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2022年3月24日木曜日

トランプ氏 プーチン大統領には原子力潜水艦で圧力を―【私の論評】ロシアにとって米原潜は天敵!トランプの主張を荒唐無稽とか無謀として排除すべきではない(゚д゚)!

トランプ氏 プーチン大統領には原子力潜水艦で圧力を


21日、FOXビジネスの番組に電話で出演したトランプ前大統領は、在任中だったらウクライナにMIG戦闘機の提供などの支援をしたかと聞かれると、「それ以上のことをしただろう」と話した

この中でトランプ氏は、「プーチンが何度も”Nワード”を使うのを耳にしている。彼はこれを使い続けている」と、核(Nuclear)に言及。続けて「でもわれわれの方が、より強力な核兵器を保有している。世界でも最も素晴らしい原子力潜水艦だ。私の下で作られたのだが、かつて建造された中で最も強力なマシーンだ」と主張した。

さらに「またその言葉を口にしたら、われわれは原子力潜水艦核を送って、沿岸を上下左右に航行させるぞと言うべきだ」と強気の姿勢を見せ、「この悲劇を見過ごす訳にはいかない。何千もの人間をただ死なせる訳にはいかない」と語った。

なお海軍の発表によると、米艦隊は、ブーマーと呼ばれる弾道ミサイル潜水艦を14隻保有している。一方のロシアについて、英紙ミラーは、核ミサイルが発射可能な潜水艦が11隻あるとみられていると伝えている。

ただし、バイデン大統領はウクライナの支援をする一方で、ロシア軍とNATOの直接衝突を避け、第三次世界大戦に発展する危険を阻止することを最需要事項とし、ウクライナ側の求める飛行禁止区域の設定にも応じない姿勢を明確にしている。

トランプ氏の物騒な発言に、保守派の政治コメンテーター、チャーリー・サイクス氏は「無謀にエスカレートさせるもので、本当に不必要だ。脅威を与えるためにロシアの”沿岸”に潜水艦は必要ない」と非難。「この男は、大統領候補だった頃、核の3本柱を知らず、核をハリケーンに使おうと示唆して、核兵器使用の可能性を側近に相談したとまで報じられた人物で、そのことを覚えておいて、損はない」と加えた。

【私の論評】ロシアにとって米原潜は天敵、トランプの主張を荒唐無稽とか無謀として排除すべきではない(゚д゚)!

上の記事で、チャーリー・サイクス氏は、トランプを批判していますが、私自身は、原子力潜水艦を使うというトランプ氏の考えには一理あると思っています。

トランプ氏の考えでは、弾道ミサイル搭載原潜を、脅しに使うというものですが、これは確かにロシアに対してはかなりの脅威になると思います。私自身は、それだけではなく攻撃型原潜も効果的に使うべきと思います。

米国の原潜はなんといっても、弾道ミサイル原潜も攻撃型原潜も、かなりの攻撃力があります。かつてトランプは北朝鮮が弾道ミサイルを連発したときに、北朝鮮の海域に攻撃型原潜を派遣して、米国の攻撃型原潜は、海中に潜む空母だ、空母と同等の攻撃力があると、豪語してみせました。

これは、決して誇張ではありません。弾道ミサイル搭載原潜の核による攻撃力もさることながら、攻撃型原潜の攻撃力も凄まじいものがあります。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できる。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子

現在、世界規模で潜水艦を展開するアメリカやロシアは、核戦争に備えて中・長距離の垂直発射型弾道ミサイルを核戦力の軸にしています。

一方、潜水艦搭載の巡航ミサイルは核弾頭だけでなく通常弾頭も使えるため、地上基地や水上艦の攻撃用として核兵器を使わない通常戦闘にも投入することができます。また巡航ミサイルに準ずるものとして対艦ミサイルがありますが、これも現代の潜水艦では魚雷発射管などから撃つことができるようになっています。

現在潜水艦の武装はかなりバラエティに富んでいます。かつては魚雷と大砲を使い、また短時間しか潜ることができなかったため、海軍戦力のなかでは脇役的存在でしたが、今日の潜水艦は、万能兵器になり、海戦の主役になりました。

数十年前から言われてきたことですが、艦船には二種類しかありません。水上艦艇と水中の潜水艦の2つです。現在では、空母やイージス艦などの水上艦艇は、魚雷やミサイルの標的に過ぎません。これらは、海戦においては、いずれ撃沈されてしまいます。

もう一つの艦艇である潜水艦は、水中に深く潜み、簡単には撃沈されません。こうしたことから、現在の海戦における本当の戦力は潜水艦なのです。

そうして、中露と日米を比較すると、ASW(対潜水艦戦闘)の能力では、日米が中露を大幅に上回っているのです。

中露はASWでかなり劣っているため、海戦では日米と互角に戦うことはできません。ASWで、劣る中露は、特に中国は、多数の艦艇を有していたとしても、海戦では日米には勝てません。
日本の通常型潜水艦は、米国のような強大な攻撃力はありませんが、ステルス性(静寂性)に優れているるため、中露はこれを発見することはできません。

米国の攻撃型原潜は、日本の通常型潜水艦と比較すれば、ステル性には劣りますが、それにしても日米は対潜哨戒能力においては、中露をはるかに凌駕するので、米軍の攻撃型原潜は強大な攻撃力を生かして、圧倒的な強みを発揮することができます。

仮に米国がロシアの近海やウクライナの近海等に攻撃型潜水艦をいくつか配置すれば、ロシアにとってはかなりの脅威となります。ましてや、弾道ミサイル搭載原潜はかなりの脅威になります。こういうことを考えると、トランプの考えはあながち荒唐無稽であるともいえないと思います。

トランプがもし大統領であれば、バイデンのようにウクライナに米軍派遣はないとはっきりと何度も公言することもなかったでしょう。私はこれは、明らかにバイデンの失策だったと思います。

確かに、米軍を派遣すれば、戦争がエスカレートして、核戦争にもなりかねないです。ただ、現状みられるように戦争においては、深刻な人道に反した戦争犯罪など生じがちです。バイデンとしては人道に配慮した米軍を派遣する可能性についてまで完全否定すべきではなかったと思います。それは、ロシアに対して一定の抑止力になったと思います。

さて日本にとってもウクライナ戦争は対岸の火事といえない状況になって来たと思います。とくに島嶼国家(海洋国家)である日本は海が主戦場になることは間違いありません。だからこそ、潜水艦は国防上、重要な役割を担う装備となっているのです。

3月9日には、日本の最新型の「たいげい」が就役しました。これで、潜水艦事故により日本の潜水艦隊は21隻体制だったのですが、22隻体制に戻りました。島嶼国の日本にとっては、この22隻の潜水艦隊か国防の要です。

日本が22隻の高性能潜水艦隊を有しており、対潜哨戒能力も世界トップレベルであるということが、中露が日本に対する領土的野心を抱くことをためらわさせているのは間違いないです。中国が、尖閣で示威行動を繰り返し続けても、結局領有にまで至らないのは、日本に強力な潜水艦隊があるからです。

ウクライナは核を放棄したため、現在ロシアの核の脅威にさらされています。日本は非核三原則などを未だに堅持し、ある意味ウクライナのようでもありますが、大きな違いは、日本には米軍が駐留していること、そうして強力な潜水艦隊が存在しています。

残念ながら、ウクライナには日本の潜水艦隊に相当するものもなく、米軍も駐留はしていません。だからこそ、ロシアの侵攻を招いてしまったという面は否めません。

このブログには、何度か掲載してきたように、潜水艦の行動は世界のいずれの国でも秘匿するのが普通で、日本もその例外ではありません。そのため、日本を含めてほんどの国が潜水艦の行動など公表せず、米国では米軍のトップですら、核ミサイル原潜が世界のどこにいるのか知らされていないといいます。

日本でも、それは滅多には知らされません。だから、日本の潜水艦隊がどこで何をしているかなど、多くの国民はしりません。しかし、多くの潜水艦乗りたちが、様々な海域の最前線で、任務についています。そうして、これは日本の安全保障に直接貢献しているのは間違いありません。

にもかかわらず、中国やロシアが攻め込んできたら、すぐに日本が手も足も出ずに、すぐ負けてしまうというような論調も目立ちます。最近では以下のような記事が目立ちました。
「侵略してくる部隊を自衛隊単独で撃退することはほぼ不可能」元陸上自衛隊・中部方面総監が語る日本の“防衛戦略” 徴兵ではなく予想される“緊急募集”とは?
   山下裕貴氏。1956年、宮崎県生まれ。1979年、陸上自衛隊入隊。現在、
   千葉科学大学客員教授。著書に「オペレーション雷撃」(文藝春秋)

 この方は、どのような前提で、このようなことを語っているのか非常に疑問です。日本には陸自だけではなく、海自もあり、空自もあります。

敵が海路侵入してくるというのに、空自もまして海自は何もしないというのでしょうか。中露は海上輸送能力に劣るところがあって、大量の兵員や武器弾薬を一度に送るのは不可能です。冷戦時代にはソ連の北海道侵攻をマスコミが煽りましたが、当時ですらソ連軍は海上輸送力が十分ではなく、北海道侵攻はできないだろうとされていました。

中国も海上輸送力は十分ではありません。だから、台湾侵攻もおびただしい損失がでることが予想され、現実にはかなり難しいです。これは、以前もこのブログに掲載しました。とはいいながら、ロシアも無謀と思われるウクライナ侵攻をを現実に実行したのですから、いくつか条件が重なれば、台湾侵攻もあり得ると考えるべきでしょう。

ただ、この方が主張しているのは、仮に中露が大部隊を日本に送り込んできた場合は、「侵略してくる部隊を自衛隊単独で撃退することはほぼ不可能」と主張しているのだと思います。

