2022年5月31日火曜日

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか―【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

中国はウクライナ戦争で台湾戦略を変化させるのか

岡崎研究所

 バーンズ米中央情報局(CIA)長官は、5月7日に行われたフィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューで、ウクライナ情勢は中国指導部の台湾統一戦略に何らかの影響を与えているだろう、と述べた(CIA director says China ‘unsettled’ by Ukraine war, FT, May 8)。バーンズは以下の諸点を指摘する。


・習近平がロシアによるウクライナ侵略の残忍性との関連により中国にもたらされる可能性のある評判の低下に少々動揺し、戦争がもたらした経済的な不確実性にも不安になっているとの印象を強く受ける。

・中国は「プーチンがやったことが欧州と米国を接近させた事実」にも失望しており、台湾につき「どんな教訓を引き出すべきか慎重に検討している。

・プーチンのロシアからの脅威を過小評価することは出来ないが、習の中国は「われわれが国家として長期的に直面する最大の地政学的課題」だ。

 上記のバーンズの発言は、慎重な言い回しのなかにも、米CIA当局の判断が的確に示されている、と言って良いだろう。

 プーチンと習近平は、オリンピックの開会式に合わせて北京で会談し、両者の間の連携には「限界」はない、と宣言した。しかし、ロシアのウクライナ侵攻後、欧米各国の間で反ロシアの同盟関係が急速に進んでいることを見て、習近平は不安の色を隠せないようだ。

 バーンズの見る通り、習近平にとっては、ロシアの侵略がはじまってから、10~12週間がたち、中国にとっては、台湾問題との関係で、自分たちの計算が狂ってきたと思っているのではないか。習近平にとっては、ロシアの無謀な侵略とロシア経済が制裁によって受ける不確実性を中国としては今後どのように考えればよいのか、という点も重なっているだろう。

 いまだ台湾に残る米国が助けてくれるかの懸念

 ウクライナのケースと台湾のケースを比較することには慎重でなければならないが、「台湾関係法」という国内法をもち、台湾の防衛に事実上コミットしている米国としては、台湾を「準同盟国」として扱う以上、もし将来、中国から台湾への一方的な軍事侵攻があれば、台湾を如何に支持、防衛するか、について、今回のバーンズ発言からは、今一つ明瞭な答えは出ていないといえよう。

 現在、台湾住民たちにとっての最大の関心事は、依然として「いざとなったとき、米国は助けにきてくれるだろうか」という一点に尽きるといえよう。これは、現在のバイデン政権の一大課題である。

 なお、バイデン大統領は5月23日、クワッドの首脳会合のために訪日した際、岸田文雄首相との首脳会談後の共同記者会見で、台湾が攻撃された際の米国の台湾防衛の意思を問われ、「一つの中国」政策を維持するとしつつ、「イエス」と答えた。

【私の論評】米軍による台湾防衛は実は一般に考えられている程難しくはないが、迅速に実行すべき(゚д゚)!

ヘインズ国家情報長官

バーンズ米中央情報局(CIA)長官が上記のような見解を示す一方、米国の情報機関を統括するヘインズ国家情報長官は10日、議会上院の公聴会で、台湾統一を目指す中国について「彼らは、われわれの介入を押し切って台湾を奪えるように懸命に取り組んでいる」と述べて、軍備の増強を進めているとの見方を示しました。

ただ「中国は武力衝突を避ける形で強制的に統一することを望んでいる」と述べて、軍事力を行使せずに統一を実現するため、外交、経済、軍事面で圧力を強めているとの考えを示しました。

さらにヘインズ長官は、中国がロシアによるウクライナへの侵攻について分析を続けているとの見方を示し「中国は欧米各国が一致して制裁を打ちだしたことに驚いている。彼らは台湾の文脈でもこのことを考えるだろう」と述べました。

そのうえで「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性があるとの見方を示しました。

ロシアのウクライナ侵攻の失敗は、中国が想像するほど台湾攻略は容易ではないというシグナルを中国に送るもので、自国より小さかったり軍事的に弱かったりする相手をミサイルで負かすことができるという誤った通説を打ち砕くことにもなるのは間違いないようです。

ウクライナで破壊されたロシアの戦車

米空軍の上級戦略顧問であるエリック・チャン氏はVOAに対して「ロシアのウクライナ侵攻が迅速な軍事行動によってウクライナ占領という『既成事実』を作ることを目的としていたように、中国も迅速な軍事行動によって台湾占領の既成事実を作ることを望んでいた。しかし、ウクライナ戦争が長引いていることで、中国の最高指導部は、これまでの作戦よりもさらに迅速で破滅的な戦略が必要だと考えるようになっている」と指摘しています。

