2021年9月8日水曜日

中国によるアフガン進出を左右するパキスタン情勢―【私の論評】米軍のアフガン撤退は、米国の東アジアへの関与を強めることになり、日本は大歓迎すべき(゚д゚)!

中国によるアフガン進出を左右するパキスタン情勢

岡崎研究所

 8月30日(日本時間31日)、米中央軍のマッケンジー司令官は、米軍のアフガニスタンからの撤退が完了した旨を述べた。2001年9月11日の米国同時多発テロをきっかけに、アフガニスタンに介入した米軍及びNATO諸国軍だったが、20年にわたる軍事行動や民主化運動が正式に幕を閉じることになった。

 8月15日のタリバンによるカブール陥落前後から、米軍始めNATO諸国は、自国民及び協力アフガン人を退避させる行動をしてきたが、その間も、カブールが混乱状況にあったのみならず、26日にはカブール国際空港周辺で大規模な自爆テロが発生した。「IS-K」と名乗るISの一派が犯行声明を出した。

 今後、タリバン政権が支配するアフガニスタンは再びテロの温床になってしまうのだろうか。


 この8月の国連安全保障理事会では、今年4月からの間にタリバン、アルカイダやISILなど20のグループによってアフガニスタンの34の内31の地区で計5500回にわたる攻撃が行われていたことが報告された。

 今年初めの米国議会では、バーンズCIA長官が、現在はアルカイダやISILは米国本土を攻撃する力はないが、米軍が撤退すると、情報を収集し、必要な対応策をとるのが難しくなるのは事実であると警告した。今後、いかに正確な情報を早く収集し、危険を察知した場合にいかに早急に行動を起こせるかの体制をどのように築けるかが課題となる。トランプの合意、バイデンの撤退は、この体制を築くのをより困難にしたかもしれない。

 アフガニスタンは、6か国(中国、イラン、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン)と国境を接している。既に、タリバンに積極的にアプローチしている中国は、米軍撤退後、アフガニスタンにさらなる影響力を行使するのだろうか。

 米軍のアフガニスタンからの撤退は、中国対策に集中するためという目的もある。しかし、中東でも米軍の縮小が中国の存在感を増しているように、アフガニスタンからの米軍撤退が逆にアフガニスタンから中東にいたるまで中国が勢力を伸ばす結果になることも懸念されている。

 中国は米軍の存在がアフガニスタンにもたらしていた一定の治安を利用し、着々と投資機会を探り、タリバンとの関係を築いてきた。すでに石油や天然ガス開発に投資してきたが、米軍撤退後は経済支援の代償にリチウムやコバルトなど産業資源の開拓権利を狙っている。

 また、アフガニスタンは、中国が主導する「一帯一路構想(BRI)」で、中央アジアから中東、欧州を結ぶ要所である。BRI最大のプロジェクトである中国・パキスタン経済回路とカブールをつなぐ道路建設計画もあり、資源開発やインフラ整備が実現すれば中国の覇権の動脈となるBRIは大きく前進する。

 中国が米軍撤退の恩恵をうけるかは、ウイグル分離派組織である東トルキスタン・イスラム運動が活性化するか、そしてアフガニスタンやパキスタン内の治安にかかっているといえる。

パキスタンの動きにも注視を

 アフガニスタンと南の国境を接するのがパキスタンである。2011年にウサマビン・ラディンは、パキスタンに隠れていたところを米軍の特殊部隊によって殺害された。かつて米国がテロ対策を「AFPAK政策」と呼び、アフガニスタンとパキスタンを重視したのは、両国がテロの温床にならないように安定した国家になってほしいとの願望からだった。

 実は、そのパキスタンは、アフガニスタン以上に将来の不安を抱えていると見ることも出来る。Chayesらアフガニスタンの専門家によれば、タリバンはそもそもパキスタンの軍と軍統合情報局(ISI)が作ったものである。

 ソ連のアフガニスタン撤退後、西側からの豊富な武器を持った部族間の衝突が続きアフガニスタンは内戦状態だった。パキスタンはパシュトゥンの中でもイスラム原理主義者を支援し、アフガニスタンの内戦、特に国境沿いを鎮静化することで、パキスタン軍がカシミールでのインドとの戦いに専念することが可能になると計算した。

 パキスタン政府や軍、ISIはこれまでアフガニスタン・タリバンとパキスタン・タリバンを分けるような発言をしてきたが、両者は同じコインの表裏であるとされ、米国のアフガニスタン撤退でタリバンがアフガニスタンで勢力を得れば、パキスタン・タリバンも勢いを復活させ、再び北西部を中心にパキスタン情勢をさらに不安定にする危険がある。

 米国がアフガニスタンから撤退した後、タリバンやイスラム組織が再びアメリカ国内でテロを起こす可能性はゼロとは言えない。しかし、アフガニスタンやイラクでの「永遠の戦争」を忘れたく、新型コロナウイルスで精神的・経済的に疲弊し、分断が改善されないアメリカでは、首都ワシントン以外では、撤退騒動もアフガニスタンも比較的早く忘れられるかもしれない。それは、最近のバイデン政権への支持率低下の理由が、アフガニスタン撤退以上に、コロナや経済政策に向けられている点からもわかる。

【私の論評】米軍のアフガン撤退は、米国の東アジアへの関与を強めることになり、日本は大歓迎すべき(゚д゚)!