スリム化が進んだ自衛隊の現状を憂いているし、日本政府に迅速な判断が可能かどうかについて心配しているのでしょう。これについては、多いにうなずけるところがあります。

ただ、この記事には、仮に中国などが部隊を送り込んできたとして、それが日本の潜水艦などに撃沈されて、かなり減衰することについては全く触れていませんでした。これでは誤解を招きやすいです。

私自身は、ロシアのウクライナ全面侵攻はかなり難しく、ロシアがウクライナの侵攻する確率は低いとみていましたが、ウクライナ侵攻は現実のものとなりました。GDPが韓国を若干下回り、兵站が脆弱なロシア軍にとっては、ウクライナ侵攻は困難を極めることが予想され、その通りにロシア軍は苦戦しています。これは最初から予想されたことであり、かなり苦戦することになるだろうから全面侵攻する確率は低いだろうと踏んだのです。

多くの軍事専門家等もそのように考えていたようです。軍事的な考察はこのように、予想をくつがえされることもあるのです。どのような可能性も除去しないで考えるべきなのでしょう。

そういう意味では、トランプの主張を荒唐無稽とか無謀として排除すべきものではないと思います。一つの選択肢として、どういう場合にそうするべきかなども考えておくのも悪いことではないと思います。それも現実的に考えるべきと思います。

そうして、無論山下裕貴氏の主張にも耳を傾け、参考になるところは取り入れるべきとも思います。

安全保障については、あらゆる可能性を排除せず、議論すべきと思います。岸田政権も、防衛費倍増や憲法改正なども、ただ議論をするだけでなく、現実の脅威に対処できるように、できるところから実施すべきです。特に、何の根拠もない防衛費GDP1%の枠は、すぐに撤廃すべきです。

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2025年3月15日土曜日

もう海軍力で中国にはかなわない…!危機感を募らせるトランプが、プーチンにおもねってでもウクライナ和平を急ぐ「深刻な理由」―【私の論評】トランプの危機感と日本の誤読:5年後の台湾有事を米海軍の現実から考える

もう海軍力で中国にはかなわない…!危機感を募らせるトランプが、プーチンにおもねってでもウクライナ和平を急ぐ「深刻な理由」

まとめ
  • 中国の海軍力増強とトランプの危機感:中国の造船業が世界シェア7割を占め、2030年までに艦船460隻を目指す中、米海軍は260隻に減少し、東シナ海・南シナ海での中国の優位性にトランプが危機感を抱いている。
  • トランプの造船業復活策:MAGA戦略に基づき、造船局新設や中国製船舶への高額入港料(1回100万ドル)を提案し、アメリカの製造業・国防基盤の強化を目指す。
  • ウクライナ戦争と米国防力の衰退:西側がロシアを抑えきれず、バイデン政権下で国防予算が実質削減され、アメリカはウクライナ支援と中国抑止の両立能力を失いつつある。
  • コルビーのリアリスト戦略:トランプ政権はエルブリッジ・コルビーを起用し、ウクライナ支援を欧州に委ね、中国の台湾侵略阻止を優先。日本には対中強化を求める。
  • ロシアの疲弊と停戦可能性:ロシアは戦争で経済・軍事的に疲弊し、トランプは「マッドマン戦略」で停戦を誘導しつつ、国力を中国対応に集中させる狙い。
トランプはマッドマンなのか?

近年、中国の海軍力が急速に増強される中、トランプ前大統領はその軍事戦略において、独特の「マッドマン戦略」を展開している。この戦略は一見狂気を装うような大胆な動きに見えるが、その裏には中国との軍事バランスが崩れつつある現状への強い危機感がある。とりわけ、米中の製造業や造船業における力の差が、トランプの懸念の中心にある。

中国は現在、世界の造船業のシェアの約7割を握り、その圧倒的な生産能力を背景に、中国海軍の艦船数を2030年までに460隻にまで増強する計画が予測されている。一方、アメリカ海軍は現状のままでは艦船数が260隻にまで減少する見込みであり、しかも米軍の艦船が世界各地に分散しているのに対し、中国は東シナ海や南シナ海にほぼ集中的に展開している。この限られた地域での優位性が中国に傾きつつあり、その傾向は今後もさらに強まると考えられる。老朽化した米軍艦船が退役する一方で、中国の艦船が充実していくのは想像に難くない現実だ。

この危機感から、トランプはMAGA(Make America Great Again)戦略の一環として、アメリカの製造業復活を強く掲げ、特に国防を支える造船業の強化に注力している。例えば、ホワイトハウス内に造船局を新設する計画を発表し、民間と軍用の造船能力を再構築する方針を示した。さらに驚くべきことに、米通商代表部(USTR)は中国製の船舶がアメリカの港を利用する際に、1回あたり100万ドル(約1.5億円)の入港料を課す案を公表した。

ここで注目すべきは、対象が「中国籍の船」ではなく「中国製の船」である点だ。これは極めて異例かつ大胆な政策で、船舶が長期間使用される性質を考えると、中国製船舶の所有者にとって事実上の入港禁止とも言える打撃となる。中国製船舶は世界中に所有者が存在するため、この政策は国際的な反発を招く可能性が高い。それでもトランプ政権は、中国に造船業が集中する現状を打破する必要性を真剣に捉えているのだ。

一方、ウクライナ戦争の状況も、トランプの戦略に影響を与えている。西側諸国はロシアの軍事侵攻を阻止できず、核の脅しに怯えながらウクライナへの支援を中途半端に留めた結果、戦争を長引かせ、ウクライナを疲弊させるだけに終わった。さらにバイデン政権下では、アメリカの国防力が大幅に削減された。

ウォール・ストリート・ジャーナルの2024年3月13日の社説によれば、バイデン大統領が2025会計年度に提案した国防予算8500億ドルは、前年度比わずか1%増に過ぎず、インフレ調整後では実質マイナスとなる。これが4年連続で続き、軍事予算の縮小と武器在庫の枯渇が進んだ。この結果、アメリカはウクライナ支援を続ける一方で、中国の台湾侵略を抑止する力を失いつつある。

トランプ政権の国防戦略を理論的に支えるのは、リアリストとして知られる戦略家エルブリッジ・コルビーだ。彼は、アメリカの現在の国防力では中国の台湾侵略を抑止するのも困難だと見ており、台湾にGDPの10%、日本に3%の国防費を求めるなど、現実的な危機意識を示している。コルビーは、ウクライナ支援に注力するよりも、中国への対抗を優先すべきだと主張し、「アメリカはすでにウクライナに1700億ドルと大量の武器を提供した。今後は欧州が負担すべきだ」と述べている。また、日本に対しては、ウクライナ支援に集中するのではなく、中国の長期的な脅威に備えるべきだと批判的な見解を示す。

ロシア側もウクライナ戦争で疲弊しており、装甲車両の損失や経済的な歪みから、停戦に応じる可能性がある。トランプはこれを見越し、停戦を最優先事項に掲げ、ロシアを交渉のテーブルに引き込むための「ロシア寄り」の発言を戦略的に用いたとされる。しかし、ウクライナが求める主権と独立を守る条件と、ロシアの要求が一致する保証はない。

それでもトランプの最終目標は、アメリカの国力を中国対応に集中させることであり、そのためには欧州がウクライナ支援の負担を引き受ける意識変革が必要だ。こうした状況下で、トランプのマッドマン戦略は、欧州を揺さぶりつつ現実的な力の再配分を目指すものだ。

朝香 豊(経済評論家)

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプの危機感と日本の誤読:5年後の台湾有事を米海軍の現実から考える

上の浅香氏の見解に近い話を、このブログで既にぶち上げている。そのリンクを以下に掲載する。
詳しい話はこの記事を読んでいただくものとして、結論部分だけをここに掲載する。
現在のアメリカ海軍の戦闘艦艇数は中国の半分以下だ。トランプはこれを変えようとしたが、バイデンでは動かなかった。でも、単純に数だけ比べても意味はない。中国は小型艦艇を大量に抱え、アメリカは持たない。それに海戦の主役は潜水艦だ。水上艦はミサイルや魚雷の的でしかない。対潜戦の力が勝負を決める。中国の対潜戦能力はアメリカに遠く及ばない。アメリカは攻撃型原潜を50隻、中国は6~7隻だ。さらに、攻撃能力でも米国には及ばない。
オハイオ型原潜のミサイル発射ハッチを全開した写真 人との対比でみるとその巨大さがわかる
だが、アメリカには弱点もある。太平洋と大西洋に戦力を割かねばならない。2023年10月、ハマスとイスラエルの衝突で、USSジェラルド・R・フォードが東地中海へ飛び、2024年初頭にUSSアイゼンハワーが紅海へ、2025年2月にはUSSトルーマンがフーシー派を睨んでジェッダ沖に現れた。中国が世界中で動けば、アメリカは全てに対応できない。中国が台湾を「ハイブリッド戦争」と武力で押し潰そうとするなら、台湾は核を持つしかなくなる。核がない今、中国の物量と核戦力に最後の切り札がないからだ。 
結局、台湾問題は理念では動かない。現実の力が動かす。アメリカ以外の国が軍事力を強化し、中国が世界で暴れても対抗できるようにしないと、台湾は飲み込まれ、世界は中国の都合に塗り替えられるかもしれない。

