2021年11月15日月曜日

「北京証券取引所」が開業 中国本土で3カ所目―【私の論評】独立した金融緩和を実施できない中国が何をしても、国全体としては何も変わらない(゚д゚)!

「北京証券取引所」が開業 中国本土で3カ所目


  中国本土で3カ所目となる北京の証券取引所が15日に開業しました。

 午前に取引を始めた北京証券取引所には、現時点で81銘柄が登録を完了しています。

 中国本土の証券取引所としては上海、深センに続く3カ所目で設立にあたり、習近平国家主席は「革新的な中小企業の主要な陣地を作る」と強調していました。

 投資家:「新エネルギーや環境保護関連の企業に興味を持っている」

 アメリカとの対立が続くなか、先進的な中小企業が国内で資金を確保できる体制を強化する狙いもあるとみられます。

【私の論評】独立した金融緩和を実施できない中国が何をしても、国全体としては何も変わらない(゚д゚)!

中国共産党政権は企業の事業運営への関与に加えて、金融市場への介入もより重視するでしょう。北京証券市場の開設はその一環と見るべきでしょう。

独禁法などを理由とする企業への圧力強化によって海外投資家は中国株へのリスク回避姿勢を強め、中国株式市場は不安定化しやすいです。それが、A株市場(上海・深センの株式市場の種別)で80%程度を占める個人投資家をはじめ、中国の社会心理に与える影響は軽視できないです。株価の下落は「負の資産効果」を及ぼし、中国の社会心理を不安定化させることになります。

その影響を抑えるために、「国家隊」と呼ばれる政府系機関投資家による本土株(上海・深セン市場)の買い支えは増える可能性があります。在来分野での雇用維持のためにインフラ投資も強化されるでしょう。

共産党政権は中小企業への資金繰り支援も重視しています。つまり、企業の事業運営、資産価格、および経済政策の三つの点から共産党政権による経済と社会への統制は強化されるでしょう。それは短期的に中国経済を下支えする可能性があります。そうした見方から、中国株への投資を重視する投資家はいます。

しかし、長期視点で中国経済の展開を考えると、経済全体での資本効率性が低下する中で、経済と社会への統制強化が人々のアニマルスピリットを高め、イノベーションを支えるかは見通しにくいです。

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中国経済では生産年齢人口の減少、不動産バブルの膨張、経済格差による社会心理の不安定化、コロナ禍による人々の予備的動機の高まりといった課題も増えています。また、半導体製造技術などの先端分野に加えて人権問題でも米中の対立は先鋭化する可能性が高いです。

どこかのタイミングで中国の債務問題や社会心理の悪化が株価の調整リスクを高め、本土からの資金流出圧力が高まる可能性があります。中国人民銀行が「デジタル人民元」の実用を目指しているのは、中長期的な経済への不安が高まっているからでしょう。

北京証券取引所の設立は、中国の金融監督強化の一環としてみるべきでしょう。中国の場合、大手銀行20行で約7割のシェアを持っています。信用情報の実質国有化、デジタル人民元の直接決済などを考えると、人民銀行が直接企業個人向けの金融を行う形になるかもしれません。銀行は単なる取次会社化する。その上で全て計画経済化してしまうつもりかもしれません。

ただ、いくら北京証券取引所などの金融機関を設立しようとも、政府が金融監視をしようと、中国の金融政策には根本的問題があります。結論からいうと、現在の中国人民銀行(中国の中央銀行、日本の日銀にあたる)は独立した金融政策がとれないのです。

先進国ではマクロ経済政策として財政政策と金融政策がありますが、両者の関係を示すものとして、ノーベル経済学賞の受賞者であるロバート・マンデル教授によるマンデル・フレミング理論があります。

経済学の教科書等では「固定相場制では金融政策が無効で財政政策が有効」「変動相場制では金融政策が有効で財政政策無効」と単純化されていますが、その真意は、変動相場制では金融政策を十分緩和していないと、財政政策の効果が阻害されるという意味です。つまり、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先する方が、マクロ経済政策は効果的になるのです。

