2021年9月19日日曜日

イラン科学者暗殺はロボット兵器 米紙報道、遠隔操作で銃撃―【私の論評】今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようになる(゚д゚)!

イラン科学者暗殺はロボット兵器 米紙報道、遠隔操作で銃撃


ファクリザデ氏襲撃現場の写真

 米紙ニューヨーク・タイムズは18日、昨年11月にイラン人核科学者ファクリザデ氏が暗殺された事件で、人工知能(AI)を活用した遠隔操作の高性能ロボット兵器が使われたと報じた。イスラエルが米国の支持を得て銃撃を実行したという。米国やイスラエル、イランの当局者らの話としている。

  「イラン核開発の父」と呼ばれたファクリザデ氏は昨年11月27日、首都テヘラン東方を護衛付きの車列で移動中、銃撃を受け殺害された。同紙によるとイスラエルの対外特務機関モサドが、車列を待ち伏せたピックアップトラックに積まれた機関銃を遠隔操作した。

【私の論評】今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようにな(゚д゚)!

2020年11月、イランの核科学者モフセン・ファクリザデ氏が何者かに暗殺された際、イランのメディアは犯行がイスラエルとイラン国外の反体制派組織によるもので、人工衛星経由で制御されたロボット兵器によって実行されたというにわかには信じがたい情報を伝えていました。

モフセン・ファクリザデ氏

そのため、このブログでも暗殺されたことは掲載しましたが、ロボット兵器に関しては、掲載しませんでした。しかしそれは正しかったようです。

暗殺に関してイランおよびイスラエルの政府はともに公式にはロボット兵器が使用されたことを認めてはいません。しかしNew York Timesが新たに報じた情報によると、イラン核兵器開発の第一人者とされるファクリザデ氏の暗殺に用いられたのは、ベルギー製のFN MAG機関銃にAIと複数のカメラで遠隔制御可能な機構を装備した、1分間に600発の弾丸を発射できるロボット兵器だったとのことです。

暗殺者らは作戦のためにこのロボット兵器をパーツごとに細かく分けてイラン国内に持ち込み、現地で組み上げたと報じています。


イスラエル国防軍のプーマ戦闘工兵車のRWSに搭載されているFN MAGです。普段は車内から遠隔操作できます。

RWS(Remote Weapon System、Remote Weapon Station)は、軍用装甲車などの装甲戦闘車両や軍用船舶に装備されている遠隔操作式の無人銃架・砲塔の事を指す。

イスラエルは、FN MAG機関銃を装備したRWSを開発しているので、これを用いた遠隔操作できるロボット兵器を開発することは比較的簡単であったと考えられます。

この機関銃の特筆すべき点は、銃身を非常に素早く交換できるという点です。よく訓練された兵士は、およそ3秒以内に新しい銃身に交換することができます。機構的な過熱を防ぐため、継続射撃を行う際にもベルトリンクは100連に制限されています。訓練の際にはこの制限がしばしば省略されますが、それでも継続して射撃を行うことができます。

たとえば、フォークランド紛争におけるグース・グリーンに対する攻撃の際、イギリス軍空挺(エアボーン)部隊の兵士は、交換用の銃身なしで5,000-8,000発もの弾丸を発射する必要がありました。結果的に、銃身が白くなるほど過熱したのですが、それでもこの機関銃は作動し続けることが証明されました。

この機関銃を含むロボット兵器は、道ばたにうち捨てられたピックアップトラックに仕込まれ、自動車で移動中のファクリザデ氏を衛星を介した遠隔制御で蜂の巣にしたとされます。銃に取り付けられたAIは、カメラセンサーにより自動車で移動中のファクリザデ氏を顔認識で識別する機能を持ち、また射撃時には標的の移動偏差修正や銃の反動の制御も行っていたと報告されています。

その狙撃がいかに正確だったかは、車に同乗していたファクリザデ氏の妻や関係者が無傷で、負傷して車外に出たファクリザデ氏がさらに致命傷を負うまで銃撃されていた状況からもうかがい知ることができます。

ただ、NYTはAI顔認識は精度が低かったため、おとりとして用意した別のカメラ搭載の自動車でファクリザデ氏の特定をアシストしたとしています。また犯行後、工作員は証拠隠滅のためにロボット兵器を搭載するピックアップトラックを相当量の爆薬で爆破したものの、ロボット兵器の本体部分は爆風で車外に放り出されたために、その犯行の概要がわかったと伝えています。

ファクリザデ氏はイランで最も著名な核科学者で、イラン革命防衛隊の幹部でした。

イスラエルや西側の安全保障筋は、ファクリザデ氏がイランの核開発計画を主導してきたと考えてきました。

物理学教授のファクリザデ氏は、1989年にイランが極秘で発足した核兵器研究計画「プロジェクト・アマド」を主導していたとされます。

国際原子力機関(IAEA)によると、この計画は2003年に終了しています。しかし、イスラエルが2018年に入手した極秘文書からは、ファクリザデ氏がプロジェクト・アマドを引き継ぐ新たな計画を主導していることが分かったといいます。

イランと敵対するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はかつて、演説でファクリザデ氏の「名前を覚えておくように」と語っていました。

一方のイランは、イスラエルが2010~2012年の間に、イランの核科学者4人を暗殺したと非難しています。

アナリストからは、今回の暗殺はイランの核開発を止めるためではなく、2018年にドナルド・トランプ米大統領が離脱した核合意に、ジョー・バイデン次期米大統領が再び参加するのを防ぐためだったのではないかとの分析も出ています。

イランは2015年、イギリスやアメリカなど6カ国と核合意を結び、濃縮ウランの製造を制限すると約束しました。しかしトランプ大統領が2018年に核合意から離脱を決めて以降は、イランもこの合意内容に抵触するようになりました。

近年では、イランが濃縮ウランの製造を拡大しているという新たな懸念が浮上しています。濃縮ウランは、民生用の原子力発電においても、核兵器製造においても、重要な要素です。

ロボット兵器を使うとはまるでスパイ映画のような話ですが、技術的には驚くほどでもありません。銃をロボット化して遠隔操作することで周囲の警備状況を手薄にさせることができ、またドローンを飛ばしたときのように警報を発せられることもありません。

そして仮に、計画どおりピックアップトラックとともにロボット兵器も完全に破壊されていれば、イラン当局は事件の概要を知ることもできなかった可能性があります。

米QinetiQ社の無人兵器MAARS

NYTの報告がすべて正しければ、今後はこのようなスパイ活動が当たり前になっていく可能性が高そうです。今後スナイパーは自らを危険にさらすことなく標的を仕留められるようになっていくことでしょう。

それが必ずしも今回のように成功するかはわかりません。ファクリザデ氏は事件に至るまで複数の警備上の警告・勧告を軽んじた行動をとっており、そのぶん殺害が容易になったとされます。それでも、ロボット兵器による殺害は今後も計画されていく可能性が高いと思わざるをえません。

これを一番恐れているのは、世界の独裁者たちかもしれません。

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