だからトランプは各国に軍事費を増やせと叫ぶ。ウクライナはEUに任せろと言うのも同理屈だ。アメリカの現実を見れば、これは単なる「アメリカ第一主義」ではない。しかし、現状では中国が今すぐ台湾に侵攻するのは難しい。だから両者とも理念を振りかざす。理念が薄れ、力が静かに動き出す時が真の危機だ。
これが米海軍の今だ。台湾有事を騒ぐ識者が多いが、私は数年はないと見ている。米海軍が圧倒的で、台湾は天然の要塞だ。ルトワックの語る軍事的なパラドックス「大国は小国に勝てない」も効いている。ルトワックは、台湾有事には米国は強力な攻撃型原潜を2、3隻派遣すれば対処できると断言している。が、5年後はどうだ。
米国の最も代表的といえるイージス艦、アーレイ・バーク級は起工から進水まで2~3年、進水から就役まで1~2年、合計3~5年だ。これも米国の潜水艦として最も代表的といえる攻撃型原潜のバージニア級は起工から進水まで3~4年、進水から就役まで2~3年、合計5~7年だ。今すぐ作り始めても、就役は5年後だ。造船所や予算でブレるが、これが現実だ。アーレイ・バーク級はバス鉄工所やインガルス造船所で効率よく進む。だが、バージニア級は原子炉のせいで時間がかかる。ジェネラル・ダイナミクス社でも5年未満は無理だ。無論バイデン時代の計画も続行されているが、十分ではない。

フィリピン東方海域での日米仏共同訓練「パシフィック・ステラー」

米海軍は今でも二正面作戦はキツい。5年後、中露北イランがどこかで大暴れし、中国がアジアで大規模に動いたら、おそらく米国海軍の強さ自体は継続されているだろうが、それでもこれにすべて対応するのは困難で、アメリカの圧倒的優位は怪しい。おそらく、どこかで手を抜いたり、無視せざるを得ない場合もでてくる。
日本ではトランプ叩きがうるさいが、2024年11月の選挙で米国民がトランプを選んだ事実を無視している。激戦州を制した勝利を「予想外」と片付ける。要するに支持者を舐めているのだ。
朝日新聞やNHKは「過激」と連呼し、イメージで殴りつける。アメリカのメディアは民主党寄りだ。CNNやニューヨーク・タイムズはトランプの関税を「保護主義」と叩く。2024年の世論調査は保守派の声が埋もれる構造だ。それでも日本は丸呑み。トランプ支持者の声は届かない。読売とギャラップの2024年11月調査で、日本人の63%が「不安」と言った。だが、アメリカでは55%が「期待」だ。このズレを誰も突かない。テレビでは外国人タレントがトランプを叩く。TBSで米国人コメンテーターが「時代遅れ」と吐いたが、根拠はゼロだ。 
トランプ批判で、批判されたバックン(右の人物)

日本メディアや識者はトランプの主要なブレインともいわれるアメリカ第一主義研究所(AFPI)を無視だ。取材もしない。2025年1月、AFPIは「貿易不均衡是正と産業保護」を掲げたが、日本では、「暴走」としか報じない。トランプ政策の誤読は、文脈を捨て、反トランプ派の声を大きくくし、CNNやワシントン・ポストにすがるからだ。日本では、特に2025年2月のワシントン・ポスト記事がそのまま引用されている。

日本では、トランプの関税を無根拠に叩くが、日本の米(コメ)の関税はかつて778%だたし、現在でも米国から輸入するコメにかかる関税率は、ミニマムアクセス枠内では0%、枠外ではおおよそ200~340%だ。日本はコメに対して高関税、生産調整、政府買い取りなどの保護政策を実施しており、国内農業と食料自給率を守る姿勢を堅持している。これに比較するとアメリカの25%案など可愛いものだ。

AFPIは対中不正、歳入、外交の狙いを明示している。2025年2月の首脳会談でトランプは「日米同盟は揺るぎない」とぶち上げた。なのに朝日は「圧力」と歪める。世界各地で大規模紛争が同時的に起こって、それに対処するためには各国は戦争経済に移行しなけれならなくなるかもしれない、そうなれば、米国の関税がどうのこうのという次元ではなくなる。各国は、それを想定しているのか。
 
日米メディアはトランプは「女性軽視だ」と騒ぐが、トランプはサラ・サンダースやニッキー・ヘイリーを初代政権で使い、2025年政権でも複数の女性を閣僚に据えている。日本は大東亜戦争、日米安保、ベトナム戦争で米国を見誤ってきた。今、またトランプを見誤っている。ウクライナやロシアに気を取られる連中は、米国の現実とトランプの焦りを見ていない。

浅香氏は「マッドマン戦略」と言うが、私は本音で動いていると見る。5年後の危機に備え、各国が軍事力を強化しないと、台湾も世界も中国に蹂躙される危険はリアルだ。トランプへの見方を正し、国際情勢をしっかり掴む。それが日本の急務だ。

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2022年5月31日火曜日

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか―【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか

岡崎研究所

 バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行われたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウクライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与えているだろう、と述べた(CIA director says China ‘unsettled’ by Ukraine war, FT, May 8)。バーンズは以下の諸点を指摘する。


・習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連により中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になっているとの印象を強く受ける。

・中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出すべきか慎重に検討している。

・プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来ないが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する最大の地政学的課題」だ。

 上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろう。

 プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平は不安の色を隠せないようだ。

 バーンズの見る通り、習近平にとっては、ロシアの侵略がはじまってから、10~12週間がたち、中国にとっては、台湾問題との関係で、自分たちの計算が狂ってきたと思っているのではないか。習近平にとっては、ロシアの無謀な侵略とロシア経済が制裁によって受ける不確実性を中国としては今後どのように考えればよいのか、という点も重なっているだろう。

 いまだ台湾に残る米国が助けてくれるかの懸念

 ウクライナのケースと台湾のケースを比較することには慎重でなければならないが、「台湾関係法」という国内法をもち、台湾の防衛に事実上コミットしている米国としては、台湾を「準同盟国」として扱う以上、もし将来、中国から台湾への一方的な軍事侵攻があれば、台湾を如何に支持、防衛するか、について、今回のバーンズ発言からは、今一つ明瞭な答えは出ていないといえよう。

 現在、台湾住民たちにとっての最大の関心事は、依然として「いざとなったとき、米国は助けにきてくれるだろうか」という一点に尽きるといえよう。これは、現在のバイデン政権の一大課題である。

 なお、バイデン大統領は5月23日、クワッドの首脳会合のために訪日した際、岸田文雄首相との首脳会談後の共同記者会見で、台湾が攻撃された際の米国の台湾防衛の意思を問われ、「一つの中国」政策を維持するとしつつ、「イエス」と答えた。

【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

ヘインズ国家情報長官

バーンズ米中央情報局(CIA)長官が上記のような見解を示す一方、米国の情報機関を統括するヘインズ国家情報長官は10日、議会上院の公聴会で、台湾統一を目指す中国について「彼らは、われわれの介入を押し切って台湾を奪えるように懸命に取り組んでいる」と述べて、軍備の増強を進めているとの見方を示しました。

ただ「中国は武力衝突を避ける形で強制的に統一することを望んでいる」と述べて、軍事力を行使せずに統一を実現するため、外交、経済、軍事面で圧力を強めているとの考えを示しました。

さらにヘインズ長官は、中国がロシアによるウクライナへの侵攻について分析を続けているとの見方を示し「中国は欧米各国が一致して制裁を打ちだしたことに驚いている。彼らは台湾の文脈でもこのことを考えるだろう」と述べました。

そのうえで「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性があるとの見方を示しました。

ロシアのウクライナ侵攻の失敗は、中国が想像するほど台湾攻略は容易ではないというシグナルを中国に送るもので、自国より小さかったり軍事的に弱かったりする相手をミサイルで負かすことができるという誤った通説を打ち砕くことにもなるのは間違いないようです。

ウクライナで破壊されたロシアの戦車

米空軍の上級戦略顧問であるエリック・チャン氏はVOAに対して「ロシアのウクライナ侵攻が迅速な軍事行動によってウクライナ占領という『既成事実』を作ることを目的としていたように、中国も迅速な軍事行動によって台湾占領の既成事実を作ることを望んでいた。しかし、ウクライナ戦争が長引いていることで、中国の最高指導部は、これまでの作戦よりもさらに迅速で破滅的な戦略が必要だと考えるようになっている」と指摘しています。

つまり、艦船を多数遊弋(ゆうよく)させ時間をかけて台湾封鎖を実行する余裕はなく、いきなり台北などの台湾本土の重要都市へのミサイル攻撃や空爆、艦船による艦砲射撃などで主導権を奪い、米国などの外国勢力の支援が入る前に、多数の空挺部隊などを台湾に上陸させて、台北や高雄などの重要都市を占領し、1週間程度で中国の制圧下に置くという作戦です。

ある専門家は「そのために、台湾の物資、指導部、通信施設など、開戦当初はより強力に台湾を叩くことを検討するのではないか」と予測しています。

そのうえで、「中国は台湾に対する『法戦』を強化し、『台湾は中国の一部』であり、この戦いは『中国の内政問題』であることを国際的に強調し、米国やその他の国がウクライナと同じように台湾を援助することを警告・抑止する方式をとり、より長い時間をかけて、台湾の中国化を既成事実化するだろう」と指摘しています。

ただ、ロシア軍もこうしたようなことを実行しようとして、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港を一時占拠したのですが、その目論見は失敗しました。そうして、制空権すら掌握できず、苦戦しています。

中国軍も、様々な企てをしつつ台湾に侵攻するかもしれませんが、それがすべて思い通りに進むとは限りません。

中国が一番簡単に間違いなく台湾に進行できる確実な方法があります。それは、恐ろしい話で書きたくもありませんが、全くの仮の話として書かせていただきますが、台湾に核ミサイルを打ち込み、全土を破壊し、その後に台湾に侵攻することです。そうなれば、中国は全く抵抗を受けずに台湾に侵攻することができます。

しかし、このことに意味があるでしょうか。そもそも、中国が台湾を侵攻する目的は何なのでしょうか。それには、遠大な計画があるのかもしれません。ただ、それを実現するためにも、まずは台湾を併合するというのが、中途の目標になるのは間違いないでしょう。

