ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル |
ウクライナ側は前日に地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を巡洋艦モスクワに命中させて撃破したと主張しています。ロシア側はこれを認めていませんが、どちらにせよ艦は失われました。
ロシア海軍黒海艦隊旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦モスクワ撃沈。その衝撃は戦史に永久に刻まれることになるでしょう。ウクライナ海軍地対艦ミサイル部隊の大戦果であり、ロシア海軍の大失態となります。
巡洋艦「モスクワ」を喪失した意味
巡洋艦モスクワはロシア海軍黒海艦隊旗艦であり、黒海艦隊の中では最大最強の艦でした。ただし主兵装の超音速巡航ミサイル「P-1000ヴルカン」には対地攻撃能力は無く、ウクライナとの戦争でこの艦は広域防空艦として価値を発揮していました。
長距離艦対空ミサイル「S-300F」を搭載した巡洋艦モスクワはウクライナ南部の黒海沿岸の沖合いに進出し、防空網の一角を担っていました。長射程の対空ミサイルでウクライナ空軍機の活動を妨害していたのです。
これが消えました。ロシア海軍黒海艦隊には他に広域防空艦は居ません。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたのです。
また、これでもうロシア軍は揚陸艦隊を用いてオデーサに上陸作戦を行うことが困難になりました。ロシア艦隊は地対艦ミサイルを恐れて、容易には沿岸に近付けなくなった筈です。
そして首都モスクワの名前を関する軍艦の喪失はロシア全軍どころかロシア全国民の士気を下げ、ウクライナの士気を大きく向上させることになります。
地対艦ミサイル「ネプチューン」
ウクライナ語”Нептун”の発音は「ネプトゥーン」の方が近く、英語のNeptune(ネプチューン)と語源は同じでローマ神話の海神の名前です。
ネプチューンは亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能です。固体燃料ロケットブースターで加速した後にジェットエンジンを始動して巡航し、海面を這うような低い高度で飛んで行きます。
ネプチューンはウクライナ国産の新兵器で生産に入ったばかりであり、開戦前のスケジュールでは最初の1個大隊の編成完了が4月予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合いました。
ネプチューン地対艦ミサイル1個大隊は4連装発射機が6両で1斉射24発、予備弾含め3斉射分72発が定数となっています。
ウクライナ海軍の想定ではトルコ製「バイラクタルTB2」無人偵察攻撃機で洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順を予定していましたが、実際の巡洋艦モスクワ攻撃ではどのような攻撃方法だったのかはまだ発表がありません。
なおロシア海軍は巡洋艦モスクワが被弾する2日前に、黒海艦隊のフリゲート「アドミラル・エッセン」がウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機を撃墜したことを誇る動画をUPしていました。これはウクライナ軍がドローン(無人機)による洋上索敵を積極的に行っていた可能性を示しています。
あるいは無人機のバイラクタルTB2はロシア海軍を油断させるための囮で、本命の対艦索敵はアメリカ軍の偵察手段だった可能性もあります。一部のウクライナ報道ではバイラクタルTB2を囮に使ってその隙にネプチューンで攻撃した戦法が示唆されています。
黒海にはアメリカ軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が開戦後も頻繁に飛んで来ていたので、巡洋艦モスクワの位置情報の提供を行っていた可能性があります。ただしこれが仮に事実だとしても公表したらロシアを怒らせるので、黙っている筈です。
まだ不明な点は多いのですが、今回のネプチューンによる歴史的な大戦果の詳細はいずれ明らかにされていくことでしょう。
【参考外部記事】ウクライナ軍事ポータルサイト「Український мілітарний портал (ウクライーンシクィー・ミリタリニィー・ポルタル)」の英語版記事より。
The first battalion of “Neptune” coastal missile system will be delivered by April 2022 – Neizhpapa
“Moskva” missile cruiser – the flagship of the Russian`s Black Sea Fleet – sank
※なおネプチューンの発射車両は試作型と量産型で車両が異なります。
試作型の発射車両:КрАЗ-7634НЕ(ウクライナ製)
量産型の発射車両:タトラT815-7(チェコ製)
【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!
