2021年10月26日火曜日

中国経済が抱える“深すぎる闇” 統計資料も企業開示も不透明…日本企業は守ってもらえない ―【私の論評】中国当局による中国企業への統制強化の方が、より深刻な「チャイナリスク」に(゚д゚)!

中国経済が抱える“深すぎる闇” 統計資料も企業開示も不透明…日本企業は守ってもらえない 
高橋洋一 日本の解き方

輸入額、鉄道貨物輸送料が減っても、変わらない中国のGDPの不思議

 中国経済をめぐって、経済成長率の減速や不動産大手の経営問題が浮上している。世界第2の経済大国である一方、経済安全保障の観点では問題も抱えている。日本や日本企業はどのようなスタンスで中国に対峙(たいじ)することが望ましいのか。

 中国経済の話をするのはいつも難しい。というのは、信頼できる統計がないからだ。中国国家統計局は18日、7~9月期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比4・9%増となったと発表したが、このタイミングは先進国から見れば信じがたいほど早い。GDP統計は各種の経済統計を加工しており、先進国でも1カ月以上の期間を要する。しかし、中国では2週間あまりで公表されている。

 筆者はかつて、中国の統計システムが旧ソ連のものと手法も組織も似通っていることを指摘し、旧ソ連のGDPがデタラメだったことから、中国のGDPも信頼性がないとし、統計がごまかしにくい輸入統計を利用してGDPを推計した本を書いたことがある。その際、中国関係者から筆者らに異常なほど直接クレームが来た。学問の世界であれば、異論があれば論文や本を書けばいいのに、どうして直接のクレームをつけるのか不思議だった。

 不動産大手の経営問題でも、財務諸表が十分に公開されていれば、その実態を把握するのはそれほど困難ではないが、何しろ中国では企業開示は先進国と比べて問題が多い。

 筆者は不良債権処理の専門家として中国に招かれたことがあるが、そのたびに情報開示の問題に直面した。今も情報開示が不十分なために、憶測が憶測を呼び、実態が分からない。

 不動産大手の経営問題の処理も、習近平国家主席らのさじ加減次第なので、先行きは不透明だ。もっとも、今回、債務返済において、ドル建て債務は中国人民元建て債務より劣後することは分かった。

 このように、中国経済は民主主義国の資本主義とはかなり異なっている。企業経営者は統計などの情報より、個人の体感をベースに判断するので、統計の有無など問題にしないのかもしれないが、危機的な状況になった際、統計資料が十分とはいえない中国政府の対応力に筆者としては疑問を感じる。

 最近、経済安全保障の考え方が国際政治では主流になりつつある。これは、平時では戦争行為はしないが、経済取引を武器として「戦争」を行っているという考えだ。サプライチェーン(流通網)で各種部品の供給元として中国に過度に依存していると、部品供給をストップされた場合に大打撃を受ける。販路を中国市場に依存しているのも経営にとって危うい側面がある。

 いずれにしても、中国経済のルールや情報開示は不透明であり、民主主義国とは異なっていることを認識したほうがいい。中国流ルールの下では、外国私企業という概念は極めて希薄なので、いざというときに日本企業は保護されないということも肝に銘じておくべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】中国当局による中国企業への統制強化の方が、より深刻な「チャイナリスク」に(゚д゚)!

中国政府は7月26日にネット業界に対する半年間の集中取り締まりを始めたことを突如発表しました。「今年前半のアプリの取り締まりを踏まえ、さらにネット業界の問題を整理する」と説明しています。

昨年来、中国当局はIT業界に対する統制強化をにわかに強めています。その起点となったのは、EC最大手のアリババグループ傘下で決済アプリであるアリペイを提供するアント・グループの昨年11月の上場延期です。その後、アント・グループの金融ビジネスは、事実上解体されようとしています。

当局は今年4月に、アリババグループに巨額の罰金を科し、またネット企業大手のテンセントなど他社にも相次いで指導や罰金処分などを行っています。7月に入ってからは、米国に上場したばかりの配車サービス大手、滴滴出行(ディディ)に対して「違法に個人情報を収集している」としてアプリのダウンロードの禁止を命じました。



7月24日には、国家市場監督管理総局が、国内ネット音楽配信市場における独占行為で、テンセントに対し独占禁止法違反で是正措置と罰金50万元の支払いを命じたと発表しています。