併合するためには、併合されるべき人達がいなければ無意味です。併合すべき、産業や物資などがあれば、なお良いです。しかし、台湾が核で完全破壊されたとすれば、人もほんどいなくなり、産業も何もありません。そんなところに人民解放軍が上陸したとしても、何の意味もありません。仮に生き残っている人がいたとしても、敵愾心に燃えているでしょうから、こう人たちを納得させ併合するのは至難の技です。

ただ、そうなる前に米国は中国に反撃するでしょう。そうして、その反撃は大方の人が想像するように、空母などの艦船や航空機、あるいは海兵隊によるものではないないでしょう。なぜなら、それには大きな犠牲が伴うからです。空母やその他の艦艇や、海兵隊員を載せた揚陸艦も、中国のミサイルの格好の標的になるだけです。

ですから、それはこのブログでも過去に掲載したきたように、攻撃型原潜による反撃になるでしょう。従来から述べているように、中国海軍はASW(対潜水艦戦)能力が、米軍よりも段違いに劣っているからです。

米攻撃型原潜は、大型になると1隻で100発以上ものトマホークを搭載できます。これらを台湾近くの海域に交替しつつ常時2〜3潜ませれば、米軍は台湾を常時包囲できます。台湾の近くには、日本があり、日本には米潜水艦隊の基地もあり、交替はスムーズにいくでしょう。

それに加えて、米軍は最近潜水母艦フランクケーブルを日本に寄港させたりしていますが、これにより、台湾付近の原潜は緊急時には、交代せずとも、ミサイル、食糧、水などの補給をうけて長い期間台湾包囲の任務につくことができます。

潜水母艦「フランクケーブル」

中国軍はこの包囲を容易に破ることはできません。対潜哨戒能力に優れた米軍は、まずは中国の潜水艦を台湾付近から追い払うか、撃沈するでしょう。その後、中国が台湾に艦艇で上陸部隊を送れば、これを撃沈するでしょう。

仮に上陸させるることができても、台湾は米原潜に包囲されていれば、これを突破することができず、補給線や航空機による補給ができなくなります。そうなれば、台湾に上陸した人民解放軍はお手上げ状態になってしまいます。

米軍の台湾防衛というと、すぐに空母だのイージス艦だの、航空機や海兵隊がどうのなどと思い浮かべるから防衛が難しいと思うのかもしれませんが、攻撃型原潜で台湾を包囲して防衛すると考えれば、これはかなりやりやいです。何しろ、現在の攻撃型原潜は、様々な大量兵器の格納庫と化しています。

対艦ミサイル、魚雷、巡航ミサイル、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)、核も通常型も搭載できます、まさに、現代の潜水艦は、水中のミサイル基地なのです。しかも、敵はなかなか発見されにくく、原潜ならほぼ無限に近いくらい潜航できます。水も、酸素も生成することができます。ただし、従業員の休養や物資、武装の補充のために、定期的にいずれかの港に寄港する必要はあります。

ただ、心配なのは、米軍がどのタイミングで、台湾封鎖をするかです。私は、もし中国が台湾に核先制攻撃をかけて台湾を崩壊させた場合は、確実に台湾を包囲すると思います。確かに、これをしてしまえば、中国が台湾を併合する意味はなくなりますが、それでも台湾を軍事拠点として利用できます。

中国軍がこれを目指して、中国軍を上陸させようとした場合、米軍はこれを阻止するために、台湾を潜水艦で封鎖するでしょう。

もし、台湾危機がバイデン、もしくはバイデン以降でも、バイデンのような大統領であれば、核戦争になることを恐れて、なかなか包囲に踏み切れず、それこそ台湾が核攻撃を受けたあとに重い腰をあげるということになるかもしれないです。

ただこのようなことだけは、避けていただきたいです。中国が台湾侵攻の素振りをみせれば、できるだけ早い時期に実行すべきです。どの時点で米軍が決断しても、中国の台湾侵攻を防ぐことができます。たとえば、仮中国軍が台湾にかなり上陸してしまったとしても手遅れにはなりません。封鎖してしまえば、補給ができなくなり、中国軍はお手上げになるからです。

そうして、これは比較的やりやすいです。なぜなら、同じ原潜でもSLBM原潜(核兵器搭載原潜)ではないので、核戦争を招く可能性は低いからです。それに、米軍は中国軍より、ASWでは格段に優勢なので、犠牲者もほとんど出ません。

それに、原潜を台湾近海に潜ませておけば、それだけで抑止力になります。中国海軍が、台湾侵攻の素振りをみせた場合、攻撃型原潜が何らかの形で威嚇をすれば、中国は台湾侵攻を思いとどまるかもしれません。

トランプ氏は、黒海に核武装した原潜を派遣せよと述べたことがありますが、これはアイディアとしては悪くはないですが、あまり実用的ではないと思います。

なぜなら、黒海に米原潜を派遣すれば、黒海艦隊は沈黙するでしょうし、ウクライナは穀物を輸出できるようになるかもしれませんが、軍事的にはロシア軍が黒海艦隊の行動を封じられたとしても、ロシアとウクライナは陸続きなので、ロシア軍の補給を絶つことはできません。

やはり、ウクライナと台湾では状況が全く異なります。米政権としては、このようなことを踏まえて、台湾有事が懸念された場合は、迅速に行動していただきたいものです。はやく行動することが台湾の安全保障により多く貢献することになります。

台湾が核兵器で完全破壊されてしまってから動くようでは、中国が台湾を軍事基地化することを防ぐことはできますが、国際的にかなり非難されることになるでしょう。アフガンの撤退で失敗し、ウクライナの安全保障で失敗し、台湾でも失敗と評価されることになるでしょう。

日本としても、中国との有事があった場合は、米国は日本が焦土と化してからでないと、米国は助けに来ないと判断せざるを得なくなるでしょう。米国の国際的な地位はかなり下がることになります。

中国軍が台湾に侵攻しようとし、それに米軍が対抗して攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、台湾近海の、すべての中国の艦艇は撃沈され、航空機も甚大な被害を受けることになるでしょう。

仮に台湾に、上陸部隊を送り込めたとしても、補給ができずに、陸上部隊はお手上げになりことになります。しかも、ASWに劣る中国軍はこれに有効に反撃する手立てはないのです。予想されるのは、ほとんど無傷の米軍と、壊滅的打撃を受ける中国軍です。

その後は、米潜水艦隊が国際的非難を受けることもなく、中国近海を遊弋し、中国海軍は港を一歩も出ることができなくなるでしょう。それどこころか、南シナ海を現在でも遊弋している米潜水艦隊は余勢をかって南シナ海の中国の軍事基地を吹き飛ばすことになるでしょう。

上記のような展開が予想されるからこそ、ヘインズ国家情報長官は、「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性を指摘したものと思います。

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2022年4月15日金曜日

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃―【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

ネプチューン地対艦ミサイルによる巡洋艦モスクワ撃沈の衝撃

ウクライナ防衛企業ウクロボロンプロムよりネプチューン地対艦ミサイル

 現地時間4月14日(日本時間4月15日)、ロシア国防省の発表によるとロシア海軍の黒海艦隊旗艦である巡洋艦「モスクワ」が曳航中に沈没しました。前日に爆発炎上し総員退艦、その後まだ浮いていたのでセヴァストポリ港に戻ろうと曳航している最中でした。

 ウクライナ側は前日に地対艦ミサイル「ネプチューン」2発を巡洋艦モスクワに命中させて撃破したと主張しています。ロシア側はこれを認めていませんが、どちらにせよ艦は失われました。

 ロシア海軍黒海艦隊旗艦スラヴァ級ロケット巡洋艦モスクワ撃沈。その衝撃は戦史に永久に刻まれることになるでしょう。ウクライナ海軍地対艦ミサイル部隊の大戦果であり、ロシア海軍の大失態となります。

巡洋艦「モスクワ」を喪失した意味

 巡洋艦モスクワはロシア海軍黒海艦隊旗艦であり、黒海艦隊の中では最大最強の艦でした。ただし主兵装の超音速巡航ミサイル「P-1000ヴルカン」には対地攻撃能力は無く、ウクライナとの戦争でこの艦は広域防空艦として価値を発揮していました。

 長距離艦対空ミサイル「S-300F」を搭載した巡洋艦モスクワはウクライナ南部の黒海沿岸の沖合いに進出し、防空網の一角を担っていました。長射程の対空ミサイルでウクライナ空軍機の活動を妨害していたのです。

 これが消えました。ロシア海軍黒海艦隊には他に広域防空艦は居ません。ウクライナ空軍は南部での行動の制約が大きく解かれたのです。

 また、これでもうロシア軍は揚陸艦隊を用いてオデーサに上陸作戦を行うことが困難になりました。ロシア艦隊は地対艦ミサイルを恐れて、容易には沿岸に近付けなくなった筈です。

 そして首都モスクワの名前を関する軍艦の喪失はロシア全軍どころかロシア全国民の士気を下げ、ウクライナの士気を大きく向上させることになります。

地対艦ミサイル「ネプチューン」

 ウクライナ語”Нептун”の発音は「ネプトゥーン」の方が近く、英語のNeptune(ネプチューン)と語源は同じでローマ神話の海神の名前です。

 ネプチューンは亜音速の対艦ミサイルで、アメリカ軍のハープーン対艦ミサイルやロシア軍のKh-35対艦ミサイルとよく似た性能です。固体燃料ロケットブースターで加速した後にジェットエンジンを始動して巡航し、海面を這うような低い高度で飛んで行きます。

 ネプチューンはウクライナ国産の新兵器で生産に入ったばかりであり、開戦前のスケジュールでは最初の1個大隊の編成完了が4月予定だったので、ぎりぎりでロシアとの戦争に間に合いました。

