2021年9月28日火曜日

対中政策として選択すべきバイデン政権のTPP復帰―【私の論評】TPPは最早台中対立の最前線!米英も早期に参戦すべき(゚д゚)!

対中政策として選択すべきバイデン政権のTPP復帰

岡崎研究所

 バイデン大統領は、政権発足以来、トランプ政権が離脱してきた様々な国際合意への復帰を、順次果たしてきた。WHO(世界保健機関)や気候変動に関わるパリ協定がそうである。

 現在、イランとの核合意も再生させようと模索している。しかし、TPP(環太平洋連携協定) への復帰を予定しているとは聞かない。TPPはオバマ政権下で、厳しい交渉の末、12か国で合意したものだが、トランプ政権下で米国が離脱した後、残り11か国でCPTPP (環太平洋連携に関する包括的・先進的協定)として発足したものである。

 11か国とは、豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレイシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール及びベトナムである。これらアジア・太平洋の11か国で、世界のGDPの14%を占めていると言われる。EU(欧州連合)を離脱した英国は、CPTPPへの加盟を期待し、11か国と交渉を開始した。


 TPPに関する米国の姿勢に関しては、9月10日付のForeign Affairsにて、アジア・ソサイエティ政策研究所副所長のウェンディ・カトラー(元USTR代表補)が、バイデン政権は中国との競争を外交政策の最大の課題に掲げているが、それなら TPP(CPTPP)に復帰すべきであると論じている。

 カトラーの論説には全面的に賛成である。バイデン政権はCPTPPに復帰すべきである。この論説はオバマ政権でTPPの交渉責任者を務めた人物によるものであるが、国内向けの観測気球という側面を持つものかも知れない。

 バイデン大統領は、選挙戦中から貿易協定には消極的で、焦点は国内にあるとして、まずは国内に投資し世界経済で成功する用意が出来るまでは新たな貿易協定は一切結ばないと主張していた。そこまで言い張ることに合理的根拠があるようには思えなかったが、CPTPPに回帰する様子は微塵もなかった。

 しかし、バイデンはインド・太平洋で中国と競争することを外交政策の最優先に位置付けており、そうであれば、カトラーの論説が的確に指摘するように、CPTPPに回帰することは避けて通れないはずである。

中国の動きには警戒を

 カトラーの論説は、米中貿易戦争とコロナの感染拡大が、中国に供給源を過度に頼ることのリスクを指摘して、米国がCPTPPのメンバーであれば、より強靭で信頼出来るサプライチェーンを構築する基礎として使えることを論じているが、バイデンはCPTPPを単に国内の製造業や雇用との関連ではなく、より広い戦略的な観点で国民に説明が可能ではないかと思われる。

 そんな折、カトラーの論説が発表されて1週間も経たない9月16日、中国の商務省は、中国がCPTPPに加盟申請したことを明らかにした。CPTPPが合意された本来の目的の一つは、巨大化する中国経済に対抗する意味合いもあった。CPTPPは、そのルールを守る限りいかなる国を排除するものではない。が、容易に中国がCPTPPのルールを守りうるとは思えない。

 バイデン政権は注意が必要である。習近平の発言はCPTPPに台湾が参加することを妨害する意味合いが大きいのではないかと思うが、いずれにしても、中国のCPTPPへの参加には慎重な検討が必要であろうと思われる。

【私の論評】TPPは最早台中対立の最前線!米英も早期に参戦すべき(゚д゚)!

日本やオーストラリアなど環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の加盟11カ国は28日、英国の加入をめぐる第1回の作業部会をオンライン形式で開いた。日本が作業部会の議長を務め、英国の加入交渉が本格化します。

英国のTPP加入をめぐる第1回の作業部会の画面

英国は2020年1月に欧州連合(EU)を離脱し、今年2月にTPP加入を申請。6月に交渉入りが決まった。作業部会は、英国が加入に向けてこれまで行ってきた取り組みや、加入の際に改正が必要な国内法令などが議題。18年12月のTPP発効以来、新規加入交渉は初めてとなります。
TPPに今月、加入申請した中国と台湾の話題は出ませんでし。ただ、台湾が法改正を進めるなど準備を進めてきた一方、中国については「都合の良い例外を設けようとする」(経済官庁幹部)との懸念もあります。政府関係者は英国との交渉で「(ルール変更を認めない)先例ができる」と話しています。