つまり、艦船を多数遊弋(ゆうよく)させ時間をかけて台湾封鎖を実行する余裕はなく、いきなり台北などの台湾本土の重要都市へのミサイル攻撃や空爆、艦船による艦砲射撃などで主導権を奪い、米国などの外国勢力の支援が入る前に、多数の空挺部隊などを台湾に上陸させて、台北や高雄などの重要都市を占領し、1週間程度で中国の制圧下に置くという作戦です。

ある専門家は「そのために、台湾の物資、指導部、通信施設など、開戦当初はより強力に台湾を叩くことを検討するのではないか」と予測しています。

そのうえで、「中国は台湾に対する『法戦』を強化し、『台湾は中国の一部』であり、この戦いは『中国の内政問題』であることを国際的に強調し、米国やその他の国がウクライナと同じように台湾を援助することを警告・抑止する方式をとり、より長い時間をかけて、台湾の中国化を既成事実化するだろう」と指摘しています。

ただ、ロシア軍もこうしたようなことを実行しようとして、露軍が首都キーウ(キエフ)近郊のアントノフ国際空港を一時占拠したのですが、その目論見は失敗しました。そうして、制空権すら掌握できず、苦戦しています。

中国軍も、様々な企てをしつつ台湾に侵攻するかもしれませんが、それがすべて思い通りに進むとは限りません。

中国が一番簡単に間違いなく台湾に進行できる確実な方法があります。それは、恐ろしい話で書きたくもありませんが、全くの仮の話として書かせていただきますが、台湾に核ミサイルを打ち込み、全土を破壊し、その後に台湾に侵攻することです。そうなれば、中国は全く抵抗を受けずに台湾に侵攻することができます。

しかし、このことに意味があるでしょうか。そもそも、中国が台湾を侵攻する目的は何なのでしょうか。それには、遠大な計画があるのかもしれません。ただ、それを実現するためにも、まずは台湾を併合するというのが、中途の目標になるのは間違いないでしょう。

併合するためには、併合されるべき人達がいなければ無意味です。併合すべき、産業や物資などがあれば、なお良いです。しかし、台湾が核で完全破壊されたとすれば、人もほんどいなくなり、産業も何もありません。そんなところに人民解放軍が上陸したとしても、何の意味もありません。仮に生き残っている人がいたとしても、敵愾心に燃えているでしょうから、こう人たちを納得させ併合するのは至難の技です。

ただ、そうなる前に米国は中国に反撃するでしょう。そうして、その反撃は大方の人が想像するように、空母などの艦船や航空機、あるいは海兵隊によるものではないないでしょう。なぜなら、それには大きな犠牲が伴うからです。空母やその他の艦艇や、海兵隊員を載せた揚陸艦も、中国のミサイルの格好の標的になるだけです。

ですから、それはこのブログでも過去に掲載したきたように、攻撃型原潜による反撃になるでしょう。従来から述べているように、中国海軍はASW(対潜水艦戦)能力が、米軍よりも段違いに劣っているからです。

米攻撃型原潜は、大型になると1隻で100発以上ものトマホークを搭載できます。これらを台湾近くの海域に交替しつつ常時2〜3潜ませれば、米軍は台湾を常時包囲できます。台湾の近くには、日本があり、日本には米潜水艦隊の基地もあり、交替はスムーズにいくでしょう。

それに加えて、米軍は最近潜水母艦フランクケーブルを日本に寄港させたりしていますが、これにより、台湾付近の原潜は緊急時には、交代せずとも、ミサイル、食糧、水などの補給をうけて長い期間台湾包囲の任務につくことができます。

潜水母艦「フランクケーブル」

中国軍はこの包囲を容易に破ることはできません。対潜哨戒能力に優れた米軍は、まずは中国の潜水艦を台湾付近から追い払うか、撃沈するでしょう。その後、中国が台湾に艦艇で上陸部隊を送れば、これを撃沈するでしょう。

仮に上陸させるることができても、台湾は米原潜に包囲されていれば、これを突破することができず、補給線や航空機による補給ができなくなります。そうなれば、台湾に上陸した人民解放軍はお手上げ状態になってしまいます。

米軍の台湾防衛というと、すぐに空母だのイージス艦だの、航空機や海兵隊がどうのなどと思い浮かべるから防衛が難しいと思うのかもしれませんが、攻撃型原潜で台湾を包囲して防衛すると考えれば、これはかなりやりやいです。何しろ、現在の攻撃型原潜は、様々な大量兵器の格納庫と化しています。

対艦ミサイル、魚雷、巡航ミサイル、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)、核も通常型も搭載できます、まさに、現代の潜水艦は、水中のミサイル基地なのです。しかも、敵はなかなか発見されにくく、原潜ならほぼ無限に近いくらい潜航できます。水も、酸素も生成することができます。ただし、従業員の休養や物資、武装の補充のために、定期的にいずれかの港に寄港する必要はあります。