 ネプチューン地対艦ミサイル1個大隊は4連装発射機が6両で1斉射24発、予備弾含め3斉射分72発が定数となっています。

 ウクライナ海軍の想定ではトルコ製「バイラクタルTB2」無人偵察攻撃機で洋上索敵を行い目標艦を発見したらネプチューン地対艦ミサイルで攻撃するという手順を予定していましたが、実際の巡洋艦モスクワ攻撃ではどのような攻撃方法だったのかはまだ発表がありません。

 なおロシア海軍は巡洋艦モスクワが被弾する2日前に、黒海艦隊のフリゲート「アドミラル・エッセン」がウクライナ軍のバイラクタルTB2無人機を撃墜したことを誇る動画をUPしていました。これはウクライナ軍がドローン(無人機)による洋上索敵を積極的に行っていた可能性を示しています。

 あるいは無人機のバイラクタルTB2はロシア海軍を油断させるための囮で、本命の対艦索敵はアメリカ軍の偵察手段だった可能性もあります。一部のウクライナ報道ではバイラクタルTB2を囮に使ってその隙にネプチューンで攻撃した戦法が示唆されています。

 黒海にはアメリカ軍の大型無人偵察機「グローバルホーク」が開戦後も頻繁に飛んで来ていたので、巡洋艦モスクワの位置情報の提供を行っていた可能性があります。ただしこれが仮に事実だとしても公表したらロシアを怒らせるので、黙っている筈です。

 まだ不明な点は多いのですが、今回のネプチューンによる歴史的な大戦果の詳細はいずれ明らかにされていくことでしょう。

【参考外部記事】ウクライナ軍事ポータルサイト「Український мілітарний портал (ウクライーンシクィー・ミリタリニィー・ポルタル)」の英語版記事より。
The first battalion of “Neptune” coastal missile system will be delivered by April 2022 – Neizhpapa
“Moskva” missile cruiser – the flagship of the Russian`s Black Sea Fleet – sank

※なおネプチューンの発射車両は試作型と量産型で車両が異なります。
試作型の発射車両:КрАЗ-7634НЕ(ウクライナ製)
量産型の発射車両:タトラT815-7(チェコ製)

【私の論評】海戦の主役が変わったことを告げる「モスクワ」撃沈(゚д゚)!

今回の、モスクワの沈没に関しては、アメリカ国防総省 カービー報道官は、
「ウクライナ側が言うようにミサイル攻撃によるものかは確認できないが、それに反論する立場でもない。ウクライナ側がミサイルで攻撃したというのは、ありうることだ」と語っています。

上の記事では、ウクライナ側がミサイル攻撃したという記事が正しいものとして、ウクライナ側の主張を掲載しています。

この記事も、このウクライナ側の主張が正しいものとして、解説します。今回のモスクワ撃沈は、もう数十年前からいわれていた海戦の変貌ぶりを示したものといえます。

NHKどらま「坂の上の雲」で放映された日本海海戦における日本艦隊の旗艦「三笠」

海戦の主役は大きく2回変わっています。最初は、「大艦巨砲」ともいわれるように、巨砲を何門も持つ大艦同士が、海上で大砲撃戦を行い、海戦の雌雄を決定しました。その典型的な事例は、日露による日本海海戦です。

次の時代は、空母打撃群による海戦です。空母を主力とする艦隊を空母打撃群と呼び、この空母打撃群の空母以外の艦艇は、空母を護衛するのが主な目的であり、空母に積載した航空機が、海戦の雌雄を決めることになりました。その典型例は、大東亜戦争における太平洋の戦いです。

日本では、空母打撃群という呼び名はありませんでしたが、本格的な空母打撃群を最初に運用したのは、日本海軍でした。この空母打撃群は、ハワイ真珠湾攻撃等で活躍しましたが、やがて物量にまさる米軍が、空母の数でも、航空機の数でも日本をはるかに上回るようになり、各地で日本の空母打撃群を破るようになりました。

米国のハワイには、真珠湾の戦いの記念館があります。そこには、日本海軍が最初に空母打撃群を運用しはじめたということが展示物で示されています。米軍はそれを参考にして、空母打撃群を運用させるようになり、今日米海軍の主力になっているという旨のことが展示されています。

発艦した航空機から撮影した空母「赤城」

そうして、数十年前までは、実際にそうでした。しかし、もう随分と前から、実は空母打撃群は海戦の主役ではなくなっています。その主役は何かといえば、第二次世界大戦までは脇役であった潜水艦です。

このブログにも以前述べたように、米国の戦略家である、エドワード・ルトワック氏は次のように語っています。

「現在では、艦艇は2種類しかない、空母やイージス艦のような水上艦艇と潜水艦の二種類しかない。そうして、水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない。しかし、潜水艦はそうではない、水中に潜航して、容易に撃沈されることはない。現在の海戦の主役は潜水艦なのだ」

この言葉、最初はルトワックが語ったのかと思っていましたが、そうではないようです。潜水艦が原子力で動くようになり、さらに魚雷だけではなくミサイルを装備するようになった頃から言われはじめたそうです。

そうして、ロシアは2020年トルコ軍兵士が27日にシリアのアサド政権軍の空爆で死亡したことを巡り、トルコ側の対応に問題があったと主張し、シリア沖に巡行ミサイルを搭載した艦船2隻を派遣したことがあります。そのときの1隻が今回撃沈された「モスクワ」です。ルトワックは、これについて以下のような発言をしています。

「ロシアのミサイル巡洋艦など、象徴的なものにすぎない。米軍なら5分で吹きとばせる」

これは、事実なのでしょう。だからこそ、今回「モスクワ」はウクライナ軍に撃沈されたとウクライナ側は公表し、米国もこれをはっきりとは否定しなかったのでしょう。

無論、ルトワックの脳裏には、攻撃型原潜などを想定したものと思います。米国の攻撃型原潜の大型のものになると、100発以上もの巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できます。しかも、米軍はロシア軍よりも、対潜哨戒能力に優れていいます。

この攻撃型原潜が、ロシアの艦艇を攻撃すれば、ひとたまりもないでしょう。

ただ、今回のウクライナによる「モスクワ」攻撃は、地上のミサイルランチャーから、ネプチューンを発射して撃沈したとされています。潜水艦から発射したものではないですが、ルトワックも語っていた「水上艦は空母であれ、他の巨大な艦艇であれ、いずれミサイルや魚雷で撃沈されてしまう。もはや、大きな目標でしかない」という発言を実証したといえます。

考えてみると、フォークランド紛争時には、ルトワックの語ったことは、現実になっていたと考えられます。

1982年3月のフォークランド紛争では、イギリス海軍の原子力潜水艦「コンカラー」によるアルゼンチン海軍巡洋艦「ヘネラル・ベルグラーノ」の撃沈はアルゼンチン海軍の戦意に冷や水を浴びせることになり、空母「ベインティシンコ・デ・マヨ」を始めとしたアルゼンチン海軍の水上戦闘艦は現存艦隊主義に転じて、二度と出撃してくることはありませんでした。

潜水艦の能力でも、対潜哨戒能力でも英軍に著しく、劣っていたアルゼンチン軍は、海戦においては最終的には、英軍の敵ではなかったようです。ただ、英軍はそれまでアルゼンチン軍のフランス製のエグゾセミサイルで、駆逐艦「シェフィールド」が沈没するなどの被害を受けています。

「モスクワ」と同程度以上の艦艇が撃沈されたのは、フォークランド紛争以来といわれています。今回の「モスクワ」撃沈により、まさに、水上艦は現代の海戦においては、「ミサイル」や「魚雷」の大きな目標にすぎないことが、さらに鮮明になったといえます。

なお、先のルトワックの発言については、「極端」と批判する人たちもいますが、今回の「モスクワ」撃沈が本当であったら、「極端」とはいえないと思います。

このブログでは、こうしたルトワック氏の発言などにもとづいて、私は日本の潜水艦隊の優位性を主張してきましたが、半信半疑の人も多いようです。今回の「モスクワ」撃沈がウクライナのミサイルのものであれば、「極端」とはいえなくなると思います。

陸上から放つミサイルも、水中から放つミサイルも同じことですし、潜水艦からの発射は、陸上からよりも、敵に発見されにくく軍事的にさらに有利といえます。しかも、日本の潜水艦のステルス性は「世界一」であり、この優位性についても理解が進むと思います。中国の台湾侵攻に関して、まるでこの世に潜水艦など存在しないかのような論評をする人もいますが、それでは全く意味がありません。

ウクライナ軍が日本の海自なみの最新鋭の潜水艦を持っていれば、軍事上かなり有利になっていたと思われます。もしそうだったら、初戦でロシア黒海艦隊は壊滅していたことでしょう。さらに、潜水艦からミサイルを発射し陸上の主要な目標を破壊し、かなり有利に戦争を遂行できたと思います。

このブログで、以前紹介したように、トランプは、「(プーチンが)またその言葉(核兵器)を口にしたら、われわれは原子力潜水艦核を送って、沿岸を上下左右に航行させるぞと言うべきだ」と語っていました。

これを、かなり物騒な発言とするむきもありますが、これはプーチンに対してかなりの牽制になりますし、核ミサイルでなくて、通常のミサイルを搭載する攻撃型原潜を派遣しても、ロシア側にとってかなりの脅威となるでしょう。

何しろ、米国の攻撃型原潜でも大型のオハイオであれば、巡航ミサイル・トマホークを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。無論、その他にも魚雷、防空ミサイルも搭載しています。

このような攻撃型原潜を、2〜3隻黒海でも配置すれば、巨大なミサイル基地が即座にできあがり、米国のインテリジェンスンスに基づき、ロシアの軍事拠点を攻撃をすれば初戦でロシア軍は崩壊していたかもしれません。

今後の軍事研究の発展のためにも、ミサイル巡洋艦「モスクワ」の撃沈が、ウクライナのミサイルによるものだったのか、公表していただきたいものです。

それにしても、今回の「モスクワ」の沈没、ウクライナ側の発表が正しかろうが、正しくなかろうがロシア軍にとっては大打撃であることには変わりはないです。過去の日本の例でいえば、開戦2ヶ月目にして、連合艦隊の旗艦「大和」が沈んだようなものです。ロシア軍の士気の低下は免れないと思います。