そうして、当局の規制・統制強化は、まったく別の業界にも及び始めている。7月24日には、小中学生向け学習塾を非営利団体化することを柱とする規制策が公表されました。教育産業はネット企業の利益拡大を助けるネット広告の大口顧客であるが、その観点以外に当局は、学習塾など義務教育以外の教育ビジネスが教育費の上昇を後押ししており、それが教育を受ける機会の不平等を生じさせるとともに、養育費の上昇を通じて出生率を高めることを妨げている、としています。

IT業界、教育産業以外に、今後は過剰債務などの大きなリスクを抱える不動産業界や医療業界などにも、当局の統制強化が広まるとの観測が、投資家の間で浮上していました。恒大集団のデフォルト危機などもあったためか、不動産業界では既にそうした動きが見られ始めています。

昨年までは、投資家にとっての「チャイナリスク」とは、IT関連の中国企業が、米国政府によって米国や先進国市場から締め出され、また、半導体など中国企業のサプライチェーンを遮断されることを意味しました。

しかし現在では、中国当局による中国企業への統制強化の方が、より深刻な「チャイナリスク」となっています。中国当局は、中国企業の海外での上場、あるいは海外での中国企業の活動に対しても統制を強めています。


7月23日には、中央銀行の中国人民銀行が、ネット決済事業者に対して、国内外での新規株式公開(IPO)など経営上の様々な「重大事項」について事前報告を義務づける、新たな規則を公表しています。

中国企業の海外での上場や海外での活動を規制することは、中国企業の資金調達や市場拡大を制約し、その成長を妨げることにもつながります。それにもかかわらず、中国当局が統制を強化する理由には、海外で活動する中国企業から、中国の個人データなどビッグデータが米国などに流出することへの警戒があるのでしょう。

従来は、米国で活動する中国企業が、米国での情報を不当に集め、中国に流していると米国政府は批判していました。米国側だけでなく、中国側からも情報流出を警戒して米中間の経済活動を切り離す、「デカップリング」を進め始めたのです。そうしたもとでは、中国企業に投資するグロース投資家に対する中国当局の配慮も、次第に低下しているように見えます。

中国政府が中国企業に対する統制強化を進めるのは、巨額の利益を上げ、また個人データを蓄積する企業が、中国政府の経済あるいは政治的な統制にとって脅威となり始めているからです。それに加えて、巨額の利益を上げる企業への統制強化を通じて国民の支持を集める狙いもあるようです。

この点、習近平国家主席がかつて断行した、腐敗取り締まりキャンペーンとも似ているように感じられます。それは、不正に利益を上げた政治家などを取り締まることで、国民の支持を得る狙いであるとともに、習近平国家主席の政敵を排除し、政権基盤の安定化に資することを狙ったのでしょう。

しかし、中国企業に対する統制強化の場合には、果たしてそれが国民の支持を集めるかどうかは分からないです。確かに、巨額の利益を上げるIT企業に対する統制を強化し、収益環境を損ねれば、それによって留飲を下げる国民も中にはいるかもしれないです。

しかし、ネット企業への統制強化は、サービスの低下にもつながります。また、教育産業が急成長している背景には、エリート大学に入学し限られた高給の職を子供に得させたい、という親の願いがあります。そうしたニーズを無視して、学習塾など教育産業への規制を強化すれば、それは国民からの反発を生む可能性もあるでしょう。


中国企業に対する統制強化は、このように国民の利便性を直接低下させる可能性があることに加えて、イノベーションを阻害することを通じて、中国経済の潜在力を低下させてしまう可能性もあります。これも、国民にとっては大きな不利益となります。

中国政府が急速に進める企業への統制強化は、中国が再び先進国グループと袂を分かち、独自の政治・経済体制の追求を進めていることの一端のようにも見えます。ただし、それがどこまで進められるかは、今後の中国経済のパフォーマンスと中国国民からの支持に大きくかかっているのではないでしょうか。

特に大企業に対する規制などは、いままで中国政府を支えてきた富裕層の反発を招くことになり、多くの一般国民からの反発に加え富裕層からの反発も招くことになれば、中国共産党の当地の正当性の基盤が揺らぐことにもなりかねません。

米中両サイドから中国デカップリンクがはじまり、チャイナ・リスクはさらに破滅的になりました。中国当局による中国企業への統制強化が新たな「チャイナ・リスク」となってるのですから、日本企業だけが安泰でいられるわけなどありません。


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