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岡崎研究所
4月3日に行われたハンガリーの議会選挙では、現職のオルバン首相の党であるフィデスが圧勝し、結束してオルバンを打倒しようとした野党の企ては不発に終わった。フィデスの得票率は53%であったが、獲得議席数は135(総議席数は199)で3分の2を制した。
あたかもハンガリーの選挙が終わるのを待っていたかの如く、4月5日、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は、欧州連合(EU)資金に関する「法の支配」のコンディショナリティの仕組み(新型コロナウイルスによるパンデミックからの復興基金の設立に合わせて2020年12月に導入が合意されたもの)をハンガリーに対して近く発動することを表明した。
コンディショナリティの仕組みは「加盟国における法の支配の原則の違反がEU予算の健全な財政管理あるいはEUの財政上の利益の保護に十分直接的に影響を与えあるいは与える深刻なリスクがある」場合にEUが適切な措置を取ることを規定している。
欧州委員会が以上の要件が満たされる事態を認定した場合には理事会に適切と認める措置を提案し、理事会は特定多数決(加盟国数の55%、人口比で65%以上の賛成)で提案を採択出来る。適切な措置の対象は復興基金を含むEUの全ての資金であり、措置としては資金援助の支払い停止や削減などが列挙されている。
オルバンとの共生はできない
これまでオルバンに対抗する上で有効な手段を持たなかったEUにとって、コンディショナリティの仕組みは強力な武器に違いない。しかし、この仕組みを働かせるのは容易でないように思われる。
「法の支配」の原則の違反を理由に財政的な制裁を課すにはEUの予算と復興基金の資金が詐欺、腐敗、あるいは利益相反の故に適正に使われないことを具体的に証明せねばならない。それは骨の折れる作業であるに違いない。手続きに時間もかかる。
しかし、当面、手続きが継続中にハンガリーに復興基金からパンデミックからの復興支援のための資金が提供されることにはならない。それは痛手であろう。また、ウクライナ戦争へのハンガリーの対応は他のEU加盟国とは際立って違っており、仲間を失うリスクを冒している。殊に、ポーランドを失うことになれば、オルバンは孤立感を深めるであろう。
オルバンが容易に白旗を上げるとは予想されない。しかし、この機会を逃せば、EUがオルバンに規律を強いる機会は彼の在任期間の今後4年の間ないであろう。新型コロナウイルスと違って、オルバンと共生する訳には行かないように思われる。
【私の論評】EU「法の支配」の原則に違反したハンガリーへのEU予算配分を停止できる新ルールを発動する手続きに着手(゚д゚)!
ハンガリー オルバン首相 |
欧州連合(EU)は、両国が司法やメディアを政治支配し国民の権利を制限することで、欧州の法の支配に違反していると主張。順守しない場合には、両国への資金提供を停止する方針を示していました。両国は異議を申し立てていたが、司法裁がこれを退けた形です。
判決を受け、両国に対する数十億ユーロの資金提供停止に道が開かれました。EU内部の結束が揺らぎ、EUの国際的な立場にも影響が及ぶ可能性もあります。
EUのフォンデアライエン欧州委員長は判決について「EUが正しい軌道に乗っていることが確認された」と歓迎。欧州委員会が数日中に対応を決めると述べました。
ハンガリーのオルバン首相率いるフィデス・ハンガリー市民連盟は判決について、同国への「政治的報復」だと反発。ポーランドのモラウィエツキ首相は記者会見で、EUの「中央集権化」は危険だと批判しました。
同国の汚職・腐敗もすさまじいものがあります。オルバン首相の友人や家族が政府融資や公共事業を通じて財を成しています。オルバン氏の地元、フェルチュートの町には総人口の2倍を超す4000人収容の豪奢なサッカースタジアムが建設され、“お友達”の一人が巨万の富を手にしました。
各国の腐敗を監視する国際非政府組織、トランスペアレンシー・インターナショナルによると、汚職は「今や(同国の)システムの一部にすらなっている」といいます。
ちなみに、同組織の世界腐敗度ランキングでは、73位:(順位が低いほど腐敗が進んでいる)でした。ちなみに、18位:日本 73点、27位:米国 67点、32位:韓国 62点、66位:中国 45点(点数が高い高いほど腐敗が進んでいる)でした。
