2020年12月16日水曜日

台湾企業の対中依存軽減に必要な「南向政策」と米台協力―【私の論評】英台を速やかにTPPに加入させ、中国が一国二制度を復活し香港を元に戻すなら香港を加入させよ!

 台湾企業の対中依存軽減に必要な「南向政策」と米台協力

岡崎研究所

 台湾の蔡英文政権は11月20日に、米国駐台湾代表処(AIT)との間で初の「経済繁栄パートナーシップ対話」を開催し、今後5年間にわたる覚書に署名した。その内容は、米台間の経済協力強化だけではなく、米台のアジア・太平洋地域への共通の取り組みを模索するものとなっている。


 Taipei Timesの11月28日付け社説は、「中国は過去数年、東南アジアやオセアニアに対し、米台を排除する方向で、投資を拡大してきた」と述べている。そして、米台としては、東南アジア、オセアニア諸国に対する今後のインフラ支援やサプライチェーン面での協力を通じ、これら諸国の対中依存の脱却を図るべし、と論じている。興味深い内容であると言える。

 中国は「一帯一路」政策を通じ、カンボジア人を土地から追い出し、環境を破壊して地域物流拠点を作り、また、スリランカでは、融資を返済できないことの対価として主要な港湾を買収するなどしてきた。台湾、豪州、ニュージーランド、米国にとって、南アジア、東南アジア諸国におけるインフラ支援から、大きな利益を得ることができる。それは、これらの諸国を対中国依存から解放し、生産活動を友好的なサプライチェーンに多様化してゆくことである。

 蔡英文政権自身、台湾が中国との間の貿易・投資の対中依存度を下げる方向で、台湾企業を中国から東南アジアへ移行させるという、いわゆる「南向政策」を進めてきてからすでに数年になる。しかし、数字から見る限り、台湾経済の中国依存度はその後も基本的には大きくは変わっていない。

 台湾の企業からすれば、中国の意に沿わない方針を取れば、中国がそれを利用して、台湾企業への締め付けを強化するのではないかとの警戒意識があるため、慎重にならざるを得ない面があるのだろう。かつて陳水扁・民進党政権下で、当時中国に進出していた台湾の「奇美企業」が「台湾独立派」であるとして、中国での営業活動から排除されようとしたことがある。このケースは台湾の関係者の記憶にはいまだ鮮明に残っているようだ。

 ただし、台湾の企業自身が中国市場への依存度を徐々に減らしていくためにも、「南向政策」を続け、米国と一緒になって、対アジア・太平洋政策を促進することは、中国の拡張主義を抑止するための安全保障上の重要な手段であることに変わりはなく、今日、台湾内部においてもそのような見方が強まっていると言って良い。

 米台間のさらなる緊密化は日本にとっても、懸案となっているTPP(環太平洋経済連携協定)への台湾加入を促進する良い機会となろう。最近は、中国自身がTPPに加入することについて意欲を示し始めたが、これは、米国の政権交代や、台湾のTPP加入の可能性等に対する警戒感や牽制から出ているのではないかと思われる。

【私の論評】英台を速やかにTPPに加入させ、中国が一国二制度を復活し香港を元に戻すなら香港を加入させよ!

菅義偉首相は11日のインターネット番組で、中国や韓国による環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の可能性について慎重な見方を示しました。「参加11カ国の了解がなければ簡単には入れない」と述べました。

APECの関連業にあてた菅総理のビデオメッセージ

菅義偉首相は先月20日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の関連行事「CEO(最高経営責任者)との対話」にビデオメッセージを寄せ「環太平洋経済連携協定(TPP11)の着実な実施と拡大により、アジア太平洋自由貿易圏の実現を目指す」と呼びかけました。

TPPが他の枠組みより高い水準のルールの順守を要求することを踏まえ「大きなハードルがある。戦略的に考えながら対応する」とも語りました。

中国は今のままだと、TPPに加入できません。現在無理に入ろうとすれば、TPPに加入するために、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現しなければなりません。これをすれば、中国共産党は統治の正当性を失い崩壊します。

そのようなことは、最初からわかりきっているのに、なぜTPPに入ろうとするのかといえば、結局のところTPPのルールを中国にも入りやすいように変えて、自由貿易の美味しいところだけをつまみ食いしようという魂胆でしょう。