米軍によるアフガニスタン撤退に関しては、日本ではマイナス面ばかりが報道されていますが、本当にそれだけなのでしょうか。私自身はそうは、思いません。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します

米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分を少し長いですが、以下に引用します。

ソ連のアフガニスタン侵攻に米国など西側諸国が反発し、70年代の緊張緩和(デタント)が終わって新冷戦といわれる対立に戻りました。これを機にソ連の権威が大きく揺らいで、ソ連崩壊の基点となりました。 

当時はソ連のアフガニスタン侵攻の理由は明確にはされず、諸説あったが、現在では次の2点とされています。

まず第一は、共産政権の維持のためです。アフガニスタンのアミン軍事政権が独裁化し、ソ連系の共産主義者排除を図ったことへの危機感をもちました。ソ連が直接介入に踏み切った口実は、1978年に締結した両国の善隣友好条約であり、またかつてチェコ事件(1968年)に介入したときに打ち出したブレジネフ=ドクトリン(制限主権論)でした。

第二位は、イスラーム民族運動の抑圧のためです。同年、隣国イランでイラン革命が勃発、イスラーム民族運動が活発になっており、イスラーム政権が成立すると、他のソ連邦内のイスラーム系諸民族にソ連からの離脱運動が強まる恐れがありました。

現在の中国も似たような状況に追い込まれることは、十分に考えられます。アフガニスタンのイスラーム過激派などに呼応して新疆ウイグル自治区の独立運動が起きる可能性もあります。

それに影響されて、チベット自治区、モンゴル自治区も独立運動が起きる可能性もあります。そうなると、中国はかつてのソ連や、米国のようにアフガニスタンに軍事介入をすることも予想されます。そうなれば、かつてのソ連や米国のように、中国の介入も泥沼化して、軍事的にも経済的にも衰退し、体制崩壊につながる可能性もあります。

意外と、トランプ氏はそのことを見越していたのかもしれません。米軍がこれ以上アフガニスタンに駐留をし続けていても、勝利を得られる確証は全くないのは確実ですし、そのために米軍将兵を犠牲にし続けることは得策ではないと考えたのでしょう。

さら、米軍アフガニスタン撤退を決めたトランプ氏は、中国と対峙を最優先にすべきであると考え、米軍のアフガニスタン撤退後には、その時々で中国に敵対し、中国を衰退させる方向に向かわせる勢力に支援をすることに切り替えたのでしょう。バイデン氏もそれを引き継いだのでしょう。誰が考えても、米軍がアフガニスタンに駐留し続けることは得策ではありません。

今後米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直すことになると思います。その先駆けが、米軍のアフガニスタン撤退です。

まさに、このようなことが起きようとしています。そもそも、米国内では、中国に対する関心や、敵愾心は高まりつつありますが、アフガンほの関心は薄れています。

2001年9月11日、米同時多発テロが起きた直後、米国には感情があふれていました。怒り、恐怖、悲しみが渦巻き、報道番組でニュースキャスターが「テロリストの反米憎悪の根深さ」を語るうちに泣き崩れる場面もありました。

米国同時多発テロ

それが合図のようにむき出しの感情というブームが世界に広がりました。その頃を境に控えめさや上品は死語となり、人々はネット、SNSで聞くに耐えない言葉で互いを非難するのが日常となりました。

それから20年、米国人は「感情」をどこかに置き忘れたのか、すっかり冷めきっています。アフガニスタンからの米軍撤退を歓迎も批判もせず、「まだいたのか」と無関心のままの人が少なくないです。

これは、徐々に冷めていったようです。米ギャラップ社の世論調査によると、2002年には93%がアフガンへの軍事介入は失敗ではなかったと答えています。介入直後、「イスラム世界の民主化」といったスローガンが語られた頃のことです。

ところが、介入への支持率は年々下がり、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンが米軍の手で殺害されてから1年後の2012年には、66%がアフガンでの軍事介入に反対しまし。そして、トランプ前大統領による「アメリカ・ファースト」政策で、アフガン内政への関心がますます遠のき、バイデン政権も特段の抵抗もなく撤退政策を引き継ぎました。

「世界に民主主義を」という大義も「テロの温床を叩く」という実利もアフガン介入で叶うことはありませんでした。USAトゥデイの8月下旬の調査では、「アフガンが再びテロリストのベースになるか」との問いに、米国人の73%がとイエスと答えています。

20年前にすでに、この戦争が米国の屈辱的な敗北に終わり、いずれタリバンが復権すると見る人は結構いました。言えるのは、この失敗、災難から米国人が何かを学んだとはとても思えないことです。

