門家からは「絵に描いた餅。多くて13%」の指摘もある。

 政府は、再エネの不足分を天然ガス火力で補う計画だが、台湾に2カ所ある液化天然ガス(LNG)の陸揚げ施設は、既に能力が限界。3カ所目は海藻類を繁殖させるための「藻礁」保護を理由とする反対運動で建設が遅れ、完成は早くて25年となる。

 しかも天然ガスは、価格急騰のほか、ロシアの供給中断リスクが加わった。経済部は、台湾のLNG調達は長期契約が主体で、短期的な価格変動の影響はなく、調達先の多角化を進めており、問題ないと説明しているが、企業などの不安は拭えていない。

 台湾の電力の安定供給は、原子力発電の活用が最も現実的で、経済界からは、既存の原発2カ所の稼働延長が必要との声が高まっている。さらに、完成間際で建設が止まっている第4原発(新北市)が稼働すれば、電力逼迫は一挙に解決する。しかし、国民の原発アレルギーは強く、昨年12月の住民投票で第4原発の工事再開は否決されており、実現は当面ありえない。電力供給は、天然ガス頼みの危ない綱渡りが続きそうだ。

【私の論評】日本はエネルギー分野で独走し、エネルギーで世界を翻弄する国々から世界を開放すべき(゚д゚)!

経済産業省の資料によると、2021年の日本の天然ガス供給は運搬船による輸入LNGであり、ロシア依存度の8.8%です。

同じく、日本の原油輸入量でロシア産が占める割合は3.6%にすぎません。日本への原油はサウジアラビアが約40%、UAE=アラブ首長国連邦が約35%と中東依存度が高く、もともとロシアでの権益確保は、エネルギーの中東依存度を下げることが目的でした。

この数字を見る限り、日本も台湾もエネルギーのロシア依存度は似たりよったりという事ができると思います。

しかし、ウクライナでの惨状を受けて、各国や企業が次々とロシアからの撤退を進める中、「3.6%」が本当に国益上「極めて重要」なのか。

「サハリン1」の事業主体を見ると、その背景も透けて見えます。撤退の方針を表明した米エクソンが30%、そして日本のサハリン石油ガス開発(SODECO)が30%を保有。さらに、このSODECOの内訳を詳しくみると、経済産業大臣(日本政府)が50%、国が筆頭株主のJAPEX(石油資源開発)が15%、伊藤忠14%、丸紅12%と、ほぼ国策会社です。

日本政府が関わるロシアでの資源開発はほかにもあります。

その一つが、2023年の稼働を目指す北極海の「アークティックLNG2プロジェクト」です。安倍元総理大臣が肝いりで進めたLNG開発事業です。日本勢では、三井物産や石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などが参画します。2019年、G20大阪サミットでのプーチン大統領と当時の安倍総理との首脳会談にあわせて契約が署名された国策プロジェクトといえます。

プーチン大統領肝いりの巨大なプロジェクト・ヤマルLNGプラント

ところが、「アークティック2」をめぐっては、権益の10%を保有するフランスのエネルギー大手トタルエナジーズが3月22日、権益は手放さないものの資金提供はしないと凍結を表明するなど、今後の資金調達が危ぶまれています。

それでも、4月1日、萩生田大臣は「アークティック2」からも撤退しない方針を明言しました

紛争において、エネルギーがいかに大きな武器となりうるのか、ロシアのウクライナ侵攻は改めて世界に突き付けました。ロシア依存からの脱却を表明したヨーロッパだが、経済への一層の打撃など困難が予想されます。

それでも、EUのフォンデアライエン委員長は3月8日、「我々を露骨に脅す供給元に頼ることはできない。今行動が必要だ」と、結束を呼び掛けました。迅速な意思決定と行動は、危機を乗り越えようとする国際社会への強いメッセージとともに、ロシアへのプレッシャーにもなります。

国際社会の動きに押されるように、萩生田大臣は3月15日、「ロシアへのエネルギー依存度の低減をはかる」として、再生可能エネルギーも含めたエネルギー源や調達先の多様化を進める方針を示しました。そして、侵攻から1か月以上経過して、日本政府は初めて、「戦略物資やエネルギーの安定的な確保を検討する会合」を開き、対策を発表しました。しかし、ここでもロシアでの権益をどうするのか、具体的な方針は示していません。

日本のエネルギー業界のある重鎮は、「簡単に権益を手放す判断をすべきではない」と日本政府の対応を評価しながら、「ウクライナでの状況が悪化すれば、人道的な観点から撤退も考えざるを得ないだろう」と語っています。

資源のない日本にとって、エネルギーの権益確保と調達の多様化は最重要ともいえる課題であることは疑いないです。しかし、「戦争犯罪」も問われるロシアに、欧米各国らが結束して対応しようとしている中で、すべてのロシア権益を一様に、「極めて重要」として固執し続けるのでしょうか。

日本政府の対応はしたたかな戦略的「忍耐」なのか、それとも単に危機対応の遅れなのでしょうか。その「忍耐」は責任ある主要国の一員として容認されうるのでしょうか。国民、そして国際社会への説明はあまりに乏しいようです。それは、台湾も似たようなところがあると思います。