ただ、心配なのは、米軍がどのタイミングで、台湾封鎖をするかです。私は、もし中国が台湾に核先制攻撃をかけて台湾を崩壊させた場合は、確実に台湾を包囲すると思います。確かに、これをしてしまえば、中国が台湾を併合する意味はなくなりますが、それでも台湾を軍事拠点として利用できます。

中国軍がこれを目指して、中国軍を上陸させようとした場合、米軍はこれを阻止するために、台湾を潜水艦で封鎖するでしょう。

もし、台湾危機がバイデン、もしくはバイデン以降でも、バイデンのような大統領であれば、核戦争になることを恐れて、なかなか包囲に踏み切れず、それこそ台湾が核攻撃を受けたあとに重い腰をあげるということになるかもしれないです。

ただこのようなことだけは、避けていただきたいです。中国が台湾侵攻の素振りをみせれば、できるだけ早い時期に実行すべきです。どの時点で米軍が決断しても、中国の台湾侵攻を防ぐことができます。たとえば、仮中国軍が台湾にかなり上陸してしまったとしても手遅れにはなりません。封鎖してしまえば、補給ができなくなり、中国軍はお手上げになるからです。

そうして、これは比較的やりやすいです。なぜなら、同じ原潜でもSLBM原潜(核兵器搭載原潜)ではないので、核戦争を招く可能性は低いからです。それに、米軍は中国軍より、ASWでは格段に優勢なので、犠牲者もほとんど出ません。

それに、原潜を台湾近海に潜ませておけば、それだけで抑止力になります。中国海軍が、台湾侵攻の素振りをみせた場合、攻撃型原潜が何らかの形で威嚇をすれば、中国は台湾侵攻を思いとどまるかもしれません。

トランプ氏は、黒海に核武装した原潜を派遣せよと述べたことがありますが、これはアイディアとしては悪くはないですが、あまり実用的ではないと思います。

なぜなら、黒海に米原潜を派遣すれば、黒海艦隊は沈黙するでしょうし、ウクライナは穀物を輸出できるようになるかもしれませんが、軍事的にはロシア軍が黒海艦隊の行動を封じられたとしても、ロシアとウクライナは陸続きなので、ロシア軍の補給を絶つことはできません。

やはり、ウクライナと台湾では状況が全く異なります。米政権としては、このようなことを踏まえて、台湾有事が懸念された場合は、迅速に行動していただきたいものです。はやく行動することが台湾の安全保障により多く貢献することになります。

台湾が核兵器で完全破壊されてしまってから動くようでは、中国が台湾を軍事基地化することを防ぐことはできますが、国際的にかなり非難されることになるでしょう。アフガンの撤退で失敗し、ウクライナの安全保障で失敗し、台湾でも失敗と評価されることになるでしょう。

日本としても、中国との有事があった場合は、米国は日本が焦土と化してからでないと、米国は助けに来ないと判断せざるを得なくなるでしょう。米国の国際的な地位はかなり下がることになります。

中国軍が台湾に侵攻しようとし、それに米軍が対抗して攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、台湾近海の、すべての中国の艦艇は撃沈され、航空機も甚大な被害を受けることになるでしょう。

仮に台湾に、上陸部隊を送り込めたとしても、補給ができずに、陸上部隊はお手上げになりことになります。しかも、ASWに劣る中国軍はこれに有効に反撃する手立てはないのです。予想されるのは、ほとんど無傷の米軍と、壊滅的打撃を受ける中国軍です。

その後は、米潜水艦隊が国際的非難を受けることもなく、中国近海を遊弋し、中国海軍は港を一歩も出ることができなくなるでしょう。それどこころか、南シナ海を現在でも遊弋している米潜水艦隊は余勢をかって南シナ海の中国の軍事基地を吹き飛ばすことになるでしょう。

上記のような展開が予想されるからこそ、ヘインズ国家情報長官は、「ロシアで起こったことを見て、中国の自信は揺らいでいるかもしれない」と指摘し、苦戦が伝えられるロシア軍の状況を踏まえ、台湾への侵攻について、より慎重になっている可能性を指摘したものと思います。

【関連記事】

中国の申し入れ「受け入れられず」 日本大使館が反論、クアッド巡り―【私の論評】中国がインド太平洋で新たな枠組みを作っても大きな脅威にはならないが、習に勘違いだけはさせるな(゚д゚)!

中国の台湾侵攻を阻止する4つの手段―【私の論評】海洋国家台湾の防衛は、潜水艦隊が決め手(゚д゚)!

0 件のコメント:

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今”―【私の論評】モルドバ情勢が欧州の安全保障に与える重大な影響

【現地ルポ】ウクライナの次はモルドバ?平和に見えても、所々に潜む亀裂、現地から見た小国モルドバの“今” ■ 服部倫卓( 北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授) まとめ ロシアがウクライナ侵攻後、次にモルドバを標的にする可能性がある。モルドバには親ロシア地域が存在する。 1...