これを発展させたものとして、国際金融のトリレンマ(三すくみ)があります。この結論をざっくりいうと、(1)自由な資本移動(2)固定相場制(3)独立した金融政策-の全てを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べないというものです。


これらの理論から、先進国は2つのタイプに分かれます。1つは日本や米国のような変動相場制です。自由な資本移動は必須なので、固定相場制をとるか独立した金融政策をとるかの選択になりますが、金融政策を選択し、固定相場制を放棄となります。

もう1つはユーロ圏のように域内は固定相場制で、域外に対して変動相場制というタイプです。自由な資本移動は必要ですが域内では固定相場制のメリットを生かし、独立した金融政策を放棄します。域外に対しては変動相場制なので、域内を1つの国と思えば、やはり変動相場制ともいえます。

中国は、そうした先進国タイプになれません。共産党による一党独裁の社会主義であるので、自由な資本移動は基本的に採用できません。例えば土地など生産手段は国有が社会主義の建前です。中国の社会主義では、外資が中国国内に完全な民間会社を持つことができません。中国に出資しても、中国政府の息のかかった中国企業との合弁までで、外資が会社の支配権を持つことはありません。

一方、先進国は、これまでのところ、基本的に民主主義国家です。これは、自由な政治体制がなければ自由な経済体制が作れず、その結果としての成長がないからです。

もっとも、ある程度中国への投資は中国政府としても必要なので、政府に管理されているとはいえ、完全に資本移動を禁止できません。完全な資本移動禁止なら固定相場制と独立した金融政策を採用できるのですが、そうではないので、固定相場制を優先するために、金融政策を放棄せざるを得ないのです。

要するに、固定相場制を優先しつつ、ある程度の資本移動があると、金融政策によるマネー調整を固定相場の維持に合わせる必要が生じるため、独立した金融政策が行えなくなります。そのため、中国は量的緩和を使えないのです。

このような状況にある中国が、北京証券取引所を設立しようが、金融監督を強化しようが、独立した金融政策が行えないのですから、結局無意味なのです。

北京証券取引所

先進的な中小企業が国内で資金を確保できる体制を整えたつもりであっても、結局金融政策によってマネーストックを思い通りに増やすことができないですから、結局先進的な中小企業が国内で資金を確保できるようにすれば、国内で他の産業などを犠牲にして、そこからお金を調達するしかないのです。

そうなると、先進的な中小企業に様々な手当をして、伸ばすことができたにしても、他の産業が駄目になり、国全体ではマネーストックが増えないのは無論のこと、経済発展はできないのです。

この八方塞がりの状況を打開するためには、中国共産党が完全な資本移動禁止をするか、固定相場制をやめるしかないのですが、それに中国共産党は気づいているのか、気づかないのか、現状でも八方塞がりの状況を続けているというのが現状です。

この状況について、何やら中国も日本のバブル崩壊後の状況に似てきたと指摘する識者もいるようですが、これは全くおかしな議論です。

日本のバブル崩壊は、当時一般物価は上昇していないにもかかわらず、株価がかなり上昇したり、土地価格が上昇していたのを日銀が一般物価が上昇していると勘違いして、金融引締に走ったことが原因です。それでも景気が落ちこめば、すぐに緩和して景気を立て直すことができました。

にもかかかわらず、その後も日銀は金融引締を続けたために、「失われた20年」という経済の落ち込みを体験することになったのです。緩和をしようと思えばできたのです。

ただ、中国の場合はバブル崩壊しても、金融緩和できないのです。日本も中国も「バブル崩壊」という表に出てくる事象は似ていますが、これらは全く似て非なるものなのです。

日本は安倍晋三氏が総理に就任してから、金融緩和に転じましたが、二度も消費税をあげることになり、その後のコロナ禍もあり、未だデフレから完全に抜けきっていない状態ですが、雇用はかなり回復しましたし、コロナ禍でも先進国中で、失業率はもっと低い状況にありました。

金融緩和できない中国は北京証券所を開設したにせよ、政府が金融監督を強化しても、今後経済が落ち込むのは目に見えています。

中国共産党からみれば、日銀がやろうと思えばすぐに、そうし大規模に金融緩和できる日本の状況は、さぞかし羨ましいでしょう。

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