2022年4月19日火曜日

ロシアへのさらなる経済制裁は課されるのか―【私の論評】日米ともに最終的にロシア制裁はエネルギー分野に踏み込むしかない(゚д゚)!

ロシアへのさらなる経済制裁は課されるのか

岡崎研究所

 4月2日付の英Economist誌が、西側の先例のない厳しい経済制裁を課せられたロシア経済の現状を紹介し、期待されたほどの大きな打撃が生じている訳ではないと述べている。

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は先例のない厳しい経済制裁を招くとのバイデンの警告は、プーチンの蛮行を抑止することにはならなかった。ロシアのウクライナへの侵攻に対して、西側は文字通り先例のない経済制裁を発動したが、試されているのはプーチンに蛮行を断念せしめるために経済の力を使う西側の能力である。


 一連の制裁のなかでも最も破壊的な威力を持つと見られているのが、中央銀行の資産の凍結という先例のない措置である。ロシアにとってロシア中銀が保有する外貨準備は制裁に耐えるための有効な手段になるはずであったが、ロシア財務相によれば、6400億ドルの準備資産のうち約半分が西側諸国による資産凍結のために使えない状態にある由である――中国にある人民元建ての資産を中国がどうするか注目されるが、期待は持てない。

 恐らく、プーチン政権が恐れるのはルーブルの崩壊(それがハイパーインフレを惹起すれば市民生活を直撃する)のようである。ルーブルは侵攻前には1ドルが75ルーブル程度であったが、3月7日には、150ルーブルに下落したことがある。

 ルーブルを買い支えようにも中銀の資産が凍結され思うに任せない。そこで、金利を引き上げた。輸出による外貨収入の80%をルーブルに転換するよう命じた。外国の投資家による株式の売却を禁じた。「非友好国」にガスの代金をルーブルで支払うよう要求しているのもルーブルの買い支え努力の一環であろう。

 このような状況を見て、西側の制裁は利いているとする論評も目にする。今後、じわじわと影響が広がるのかも知れないが、目下の実体経済の状況といえば、エコノミスト誌の記事にあるように大打撃が生じている様子はないということであろう。ロシアの努力の効果であろうか、ルーブルも1ドル85ルーブル程度に戻し、侵攻前の水準に近くなっている。

やはり、エネルギー分野に踏み込むしかない

 そうであれば、ロシア経済に更なる圧力を加える方策如何ということになる。それは、この記事が示唆するように、エネルギー分野に踏み込むかどうかということにならざるを得まい――これまでのところ、欧州のエネルギーのロシア依存の故に制裁は非エネルギーの分野に限定されている。放置すれば、ロシアは外貨準備を再び蓄積し、輸入能力を拡大することが出来る。

 欧州がロシアの原油の輸入を止めても、他にこれを買う国が常にあろうが(もっとも買い叩かれるのでロシアの収入減となり痛手にはなる)、ガスは様子が異なる。ロシアのガスの輸出にはインフラ(パイプライン)を必要とすることから、主たる買い手は欧州に限定されている。従って、欧州がガスの輸入を止めることが出来れば、ロシア経済を痛撃出来る。

 西側の制裁の信頼性がかかっていると論ずる向きもあるが、そうはなりそうにない。ドイツのショルツ首相は、欧州は公共サービスや市民生活に必要なエネルギーをロシアからの供給以外の方法で確保は出来ないと述べて、その可能性を否定している。目下のところは、ガス供給源の多様化と再生エネルギーへの転換を含むロシア依存抑制のための欧州連合(EU)全体の努力に待つしかないらしい。

【私の論評】日米ともに最終的にロシア制裁はエネルギー分野に踏み込むしかない(゚д゚)!

上の記事で、最終的にエネルギー分野に踏み込むしかないとしていますが、この見立ては正しいと思います。

実際、ロシアのプーチン大統領の経済問題担当首席顧問を以前務めたアンドレイ・イラリオノフ氏は17日までに、西側諸国がロシア産原油の全面的な禁輸に踏み込んだ場合、ウクライナでの戦闘を即座に終結させ得るとの見解を明らかにしました。


同氏は英BBC放送の最近の取材に、「本当の意味での禁輸」を仕掛ければ、ウクライナでの軍事作戦は恐らく、「1、2カ月」で止まるだろうとも述べていました。

イラリオノフ氏はCNNのの取材に、全面的な禁輸発動について「クレムリンの政策決定過程に影響力をもたらす、非軍事面で極めて重要な対応策」と強調しました。

その理由は非常に単純とし、「現段階でロシアが原油や天然ガスの輸出で稼ぐ収益はロシアの全ての歳入の約4割を占めるとみなされる」と指摘。「連邦予算の編成では多分、全ての歳入源の6割近くまで達する」と指摘しました。

同氏は、これら歳入がロシアのエネルギー輸出に対する全面的な禁輸で相当な規模で減らされたとしても、「中国に加えほかの小規模な輸入国が一部おり、我々は全面的な禁輸ではあり得ないと考えるだろう」とも説明しました。それでも、ロシア産のエネルギー源の大手の輸入国の大半に影響を与えることにはなるとしました。

また、ロシアが経済制裁を受けて金融市場を利用出来ず、ロシア中央銀行の外貨準備高が凍結されている現状を踏まえ、プーチン政権は財政支出を賄う財源を持っていないとも説明。「全ての支出額が40~50%削られ、この圧縮幅は1990年代にも見られなかった水準になる」としました。

