2022年4月16日土曜日

日銀保有の国債は借金ではない 財務省の見解が変わらないなら国会の議論に大いに期待―【私の論評】高校の教科書にも出てこない「政府の借金」という言葉を国会で使わなければならない、日本の現状(゚д゚)!

日本の解き方


 11日の参院決算委員会で、西田昌司議員が、政府の借金は日銀が保有する国債を除いて考えるべきだとの持論に、鈴木俊一財務相が、「その通りだなという気がする」と答えたと報じられた。

 会計学やファイナンス論からいえば、政府の財政状況をみるには、連結された政府のバランスシート(貸借対照表)において、資産を考慮したネット債務額で判断するしかない。であれば、政府のバランスシートの右側に過ぎない借金残高だけを見るのはまったくナンセンスだ。

 この話は、本コラムの読者なら、筆者が初めて政府の連結バランスシートを作成した1995年以来、一貫して主張してきたことをご存じだろう。経済学でも、「統合政府」といい、古くから知られた考え方だ。

 この国際標準の考え方から、日本政府の財政状況をみておこう。分かりやすくするために、大ざっぱな概数で説明する。

 連結政府のバランスシートでは、資産1500兆円(うち日銀保有国債500兆円)、負債2000兆円(うち日銀マネタリーベース分が500兆円)だ。ただし、負債のうち日銀マネタリーベースは形式負債なので考慮する必要はなく、ネット債務額はほぼゼロとなり、財政状況が悪いとはいえない。


 政府(財務省)は「借金1000兆円」というが、それは連結バランスシートの一部でしかなく、しかも資産を考慮しないグロスなので、会計的には何を言っているのか分からないくらいだ。

 ここで、借金1000兆円ではなく、日銀保有国債を除いて考えれば、500兆円になるので、今の1000兆円というよりましだ。この方法は、借金をきちんと理解する第一歩としては評価できる。

 ちなみに、2017年3月、当時の安倍晋三政権で経済財政諮問会議に招待されたノーベル経済学賞学者のジョセフ・E・スティグリッツ教授も同様な話をしているが、ほとんど報道されなかった。

 ちなみに、本コラムでは、今は政府の基礎的財政収支(PB)で財政をみることも批判している。グロス債務対GDP比の変化は、「PB赤字対GDP比」と、「『前期のグロス債務対GDP比』に『金利から成長率を引いたもの』をかけたもの」との和になる。この意味で、PBは、グロス債務の動きを記述するための道具だ。

 ネット債務対GDP比はどう決まるか。結論を簡単に言えば、前述の式から、中央銀行によるマネー増加対GDP比を引けばいいことになる。これは、国債残高から日銀保有国債を除くことに対応している。

 財政といえば、昨年公表された矢野康治財務事務次官による月刊誌の論考は、会計への無知を露呈したものだった。

 本来なら財務省自身が、矢野論文を撤回し、会計的に正しく見なければいけない。せめて、財政制度審議会の専門家が議論すべきだが、今のメンバーでは難しいだろう。であれば、国会での議論を大いに期待したいものだ。これまで、財務省の意見をうのみにしてきたマスコミも焦るだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】高校の教科書にも出てこない「政府の借金」という、得体の知れない言葉を国会で使わなければならない日本の現状(゚д゚)!

高橋洋一氏の上の記事にもある通り、現状ではネット債務額はほぼゼロであり、財政状況が悪いとはいえません。ただ、財務省の喧伝で、緊縮脳なっている人は、そうは行っても政府がさらに借金をすれば、財政破綻するだろうと考えているかもしれません。

しかし、現状では政府がいくら借金したとしても財政破綻することはありません。そもそも政府が国債を発行しても、その国債を銀行が買わなくなるのではないかと心配する人もいるかもしれませんが、それはありません。