日本人の中には、日本を腐敗まみれとする人たちもいますが、世界水準でみればそんなことはありません。他国では、動く金の金額の桁が違います。
以下にハンガリーの腐敗度指数の推移のグラフを掲載します。年々低下傾向であることがわかります。
ハンガリーの2月の失業率は3.7%とEU全体(6.2%)を大きく下回り、経済状況は好調という実感を持つ有権者は多かったようです。保守層にはオルバン氏が生活に安定をもたらす「強いリーダー」に映ったようです。
右翼による反EUデモでEU旗に火を付ける参加者 ブタベスト |
一方で、EUとの関係は近年あつれきが生じていました。直近ではロシアやウクライナを巡る外交ですれ違いが起きていました。
オルバン氏はロシアがウクライナ国境に大規模な兵力を配置し、侵攻への警戒が高まっていた2月上旬、モスクワを訪れて自国への天然ガスの供給拡大の約束を取り付けました。EUが決めた経済制裁に対しても調整の過程で反対まではしませんでしたが、一貫して消極的な姿勢を見せてきました。
一方で、ウクライナへの支援には及び腰でした。EU内では伝統的に軍事介入に慎重なドイツまでウクライナに対する武器供給に踏み切ったのですが、オルバン氏は「戦争に巻き込まれないようにしたい」という理由で承認していません。
ウクライナ政府はハンガリーについて「EU内の親ロシア勢力」とみています。ゼレンスキー大統領は3月下旬のEUでのオンライン演説で、オルバン氏を名指しし、ロシアと手を切るよう迫りました。
ハンガリーのオルバン首相の報道官が8日、CNNの取材に答え、同国はロシアと戦うウクライナに対し武器を供与するつもりはないと明らかにしました。
オルバン首相の国外向けの報道官を務めるコバチ・ゾルタン氏は「ハンガリーの立ち位置は揺るがない。今回の戦争に武器や兵士の供給という手段で加わるつもりはない」と語った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先月の演説で、オルバン首相を批判。ハンガリーに対し「どちらの側につくのか国として決める」よう告げていました。
一方のオルバン首相は3日の総選挙での大勝を受け、ゼレンスキー氏を攻撃。陣営にとって「戦わなくてはならなかった多くの敵」の一人だったと明言しました。
オルバン首相の国外向けの報道官を務めるコバチ・ゾルタン氏は「ハンガリーの立ち位置は揺るがない。今回の戦争に武器や兵士の供給という手段で加わるつもりはない」と語った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先月の演説で、オルバン首相を批判。ハンガリーに対し「どちらの側につくのか国として決める」よう告げていました。
一方のオルバン首相は3日の総選挙での大勝を受け、ゼレンスキー氏を攻撃。陣営にとって「戦わなくてはならなかった多くの敵」の一人だったと明言しました。
今回の選挙で与党勝利に一役買ったのはオルバン氏が進めてきたメディア統制です。政府に批判的なメディアには公共広告を減らし、政権に近い人物が買収するという手口を繰り返してきました。20年には影響力の大きかったリベラル派の独立系ニュースサイト最大手の編集長が突然解任されました。
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」の21年の報道自由度ランキングでハンガリーは180カ国・地域のうち92位。オルバン氏が政権を握った10年の23位から急低下しました。
米著名投資家のジョージ・ソロス氏らが民主化人材育成のためブダペストに創設した「中央ヨーロッパ大学」も国外移転に追い込み、反政権の芽を摘みました。ネポティズム(縁故主義)がはびこり、政権に近い実業家らが不当に蓄財しているとの批判も多いです。
欧州連合(EU)欧州委員会は27日、「法の支配」の原則に違反した加盟国へのEU予算配分を停止できる新ルールを、ハンガリーに発動する手続きに着手しました。公共調達などをめぐる汚職や、不正対策の不十分さを問題視しました。昨年のルール導入後、発動は初めてです。
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