中国の加盟に向けた課題は多いです。特に障害となりそうなのがデータを巡るルールです。TPPはデータ流通の透明性や公平性を確保する原則を定めています。

これは既存の多くのFTAが盛り込めなかったもので、専門家の間では「TPPスタンダード」と呼ばれています。中国は、企業や個人による国境を越えた自由なデータの流通には否定的です。データ安全法(データセキュリティー法)などで統制を強化する同国は「RCEPレベルが限界だ」との指摘があります。

2つ目は強制労働の撤廃や、団体交渉権の承認など、労働に関するルールです。ウイグル族への人権侵害が国際世論の反発を招く中で、中国はTPPの加盟交渉で難しい立場に置かれることになります。

3つ目として、国有企業への補助金や政府調達の手法など、中国国内の制度改革が必要なテーマも難しい分野です。TPPは競争をゆがめるとして国有企業を補助金などで優遇することを禁じています。


習近平指導部が進めてきた国有企業の増強を続けるなら、交渉はつまずくことになります。TPPは政府調達でも国内外企業の差別を原則的になくすよう求めますが、中国は安全保障を理由に外資系の排除を進めてきた経緯があります。

また、中国が加盟するには全加盟国の支持が必要です。マレーシア、シンガポールは加盟申請に歓迎の意向ですが、日本・豪州は慎重な姿勢を見せています。メキシコもTPPは「高い基準を順守するすべての国に門戸は開かれている」と指摘。国有企業への補助などの中国の経済ルールが加盟に課題となることを暗に示唆しました。

一方台湾の蔡英文総統は、2016年の就任時からTPP加盟を悲願としてきました。台湾経済は中国に大きく依存し、輸出は4割強を占める。統一圧力を強める中国からの脱却を急ぐには、TPPに加盟し中国への依存度を引き下げる必要があると判断しました。その中国に加盟申請で大きく遅れれば、加盟が困難になるとみて申請手続きを急いだようです。

台湾に関しては、中国と比較すればはるかに民主化・自由化等が進んでおり、中国よりはかなりTPPに加入しやすいです。

ところが、台湾悲願の加盟にも難題があります。中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を唱える中国の圧力です。中国は自身がTPPに加盟できなくても、台湾加盟を阻止するために、加盟国に対する働きかけを強める可能性が高いです。TPP加盟国には、中国と強い貿易関係で結ばれる南米のチリやペルーや東南アジアの国々が多く含まれています。

中国外務省の趙立堅副報道局長は23日の記者会見で、台湾のTPPへの加盟申請に強く反発しました。「台湾がいかなる公的な性質を帯びた協定や組織に参加することにも断固反対する」と述べました。米国がTPPから離脱した現在、中国の圧力を受けながら台湾の加盟を強力に後押しできる国は乏しいのが実情です。

日本との関係でも課題がある。台湾は福島県など5県の農産品の輸入を全面禁止にしてきました。今でも5県産の農産品の輸入に対する市民の反対が根強いです。TPPへの加盟のために輸入解禁を強行すれば、反対運動が起こって蔡英文政権運営を揺るがしかねない事情という事情があります。ただ、これは台湾の国内問題であり、日本が台湾にワクチンを供給したこともあり、

台湾当局は、2011年の福島第一原発の事故以降、福島県などの食品の輸入規制を継続して行っていて、日本政府は「非科学的な対応を外してほしい」と解除を訴えていました。

台湾当局は23日の会見で、「TPPの主席である日本と台湾の間には緊密な連携がある。TPPへの申請案を提出した後、国際ルールに従い日本政府と交渉する」と発言しました。

 福島県産品の食品の輸入規制を巡っては、2018年に台湾で住民投票が行われ、食品の輸入を禁止することが決まっていました。 

台湾の中華経済研究院WTO及びRTAセンターの李淳副執行長は、「中国の加入申請が台湾の参加申請のブースターになったのは確かで、最大の課題は日本の食品輸入問題。すでに米国、欧州とも科学的に福島の産品には危険性がないことを認めており、台湾が日本にノーと言い続けることは難しい」と述べています。

茂木敏充外務大臣は、台湾の加入申請について「台湾は我が国にとって基本的価値を共有して、密接な経済関係を有する極めて重要なパートナーで、台湾の加入申請をまずは歓迎したい。他の参加国ともよく相談する必要がありますが、我が国としては、戦略的な観点や国民の理解も踏まえながら、対応していきたい」と語りました。

