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岡崎研究所
イランの新しい大統領エブラヒム・ライシが8月3日、アリ・ハメネイ最高指導者の認証を受け正式に就任した。6月に行われていたイランの大統領選挙では保守強硬派のエブラヒム・ライシが6割以上の得票率で当選していた(投票率は48.8%と低く、ライバル候補は選挙から排除されていたが)。
ライシは、同じ強硬派のハメネイ最高指導者から、1979年革命の精神に忠実な「仮借のない」政治家であると称賛されており、強硬派として知られている。ライシは、彼の政府の政策は最高指導者の指針に完全に沿ったものになるだろう、と述べた。
しかし、そのライシが優先的に取り組むとしているのは経済である。大統領認証式でライシは、2015年の核合意によりイラン経済を改善すると約束しながら結果を出せなかったロウハニ前大統領を非難しつつ、「(自分は)米国の“不公正な”制裁の解除の手段を講じるが、核合意の復活を待てない経済に優先的に取り組む」と述べた。核合意自体の是非については「我々は国民の生活と経済を外国の決定に結び付けるようなことはしない」と言及したのみであった。
イラン経済は、2018年に当時のトランプ大統領がイラン核合意からの一方的撤退を表明し、イランに対する広範な制裁を復活させて以来、苦境に立たされている。インフレ率はジェトロの統計によれば、2020年に36.5%で、2021年には39.0%に達すると予測されている。
その上、イランは新型コロナウイルスの災害をもろに受けている。ジョンズ・ホプキンス大学の発表によれば、8月9日現在、イランの新型コロナの感染者数は415万人を超え世界で12位である。死亡者数についても約9万4000人と、世界で13番目となっている。こうした中、制裁によりイラン経済の頼みの綱の原油輸出が滞り、財政がひっ迫しているため、新型コロナの被害に対し十分な支援ができないでいる。
このようにイランは経済的、社会的困難に直面しており、国民の不満を鬱積し、反政府デモが行われている。したがって、ライシとしては、経済不況の元凶となっている米国などによる制裁の解除を実現するべく、核合意の復活を図ろうとするのは当然である。
この間にイランによるペルシャ湾での西側石油タンカーに対するドローン攻撃が行われ、直接の被害者イスラエルと英国の他に、米国もイランを非難した。
攻撃がイランのどのグループによるものかは明らかでないが、イラン政府の意図を反映したものでない可能性がある。
バイデンは、もしイランが再び合意を守るなら核合意に再び参加し、制裁を解除すると約束している。核合意はイランが核開発を止めれば、それまでのイランに対する制裁を解除するというものである。西側は、イランの中東における勢力拡大の活動には批判的であるが、取り敢えずはイランの核開発防止を最優先させ、核合意を復活させようとしている。
このように核合意の復活については米国をはじめとする西側諸国とイランの利害は一致しており、今後とも復活に向けての活発な活動が行われるものと思われる。日本としても核合意の復活に向け外交活動を強化することが求められるだろう。
ライシは、同じ強硬派のハメネイ最高指導者から、1979年革命の精神に忠実な「仮借のない」政治家であると称賛されており、強硬派として知られている。ライシは、彼の政府の政策は最高指導者の指針に完全に沿ったものになるだろう、と述べた。
しかし、そのライシが優先的に取り組むとしているのは経済である。大統領認証式でライシは、2015年の核合意によりイラン経済を改善すると約束しながら結果を出せなかったロウハニ前大統領を非難しつつ、「(自分は)米国の“不公正な”制裁の解除の手段を講じるが、核合意の復活を待てない経済に優先的に取り組む」と述べた。核合意自体の是非については「我々は国民の生活と経済を外国の決定に結び付けるようなことはしない」と言及したのみであった。
イラン経済は、2018年に当時のトランプ大統領がイラン核合意からの一方的撤退を表明し、イランに対する広範な制裁を復活させて以来、苦境に立たされている。インフレ率はジェトロの統計によれば、2020年に36.5%で、2021年には39.0%に達すると予測されている。