しかし、日本をはじめ他のTPP加盟国もこれに与することはないでしょう。中国ができるとすれば、一国二制度を復活して、香港を元の状態に戻し、その上で香港をTPPに加入させるということならできるかもしれません。

中国が間接的にでも、TPPに加盟したいなら、このくらいしか方法はないでしょう。それに、TPPの現在の加盟国も、香港を元の状態に戻してその上で参加するか、それこそ大陸中国本土が香港のようならなければ、加盟を許すべきではありません。

厄介なのは、TPPに入る意向をみせた中国に追随する韓国です。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を検討すると表明しました。

文在寅韓国大統領(左)、習近平中国主席(右)

これまでの韓国の通商交渉は、2国間の自由貿易協定(FTA)中心だでした。これは相手国を選び、対象をモノの関税だけに限定するというスタイルです。

韓国の2国間FTAの相手国をみると、米国、欧州連合(EU)、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、ベトナム、中国などです。TPP締結国11カ国のうち、日本とメキシコを除く9カ国とFTAを締結しています。

韓国は今まで2国間FTAで日本を避け続けてきたのは明白です。もし、韓国と日本がFTAを締結すれば、韓国の産業構造は日本と似ており、両国で関税を互いに引き下げた場合、大量の日本製品が韓国に流入し、韓国内の産業を毀損することを韓国が恐れたためでしょう。

日本が入っているTPPに韓国が入れば同じことが起こります。だからこそ、韓国は最近まで、TPPに加入する気はなかったのでしょう。

さらに、TPPでは加入国の国有企業改革が求められますが、韓国には未だ韓国電力公社、韓国石油公社などの政府系企業が存在しており、TPPに加入すれば大きな影響を受けることは必至です。さらにコメの自由化を求められるます。

そのため、韓国はTPPに参加せず、中国とのFTAを優先しました。韓国がTPPに参加しなかった表向きの理由は、中国とのFTA交渉のために実務的にできなかったというものでした。実際、朴槿恵(パク・クネ)政権の時、TPP交渉が行われている間、韓国は中国とのFTA交渉に没頭していました。

そのあたりから、韓国の中国従属スタイルが強化されていきました。その中国がTPPに参加できないこともあり、中国を意識して韓国はTPPを加入しなかったという背景もあるでしょう。

日本はどう対応すべきかといえば、あくまで中韓が今のTPPルールを守るなら両国を拒む理由はありません。

ただ、先に述べたように、中国は今のままだとTPPには加入できません。韓国も相当ハードルが高いです。とはいいながら、中国よりは入りやすいです。

であれば、先程も述べたように、中国に対しては一国二制度を復活して、香港を元に戻せば、香港の加入を審査するものとして、中国が一国二制度を破棄する行動にでれば、香港の加盟をすぐにも取り消す旨を伝えるべきでしょう。それができないというのなら、中国不参加となっても良いでしょう。

韓国も相当ハードルが高いはずですから、ルールが守れないというなら不参加で良いでしょう。

そのようなことよりも、上の記事にあるよに台湾の参加を優先すべきです。そうして、現在EU との通商交渉が「合意なき離脱」になりそうな、英国のTPP参加も優先すべきです。

蔡英文台湾総統(左)とボリス・ジョンソン英首相(右)

そうして、米国の参加も視野にいれるべきです。TPP「拡大」は、米国と中国を牽制するだけではなく、混沌とする世界に新たな秩序をもたらし、世界を救うことにつながることになります。

このTPPを日本という軍事的・経済的覇権によらない国が旗振り役を務めたということが大きいです。

最早世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいるのだと思います。ここに、日本が世界でリーダーシップを発揮できる好機が訪れたともいえます。

そうして、いずれ日本はWTOにTPPのルールを元にしたルールをWTOの自由貿易のルールにすることを迫るべきです。

日本がWTOを改革のため、TPP協定の規定をWTOに採用するように働きかければ、元々オバマ大統領時代に、米国がTPPを推進しようとしたわけですから、これに対して米国も賛同せざるを得ないと思います。

単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定であり、しかも自ら加入の可能性を表明した協定をWTOに持ち込むことには中国も真っ向から反対できないでしょう。

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