「ウクライナ側が言うようにミサイル攻撃によるものかは確認できないが、それに反論する立場でもない。ウクライナ側がミサイルで攻撃したというのは、ありうることだ」と語っています。
上の記事では、ウクライナ側がミサイル攻撃したという記事が正しいものとして、ウクライナ側の主張を掲載しています。
この記事も、このウクライナ側の主張が正しいものとして、解説します。今回のモスクワ撃沈は、もう数十年前からいわれていた海戦の変貌ぶりを示したものといえます。
NHKどらま「坂の上の雲」で放映された日本海海戦における日本艦隊の旗艦「三笠」 |
海戦の主役は大きく2回変わっています。最初は、「大艦巨砲」ともいわれるように、巨砲を何門も持つ大艦同士が、海上で大砲撃戦を行い、海戦の雌雄を決定しました。その典型的な事例は、日露による日本海海戦です。
次の時代は、空母打撃群による海戦です。空母を主力とする艦隊を空母打撃群と呼び、この空母打撃群の空母以外の艦艇は、空母を護衛するのが主な目的であり、空母に積載した航空機が、海戦の雌雄を決めることになりました。その典型例は、大東亜戦争における太平洋の戦いです。
日本では、空母打撃群という呼び名はありませんでしたが、本格的な空母打撃群を最初に運用したのは、日本海軍でした。この空母打撃群は、ハワイ真珠湾攻撃等で活躍しましたが、やがて物量にまさる米軍が、空母の数でも、航空機の数でも日本をはるかに上回るようになり、各地で日本の空母打撃群を破るようになりました。
米国のハワイには、真珠湾の戦いの記念館があります。そこには、日本海軍が最初に空母打撃群を運用しはじめたということが展示物で示されています。米軍はそれを参考にして、空母打撃群を運用させるようになり、今日米海軍の主力になっているという旨のことが展示されています。
発艦した航空機から撮影した空母「赤城」 |
そうして、数十年前までは、実際にそうでした。しかし、もう随分と前から、実は空母打撃群は海戦の主役ではなくなっています。その主役は何かといえば、第二次世界大戦までは脇役であった潜水艦です。
このブログにも以前述べたように、米国の戦略家である、エドワード・ルトワック氏は次のように語っています。
「現在では、艦艇は2種類しかない、空母やイージス艦のような水上艦艇と潜水艦の二種類しかない。そうして、水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない。しかし、潜水艦はそうではない、水中に潜航して、容易に撃沈されることはない。現在の海戦の主役は潜水艦なのだ」
この言葉、最初はルトワックが語ったのかと思っていましたが、そうではないようです。潜水艦が原子力で動くようになり、さらに魚雷だけではなくミサイルを装備するようになった頃から言われはじめたそうです。
そうして、ロシアは2020年トルコ軍兵士が27日にシリアのアサド政権軍の空爆で死亡したことを巡り、トルコ側の対応に問題があったと主張し、シリア沖に巡行ミサイルを搭載した艦船2隻を派遣したことがあります。そのときの1隻が今回撃沈された「モスクワ」です。ルトワックは、これについて以下のような発言をしています。
「ロシアのミサイル巡洋艦など、象徴的なものにすぎない。米軍なら5分で吹きとばせる」
これは、事実なのでしょう。だからこそ、今回「モスクワ」はウクライナ軍に撃沈されたとウクライナ側は公表し、米国もこれをはっきりとは否定しなかったのでしょう。
無論、ルトワックの脳裏には、攻撃型原潜などを想定したものと思います。米国の攻撃型原潜の大型のものになると、100発以上もの巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できます。しかも、米軍はロシア軍よりも、対潜哨戒能力に優れていいます。
この攻撃型原潜が、ロシアの艦艇を攻撃すれば、ひとたまりもないでしょう。
ただ、今回のウクライナによる「モスクワ」攻撃は、地上のミサイルランチャーから、ネプチューンを発射して撃沈したとされています。潜水艦から発射したものではないですが、ルトワックも語っていた「水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない」という発言を実証したといえます。
考えてみると、フォークランド紛争時には、ルトワックの語ったことは、現実になっていたと考えられます。
1982年3月のフォークランド紛争では、イギリス海軍の原子力潜水艦「コンカラー」によるアルゼンチン海軍巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」の撃沈はアルゼンチン海軍の戦意に冷や水を浴びせることになり、空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」を始めとしたアルゼンチン海軍の水上戦闘艦は現存艦隊主義に転じて、二度と出撃してくることはありませんでした。
