2021年11月21日日曜日

中国テニス選手不明でIOC委員、五輪中止の可能性示唆「事態が制御できなくなるかも」―【私の論評】北京五輪が中止になって、習近平が権威を失墜し、統治の正当性を失い失脚するというシナリオは十分あり得る(゚д゚)!

中国テニス選手不明でIOC委員、五輪中止の可能性示唆「事態が制御できなくなるかも」

彭帥(ポンシュアイ)さん

 中国の女子テニス選手、 彭帥(ポンシュアイ)さん(35)と 張高麗(ジャンガオリー) 前筆頭副首相(今月で75歳)の不倫関係を暴露する内容がSNSに投稿された後、彭さんの消息が不明となっている問題で、国際オリンピック委員会(IOC)の委員が、来年2月の北京冬季五輪開催に関してIOCが厳しい態度を取る可能性があるとの見解を示した。ロイター通信が19日報じた。

 この委員は、IOCで最古参のディック・パウンド氏。「早急に良識ある方法で解決されなければ、事態が制御できなくなるかもしれない」と述べ、IOCが中国に人権問題を提起する可能性を指摘した。「五輪の中止にまで発展するとは思わないが、分からない」とも語った。

【私の論評】北京五輪が中止になって、習近平が権威を失墜し、統治の正当性を失い失脚するというシナリオは十分あり得る(゚д゚)!

張高麗(ジャンガオリー) 前筆頭副首相(今月で75歳)

張高麗(1946 年 11 月~)は中国政界の保守本流である「石油派」の重鎮で、文化大革命時代の 1970 年 に廈門大学を卒業し、広東省茂名市の石油工業部傘下の国営工場に就職し、中国石油化工集団(Sinopec) 傘下の中国石油化工・茂名分公司のトップ(総経理)を勤めた後に政界入りしました。

 その後、山東省や天津市トップを経て、12年に発足の習近平第 1 次政権で党内序列7位の政治局常務 委員兼「副総理」をつとめました。名前は珍しい「高麗」ですが、朝鮮族ではなく漢族です。

中国語で「国務院」とは中国政府を意味します。首長である「国務院総理(= 首相)1名」の下に「常務副総理(=筆頭副首相)1名」、「副総理(=副首相)現在3名」、「国務委員、 現在 5 名」。国務院はこれに「部長、主任等」の閣僚(26 名)が加わり運営されています。

 現首相(第 2 次習近平政権)は李克強(党内序列第 2 位)、筆頭副首相は韓正(同 7 位)。この 2 名 は俗に“チャイナ 7(=最高指導部)”と呼ばれる「党中央政治局常務委員」。

 副首相は 25 名で構成される「党中央政治局委員」の中から選出、孫春蘭(文化・教育・香港マカオ 担当)、胡春華(農業・商務)、劉鶴(金融・財政)の 3 名。 “副首相格”の国務委員は「党中央委員(党内序列 26~約 200 位)」の中から選ばれ、閣僚ポストを 兼務するケースが多いです。

現政権では肖捷(秘書長)、魏鳳和(国防部長)、王毅(外交部長)、趙克志 (公安・司法・諜報)、王勇(国資委)の 5 名です。

 因みに、なぜ副首相と閣僚との間に「国務委員」と云う役職をもうけたかというと、文化大革命が終結して鄧小平時代が始まった時、文革時代に失脚して辛酸を嘗めた幹部たちを大量に復活させたため華国鋒首相の下に「鄧小平、李先念、徐向前、紀登奎、余秋里、陳錫聯、耿飈、陳永貴、方毅、王震、谷牧、 康世恩、陳慕華、王任重、陳雲、薄一波、姚依林、姫鵬飛、趙紫陽、万里」、何と 20 名もの副総理を一気に 誕生させてしまったからとされています。

この反省から副首相の人数を絞り、面子にこだわる老幹部たちのために副首相格 の国務委員ポストを設けたという経緯があったようです。

張高麗は 02 年に中央委員として、山東省トップ(=党委書記)をつとめた後、07 年に政治局委員に昇格し、「4 大直轄市」天津市のトップに就任しました。

そうして 12 年、習近平政権が誕生すると、張高麗は(末席の第 7 位ですが)最高指導部(=政治局常務委員) 入りを果たし、筆頭副首相を 5 年つとめて、17 年に 71 歳で政界から身を引きました。

 さて、一方彭帥(86 年 1 月~)は、湖南省・湘潭市の出身。湘潭市出身の有名人といえば、 中国画壇の巨人・斉白石や、朝鮮戦争で活躍した彭徳懐元帥が有名ですが、中国人にとって「湘潭市出身者」 と云えば毛沢東が筆頭です。

湘潭生まれの彭帥、彼女の両親は毛沢東によって粛清された英雄・彭徳懐元帥に因んで命名したような 印象がありますが、それはさておき、彼女は 13 年ウィンブルドン選手権と、14 年全仏オープン女子ダブルスの 優勝者であり、WTA ツアーのシングルスで 2 勝、ダブルスで 22 勝を挙げています。

自己最高ランキングは、 シングルス 14位、ダブルス1位といいますから、ちょっと前の時代の強豪で、中国では張德培(マイケル・チャン) や李娜と共に有名な世界的なテニスプレーヤーと云えます。

そんな花形選手が、時の権力者とは云え、よりによって張高麗なんぞとわりない仲になるとは驚きです。人を外見 で判断するのは失礼ですが、「よりによって」と書いた理由は上の張高麗を写真をご覧いただければ、ご理解いただけるものと思います。

