- トランプ政権はパトリオット供与を通じて「兵器外交・ビジネス・同盟再構築」の三位一体戦略を打ち出した。
- 米軍によるイラン核施設攻撃が、NATO諸国の脅威認識を一変させ、兵器供与受け入れの下地を作った。
- パトリオットの供与は欧州諸国の自己負担で実施され、米国は補充分を担当することで財政負担を回避。
- 「これは商売だ」というトランプの言葉通り、供与は米防衛産業と雇用に直結する経済政策でもある。
- 戦争を“複合戦略”として扱うトランプ流外交は、保守層の理念「関与すべき時には強く関与」を具現化している。
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3月17日(現地時間)、マルク・ルッテNATO事務総長と会談するトランプ米大統領 |
この背景にあるのが、先月6月22日に米軍が敢行した「ミッドナイト・ハンマー作戦」だ。米空軍のB-2爆撃機とトマホーク巡航ミサイルが、イランのナタンツ、フォルドウ、イスファハンに点在する核開発施設を同時攻撃。IAEA(国際原子力機関)も、核インフラの重大な破壊を確認し、事実上イランの核開発は数年単位での遅延を余儀なくされた。
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ミッドナイトハンマー作戦の概要:米国防総省(英語) |
この攻撃は、単なる中東政策の枠にとどまらない。核兵器の完成が目前とされたイランを叩いたことで、欧州諸国にとっての安全保障環境が一変した。なぜなら、イランの核が完成すれば、その射程は確実にEU圏に及ぶからだ。イスラエルだけでなく、欧州全体が核の人質となる現実に、ようやく火がついたのである。
NATOが譲歩した理由──イラン攻撃がもたらした覚醒
この文脈を抜きにしては、今回のNATO加盟国によるパトリオット供与は説明がつかない。従来、欧州諸国は米製兵器の供与に対して慎重だった。だが今回は、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、オランダ、英国、カナダなどが保有在庫からウクライナに直接提供する。そして米国は、これらの国の不足分を補填するという形で間接的に支援に関与する。しかも、この補充費用はあくまで欧州側が負担するスキームである。
ここに、トランプ政権の特徴が色濃く表れている。かつてから「同盟国にも応分の責任を取らせるべきだ」と繰り返してきたトランプは、その言葉通りに各国の財布を開かせた。供与の場で彼が言い放った「これは商売だ」という言葉は、単なる挑発ではない。これは明確なメッセージであり、兵器支援を“国家間のビジネス”と位置付けたトランプ流のリアリズムそのものだ。
今回の供与によって、米国の防衛産業、特にレイセオン社を中心とするパトリオット製造ラインには新たな受注が舞い込む。雇用が生まれ、国内経済が回る。兵器供与が外交と経済を結びつける「成長戦略」となる――これほど明快な利害の一致があろうか。
もちろん懸念もある。パトリオットは確かに優れた防空兵器だが、最新型のIskander-M弾道ミサイルのような超高速・高機動型弾頭に対しては、必ずしも万能ではない。しかも今回供与されるパトリオットが最新仕様であるかどうかは明言されておらず、性能にバラつきがある可能性もある。
それでもなお、今回の供与が持つ政治的インパクトは計り知れない。バイデン政権時代には見られなかった、「同盟国への負担転嫁」「米国財政の防衛」「兵器輸出による産業振興」「経済制裁による抑止」という四本柱が、トランプ政権下で再構築された。これこそが彼の持ち味であり、「戦争には巻き込まれない、だが必要な時は関与する」という保守派の理念を、実際の政策として体現している。
ウクライナを巡る戦局の今後は不透明だ。だが確かなのは、トランプが掲げる「ビジネスとしての戦争支援」が、単なるパフォーマンスではなく、現実の政治と経済を動かしているという事実だ。兵器供与の向こう側には、冷徹な戦略とリアリズムがある。それを見抜けない日本の現政権やメディアこそが、今この瞬間、我が国最大の脆さなのかもしれない。
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