同氏はこれらの考察を踏まえ、プーチン政権は軍事作戦を止め、ウクライナとの間で何らかの停戦の枠組みや交渉を模索する局面に追い込まれるだろうとも予測しました。

ただ、エネルギー分野における制裁は即効性が期待できるということであり、他の制裁もじわじわと効いていくのは間違いないです。

たとえばルーブル利上げで、一時的には、安定したようにはみえますが、後々は大変なことになります。利上げ早くやり過ぎれば、ロシア経済潰す可能性が大きいです。現状で利上げをすれば、インフレが続く中で、企業の資金繰りが苦しくなり、企業倒産が増え、所得も減り、酷いスタグフレーションになるのは目に見えています。

これは、経済制裁への対応という以前に政策ミスであり、ロシアは経済的に自爆したと行っても良いですしょう。それは、過去に通貨安に悩んだ国の対応ではもはっきりしています。利上げなどせすに、市場に任せた場合は、いっとき苦しくてもなんとかなっています。しかし、利上げなどをした場合は、それが経済に悪影響を与え、立ち直るまでにかなりの時間を要するようになります。ルーブルは市場に任せた方が無難でした。

これは、ロシア側の完全な失敗であり、ロシア経済の低迷はこれから長く続くでしょう。プーチンは経済もわからないし、現状ではプーチンに経済に関してまともなアドバイスをする人もいなくなったようです。日本でも、円安だから利上げしろなどという愚か者もいますが、プーチンもこれと同次元の愚か者です。

これは、経済指標の一つだけ見て、他にどのような波及効果があるのか、見れない典型例です。日本でも「円安」という一事象だけ見て、他の事象を見ずに騒ぐ人もいますが、これはプーチン並みのポンコツとしか言いようがありません。

そうして、エネルギー分野における制裁は、日米の首脳が決心さえすれば、意外と簡単にできます。

昨年英グラスゴーで対面した岸田首相(左)とバイデン大統領

それは、以前もこのブログに掲載しましたが、日本の場合は安全な原発の速やかな稼働です。これを稼働させれば、日本では原野や天然ガスが余剰となります。その余剰分をEUに囘すのです。

そうして、米国ではバイデンが禁止したシェール・オイルの生産を再び開始して、米国内の需要を賄うとともに、EUにも輸出するのです。

さらに、ロシアへの制裁は今後長く続きそうなので、それに備えて、小形原発の開発を推進するのです。これは、小形であるがゆえに、工場でほとんどを製造して、現場には据付だけですむという優れもので、工期は従来の原発と比較するとかなり短縮できます。

さらに、核燃料を冷却する電力も少なくてすみ、さらに事故などで原発を冷却する必要性が生じたとしても、放置しておけば、自然冷却します。従来の原発から比較するとかなり安全です。

日米のトップは間近に選挙も控えています。日本では夏の参院選、米国は秋の中間選挙です。

両首脳とも、このような動きをみせてロシアを制裁すれば、環境派や原発反対派から、最初は反対の声もあるかもしれません。

しかし、良く考えてみれば、環境派からみれば、戦争ほどCO2や他の汚染物を排出して、環境を汚染するようなことは他にはないと考えられます。

ロシアによるウクライナ侵攻により、両国のみならず欧米諸国を中心に軍備を増強する動きが加速しています。これにより大量の化石燃料が燃やされて温室効果ガスの放出量が増えるのみならず、喫緊の課題であったはずの気候変動から目がそれてしまう懸念が指摘されているところです。

実際、航空機や戦車などの燃料が燃やされ、銃や機関銃から弾が大量に発射されれば、CO2を含む多くの汚染物質が排出されるのは間違いないです。大型の爆弾やミサイルが爆発すれば、これも凄まじい勢いで、汚染物質を撒き散らすことになるでしょう。

ウクライナ東部で発生した弾薬庫の大爆発

ここで、バイデンがエビデンスをもって、ウクラな戦争が継続されるよりも、米国が一時的でもシェール・オイル・ガスを製造して国内需要を満たすほか、EUにも輸出することで、戦争が継続されるよりは、自然環境にとって良いことを示し、実際にそのようにすれば、これはロシアに対してより厳しい制裁になり、戦争を早く終わらせることにつながります。

日本では、「原発停止=安全」という神話がまかり通っているようですが、燃料棒がそこにある限りは、リスクがあることには変わりありません。であれば、安全と確認された原発は稼働させるべきです。

岸田総理は、このままだと、ブラックアウトが起こるかもしれないこと、さらにはウクライナ問題でエネルギー危機はしばらくは続くことなどのエビデンスを示し国民を納得させるべきです。

GDP世界第一位の米国と第三位の日本が、自国内エネルギーの自給率を高めて余剰分をEUに囘すようになれば、国内のエネルギー需要は満たせるし、EUも助かるし、選挙戦も有利に戦えるかもしれません。

選挙のことは脇においておいても、ロシアに対しては有効な制裁をして、一日も早く戦争を終わらせるべきです。

両首脳、いつまでもエネルギー政策を転換しないというのなら、ウクライナ危機は放置し、国内のエネルギー需要を逼迫させ、ロシアを利して、日米を危うくすることになります。

一日も早く、両首脳ともエネルギー分野に踏み入ってロシアを本格的に制裁すべきです。

そうしなければ、両首脳とも、国内のエネルギー問題は放置し、ロシア制裁も効果なしということで、国民の反発は必至です。


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