その上、イランは新型コロナウイルスの災害をもろに受けている。ジョンズ・ホプキンス大学の発表によれば、8月9日現在、イランの新型コロナの感染者数は415万人を超え世界で12位である。死亡者数についても約9万4000人と、世界で13番目となっている。こうした中、制裁によりイラン経済の頼みの綱の原油輸出が滞り、財政がひっ迫しているため、新型コロナの被害に対し十分な支援ができないでいる。
このようにイランは経済的、社会的困難に直面しており、国民の不満を鬱積し、反政府デモが行われている。したがって、ライシとしては、経済不況の元凶となっている米国などによる制裁の解除を実現するべく、核合意の復活を図ろうとするのは当然である。
この間にイランによるペルシャ湾での西側石油タンカーに対するドローン攻撃が行われ、直接の被害者イスラエルと英国の他に、米国もイランを非難した。
攻撃がイランのどのグループによるものかは明らかでないが、イラン政府の意図を反映したものでない可能性がある。
バイデンは、もしイランが再び合意を守るなら核合意に再び参加し、制裁を解除すると約束している。核合意はイランが核開発を止めれば、それまでのイランに対する制裁を解除するというものである。西側は、イランの中東における勢力拡大の活動には批判的であるが、取り敢えずはイランの核開発防止を最優先させ、核合意を復活させようとしている。
このように核合意の復活については米国をはじめとする西側諸国とイランの利害は一致しており、今後とも復活に向けての活発な活動が行われるものと思われる。日本としても核合意の復活に向け外交活動を強化することが求められるだろう。
【私の論評】バイデンの核合意に向けての動きは、イランに数年後の核保有を認めるに等しい(゚д゚)!
合意内容は、イランが濃縮ウランや遠心分離機を大幅に削減し、これを国際原子力機関(IAEA)が確認した後、見返りとしてイランへの経済制裁を段階的に解除するというもです。
その後、IAEAの定期的な査察によって、イランが合意事項を順守していることが確認されました。しかし、18年5月に当時の米トランプ大統領が核合意からの離脱を発表したことで、状況は一変。
トランプ政権は、核合意に弾道ミサイルの開発規制が盛り込まれていないこと、核開発制限に期限が設定されていることなどを離脱の理由に挙げていました。他の当事国は合意継続を表明していますが、米国抜きでの実効性をどう確保していくかが今後の課題になっていました。
15年の「イラン核合意」までには、紆余曲折がありました。イランは核兵器の製造・保有を禁じる核拡散防止条約(NPT)に1970年の発効時から加盟しています。しかし、79年のイラン革命でイスラム共和制に移行して以来、欧米諸国とは距離を置き、独自の外交・安全保障政策を進めてきました。
2002年に国内で核兵器への転用が疑われるウラン濃縮施設が確認され、欧米や周辺アラブ諸国から非難されたことで、イランは翌03年に濃縮活動の停止を発表。しかし、05年に保守強硬派のアフマディネジャドが大統領に就任すると、再びウラン濃縮を稼働させました。
その後もアフマディネジャド政権は国連や欧米諸国による数度の制裁措置にも強硬姿勢を崩さなかったのですが、13年に穏健派のロウハニが大統領に就任すると一転。長期の経済制裁で国民生活が困窮するなか、ロウハニ政権は国際協調路線に舵を切りました。オバマ政権下の米国とも関係改善を図り、原油輸出や金融取引を対象にした制裁措置の解除を優先して、15年の「イラン核合意」へと至りました。
ロウハニ氏 |
そうして穏健派といわれるロウハニに変わり、新しい強硬派といわれる大統領エブラヒム・ライシが8月3日、アリ・ハメネイ最高指導者の認証を受け正式に就任したのです。
ライシ師は検事出身。早くから強力な立場を確保し、20歳のころにはすでに、カラジ市の検事長を務めていました。
2017年に大統領選に初出馬したものの、現職のハッサン・ロウハニ大統領に大敗。その後、2019年に司法府のトップ就任しました。
ライシ師は、自身を汚職や不平等、経済問題を解決する政治家として見せています。イスラム教シーア派の厳格な信徒でもあり、ハメネイ師の後継者とも目されています。
しかし、多くのイラン国民や人権擁護団体は、ライシ師が27歳の1988年に、大勢の政治犯が処刑された出来事に関わったものとみています。