ミサイル巡洋艦「モスクワ」

モスクワは、ロシア軍が3隻しか保有していない大型巡洋艦の1隻です。搭載する防空ミサイルシステムS300でウクライナ軍の戦闘機や無人機をけん制し、南部一帯での部隊展開を支えてきました。黒海艦隊は、ロシアにとって重要な標的である港湾都市オデッサなどの攻略を目指していました。

ところが独立系メディア、メドゥーザによると、ロシア軍はモスクワを失ったことで、残る部隊をウクライナ軍の攻撃から防ぐ能力が著しく衰える恐れがあります。ロシアとウクライナの交戦を理由に、トルコが黒海への軍艦の侵入を制限しているため、ロシアが地中海経由で代替の巡洋艦を派遣することも難しいです。

侵攻以降のロシア軍の被害も甚大とみられます。ウクライナ国防省は15日、ロシア軍の死者が「2万人を突破した」と発表。ロシア側は最新の死者数を1300人余としていますが、契約軍人を募るキャンペーンを強化するなど、実際は兵力不足が深刻な可能性が高いです。

こうした状況の中、ロシアの政権与党幹部は15日「軍事作戦は間もなく完了する」と同国メディアに強調。5月9日の対独戦勝記念日に合わせた「勝利宣言」名目で、プーチン大統領が幕引きを図る可能性も大いにありそうです。

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2022年2月11日金曜日

AUKUSで検討されている新戦略―【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論は、あってしかるべき(゚д゚)!

AUKUSで検討されている新戦略

岡崎研究所

 1月21日付のASPI(豪戦略政策研究所)Strategistで、元豪州国防省戦略担当副長官のピーター・ジェニングスが、AUKUS(豪英米軍事同盟) による豪州の原潜調達がうまく行かない可能性がある、その場合の代替案としてB-21長距離爆撃機の調達を検討すべきだと述べている。
 

 ジェニングスは、元米国防次官補のシュライバーが「両国の政治指導者の持続的なコミットメントが必要であり、それがなくなれば豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べたことを紹介し、①原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)が必要だ、②B-21(最新長距離爆撃機)の調達を検討すべきだと主張する。

 B-21は高い柔軟性、早い補充性等の利点を有するという。しかし、B-21も最新技術を使用しており、米国の技術供与同意はジェニングスが前提にするほど簡単ではないであろう。

 大きな驚きはない。昨年9月15日、AUKUSは良い意図をもって作られ、豪州が英国または米国製造の原潜8隻を購入、運用することに合意したが、契約済みの仏通常推進潜水艦購入計画を破棄し、米国の同盟国であるフランスを激怒させた。

 更に原潜の技術移転や必要なインフラ整備、人員の訓練、財政負担、就役予定、運用方針など莫大な問題が残っており、全体としてやや拙速に進められた感は免れなかった。国際原子力機関(IAEA)のセーフガード適用も厄介な問題として残っている。更にジェニングスが指摘する米国海軍の反対や米豪英3カ国の指導者交替などは、原潜の成否に大いに関係するであろう。

 インド太平洋の戦略情勢に大きな影響を与えるこのプロジェクトの進捗を注意深くフォローしていく必要がある。

豪州に原潜は来ないかもしれないという警告

 この論説の契機になったのは、シュライバーの見解を報道した1月16日付オーストラリアン紙記事(「元トランプ政権高官、豪州に原潜は来ないかもしれないと警告」)と思われる。同記事の主要点は次の通り。

 (1)シュライバーは、米国海軍の反対や米豪両国の政治的交替を含め「双方にある多くの潜在的障害」のために8隻の原潜の豪州供与は実現しないかもしれないと述べるとともに、「(原潜計画への)両国政治指導者の大きなコミットメントが必要であり、それがないと豪州の原潜展開の可能性は50%以下になる」と述べた。

 (2)先月米国大統領府は、豪州への原潜の「できるだけ早期の」供与は順調に進んでいるとの声明を出し、原潜展開は想定より遅くなり、コストも仏通常潜水艦購入に比べ一層大きくなるとの推測を打ち消そうとした。

 (3)シュライバーは、「インド太平洋におけるフランスとの関係を修復する必要がある。フランスは当該地域で英国よりも大きい安全保障上、人口上の存在である」と述べるとともに、ダットン(豪国防相)やアボット(元首相)が言っている米原潜の貸与(リース)案について「難しいが不可能ではない」、「その場合、米国の船員も乗船するか、米国が原潜につき究極的なコントロールをすることが必要になろう」と述べた。

 (4)昨年9月のAUKUS発表では、原潜技術を英米のどちらが供与するのか、如何なるコストがかかるのか、いつ原潜建造が完了するのか、どの部分が南豪州で製造されるのかなどについては明らかにされていない。

 (5)戦略国際問題研究所(CSIS)のエデルは、大統領府が海軍の反対を抑えない限りAUKUS の原潜は「実現する可能性は少ない」と述べ、「米国海軍は最重要の技術の共有には極めて慎重、理由は技術の安全保障上の懸念と共に安全上の懸念にある」と述べた。

【私の論評】AUKUS内で豪が、2040年最初の原潜ができるまでの間、何をすべきかという議論はあってしかるべき(゚д゚)!

豪州に原潜は来ないというのは明らかな事実です。少なくとも、2040年までは来ません。実は米英の技術提供の下で豪で製造される潜水艦は原子力潜水艦で完成は2040年になってしまうからです。2040年というと、18年後です。約20年後です。

昨年9月16日のAP通信が“Australia: Strategic shifts led it to acquire nuclear subs”(オーストラリア:戦略的転換により原子力潜水艦を保有することになった)というタイトルで、オーストラリアのモリソン首相の言葉として伝えています。

AUKUS結成を伝える豪モリソン首相

報道によればモリソン首相は「オーストラリアの都市アデレードに建設される予定の原子力潜水艦の1号機は、2040年までには建造されるだろうと期待している」と語ったといいます。

なぜオーストラリアの原潜製造が20年先の2040年にしか完成しないかといえば、やはり人材の欠如でしょう。日本などは、原潜を製造した経験こそないものの、原子炉や通常型潜水艦の技術はあり人材も存在しますから、日本が米英からでも技術供与をうけながら、原潜開発ということになれば、10年以内にできるでしょうが、オーストラリアには原発も潜水艦製造の技術もありません。

そもそも、オーストラリアには原発がありませんし、通常型潜水艦は他国から導入(コリンズ型はスウェーデンから)したものです。

オーストラリアにとって、原潜を製造することは、何もないところから一つの巨大産業を起こすようなものであり、それには膨大な労力と、経費と時間がかかるのです。

そうはいっても、オーストラリアで製造しなければ「レンタル」に等しく「技術移転」にはならず無意味です。

2040年と言えば、マスコミなどによれば中国のGDPはとっくに米国を抜いているとされる時期です。ただ私自身は、このブログで何度か述べているるように、中国の一人あたりのGDPは一万ドルくらいになったため、今後は中所得国の罠にはまり経済が伸びることなく、そうなるとは思いませんが、それにしても20年後というと隔世の感があります。生まれたばかり赤ん坊が、成人するまでの時間です。

私は、この頃には、米国による制裁や、中国自身の問題で、中国の将来は見通せる状況になっており、さほど危険な国ではなくなっている可能性が大きいと思います。そもそも、現体制がそのまま続いているかどうかさえ疑問です。その頃になって、はじめてオーストラリアが原潜を持ったにしても、ほとんど意味がなくなっている可能性すらあります。

20年も経つうちにはオーストラリアの首相は何代も代わっているでしょうし、国内世論もどうなっているか分からないです。

オーストラリアは元々は「反原発」の国なので、そもそも国民が受け入れるのか否かという面もあり、2040年までの政権交代の中で廃案になっている可能性すらあります。

そうなると、20年後までAUKUS内でオーストラリアを機能させないままにするのかという議論にもなると思います。それは、あり得ないでしょう。

原潜が製造できるようになるまで、オーストラリアが何もしないというのでは、AUKUS結成の意味がなくなります。

上の記事で、シュライバー氏は、「原潜計画が旨く行かない場合に備えプランB(代替案)」としていますが、オーストラリアが原潜を製造できるようになるまでには、20年かかるというのですから、原潜計画が旨くいこうがいくまいが、当面のプランは当然に必要になると思います。

2020年2月、蔡英文台湾総統(右)を表敬訪問したシュライバー氏(左)

オーストラリアがB-21長距爆撃機を所有するというのも一つの案だと思います。上の記事にもあように、「ダットン(豪国防相)やアボット(元首相)が言っている米原潜の貸与(リース)案について「難しいが不可能ではない」と思います。

実際米シンクタンクのウイルソン・センターが主催したイベントに登場したアボット元豪首相は「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得したい」と語り注目を集めました。

米英と締結した地域安全保障条約(AUKUS)に基づく原潜導入を発表したオーストラリアはその後18ヶ月間の時間を費やし「どんな原潜をどのような手順で何時までに導入するのか」を決定するため、現時点では「原潜を導入」としか分かっていないですが、新たな国が「第3ヶ国の支援を受けて原潜を調達する」というプロセスは非常に稀(ブラジルのみ)なため世界中が注目をしており、この話題に触れるオーストラリアの政治的指導者も多いです。

アボット元豪首相もその一人で米シンクタンクのウイルソン・センターが主催したイベントで「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得したい」と独自の考えを語り注目を集めました。

アボット元豪首相は「米海軍から退役するロサンゼルス級原潜を1隻か2隻取得し、オーストラリア海軍の指揮下で運用することは可能だろうか?私がもしロンドンにいれば英国に同じような提案をするだろう」と語りました。