 さて、その彭帥さんの禍々しい告白に接した中国当局はブチ切れたのか、韓国の人気ドラマ「総理と私」 を削除したといわれています。

韓国の人気ドラマ「総理と私」

韓流ドラマには何の咎もないのですが、中国当局は 11 月 8 日から北京で開催された党の 重要会議・第19期中央委員会第6回総会に水を差し、威信を傷つける“不穏当な”出来事として神経を 尖らせていたようです。

 各種報道によると張高麗が66歳、彭帥が26歳の時、彼は最高指導部に抜擢され、その後の連絡は途絶 えたようです。しかし彼女の告白によると、彼が引退してから再び連絡が入るようになり、二人でテニスを楽し んだ後、張高麗の妻と自宅に招かれ、そこで性的関係を迫られたことがあるといいます。

 引退後、即ち人生七十古来稀なりの張高麗。“七十にして心の欲する所に従いて矩(のり)を踰(こ)えず”の齢ですか、 中国で最高指導部までつとめた方は元気一杯。40歳の年齢差を考えると、端倪すべからざる 絶倫の士です。

でもあちらの国では、党政府高官と芸能人など若い女性との不倫は珍しくもない現象であることは、 習主席が腐敗追放キャンペーンで抹殺した周永康や薄熙来などの事案からも明らかです。

 真偽のほどは不明ですが、本事案、年齢差を乗り越えた純愛物語などではなく、援交のもつれの果ての 内輪揉めといったところでしょうか。習近平三選を巡る権力闘争の余波が元副総理にも波及し、元カノが取り調べを 受けた可能性もあります。

そうして、この余波は大事になる可能性も秘めています。なぜなら、冒頭の記事にあるようにIOCで最古参のディック・パウンド氏が「早急に良識ある方法で解決されなければ、事態が制御できなくなるかもしれない」ということがあるからです。

米英はどうやら北京五輪の政治ボイコットをしようとしているようです。このようなことに、この余波が利用される可能性は大きいです。それどころか、この余波が大きなさざなみとなり、さらに大きな波となることもありえます。

先月秋の行楽シーズン中に新型コロナウイルスのデルタ株の感染が広がっていました。中国本土で、市民の移動制限が強まっていました。

一部の地域で省などをまたぐツアー旅行が禁止され、北西部の甘粛省蘭州市などで公共交通機関が停止。北京市や武漢市ではマラソン大会が延期されました。夏に約1カ月で拡大を抑え込んだように、大規模なPCR検査と隔離の「ゼロコロナ」対策が各地で進められていました。

これからも、コロナ禍が拡大する可能性は否定できません。中国はコロナ感染症を隠蔽していたことが明らかにされたため、IOCとしてもかなり注意深く北京の感染者数や、死者数などを注視していることでしょう。

今後コロナ禍が広がれば、IOCはこれプラス人権問題と、 彭帥(ポンシュアイ)さんの行方がはっきりしなかった場合、これも理由の一つとて、北京五輪を中止するかもしれません。

そうなった場合、習近平の権威が一気に失われる可能性もなきにしもあらずです。

中国共産党の元高級幹部の子弟で構成されるグループ「太子党」のうち、1949年の新中国成立の前に共産革命に参加し、日中戦争や中国国民党との内戦で貢献した幹部たちの子女のことを「紅二代」といいます。

一方、戦争を経験せず平和な時代に党や政府の指導者となった幹部らの子女は「官二代」とよばれます。たとえば、1928年に共産党に入党した習仲勲(しゅうちゅうくん)(1913―2002)元副首相を父親にもつ習近平(しゅうきんぺい)国家主席は紅二代ですが、1964年に共産党に入党した胡錦濤(こきんとう)前国家主席の長男、胡海峰(こかいほう)(1971― )嘉興(かこう)市共産党委員会副書記は官二代とよばれます。

紅二代のうち、現在中国のチャイナセブン(最高指導部)となっているのは、習近平のみです。これをもって、習近平をもって「革命の正統性」を持った唯一の人物として、習近平体制が崩れることはないとみるむきもあります。

確かに、紅二代の父母は「共産革命のために血を流したことがある」として、太子党のなかで、官二代より格上とされています。しかし、紅二代は高齢化が進んで現役を退く人が増えており、これに対し官二代が頭角を現し、太子党の主流になりつつあります。それに、そもそも共産主義において、血統が大きな位置を占めるということ自体が矛盾しています。

それは、共産党体制とされている北朝鮮が実質金王朝によって支配されてきたということと同じです。私としては、習近平はたしかに「革命の正当性」を主張することはできるとは思いますが、これをもって他の中国の幹部よりも「統治の正当性」の主張ができるとは限らないと思います。

もし習近平が現代中国で「統治の正当性」の主張が十分できていれば、韓国人気番組を削除したり、第19期中央委員会第6回総会を前にして神経を 尖らせることもなく、落ちついているはずです。

それよりも、習近平が「統治の正当性」を十分に主張できているなら、習近平の統治下の中国国内で頻繁に暴動が起こるなどということはありえないはずです。

中国国内では経済発展に取り残された民衆による暴動が年間20~30万件ほど発生しているとも言われています。そして、中国共産党は内乱を鎮圧するために人民武装警察(武警)を150万人配備しているとされています。
北京五輪が中止になって、習近平が権威を失墜し、統治の正当性を失い失脚するというシナリオは十分ありえると思います。

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