日本銀行は、普段から通常業務として、市場に出回っている国債を売り買いしています。もしも、国債を購入する銀行が減ってきて、国債の価格が不安定になってくれば、日本銀行は安定化を目指して市場で売られている国債を買い増すことになります。

そうすれば、あるいは「そうする」と公言するだけでも、国債の価格が安定化し、国債を購入しない銀行も買い取るようになります。すなわち政府におカネを貸す人がいなくなっていく、という事態を回避することができます。

万一、とてつもない天変地異や戦争などで国民が困窮し、税金が1円たりとも納入されなかったとしても、そうして仮にそのとき政府が発行する国債を購入する民間銀行が一切なかったとしても、「最後の貸し手」である日本銀行が国債を購入して政府にお金を貸します。この「最後の貸し手」という機能は法律でしっかりと定められていますし、先進諸国ならどこの国の中央銀行にもある当たり前の機能です。

たとえば、記憶に新しいところでは、バブル崩壊後、コスモ信用組合や北海道拓殖銀行、山一證券などいろんな金融機関が相次いで破綻したときに、日本銀行は、「日銀特融」という制度で無担保・無制限の融資を行って預金者たちの預金を全額守ったりしています。そうしなければ、日本経済が大パニックになるからです。それを踏まえれば、もしも政府が破綻の危機にさらされることがあるとしたなら、そのときに日銀特融を発動しないわけがありません。


しかも、日本銀行は日本政府の子会社です。これは民間企業でも同じですが、親会社と子会社の間のおカネの貸し借りは、連結決算で「相殺」されます。つまり借金が存在しないことになるのです。驚かれるかもしれませんが、これは紛れもない事実です。一応、政府は日銀が保有する国債について利子を払い続けていますが、日銀の決算が終わると、「国庫納付金」として日銀から政府に返還されています。

つまり国債の利子が、政府→日銀→政府と行って帰ってくるのです。要するに、実質的にいうと、政府が日銀からおカネを借りても利子がつかないのです。

ちなみに、アベノミクスにおいては、日銀は年間80兆円もの国債を買い続けました。「預金取扱機関」が保有する国債が、「日本銀行」に移転されていったのです。

そうして政府の負債は事実上、減少し続けたことになります。なぜなら、預金取扱機関が保有する国債というのは、政府が過去に借りたおカネの借用証書ですが、それを政府の子会社である日本銀行が買い取るということは、実質的に「借金は棒引きされた」ことになるからです。

たとえばあなたが、隣のおじさんに100万円借りていたら借金ですが、その借用証書をあなたの(大金持ちで、かつ、絶対に別れることがないと決まっている)配偶者が買い取ってくれたら、その借金は実際上、事実上、帳消しになります。それと同じように、日銀が国債を買い取れば、政府の借金は事実上、「帳消し」になります。

もっとも単純な政府の資金調達の方法に「日銀直接引き受け」とか「ヘリコプターマネー」とか呼ばれているものがあります。これは、日銀が政府に資金を直接融資するという方法です。

日本銀行は、「銀行の銀行」であり、各銀行は日本銀行のなかに口座を持っています。その口座に入っている預金を「日銀当座預金」といいますが、これはちょうど、私たちが普通の銀行に「口座」を持っていて、そのなかに「預金」があるのと同じです。

銀行は、この日銀当座預金を引き出して現金に換えたり、銀行同士の支払いなどに使ったりしているわけです。そして政府もまた、日銀に口座を持っています。

日本銀行の役割

「ヘリコプターマネー」の場合、政府が借用証書を書いて日銀に渡し、日銀はそれと引き換えに、政府の日銀当座預金にその金額を書き込みます。一応、「日銀が政府におカネを貸している」という体裁にはなっていますが、前にお話ししたように日銀は政府の子会社ですから、事実上の借金ではありません(正式の会計手続きでは、「連結決算」で「相殺」されるということになります)。