さらに、訓練目的で取得するロサンゼルス級原潜は「必要に応じて西太平洋での戦力増強に貢献することもできる」と独自の原潜導入アプローチを披露しましたが、米メディアのTheDriveはアボット元豪首相の提案は「米国の政治的指導者の決断がなければ実現が難しい」と見ているのが興味深いです。

真珠湾に入港するロサンゼルス級原潜

TheDriveは「2015年まで首相を務めたアボット氏はモリソン政権に参加していないが依然として自由党の一員であり、元豪首相という立場で原潜導入に関する発言を行った裏には豪外務・国防省からの非公式の依頼か承認があったはずだ=事実上モリソン政権の意向という意味」と指摘した上で「控えめに言っても興味をそそられる」と言っています。

ただ、退役するロサンゼルス級原潜をオーストラリアに移転するには核燃料の補給とオーバーホールが必要で潜水艦自体の寿命延長プログラムも行わなければならず、原潜を第3国に移転するためのルール整備も手つかずの「未知の領域」だと主張しました。

しかしオーストラリアが原潜を製造できるようになるまで、オーストラリアがAUKUS内で何もしないということはありえませんから、これとは別に、オーストラリアが戦略爆撃機を運用できるようにしたり、退役する米原潜を運用できるようにするなどのこともすべきでしょう。あるいは、通常型潜水艦をレンタルするというのもありだと思います。

そうして、オーストラリアによるロサンゼルス級の取得はバイデン大統領の鶴の一声で政治的に実現する可能性も十分にあります。

AUKUSで検討されている新戦略とは、まさに直近でオーストラリアは対中国で何をすべきかという課題の検討ということだと思いますし、これはなされてしかるべきものだと思います。


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2022年6月30日木曜日

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で―【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

原潜体制に移行する周辺国 日本は原潜・通常潜の二刀流で


 先日、参院選を控えて、各党党首による政治討論が放映された(フジテレビ)。その中で、原子力潜水艦の保有の是非について、議論があり、筆者がかねて主張しているところから、興味深く視聴した。短い時間制限の中、深い掘り下げた議論には至らなかったが、結論は、維新・国民・NHKの3党が導入・装備に賛成し、自民・公明・立民・共産・社民・れいわの6党が反対した。若干の所見を披露したい。

誤解招く「1隻1兆円」

 岸田文雄首相(自民党総裁)の発言の要旨は、「防衛力強化は行わねばならぬが、いきなり原潜はどうかと思う」「我が国は原子力基本法による平和利用の方針がある」「運用コストが高い」「(中国を念頭に)対応はしっかり整備されている」といったところであるが、現状肯定を金科玉条とする体制側の悪い側面が出た主張で、将来を見越した英明さに欠ける。原子力基本法は、何と70年前の法律である。

 中国は原潜体制を着実に拡大し、その拠点を南太平洋、インド洋に設けようとしている。隣国韓国・北朝鮮も原潜装備を計画中である。QUAD(クアッド)態勢を重視する我が国であるが、インドは原潜(アクラ級2隻)を保有し、今年、豪州も米国からの原潜導入に踏み切った(バージニア級8隻)。このような情勢をどう判断しているのだろうか。新しい技術、国際政治情勢にも拘(かか)わらず、憲法と同様、過去の柵(しがらみ)から脱皮できないようでは、あまりにも情けないと言わざるを得ない。

 経費について、野党党首から「1隻1兆円」の発言があり、調べたところ、調達費・30年間のライフサイクルコストを合計すると1兆円という数値がインターネットで、読み取れる。30年間であるので年割330億円であり、如何(いか)に論戦とはいえ一般国民に誤解を与える数値を政治家たるもの、大いに慎んでほしいものである。因(ちな)みに豪州がフランスと進めていた先進通常潜水艦を米原潜に変更した陰には、性能・価格の高騰問題があるとされており、浅薄な懐勘定はすべきではない。

 ここで、原潜と通常型潜水艦の差異について述べたい。通常型潜水艦は、動力源はディーゼルエンジンであり、これにより搭載電池を充電する。潜航中は電池により、運航・機動・作戦行動に必要な動力すべてを賄う。従って潜航中は、必然的に電池容量を睨(にら)みながらの行動となり、高速での運航は、極端に制限される。ある程度の潜水行動後は、シュノーケル潜度まで浮上し、エンジンによる電池充電が必要である。電池性能は大きく進歩し、最近の潜水艦はリチウム電池の採用(海自たいげい型)に見られる如(ごと)く、かなりの期間、潜水運航が可能である。

海上自衛隊の「はくりゅう」(Wikipediaより)

 他方、原潜は、搭載する原子炉で全ての動力を時間に制限なく自給できることから、大型化(多機能化)、高速、深深度、長期間無寄港運航が可能であり、通常型とは性能のレベルが異なる存在である。先述のテレビ放送で、通常型が比肩できる性能を有し、瞬発力で原潜が勝る程度の解説字幕表示があったが、真に恥ずかしい真偽を問われる内容であると考えている。

 岸田首相の「対応力は整備されている」発言も問題である。現状での潜水艦警戒監視システム、日米共同の情報共有網、探知に有利な我が地勢等の総合力を踏まえての発言であろうが、軽率な発言である。静粛化技術の進歩、欺瞞(ぎまん)装置、無音状態で曳航(えいこう)、大洋適地で自力運航を開始する方法等、平時は「奥の手は見せない」のが、この世界での常識である。甘く見てはならない。

 全般に見て、与党の主張は、現在進めている通常型潜水艦体制の充実・発展に向けた態度が顕著であり、原潜はその次といった方針が見え見えである。新型電池搭載の「たいげい」以下の整備を進めることは大いに結構で反対するものではない。特異な列島地形、緊要な水峡を多数抱える我が国は、他国に無い通常潜の所要があることは十分理解する。

政治家に高い見識期待

 しかし周辺国の情勢は、間違いなく早晩、原潜体制に移行する。こと原潜整備に限れば、我が国の取り組みが最も遅れている現状にあることを承知し、原潜・通常潜の二刀流に取り組むべき時期に来ているのである。原潜保有をテレビ局が取り上げること自体、時代の変化を感じ、結構なことと感じているが、将来を見越した長期的観点と政治家の一層の高い見識を期待する。

(すぎやま・しげる)

【私の論評】日本が米国なみの大型攻撃型原潜を複数持てば、海軍力では世界トップクラスになる(゚д゚)!

上の記事で補足させていただくとすれば、まずは日本の通常型潜水艦は、ステル性(静寂性)に優れていることだと思います。特に最新鋭艦の場合は、無音に近いです。潜水艦の性能の細部などについては各国ともあまり表に出さないので、実際はどうなのかはわかりませんが、おそらく日本の最新鋭の通常型潜水艦のステルス性は世界一だろうとされています。

そうなると、日米海軍と比較すると、格段に劣る中露の対潜哨戒能力ではこれを発見するのはかなり難しいです。

一方、原潜については、補足することはほとんどありませんが、大型化(多機能化)ということでは、米軍の攻撃型原潜の例をださせていただくと理解しやすいと思います。

日本の通常型潜水艦も最近は大型化しています。最新艦の「はくげい」の基準排水量は、3,000トンであり、乗組員数は70名です。

一方米国の攻撃型原潜(核を搭載してない戦略型原潜ではない原潜)のオハイオ級の基準排水量は16,764 トンです。排水量だけて5倍です。乗員は155名です。日本の最新鋭イージス艦「はぐろ」の基準排水量が 8,200 トンですから、オハイオ級は2倍近いです。

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないですが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とする。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進します。 

海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみです。

 オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できる。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

この他にも、魚雷、対空ミサイル、対艦ミサイルを備えているわけですから、これは艦艇というよりは、水中の武器庫、水中のミサイル基地と言っても良いくらいです。

かつてトランプ氏が大統領だったときに、米国の攻撃型原潜のことを「水中の空母と評しましたが」このことを言いたかったのでしょう。

フランスの空母シャルル・ド・ゴールと並走する英国のコリンズ級原潜

こうした攻撃型原潜ですが、欠点もあります。それは、原子力潜水艦の構造上どうしてもある一体程度の騒音が出て、日本の通常型潜水艦のように無音にすることはできないのです。ただ、日本の技術をもってすれば、かなり静寂性に優れた潜水艦を建造できるだろうとはいわれいるようですが、それでも無音に近くすることは不可能とされています。

ただ、米国の巨大な攻撃型原潜にはこれを補ってあまりあるほどの利点があります。それは、やはり群を抜いた攻撃力と無限ともいえる航続距離を有していることでしょう。

それに、騒音という欠点は、日米であれば、対潜哨戒能力が高いので、十分補うことができます。そのせいもあって、日米は対潜水艦戦争(ASW:Anti Submarine Warefare)では両国とも世界のトップクラスといわれ、中露をはるかに凌駕しています。

こうしてみていくと、日本のステルス性の高い潜水艦は、あくまで艦艇であり、米国の大型攻撃型原潜のように水中のミサイル基地というわけではありませんが、ステルス性を生かして、敵に脅威を与えたり、情報収集活動には向いていることがわかります。

両者は同じ潜水艦というよりは、別ものと捉えたほうが良いです。日本が、専守防衛だけすると割り切るのであれば、現在の通常型潜水艦でも十分だと思います。ただ、専守防衛とはウクライナの事例でもわかるとおり、ロシア領内からミサイルを打ち込まれれば、国土が破壊され放題になります。

