2021年8月5日木曜日

「一国二制度」崩壊で進む香港でのビジネスリスク―【私の論評】中国を放置しておけば、世界は中国製品で埋め尽くされ闇となる(゚д゚)!

「一国二制度」崩壊で進む香港でのビジネスリスク

岡崎研究所


 7月16日、バイデン政権は香港について「ビジネス注意情報」を発出した。これは9ページの長文で、香港についてこの種の注意情報が出されるのは初めてだという。国家安全法を含む香港の法制の変化に伴い、香港でビジネスを行う米国企業は「世評や財務上の、また或る場合には法的なリスク」に警戒すべきことを警告する趣旨のものである。

 この注意情報が指摘するリスクは、概括的には次の4つである。

(1)国家安全法に直接巻き込まれるリスク。同法の下で一人の米国人を含む外国国民も逮捕されている。法人格の有無にかかわらず、同法に違反する企業や組織は、そのライセンスやビジネス申請が取り消され得る。

(2)データの秘匿性が保全されないリスク。これは国家安全法によって当局に「国家安全保障」を理由にデータの開示を要求する権限が与えられていることなどを指している。

(3)自由な報道・情報へのアクセスが制限されるリスク。これも国家安全法の制定以来顕著な現象で、蘋果日報の弾圧がその一例。

(4)米国の制裁に従うことにより、反外国制裁法の発動を含め、中国の報復に遭遇するリスク(反外国制裁法は本土、香港、マカオを区別していない)。報復措置にはビザ発給拒否、入国拒否、資産凍結、取引き禁止などが含まれる。

 以上に加えて、米国の制裁の対象とされている個人と企業と不用意に関係を持つことにより民事および刑事の処罰が及び得るリスクを指摘している。

 7月16日付のウォールストリート・ジャーナル紙社説‘Biden’s Warning on Hong Kong’は、バイデン政権がこの注意情報を発出したことを適切な行動と評価している。同社説は、明言しているわけではないが、香港はもはやビジネスを安心して行える環境にはなく、米国企業がそれを悟って香港を脱出すれば、香港は金融の国際センターの地位を失うかも知れない、そういう形で中国は香港の自治を破壊した代償を払うことになるかも知れない、と言っているように読める。

 しかし、香港の米国商業会議所は、ビジネス環境はより複雑で厳しくなっているが、その間を縫ってビジネスの機会を捉えることについて会員企業を支援して行きたいと述べている。実際、民主派活動家の弾圧や選挙制度形骸化の抑圧にもかかわらず、香港の地位は揺らぐどころか、香港は活気を帯びているとされている。香港の株式市場はIPOの数で4位である。香港の外国銀行は人員増強に乗り出しており中国本土での新たな投資の機会を狙っている。香港には中国本土と諸外国から資金が流入しているという。

 そうなのかも知れない。しかし、だからと言って、「一国二制度」を一方的に破壊され、植民地化された状況を放置して良いことにはならない。今回、制裁対象に新たに7人の中国当局者が追加されたが、ビジネス注意情報は、今後も制裁の拡大があり得ること、それに伴い香港情勢が更に悪化し得ることの警告かも知れない。そもそも、ここまでくれば、香港を中国と別個に扱い、香港が金融センターとしての地位を維持することに手を貸す理由はないと言うべきであろう。

 縮小されたとは言え、米国など諸外国は未だ香港に対する優遇措置を残しているのではないかと思われるが、その撤廃を考えざるを得ないこととなろう。

 そういう状況になるとすれば、大切なことは、香港を脱出することを希望する人達の移住を受け入れることである。英国では1月31日に香港の英国海外市民旅券(BNO passport)を持つ人達に対する特別ビザの制度が導入されたが、3月までに3万4300件の申請があり、うち5600件のビザが付与された由である。去る4月28日、香港の立法会で入境条例が改正され(8月1日に効力を生ずる)、潜在的には当局が出国を禁ずることが出来るようになったというから、懸念されるところではある。

【私の論評】中国を放置しておけば、世界は中国製品で埋め尽くされ闇となる(゚д゚)!