つまり、借金が棒引きされて存在しないことになります。だから結局は、ただ単に政府が「貨幣をつくり出し、それを使う」ということにほかなりません。

ただ、この話を俄には信じられない人もいるかも知れないので、さらに説明を加えます。

日銀は政府の子会社だから親会社の子会社に対する借金は、借金ではない、という話でしたが、親会社と子会社の間であろうが、借金は借金じゃないか、と素朴に感じる方もおられるかもしれません。仮に日銀は政府とは別の組織だと考えたとしても、日銀による政府に対する貸し出しは、私たち一般の国民が銀行や消費者金融からおカネを借りる、いわゆる「借金」とは全く異なります。 

第一に、日銀は政府に対して「貸したカネを耳をそろえて返せ!」という圧力はかけません。日銀はいくらでもおカネをつくり出せる存在ですから、貸したカネを返してほしい、という動機がそもそもありません。

日銀以外の存在にとっては、おカネは大変に貴重な代物ですが、日銀にとっておカネは別に貴重でも何でもありません。なんといっても、おカネは「日本銀行券」であって、日銀が自らいくらでもつくり出すことができるのです。

もちろん、借金の返済期日が来れば、政府は借りたおカネを返さなければなりません。でも、そのおカネを、政府はまた日銀から借りることができるのです。一般にこれは「借り換え」といわれます。つまり10万円を1年間借りていたとしても、1年後にまた10万円を同じ人から借りる、というのを延々と繰り返すことができるわけです。そうなれば実際、その借りたおカネを返す必要が延々となくなります。それと同じことが、政府は日銀に対してできるわけです。 第二に、普通、借金すると利子を払わないといけませんが、さきほども指摘したように、政府が日銀からおカネを借りた場合、利子を払う必要がありません。これが、法律で定められています。 だから、あっさりいうと、日銀から政府がおカネを借りた場合、政府はその利子を払わなくてもいいし、元本そのものも延々と返さなくてもいいのです。

返さなくてもいいし利子もない借金など、もう一般社会における借金ではありません。はっきりいって、「もらった」のと全く同じ。 なぜ、そんなふうに「日銀から政府への貸し出し」は、私たちの借金と違ってものすごく優遇されているのかというと、それはひとえに日銀が政府の子会社だからです。

したがって、日銀が政府の一部だと考えても、そう考えずに独立の存在だと考えても、結局は、日銀から政府が借りたおカネは、いわゆる普通の「借金」としては考えなくても良いのです。ということになるんです。 たとえば、政府と日銀はものすごく仲の良い親子がいて、子どもが親からおカネを借りて、一応親は「貸した」とはいってるけど、利子も取らないし、返せともいわない、というのと同じような関係といえます。

それも親密な親子関係は、いつまで続くとも限りませんが、日銀と政府の関係は法律で規定されています。

以上は、おカネについてある程度知っている銀行員や税理士、財務官僚なら、「当たり前の常識」として知っている事実です。高校の「政治経済」にも当たり前に解説されていることです。ただ、もともと「借金」などではないので、高校の教科書では「借金」という言葉は使わないので、多くの人が別の話として理解していないのかもしれません。

そうして、ただ一つまだ言っていないことがあります。上の話では、日銀がいくらお金を刷ってて、政府の発行する国債を買い取っても借金にはならないというのは確かですが、それならどこの国でも国債やお金を擦りまくれば、国を豊かにできるではないかという話になってしまいますが、実際はそうではありません。

限界はあります。そうです、国全体の生産能力以上に、お金を刷って市場に流通させれば、何がおこるかといえばインフレです。需給のバランスが保たれるか、若干インフレ気味程度までならいくら刷っても大丈夫なのですが、供給より需要がはるかに上回るまで、お金や国債を刷ってしまい、お金を市場に供給すれば、ハイパーインフレになってしまいます。