これに対抗するため敵基地攻撃能力も持とうとすれば、米国の大型攻撃型潜水艦のようなもののほうが、有効です。

それに、日本が専守防衛だけではなく、日本のシーレーンの防衛や、インド太平洋地域の安全保障にも関わるつもりであれば、攻撃型原潜は必須です。

両方を持ってれば、これらを有効に使うこともできます。まずは、ステルス性の高い通常型潜水艦で、情報収集活動をしたり、攻撃型原潜を脅かす艦艇・航空機・潜水艦などを攻撃して、これを守り、攻撃型原潜は、通常型潜水艦の情報に基づき、効果的な攻撃をすることができます。

敵基地攻撃は無論のこと、敵レーダー基地や、監視衛星の地上施設などを破壊することができます。

ちなみに、米軍は数十年前から通常型潜水艦の建造をやめ原潜の建造に集中したため、現在その建造能力は失われています。

一方日本は、原潜を建造したことはないものの、原子力産業が存在し、潜水艦建造能力もあることから、原潜の建造はやる気になれぱできます。

日本が、米国並の攻撃型原潜と、ステルス性に優れた潜水艦の両方をある程度以上持って運用することができるようになれば、海戦能力としては世界一になるかもしれません。

なぜなら、日本の最新鋭の通常型潜水艦は、米海軍てもこれを発見するのは難しいからです。そのステルス性に優れた、潜水艦と、攻撃型原潜が協同できるようにし、さらに世界トップクラスの対潜哨戒能力が加われば、これは海軍としてはも向かうところ敵なしということになります。

そうなれば、米国と並び世界トップクラスの海軍になるでしょう。

それは、中露が最も恐れているところだと思います。


横須賀に停泊中の米海軍の攻撃型原潜「イリノイ」を視察する元IEA(国際エネルギー機関)事務局長田中氏

元IEAの事務局長だった田中伸男氏は、以下のように主張しています。
日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れるが、毎日浮上する必要があり、秘匿性能と航続距離に課題がある。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄された。

敵国領内での基地攻撃の可否が議論されているが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御だ。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきであろう。

まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要だ。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきだが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると考える。

私もこの意見には賛成です。米国からまず1隻を購入するなり、リースするなりすれば、良いと思います。潜水艦建造能力や原子力産業がある日本が、まず一隻を購入するなりリースするなりした上で原潜建造に取り組めば、オーストラリアより先に原潜を建造できるようになる可能性もあります。

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2025年4月21日月曜日

〈提言〉トランプ関税にどう対応すべきか?日本として必要な2つの分野にもっと支出を!—【私の論評】トランプ関税ショックの危機をチャンスに!日本の柔軟な対応策と米日協力の未来

〈提言〉トランプ関税にどう対応すべきか?日本として必要な2つの分野にもっと支出を!


原田 泰( 名古屋商科大学ビジネススクール教授)
まとめ
  • トランプ大統領の相互関税政策は世界経済を揺らし、株式市場の下落とドルの下落を引き起こすが、政策は一貫性がなく影響が不透明。
  • 製造業を米国に戻す意図は理解できるが、造船業や半導体産業の衰退と戦略不在により、関税政策だけで復活は困難。
  • 日本は関税ショックに備え、給付金(1人5万円、総額約6.35兆円)や減税を検討するが、関税の詳細不明で議論は停滞。
  • 輸出額21.6兆円に24%関税が課されると仮定すると、約5.3兆円(GDPの1%弱)の需要減が発生し、一律給付金や減税が有効な対策とされる。
  • 防衛装備増産や老朽インフラ整備など必要性の高い投資を優先し、特定産業への補助金は産業構造転換を遅らせるリスクがある。
各国との相互関税に関する説明をするトランプ大統領

 トランプ大統領の相互関税政策により、世界経済は大きく揺れ、株式市場は下落と反発を繰り返し、ドルも下落している。トランプ氏は高関税を掲げる一方で、特定の製品への関税を免除したり延期したりと政策が場当たり的で、実際の影響は不透明だ。米国への輸出品に24%の関税が課されると仮定すると、日本からの輸出額約21.6兆円(2024年)が影響を受け、約5.3兆円の需要減(GDPの約1%)が発生する可能性がある。

 トランプ氏の目指す製造業の米国回帰は、歴史的に米国が第二次世界大戦で兵器供給の中心だったことを考えると理解できる。しかし、造船業や自動車、半導体産業が衰退した現状では、武器や軍服すら国内生産が難しい。包括的な戦略や同盟国との分担計画が見られず、朝令暮改の関税政策では製造業の復活は困難とされる。

 日本は関税ショックに備え、1人あたり5万円の給付金(総額約6.35兆円)や消費税減税、ゼロゼロ融資の復活など景気刺激策を検討中だ。しかし、関税の詳細が不明なため、議論は収束しつつある。特定産業への補助金は産業構造転換を遅らせるリスクがあり、恒久的な関税なら尚更問題だ。一方で、一律給付金や減税は需要ショックへの一般的な対策として有効だ。

 さらに、防衛装備品の増産や老朽インフラの整備など、必要性の高い分野への投資が推奨される。防衛装備は国産と同盟国からの輸入のコスト比較やウクライナ戦争の教訓を反映すべきだ。インフラ整備は限界を認め、必要な部分に集中投資する。また、ミサイルや戦闘機を守る施設の建設は公共事業として既存予算を再配分できる。

 トランプ関税の影響がどうなるかはまだ分からないから、どう対応すれば良いのかが分かるはずがない。しかし、影響が需要ショックであることは確かだから、需要ショック対策の準備はしておいた方が良い。

 ショックを受ける産業に個別に対応するより、減税や給付金などの一般的な対応が望ましい理由もある。また、軍備の増強、老巧インフラの立て直しなど、どうせ必要なことを早めに進めるという方策もある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】トランプ関税ショックの危機をチャンスに!日本の柔軟な対応策と米日協力の未来

まとめ
  • トランプ関税の不確実性により具体的な対策は困難だが、需要ショックが予想されるため、一律給付金や減税、防衛・インフラ投資などの一般的な対応を準備し、経済の安定と長期強化を図るべきである。
  • 日本はトランプの貿易不均衡是正要求に応え、攻撃型原潜購入、エンタメ企業買収、大学投資で協力姿勢を示し、関税リスクを軽減しつつ米日関係を強化する。
  • 関税ショックは日本や他国の長年の問題解決の契機となり得るため、報復関税を避け、柔軟な対応で米中対立を静観しつつ、経済改革のチャンスと捉えるべきである。
需要ショックとは、経済全体や特定市場で商品・サービスの需要が急激に増減する現象だ。政策変更や自然災害、関税導入といった外部要因が、消費者や企業の購買行動を一変させる。需要が減れば、企業の売上が落ち、生産や雇用が縮小し、経済成長が鈍る。逆に需要が増えれば、供給不足や価格高騰を招く。トランプ関税の場合、輸出品の価格上昇で需要が減少し、経済にマイナスの需要ショックが予想される。

トランプ関税の具体的影響は予測不能

トランプ関税の展開は予測不能だ。どの産業が、どの程度影響を受けるのか、誰も見通せない。具体的な対策を今打つのは難しい。しかし、関税が需要ショックを引き起こすことは確実だ。だからこそ、一律の給付金や減税といった一般的な対策を準備すべきだ。さらに、防衛装備の増産や老朽インフラの整備など、必要不可欠な分野への投資を優先し、経済への打撃を和らげつつ、長期的な国力強化を図る。これが核心だ。関税の不確実性に振り回されず、広範で柔軟な対応が求められる。

トランプは米国の貿易赤字(2024年で1.2兆ドル)を問題視し、是正を掲げる。日本は同盟国として協力姿勢を示し、関税リスクを軽減する必要がある。攻撃型原潜の購入、エンタメ企業の買収、大学への投資は、米国の輸出を増やし、米日関係を強化する有効な手段だ。これらは需要ショック対策を補完し、トランプの「相互的貿易」の要求に応える。

米海軍の原子力潜水艦「オハイオ」の後部デッキに上面にある巡航ミサイル「トマホーク」の発射口

原潜購入は米国の防衛産業を支え、米日同盟を固める。日本のF-35購入(230億ドル)やAUKUSの原潜計画(30億ドル)は成功例だ。財政負担や米国の生産制約が課題だが、トランプの経済強化の目標に直結し、関税交渉を有利にする。エンタメ企業の買収は、米国のサービス輸出(2023年黒字2780億ドル)を拡大する。ソニーのコロンビア買収(1989年、34億ドル)は米コンテンツ輸出を増やした好例だ。中規模企業への投資なら、米国の投資審査(CFIUS)を回避しつつ、シナジーを生む。

大学への投資は、米国の教育サービス輸出(2023年450億ドル)を支援する。特に、リベラル系大学への公的支援縮小(例:2024年ハーバード大学の連邦資金削減議論)で、投資の可能性が広がっている。韓国のサムスンの研究投資(1億ドル)は参考になるが、ビザ制限が壁だ。研究協業なら、日本の協力姿勢を効果的に示せる。これらの施策は、赤字の大幅削減には及ばないが、トランプの経済強化の目標に応え、関税回避に役立つ。EUのLNG輸入拡大(2018年)や安倍氏の投資約束(2017年、1500億ドル)は、その成功を示す。


日本だけでなく、EUなど他国も同様の柔軟な対応が求められる。国柄を踏まえ、協力姿勢を示すべきだ。報復関税や非関税障壁の新設は愚策だ。中国は報復関税を選び、米国との対立を深めた。自ら墓穴を掘ったのだ。日本を含む他の国々は、柔軟な姿勢で関税ショックを和らげ、米中間の争いに収斂させるのが賢明だ。様子見が最上の策である。

この関税ショックは、実はチャンスかもしれない。日本や多くの国は、長年の問題を抱えている。解決には戦争のような大きなショックが必要だが、関税ショックはそれに次ぐ力を持つ。戦争と違い、人的被害や国土の荒廃はない。トランプ関税は、日本の停滞を打破し、問題解決の端緒となる可能性がある。柔軟に対応し、未来を切り開くべきだ。

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