日本は、このブログでも以前から主張しているように、動かせる原発は安全を確保した上で、なるべく多く稼働させるべきでしょう。それで、浮いたエネルギーをEUや台湾などにも提供すば、EUや台湾に歓迎されるとともに、ロシアへの制裁の強化ともなります。

米国は、シェールオイル・ガスなどの増産を実施すべきでしょう。そうして、ロシアにかわってEUや台湾などにも輸出すべきです。そうすれば、国内のエネルギー価格の高騰を抑え、EU、台湾に歓迎されることになります。

そうして、台湾は新たな原発開発に踏み切るべきでしょう。結局日本も台湾も、これから原発に力をいれていくべきなのです。

これから、日台ともに暑い夏を迎えます。そうなると電力が不足しがちになります。そうして、日台ともに根本的な改善策、それも再生エネルギーなどの不安定なものなど除外して、エネルギーの安定供給を目指さなければならないです。

それを目指さなければ、いずれ国民の原発アレルギーよりも、エネルギー価格の高騰への不満のほうが確実に上回ることになります。エネルギー不足や高騰が顕著になれば、再生可能エネルギーに賛成、原発廃炉に賛成などとは言いにくくなるのは目に見えています。

このようなことは、自分の生活が直接エネルギー不足等にさらされていないから言えることです。命の危険や、経済的な脅威などに直接さらされる、さらされることを否定できなくなれば、ごく一部の例外的な人を除いて、安全が確保された原発の稼働を望むようになることでしょう。

やはり原子力発電の活用が最も現実的であり、これを当面実施しつつ、より安全な小形原発、さらに安全な核融合炉の開発を目指すべきです。

台湾では、日本よりも国民の原子力アレルギーが強く、これらについては、ほとんど手つかずです。

しかし、日本ではこの開発が進んでいます。とくに、超高温下で海水に含まれる重水素など1グラムで石油8トン分のエネルギーを生む「夢のエネルギー」といわれる核融合発電の開発は日本の独壇場ともいえる状況になりそうです。

日本は核融合炉で重要な部品・材料を開発する力があります。核融合炉というと核融合反応ばかりに注目が集まりますが、その周囲を固める技術がなければ核融合炉は実現しません。核融合産業が誕生すれば、その中心地にはきっと日本がいることでしょう。現在、世界中の核融合炉のスタートアップ企業は安さよりも性能を追い求めていますから、日本にとって追い風となるはずです。

日本がこれらの分野で独走すべきです。そうして、日本のエネルギー問題を解消し、そうして世界のエネルギー問題を解消し、ロシアのようにエネルギーを脅しに使ったり、エネルギー価格を自分の都合で調整したりする国々の軛から世界の国々を開放すべきです。

これはエネルギー不足に悩まされてきた日本だからこそできる貢献です。他の国ではそれはできないでしょう。戦後経済大国になり技術大国になりながらも、世界のいかなる紛争や戦争に直接介入してこなかった日本こそがすべき貢献です。

岸田文雄首相は19日、脱炭素社会の実現に向け、政府が今後10年間で20兆円を投じる方針を表明しました。新たな国債を発行し、脱炭素に取り組む企業への補助金などに充てることを検討します。民間企業の投資を引き出すために、長期にわたる前例のない規模の支援を行うとしています。

10年間で20兆円とは、1年間で2兆円とあまりにもショボいですが、この使い道は小形原発と核融合発電にむけられるべきと思います。そうして、財務省管理内閣の岸田政権以降の政権はこの分野に果敢に緒戦して、年間で10兆円くらいの投資をしていただきたいものです。

それも、政府が国債を発行し日銀がそれを引き受ける形で、資金を得ていただきたいです。その他の投資も行いつつ、こちらの国内投資も毎年必ず行うようになれば、日本はデフレから完璧に脱却できます。その上にエネルギー革命もできるのです。そうしてこれが実現すれば、環境派の人たちもこれに対して面と向かって批判はできないでしょう。

なぜなら、核融合発電は原子力発電に比べて極めて安全性が高いからです。原子力発電は核分裂反応で発生する熱を利用して発電を行うものです。原子炉の中では核分裂反応が連鎖的に起こるため、制御棒などを用いて、暴走しないよう制御しながら運転をしていく必要があります。原子炉内には数年分の燃料が入っており、それを制御しながら少しずつ発電を行っていきます。

一方核融合発電の場合は、炉の中にある燃料は核融合反応を持続させるのに必要な量だけで、供給を止めればすぐに反応は止まってしまいます。また、たとえ大量の燃料が炉内に導入されたとしても、燃料自体がプラズマを急激に冷却することで自発的に反応が止まるため、核分裂のような連鎖的な反応は起こりません。核融合発電は、原理的に暴走が起こらない仕組みになっているのです。

ロシアは問題外として、米中が世界でエネルギー問題を根本から解決する役割を果たそうとすれば、反発する国も多いでしょう。これは、エネルギーで苦しめられてきて、その痛みがわかる日本が担うべき役割です。

21世紀は、エネルギーを持つ国とそうではない国との差別は撤廃されなければならないのです。そうならない限り、世界はいつまでもロシアのような野蛮な国々によって、翻弄され続けることになります。

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