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岡崎研究所
次に、個人崇拝の対象となる人の政策は無謬であるとみなされる傾向がある。それを変えることはむつかしく、政策的な硬直性が出てくる。スターリンの死後、3年後の20回党大会でフルシチョフはスターリン批判演説をして、スターリン政策からの転換を図ったが、それに至る道筋は簡単ではなかった。外交面でフルシチョフは対西側との平和共存路線を打ち出したが、ベリアの逮捕、モロトフの追放などが必要であった。個人崇拝時代からの転換は容易ではない。
見当たらない習近平思想の本質
中国が今後今までのように経済が成長し、ますます台頭してくるとは見ていない。人口は高齢化するし、経済政策はテク企業などの成長部門を「共同富裕」政策で押さえつける可能性が高いとみている。いまの勢いで成功されてはかなわないので、習近平がイデオロギー重視に向かうことは別に嫌うべきことでもないと考えている。
なお、共産党と独裁、個人崇拝は親和性がある。レーニン主義は前衛としての共産党の組織論であるが、トロツキーは人民が中央委員会に、中央委員会は政治局に、政治局は書記局に、そして最後は書記長にとって代わられる、それで独裁になると警告していた。スターリンの権力確立過程はそういうものであった。
なお、習近平思想というが、習近平は中華民族の復興、強国中国などのスローガンを掲げているが、思想というようなものは見当たらない。
習近平もこれを目指しているようですが、習近平の目指しているのは、北朝鮮の金王朝の存続とも似ていますが、少し違うところもあります。金王朝は第二次世界大戦後につくられたものですし金家とそれに連なる者たちというと人数もある程度限られますが、習近平の王朝の本質は、金王朝などよりもはるかに長い歴史を持ち1家系に連なる親戚関係等よりもはるかに規模の大きい「宗族」です。
中国三大宮殿建築のひとつ、孔廟・大成殿。孔子没後まもなく魯の哀公が孔子の住居を廟に改修したのがはじまり |
中国人にとって、今でも一族の利益、一族の繁栄はすべてであり、至高の価値なのです。それを守るためにはどんな悪事でも平気で働 くし、それを邪魔する者なら誰でも平気で殺してしまうのです。一族にとっては天下国家も公的権力もすべてが利用すべき道具であり、 社会と人民は所詮、一族の繁栄のために収奪の対象でしかないのです。
だから「究極のエゴイズム」を追い求め、一族の誰かが権力を握れば、それに群がり、もし失脚すれば、一族全員がその道連れ となって破滅するのです。
習近平も、正に宗族の論理によって突き動かされ、一族だけの利権を追 求し、一族だけが繁栄を究めているのです。
中国共産党は『宗族』を殲滅したのではなく、むしろ宗族の行動原理は生き残った上で、党の中国共産党政権自身を支配しているのです。中国における宗族制度の原理の生命力はそれほど堅忍不抜なものであり、宗族は永遠不滅なのです。
中国人は、現代日本人の感性や規範、道徳、しきたりとまったく異なる伝統を今でも保持しているのです。
いわゆる黒社会も、この宗族とは無縁ではないです。習近平の宗族は運良く、共産党を支配することができましたが、そうではない宗族で、これに反対したり、反対者とみなされる宗族が、黒社会を形成しているのです。
中国の黒社会 |
中国は昔から、そうして現在も宗族が中心となって、社会を構築してきました。こうした中国の本質にからみると、共産主義も、資本主義も、政府も、憲法も法律もいや国そのものですらどうでも良いことなのです。それらは、宗族が栄えるための道具にしか過ぎない魔です。一番重要なのは、自らから属する宗族なのです。
宗族は、共産主義になっても生き残りました。毛沢東は、宗族を潰すべく、荒っぽい農村改革に乗り出しましたが、それでは社会が機能しなくなるので、結局「人民公社」が宗族に取って代わっただけでした。
「圏子(チェンズ)」と呼ばれる利益共有集団が構成され一族や内輪の繁栄のみが大事という伝統は脈々と続きます。習主席の腐敗キャンペーンも実は宗族同士の権力争い(械闘)に他ならないのです。つまり、宗族の原理が共産党政権を支配したのです。
今でも中国社会に息づく圏子 |
宗族のために生き、宗族のために働き、宗族のために死ぬのです。これが中国社会の本質であり、だからこそ、中国は現在先進国では当然とされている、国民国家とは程遠い組織であり、先進国では当たり前の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もできないのです。
そのため、先進国とは永遠に理解し合えることはないのです。台湾や「一国二制度」下の香港のように、宗族が互助組織のようなものとなり、実質的に政治と無関係になったような、国等とも理解しあえることもないのです。これを実現するためには、まずは宗族を廃止して、近代的な国民国家を設置しなければならないのです。しかし、そのようなことはできそうもありません。
共産主義中国の鄧小平は、そのソ連の姿に自国の未来と恐怖を感じ、宗族間の争いに勝つことではなく強力に「改革・解放」を押し進めました。そのおかげで、中国は経済的に繁栄しソ連邦のような崩壊から逃れることができたのですが、習近平は「香港1国2制度破棄」し、毛沢東時代に戻る道を選びました。さらに、自らの宗族が中国の支配層になる道を選んだようです。
こうなると、習近平氏(中国共産党)には2つの道しか残されていません。
1) 毛沢東時代の「北朝鮮のような」貧しい鎖国をする国になる。ただし、習近平の属する宗族が、北朝鮮の「金王朝」が北朝鮮を支配しているように、中国の支配階層になる
2)従来のように国内で宗族間抗争を続けながら、国外では「人類の敵」として世界中の先進国から攻撃を受け滅亡する。
中国が、ここ数十年驚異的な発展を遂げることができたのは「改革開放」という資本主義・自由主義的政策を宗族社会の枠の中であっても採用したからです。そして、その宗族社会の中のささやかな自由の象徴が香港でした。そうして、「香港」でも台湾のように宗族は互助組織のような存在となり、政治的には力を持ちませんでした。
言ってみれば、宗族同士の権力闘争とは無縁の「改革・開放政策」が、中国大陸の中での「1国2制度」であったともいえるかもしれません。香港の1国2制度を破壊すれば、当然中国大陸の1国2制度である「改革開放」も死を迎えます。
「改革開放」が存在しない中国大陸は、宗族争いが激化し、習近平が宗族間の争いに勝利して、自らが属する宗族が中国の支配階階層となれば、北朝鮮と何ら変わりがないです。ただし、宗族の倫理からみれば、習近平のこの行動は正義なのです。
習近平氏の運が良ければ、北朝鮮のように貧しい国で宗族を支配階層とする王朝を築けるでしょうが、毛沢東時代と違って「自由と豊かさを知った」他宗族の中国人民を押さえつけるのは至難の技でしょう。
かなりの確率で、習近平政権は崩壊せざるを得ないでしょう。
日本人と中国人の顔は似ていますが、思考はまるで違います。外交でもビジネスでも、それを理解した上で対応しないと痛い目を見続けることになります。それは、宗族のような組織を過去に捨て去った西洋社会も同じことです。
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