タリバンの戦闘員たち |
米国は1つの国造りに費やした20年の歳月が無駄になったが、ともかくもその「安全保障の配当」の恩恵に浴したのが中国にほかならない。アフガンの安定を醸成しようと米軍が駐留していた中でさえ、中国は「上海協力機構(SCO)」や「アジア相互協力信頼醸成措置会議」といった米国抜きの地域安全保障機構を設置し、あるいは主導的な立場を築いた。また中国はインフラ整備に多額の資金を注ぎ込み、そのうちの幾つかは中国からアフガン国境付近を通過して欧州の市場や中東のエネルギー供給地域までをつなぐ役割を果たしている。
米国が恒久的に手を引こうとしている現在、これまで自らが米国の代わりに地域の経済開発と安全保障を担うとアピールしてきた中国は、満を持して本格的な援助や投資、技術支援に乗り出せる。国有鉱山会社は、2017年時点で価値3兆ドル超と試算された莫大なアフガン鉱物資源の開発を応援できる。中国の国有建設会社は習氏が掲げる「一帯一路」構想の大きな空白部分を埋めるための高速道路、鉄道、パイプライン敷設をこの地域で強行してもおかしくない。
一方で中国の外交当局は、アフガンを制圧したイスラム原理主義の反政府武装勢力タリバンに対して、中国国境を越えて新疆ウイグル自治区に入り込むような攻撃は控えることや、隣国パキスタンに滞在する中国人や中国の投資資産を標的にしている組織への支援を拒むことを要求するだろう。
ただタリバン指導部がこうしたことを全構成員に納得させるのは難しいかもしれない。なぜなら中国政府は、国連の推計で100万人余りのウイグル族その他のイスラム教少数民族を拘束しているからだ。これらの人々の多くは、過激とは到底思えないしきたりや振る舞いが「問題視」され、強制収容されている。中国側はテロ防止と職業訓練が目的と言い張っているが、それでイスラム教徒の怒りが収まるはずはない。
タリバン指導部は、中国の内政問題に関与しないと約束している。しかしタリバンがアフガンをしっかり統治できるかどうかはまだ分からない。できなければ、周辺諸国は中国が指導力を発揮するのを期待するだろう。それは米国がようやく抜け出した泥沼に、中国がはまる恐れがあるということだ。
【私の論評】アルカイダがアフガンに戻れば、中国はかつてソ連軍や米軍がはまり込んだ泥沼にはまり込むことに(゚д゚)!
2001年の米国同時多発テロ |
アルカイダは「基地」「基盤」を意味するアラビア語で、「アル・カイーダ」「アルカエダ」などといわれることもあります。2001年の米同時多発テロのほか、1993年のニューヨーク世界貿易センタービル爆破事件や1998年のケニアとタンザニアにおけるアメリカ大使館爆破事件など、数多くのテロに関与したとされます。
米同時多発テロの首謀者とされる最高指導者ビンラディンが2011年にアメリカ海軍特殊部隊の攻撃で死亡した後、エジプト人のイスラム神学者、アイマン・アル・ザワヒリAyman al Zawahiri(1951― )が指導者につきました。
米軍に殺害されたビンラディン |
1979年、ソ連(当時)のアフガニスタン侵攻に対抗したアラブ諸国の義勇兵(ムジャヒディン)の組織を母体とし、ビンラディンの指導のもと、1980年代後半にアフガニスタンで結成されました。
その後、活動の場をパキスタンやスーダンへ、また欧米のイスラム教徒から支持を得て世界各国に組織を広げました。2001年のアメリカによるアフガニスタン攻撃で、有力指導者が死亡するなどの打撃を受けて弱体化しましたが、メンバーが分散する結果となり、世界各地でアルカイダの犯行とうかがえる爆破事件などが起きています。
2010年末に始まった中東の民主化運動「アラブの春」以降は、政府の治安維持機能が低下した紛争国に、アルカイダ系武装勢力が入り込んで活動を始めました。イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、アルジェリアなどを拠点にサハラ砂漠周辺国で活動する「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、イラクの「イラクのアルカイダ(AQI)」などの指導者やメンバーの一部はアルカイダで軍事訓練を受けたとみられており、アルカイダと密接な関係があるとされています。
2010年末に始まった中東の民主化運動「アラブの春」以降は、政府の治安維持機能が低下した紛争国に、アルカイダ系武装勢力が入り込んで活動を始めました。イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、アルジェリアなどを拠点にサハラ砂漠周辺国で活動する「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、イラクの「イラクのアルカイダ(AQI)」などの指導者やメンバーの一部はアルカイダで軍事訓練を受けたとみられており、アルカイダと密接な関係があるとされています。