潜水艦の能力でも、対潜哨戒能力でも英軍に著しく、劣っていたアルゼンチン軍は、海戦においては最終的には、英軍の敵ではなかったようです。ただ、英軍はそれまでアルゼンチン軍のフランス製のエグゾセミサイルで、駆逐艦「シェフィールド」が沈没するなどの被害を受けています。
「モスクワ」と同程度以上の艦艇が撃沈されたのは、フォークランド紛争以来といわれています。今回の「モスクワ」撃沈により、まさに、水上艦は現代の海戦においては、「ミサイル」や「魚雷」の大きな目標にすぎないことが、さらに鮮明になったといえます。
なお、先のルトワックの発言については、「極端」と批判する人たちもいますが、今回の「モスクワ」撃沈が本当であったら、「極端」とはいえないと思います。
このブログでは、こうしたルトワック氏の発言などにもとづいて、私は日本の潜水艦隊の優位性を主張してきましたが、半信半疑の人も多いようです。今回の「モスクワ」撃沈がウクライナのミサイルのものであれば、「極端」とはいえなくなると思います。
なお、先のルトワックの発言については、「極端」と批判する人たちもいますが、今回の「モスクワ」撃沈が本当であったら、「極端」とはいえないと思います。
このブログでは、こうしたルトワック氏の発言などにもとづいて、私は日本の潜水艦隊の優位性を主張してきましたが、半信半疑の人も多いようです。今回の「モスクワ」撃沈がウクライナのミサイルのものであれば、「極端」とはいえなくなると思います。
陸上から放つミサイルも、水中から放つミサイルも同じことですし、潜水艦からの発射は、陸上からよりも、敵に発見されにくく軍事的にさらに有利といえます。しかも、日本の潜水艦のステルス性は「世界一」であり、この優位性についても理解が進むと思います。中国の台湾侵攻に関して、まるでこの世に潜水艦など存在しないかのような論評をする人もいますが、それでは全く意味がありません。
ウクライナ軍が日本の海自なみの最新鋭の潜水艦を持っていれば、軍事上かなり有利になっていたと思われます。もしそうだったら、初戦でロシア黒海艦隊は壊滅していたことでしょう。さらに、潜水艦からミサイルを発射し陸上の主要な目標を破壊し、かなり有利に戦争を遂行できたと思います。
このブログで、以前紹介したように、トランプは、「(プーチンが)またその言葉(核兵器)を口にしたら、われわれは原子力潜水艦核を送って、沿岸を上下左右に航行させるぞと言うべきだ」と語っていました。
これを、かなり物騒な発言とするむきもありますが、これはプーチンに対してかなりの牽制になりますし、核ミサイルでなくて、通常のミサイルを搭載する攻撃型原潜を派遣しても、ロシア側にとってかなりの脅威となるでしょう。
何しろ、米国の攻撃型原潜でも大型のオハイオであれば、巡航ミサイル・トマホークを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。無論、その他にも魚雷、防空ミサイルも搭載しています。
このような攻撃型原潜を、2〜3隻黒海でも配置すれば、巨大なミサイル基地が即座にできあがり、米国のインテリジェンスンスに基づき、ロシアの軍事拠点を攻撃をすれば初戦でロシア軍は崩壊していたかもしれません。
今後の軍事研究の発展のためにも、ミサイル巡洋艦「モスクワ」の撃沈が、ウクライナのミサイルによるものだったのか、公表していただきたいものです。
それにしても、今回の「モスクワ」の沈没、ウクライナ側の発表が正しかろうが、正しくなかろうがロシア軍にとっては大打撃であることには変わりはないです。過去の日本の例でいえば、開戦2ヶ月目にして、連合艦隊の旗艦「大和」が沈んだようなものです。ロシア軍の士気の低下は免れないと思います。
ミサイル巡洋艦「モスクワ」 |
モスクワは、ロシア軍が3隻しか保有していない大型巡洋艦の1隻です。搭載する防空ミサイルシステムS300でウクライナ軍の戦闘機や無人機をけん制し、南部一帯での部隊展開を支えてきました。黒海艦隊は、ロシアにとって重要な標的である港湾都市オデッサなどの攻略を目指していました。
ところが独立系メディア、メドゥーザによると、ロシア軍はモスクワを失ったことで、残る部隊をウクライナ軍の攻撃から防ぐ能力が著しく衰える恐れがあります。ロシアとウクライナの交戦を理由に、トルコが黒海への軍艦の侵入を制限しているため、ロシアが地中海経由で代替の巡洋艦を派遣することも難しいです。
侵攻以降のロシア軍の被害も甚大とみられます。ウクライナ国防省は15日、ロシア軍の死者が「2万人を突破した」と発表。ロシア側は最新の死者数を1300人余としていますが、契約軍人を募るキャンペーンを強化するなど、実際は兵力不足が深刻な可能性が高いです。
こうした状況の中、ロシアの政権与党幹部は15日「軍事作戦は間もなく完了する」と同国メディアに強調。5月9日の対独戦勝記念日に合わせた「勝利宣言」名目で、プーチン大統領が幕引きを図る可能性も大いにありそうです。
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