この年、イランのテヘラン近郊の刑務所で約5000人が密かに死刑を宣告・執行されたが、ライシ師はこの死刑を取り仕切った「死の委員会」と呼ばれる4人の司法官の1人だったとみられています。人権団体アムネスティ・インターナショナルは、受刑者の遺体が埋められている集団墓地の場所は「イラン当局が隠している」と指摘しています。
ライシ大統領 |
ライシ師はこの件について関与を否定する一方、当時の最高指導者ホメイニ師によるファトワ(イスラム法に基づく勧告)により、正当性があることだったと述べています。
アムネスティ・インターナショナルはまた、2019年の反政府デモの参加者を殺害した治安部隊員を、ライシ師が司法府トップとして免責したと指摘している。
同団体のアニエス・カラマール事務局長は、「エブラヒム・ライシ氏は殺人、誘拐、拷問といった人道に対する罪について捜査される代わりに大統領にまで上り詰めることになった。これは、イランでは今なおこうした罪が許されてしまうという、厳しい現実が浮き彫りになった」と述べました。
イランはかねてより核兵器開発が疑われており、2015年にはそれを抑制する目的で米英独仏中ロとイランの間で核合意が締結されました。しかしイランはその後、合意による経済制裁解除で得た資金を武装組織に投入し、イラク、シリア、レバノン、イエメンの4カ国を「準支配下」に置くに至りました。
2018年に当時の米トランプ政権が核合意から離脱したのは、核合意ではイランの脅威を抑え込めないという現実を踏まえてのことです。
核合意によりイランの核開発を制限できているとの見方も国際社会にはありましたが、この合意は武装組織支援や侵略行為、弾道ミサイル開発を制限していない上に、数年後にウラン濃縮制限を解除するいわゆる「サンセット条項」を含んでいます。
現在バイデン米政権は核合意復帰に向けた協議を続けていますが、これらの問題への対策を講じないままの復帰はイランに数年後の核保有を認めるに等しいです。復帰と引き換えに制裁を解除すれば、またも武装組織支援が強化され、米国と同盟国に対する攻撃が激化する懸念もあります。
イランでは、国民の半数以上が貧困ライン以下の生活に苦しむなか、2019年には、パレスチナの過激派ハマスにそれまでの5倍以上の資金提供を約束したとされています。さらに、今年5月には革命防衛隊の予算が60%以上増額されました。国民の福利でなく「革命の輸出」を優先している証しです。
イラン国内で反体制派や人権活動家、同性愛者、少数派などの弾圧、拷問、処刑が行われていることに対し、国際的非難が相次いでいます。2019年にはジャバド・ザリフ外相自らが、同性愛者に対する死刑を「イランの道徳的原則」として正当化しました。
上でも述べたように、ライシ大統領は1988年、数千人の政治犯の処刑を決定したいわゆる「死の委員会」の一員とされ、米国の制裁対象とされています。
イランは近年中国との関係を強化し、今年3月には経済や安全保障など幅広い分野での連携について25年間の協定を締結しました。「被抑圧者」の解放を掲げているにもかかわらず、同じイスラム教徒であるウイグル人弾圧については言及すらしていません。
アフガニスタンのタリバンも中国に接近する動きもみられます。イラン、アフガニスタンが中国との連携を強化すれば、中国の目指す「一帯一路」にもはずみがつくかもしれません。
日本はイランという国の現実を直視し、警戒すべきです。イランに2回も日本のタンカーを攻撃され、死者まで出ているにもかかわらず、「イランは伝統的親日国」と言い続けているのが、我が国の外務省ですが、「親日国」と位置付け、融和政策に徹すればよい時代はとうに終わっています。
上の記事では、バイデン政権が、核合意をするから、日本としては、核合意の復活に向け外交活動を強化することが求められるだろうなどとしていますが、このような安直なイラン外交は禁物です。
現状のバイデンの核合意に向けての動きは、上でも述べたように、イランに数年後の核保有を認めるに等しいです。日本はそのあたりを見極めて、バイデンがその方向に向けて動くというのなら、核合意には反対し、米国共和党の議員らと協同するなどして、これを阻止する方向に動くべきです。
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