米国は今、かつての英国やソ連と同じ『帝国の末路』というシナリオに乗り、悲惨な状態へと向かいました。軍による海外での愚行は国民の分断をあおり続けるでしょう。過去20年の失策で唯一利を得たのは、軍産複合体だけです。この国でも外国でも庶民は何も得ていないです。

国の失敗に落胆もせず、感情的にもなれない状態に今の米国はあるのでしょうか。だとすれば、アフガンはほどなく話題にもならず、忘れられていくでしょう。アフガン撤退は、ベトナム戦争での敗退のように、米国を悩ますこともなく、ただ忘れ去られることになるでしょう。

米軍が置いて行った武器・装備で重武装したタリバン部隊の兵士ら

今後、主要国では中国が最も早くタリバン政権を承認する可能性が高く、おそらくロシアもほぼ同時に承認に踏み切るでしょう。

米国は、地下深くの岩石層から天然ガスを採取することに成功した「シェール革命」によって、中東原油に依存する必要がなくなったこともあり、同エリアからの撤退を加速し、その資源を対中競争につぎ込む戦略に転換しました。

中国はその後、米国撤退後の空白を埋める形で、中東での影響力を急速に拡大しています。

アフガン再建で今後注目されるのは、中ロ主導の上海協力機構(SCO)の役割です。

SCOには中央アジア諸国に加え、インドとパキスタンも加わり、アフガニスタンもオブザーバー参加しています。テロを封じ込め、地域の安定化を図る本来の機能が発揮できるかどうかが問われます。

SCOは大まかに言って、以下のような3つの課題を抱えています。
  • ソ連崩壊後の新たな国境管理
  • テロリズム・分離主義・過激主義(三悪)への共同対処
  • 石油・天然ガスなど資源協力
SCOはアフガン情勢をめぐり、7月14日の外相会議に続いて、9月10日にタジキスタンで首脳会議を開く予定です。

インドのモディ政権がこの首脳会議で、アフガン問題で主導権を握りつつある中ロにどう対応するかも注目されます。日米主導のインド太平洋戦略の中核を担う日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)の命運を握るのもインドだからです。

中国やロシアが米国撤退後の空白を埋める形でアフガンに関与を強めたとしても、何も得ることはなく、経済的にも得られるものはほとんどなく、常にテロなどの脅威にさらされることになるでしょう。

それでも、ロシアはアフガン侵攻の失敗からアフガンへの深入りはしないでしょうが、そのような経験のない中国は今後深入りし、米国が経験した様々な苦い体験をすることになるでしょう。

いずれにしても、これを契機に、中露は中東に深入りしていく可能性が高いです。そうして、米国はアジアへの関与を強めていくことでしょう。

以下は、米国のリムランドの3大戦略地域を示すものです。


オバマまでの米国は、リムランド対応として、西ヨーロッパ:中東:東アジアに3:5:2の割合で、力を注いできました。アフガニスタン撤退を機に、この割合を最終的には3:2:5の割合にもっていくことでしょう。

そのほうが米国にとって良いことです。なぜなら、石油産油国になった米国にとって中東はさほど重要ではないですし、中国と対峙する現在の米国にとっては、東アジアに注力するのは、当然のことです。

そもそも、経済的にも西ヨーロッパはある程度大きな部分を占めますし、東アジア中国と日本が存在し、経済的にも大きな部分を占めています。

中東は、GDPでみれは、ほんとうにとるに足らない地域です。サウジアラビアを富裕な国とみなす人も多いですが、実態はどうなのかといえば、日本の福岡県のGDPとあまり変わりありません。中東全域をあわせても、GDPはさほどではないのです。

アフガニスタンに至っては、タリバンは無論のこと、他の勢力がとって変わったとしても、まともな経済対策などできる見込みはなく、今後数十年にわたって、取るに足らないものになるでしょう。

それでも、従来は石油という資源により、中東は重要拠点とみなされてきたのですが、石油産油国となった現在の米国はそうではありません。

このようなことから、米国のアフガン撤退も必然的なものだったといえます。ここに割いてきた注力を東アジアに振り向けるのは当然のことです。

ただ、米国としてはアフガンの失敗の経験をネガティブにだけ捉えるのではなく、今後の対中国戦略に役立てるべきです。アフガニスタンの泥沼に中国がはまり込み、なかなか抜け出せない状況にもっていくべきです。これにより、米国にとってアフガン撤退は一挙両得になる可能性もあります。

そうして、このような見方をすれば、日本にとっては、米国のアフガン撤退はネガティブなものではなく、大歓迎すべきものです。東アジアに米国が注力でき、米国撤退後の空白を埋める形で、中国がアフガンに介入すれば、中国の力が分散されるからです。

日本にとっては、中東の石油は未だ生命線であり、中東をおろそかにすることはできませんが、米国が東アジアに注力することは、大歓迎です。

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