- 日米が東アジア有事での核使用を想定し、非公開協議を実施している。
- 協議は2024年策定の拡大抑止ガイドラインに基づいて行われている。
- 日本は抑止戦略の“共同設計者”として責任ある立場に踏み出した。
- 被爆国としての立場より現実の核脅威への備えが優先され始めている。
- 保守派はこれを抑止力強化と戦争回避の現実的対応として評価している。
2025年7月26日、共同通信は英語版を通じて「Japan, U.S. discussing scenario for nuclear weapons use: sources」と報じた。内容は日本と米国の防衛当局が東アジア有事を想定し、米軍による核兵器使用シナリオを非公開協議で検討しているというものである。両国はテーブルトップ演習形式を用い、中国や北朝鮮による核威嚇、戦術核使用の可能性を想定し、対応策、情報共有、国内向け説明まで含んだ実践的な検討を重ねている。
昨年7月の資料写真、拡大抑止に関する協議のため東京で会合する日本と米国の外務・防衛担当高官らの様子。 |
このような協議が報じられることは極めて異例である。だが、これが虚報である可能性は低い。河北新報、福島民報、47NEWSなど共同通信系列の複数媒体が同様の内容を報じ、Kyodo News英語版でも同じ見出しで配信されている。いずれも公表された政府声明ではないが、複数の外務・防衛当局関係者が協議を認める証言を寄せており、記事は単なる憶測ではない。
背後にあったガイドライン──日米抑止戦略の新段階
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米国の核の傘 AI生成画像 |
ではなぜ“非公開協議”が報道されるに至ったのか。それは日米が昨年12月に「拡大抑止に関するガイドライン」を策定したことと密接な関係がある。このガイドラインは米国の核抑止力、すなわち“核の傘”の信頼性を高めるための基本枠組みであり、日本側がどの時点でどのような情報を受け取り、どう政治判断を行うかを明文化している。関与したのは日本の外務省、防衛省、統合幕僚監部の一部職員、および米国防総省や在日米軍司令部などである。つまり、実務レベルの現実的協議である。
この指針は、北朝鮮が戦術核の使用をほのめかした場合や中国が台湾に侵攻し沖縄への核威嚇を行った場合など、具体的想定ごとに日米がどう動くかの“行動テンプレート”を記している。今回行われているテーブルトップ演習は、単なるシミュレーションではない。実質的な戦略設計と意思決定の訓練にほかならず、日米同盟の核抑止戦略の一端を担っている。
この指針は、北朝鮮が戦術核の使用をほのめかした場合や中国が台湾に侵攻し沖縄への核威嚇を行った場合など、具体的想定ごとに日米がどう動くかの“行動テンプレート”を記している。今回行われているテーブルトップ演習は、単なるシミュレーションではない。実質的な戦略設計と意思決定の訓練にほかならず、日米同盟の核抑止戦略の一端を担っている。
「理想」では国は守れない──直視すべき現実
被爆国である日本が米国の核使用に関わる検討に入り込んでいることは、従来では政治的タブーであった。しかし現実がそれを許さない。中国は極超音速兵器と多弾頭ICBMを配備し、ロシアはウクライナ侵攻を通じ核戦力を背景に恫喝を繰り返している。北朝鮮は戦術核の即応体制を公然と整備し、「核先制使用さえ辞さぬ」と宣言した。こうした状況下で、日本が拡大抑止の現実に直面し、米国とともに具体的な対応策を討議することは当然である。
この協議は核保有や核共有を意味するものではない。だが、米軍が核を使う可能性が現実にある場合、日本側がどのように政治的関与し、国民に説明するのかという責任を明確に規定すること自体が、国家として重要な慣行である。これは、「受け身の同盟」から「抑止戦略の共同設計者」への転換である。
被爆国である日本が米国の核使用に関わる検討に入り込んでいることは、従来では政治的タブーであった。しかし現実がそれを許さない。中国は極超音速兵器と多弾頭ICBMを配備し、ロシアはウクライナ侵攻を通じ核戦力を背景に恫喝を繰り返している。北朝鮮は戦術核の即応体制を公然と整備し、「核先制使用さえ辞さぬ」と宣言した。こうした状況下で、日本が拡大抑止の現実に直面し、米国とともに具体的な対応策を討議することは当然である。
この協議は核保有や核共有を意味するものではない。だが、米軍が核を使う可能性が現実にある場合、日本側がどのように政治的関与し、国民に説明するのかという責任を明確に規定すること自体が、国家として重要な慣行である。これは、「受け身の同盟」から「抑止戦略の共同設計者」への転換である。
従来の認識(上の表)を超えて、とうとう米国との核運用面での議論が始まった |
当然、国内の左派勢力や反核団体からは非核三原則の放棄と批判されるだろう。しかし、直視すべきは理想論ではない。国を守るとは、幻想ではなく現実に即した方法である。非核三原則が戦後日本の精神支柱であったことは否定しないが、幻想に縛られ続けることは国家の自殺である。今回の日米協議は、その幻想の終焉を告げるものかもしれない。
抑止力とは、相手に「こちらは本気だ」と思わせることで成立する。日本が米国と共に「必要なら核も辞さない」という現実的意思を持つことが、中国や北朝鮮への最強のメッセージとなる。その意思の可視化こそが、戦争回避の最大の防波堤である。
今、日本は戦後最大級の選択の岐路に立っている。そして、その選択を誤れば、次世代がその代償を命をもって払うことになろう。だからこそ、日本は核をタブー視せず、すべての選択肢を国家的議論に載せるべきだ。これこそ、戦後日本が直面する“本物のリアリズム”である。
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