茂木敏充外務大臣

茂木外務大臣の「戦略的な観点」という言葉は重要です。その含意は、対中包囲網の強化という大所高所に立って、台湾が食品輸入問題の解決に前向きな取り組みを見せてくれれば、即時解除の措置を取らなくても、日本は台湾の加入を応援できるとの姿勢を示したものと思われます。

一方、米国のネッド・プライス国務省報道官は「米国は会員ではないが」と断りつつ、「台湾は民主主義を信奉し、WTOの責任あるメンバーでもある。中国は経済力で他国を強制しており加盟での評価に影響するだろう」とコメントし、台湾の加入に肩入れし、中国の加入を歓迎しない姿勢をほのめかしました。

TPPがにわかに中台対立の舞台となることは、加盟国にとっても米国にとっても想定外のことだでしょう。米国は当分TPPへの復帰には慎重な姿勢を崩していないですが、中台の同時申請に加盟国がそれぞれどう対応するのかに注目することでしょう。

米中新冷戦のもと、存在価値をたかめたTPP体制の真価が問われるタイミングが突如やってきた形で、この難題をどう処理するか、各国の連帯や日本の外交力が問われる局面になりますし、中国との競争を外交政策の最大の課題に掲げているバイデン政権もこれに注目するのは当然のことです。

中国のCPTPPへの参加は元々無理筋であり、台湾を牽制するために、TPP加入申請をしたとも考えられますが、TPPの加入、加入拒否などは、加盟国の合意がないとできませんが、TPPの加盟国に対して圧力を加えて、加入をしようと試みるかもしれません。

このブログでは何度が解説したように、一般に流布さているような中国による台湾の武力侵攻はありえず、中国が軍事的に台湾に侵攻することは、今後数十年間は不可能です。それは中国自身が良く知っていることでしょう。であれば、中国は対台湾戦略として、軍事力による侵攻ではなく、軍事力以外の様々な方法を駆使することを考えるでしょう。TPPはその一環として用いられる可能性があります。

TPPは元々オバマ政権下で、厳しい交渉の末、12か国で合意したものです。そうして、その大きな目的一つは中国囲い込みです。それが、中国に加入されてしまっては本末転倒になりかねないわけです。

やはりバイデン政権は、中国と対峙するためにもTPPに早期復帰すべきです。現在日本は、自民党総裁選の真っ最中ですが、新総裁、つまり日本の新総理大臣は、バイデン政権のTPP早期復帰を説得すべきです。これが、新総理大臣の最大の外交課題になるでしょう。

米国は、TPPに復帰しようとすれば、交渉はすでにすんでいるので、すぐに加入できるはずです。英国も中国よりは、遥かに加入しやすいし、中国の加入手続きは困難を極めることでしょう。

英米が加盟すれば、TPPとしては、中国は加入できないですが、台湾は加入できますし、中国が香港の「一国二制度」を復活すれば、香港の加入も可能になると主張すべきでしょう。実際、これは可能だと思います。しかし、中国が体制も変えない、香港の「一国二制度」も復活しないというのなら、検討の余地なしとして、門前払いされるのは当然です。

米国が中国に仕掛けた間接的な戦争に、中国が外国人・企業への制裁を行うことで対抗措置を自国内で実行すれば、国際社会から批判される可能性があります。さらに外国人を拘束し自由を奪えば、国際社会からの軍事的な先制攻撃を正当化させる可能性が有ります。

英国には、香港人の救出を目的とした戦争を行う大義名分が有ります。しかも中国は、英国と交わした一国二制度を一方的に破棄しました。中国は英国との約束を破り、しかも香港人の人権を弾圧。これらは英国を怒らせるには十分で、英国が香港・澳門奪還作戦を行えば、正義は英国側にあります。

TPP交渉は、こうした米英の立場も活用したうえで、中国に対して有利に展開することが可能です。「一国二制度」の復活をつきつけられた、中国の取るべき道は「一国二制度」を復活させることを認めるか、認めないでTPPに加入することをあきらめるしかなくなります。

このような戦略を実行すれば、TPP交渉は、台中対立の最前線から、米英を含むTPP加盟諸国と中国との対立の最前線になるのです。そうして、これはTPP側が勝利する確立がかなり高いと思われます。


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