2018年ハイパーインフレに見舞われたベネゼラではトマトを1キロが500万ボリバルとなった

だから、上の話にも自ずと制限があるということです。上の話があてはまるのは、無論超インフレにならない限度内の話です。いわゆるMTT理論では、これを無視しており、MTT理論は完璧に間違いです。

ただ、現在の日本は未だデフレから完璧に脱却しておらず、物価目標2%にも達しておらず、やはり上の話は当てはまります。それに誤解のないように言っておきますが、たとえハイパーインレになったとしても、いくら政府が国債を発行してそれを日銀が買い取ったとしても、それは政府の借金ではありません。ハイパーインフレと借金はまた別の話です。

そもそも、社会一般生活における言葉における借金でもないものを、わざわざ「借金」と呼ぶから、誤解を生じてしまうのです。そもそも日銀や政府の金融行動を、個人の行動と同じように捉えてしまうのが間違いです。高校の「政治経済」の教科書にも掲載されていない「政府の借金」などという用語を使って「政府の借金ガー」と煽る人の話は信じるべきではありません。

多くのまともな国では、ハイパーインフレにはしたくないため、国債を刷るにしても、お金を刷るにしても自ずと、限度が決まってくるわけです。

実際米国でも、8%を超えるインフレになったから利上げを実施したのです。しかし、現状の日本は需要不足から、物価目標2%にも達していませんし、原油や原材料価格が上がっているにもかかわらず、それに対する対策を現状では行っていませんし、ガソリンのトリガー条項の撤廃や、減税などの措置をとっていませんので、物価目標2%を超えたとしても、実体経済はインフレではない可能性があります。

現状では、国債を大量に発行したとしても、まったくインフレになる可能性はありません。以前高橋洋一氏が100兆円くらい刷っても、全く大丈夫と語っていたことをこのブログでも掲載したことがあります。

西田昌司議員が、「政府の借金」という言葉を用いたのは、あまりにこの言葉が使われてしまっているので、その言葉を使わなければ説明できないから使ったのでしょうが、彼自身は「政府の借金」なる言葉は、不適切と思っていることでしょう。

鈴木俊一財務相が、「その通りだなという気がする」と答えたのは、そもそも「政府の借金」なる言葉は適切ではないで、「その通り」とは言い切れないからでしょう。無論、鈴木氏がそう考えて発言したかどうかは、定かではありませんが、国会の答弁の雛形は財務省が作成するので、さすが財務省も「政府の借金」という言葉を国会で認めるわけにもいかず、「その通りだという気がする」という雛形を作成したのかもしれません。

そもそも高校の教科書にも出てこない「政府の借金」という言葉を国会で使わなければならない程現状の日本は経済政策に関しては、機能不全に至っているとしか言いようがないです。

本来経済対策で一番重要なのは「雇用」です。このブログでも何度か述べているように、経済指標で一番重要なのは雇用です。これが良ければ、他の指標が悪くても、経済政策は合格といえます。雇用がわるければ、その他の指標がのきなみ良くても、経済政策は落第です。

「政府の借金」という観点から、経済を論じるのはなく、まずは「雇用」という観点から経済政策を論じるべきなのです。

まるで、日本の経済対策は、経済対策としてしばしば「倹約令」を出していた、江戸幕府のようです。近代以降発展してきた、高校の「政治経済」の教科書にも掲載されている経済理論を無視するような考えや、発言、行動は厳に慎むべきです。これを無視すれば、何のために教科書を発行し、高校に先生を配置して、高校生に学ばせているのか、本末転倒になってしまいます。

国会での活発な論議を期待します。というより、それ以前に少なくとも政治家たるもの、高校の「政治経済」の教科書くらいは、読んでいただき、理解していただきたいです。その位の知識をすでに持っている政治家は別ですが、国会ではそれを前提として活発な論議をしていただきたいです。これを無視して「政府の借金」という言葉をつかえば、いたずらに混乱をきたすだけです。これを使うとすれば、西田議員のようにその誤りを正そうとする場合にのみ使うべきです。

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