そのタリバンとアルカイダとの関係につき、大西洋評議会の上級フェローのJavid Ahmadと米ハドソン研究所理事のHusain Haqqaniは、2019年10月7日付けForeign Policyウェブサイト掲載の論説で、タリバンは依然としてアルカイダと関係があって、タリバンと米国との和平協議の足を引っ張っており、米国はタリバンにアルカイダとの関係を絶つよう要求すべきである、と述べていました。論説は、以下の諸点を指摘しました。
- タリバンが、米国との交渉(現在は凍結中)で長年のパートナーのアルカイダとの関係を絶つと約束したことの信憑性は疑わしい。
- タリバンとアルカイダの関係は、ほぼ23年続いている。タリバンは現在アルカイダのアフガン支部や他のほぼすべてのテログループの主要なパートナーとなっている。
- 約300人のアルカイダの戦闘員がタリバンの部隊に属し、米国を標的にしている。アルカイダはタリバンに爆発物の作り方、特殊工作の計画、洗練された攻撃などを教え、タリバンを訓練している。
- アルカイダがタリバンの部隊にいることが、タリバンの穏健派と強硬派の対立の重要な要素になっている。強硬派は戦争を終わらせる政治的解決に関心が無いようである。彼らは米タリバン協議中を含め、交渉に臨む政府の政治的指導力を弱めるため攻撃を行ってきた。タリバンの穏健な指導者は不利な立場に立たされており、強硬派の反対に直面してアルカイダとの関係を切ることができないかもしれない。
タリバンの今の指導者は、アルカイダとの同盟を公には表明していません。しかし、特にタリバンの中の強硬派がアルカイダと緊密な関係を持っているようです。強硬派はタリバンにとって厄介な存在です。強硬派は米国との和平協議に反対で、交渉に臨む政府の政治的指導力を弱めようとしていました。
米国とタリバンの和平交渉中、タリバンによるテロ攻撃が何度となく行われていました。タリバンが、その総意として米国に揺さぶりをかけるためにテロ攻撃をしていたというよりも、強硬派の独走であった可能性があります。そうして、タリバンがアフガン全土を手中に収めた現在、強行派がより力を増している可能性があります。
米国は和平協議でタリバンにアルカイダとの関係を切るよう要求していましたが、タリバンは強硬派の存在もあってなかなかアルカイダとの関係を切れないでいました。強硬派が和平協議に反対していたので、和平協議の見通しを立てにくい状況にありました。
米国とタリバンの和平交渉中、タリバンによるテロ攻撃が何度となく行われていました。タリバンが、その総意として米国に揺さぶりをかけるためにテロ攻撃をしていたというよりも、強硬派の独走であった可能性があります。そうして、タリバンがアフガン全土を手中に収めた現在、強行派がより力を増している可能性があります。
米国は和平協議でタリバンにアルカイダとの関係を切るよう要求していましたが、タリバンは強硬派の存在もあってなかなかアルカイダとの関係を切れないでいました。強硬派が和平協議に反対していたので、和平協議の見通しを立てにくい状況にありました。
結局、タリバンは米国のアルカイダとの関係を断つようにとの要求を飲むことなしに、アフガン全土を掌握したのです。
2001年、米国が同時多発テロ事件を受けてアフガン内のアルカイダを撲滅するためアフガン戦争を始めてから20年で、米軍はアフガンから撤退しましたが、結局アルカイダの撲滅は達成できませんでした。
「失敗国家はテロリストを培養します。だから今は撤退するタイミングではないと感じたんです。アルカイダは、たぶんアフガニスタンに戻ってくるでしょう。彼らが好む状態なんです」 イギリスのウォレス国防相は13日、このように述べ、かつてタリバン政権が保護していた国際テロ組織アルカイダがアフガニスタンで再び活動を再開することへの懸念を示しました。
また、ウォレス氏は米国のトランプ前大統領がタリバンと結んだ合意について「アフガニスタン政府抜きで決められたもので堕落した合意だったと常々言ってきた」と強い言葉で非難。イギリスも含めた各国はアメリカが作った枠組みの中で派兵していたため、アメリカがその枠組みを外せば自分たちも撤退せざるを得ないと説明しました。
アルカイダがアフガンを制圧した、タリバンに影響力を増すことは十分に考えられます。私は、先日タリバンがアフガンを制圧したとしても、長続きはせず、いずれタリバン、政府治安部隊の残党や、その他の勢力とが拮抗し膠着状態が長く続くことになるだろうと予測しました。
この予測で、その他の勢力とは、無論アルカイダを念頭に置いていました。アルカイダが勢力を強めた場合、中国国境を越えて新疆ウイグル自治区に入り込む可能性は十分あります。
その場合、前もってアルカイダが新疆ウイグル自治区のウイグル人に対して、軍事訓練や支援をすることも十分考えられます。それに対処するために、中国軍が国境を超えてアフガニスタン領に入らざるを得ないことになるかもしれません。
そうなれば、かつて英軍、ソ連軍そうして最近の米軍がはまった泥沼にはまり、とんでもないことになるかもしれません。そうして、それが端緒となってソ連が崩壊したように、中国も著しく弱体化することになるかもしれません。
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