バイデン政権は香港について「ビジネス注意情報」を発出とともに、中国が香港の民主主義弾圧しているとして、同国政府の香港出先機関に勤務する政府高官7人を新たに制裁対象に追加すると発表しています。

財務省によると、7人は中国の駐香港連絡弁公室の幹部。ブリンケン国務長官は声明で、中国当局は過去1年間にわたり香港の民主機関を「組織的に阻害」し、選挙を延期し、選挙で選ばれた議員の資格を奪い、政府の政策に反対する数千人の人々を逮捕したと指摘。「香港市民に対する断固とした支持を示すために、米国はきょう、明白なメッセージを送る」としました。

ブリケン国務長官

リスク警告の文書は国務省、財務省、商務省、国土安全保障省が共同で作成。香港で操業する企業に対し、「香港国家安全維持法」などの法律が適用される可能性があると警告しました。同法律の下、米国人一人がすでに逮捕されています。

一国二制度がなくなってから、香港には自由はなく、自由がないということはビジネスもまとにできないということはわかっていたことです。

一国二制度とは、「中国政府は関与しない」ということが前提になっていたわけですから、それがなくなり、中国政府が関与することがわかった以上は、ビジネスは無論のこと多くの人々にとって危険になったことは確かです。 

従来は、香港には立法会(議会)があって、そこで別途、立法化しないと中国は香港で様々な取締や、弾圧ができなかったのですが、国安法ができてからはそうではなくなってしまったのです。

 国安法により一国二制度はなくなり、中国の体制に従わなくてはならなくなっので、当然、中国に輸出している企業にはリスクが出てきます。従来のように一国二制度で守られているのとは違うという意味で、バイデン政権の「リスクがある」という主張は正しいです。

ただ、まともな企業の経営者であれば、割り切って「もう香港でビジネスできない」と香港から出るか、もしくは「中国政府に従う」という選択はもうしているとでしょう。

上の記事によれば、「米国の制裁の対象とされている個人と企業と不用意に関係を持つことにより民事および刑事の処罰が及び得る」ともされていますから、場合によって米国の連邦法に今抵触する可能性もあるのです。

米中には域外適用の法律がかなりあります。米国と中国はそれぞれに域外適用がある。 国安法が成立した現在では、中国から見れば、「香港は域内」ということになります。

米中双方が「俺たちのルールは正しい」と言っているわけです。明らかなのは、「香港においては従来のルールと違っている」ということです。それは大きなリスクです。

日本企業も他人事ではありません。 日本企業も香港で自由なビジネスをするか、もしくは中国政府に従うかの選択を迫られているわけです。かなりの企業が「香港は無理だな」と感が手いることでしょう。

例のアップルデイリー、蘋果日報が完全に中国側の圧力で潰されたようなものですから、マスコミも香港に支社を置いているところが少なくなりつつあります。自由のないところでは、まともに報道活動ができません。 一部をソウルや台北などに移すというようなところが出て来ています。


もはや中国では法律上、欧米の企業だけを優先することはできません。普通の国では外資企業も「内国民待遇」と言って、同じ扱いですが、香港でもそうではなくなりました。

新疆ウイグル自治区の人権の問題や、日本企業の中国ビジネス全般に対しても、「米中のどちらに付くのか」ということは、以前に増して強烈に、両国から突きつけられるようになるはずです。

従来は、日本では「経済と政治は別」という考え方だったのですが、最近は本当の戦争は難しいから、「経済安全保障」という考え方で、経済も武器なのだという考えかたに変わってきました。

新疆綿を用いている製品に関して、米国では通関を止められたり、フランスでは行政捜査がありましたが、経済産業省と繊維の業界団体は、統一されたガイドラインをつくろうという動きがでいます。

新疆綿を使用した製品は日本でも多くの企業で販売されている

経済産業省は先月12日、アパレルなど繊維産業の持続可能性に関する報告書をまとめした。製造・流通などのサプライチェーン(供給網)で強制労働や不当な低賃金などの人権侵害がないか、繊維企業が確認するガイドライン(指針)を業界団体に策定するよう提言。中国・新疆ウイグル自治区産の「新疆綿」をめぐる人権問題など、労働環境への関心が高まっていることを念頭に置きました。

経産省は「個別の事案を踏まえたものではない」と説明していますが、業界団体の日本繊維産業連盟は、国際労働機関(ILO)と連携し、1年後をめどに指針を取りまとめる方針です。

これは繊維業界だけの話ではないです。香港に拠点をおいている企業は、すべからく自分の属している業界が特にガイドラインを設けようとする動きがなかったにしても、リスク管理を徹底すべきです。

それに今一度経営者は考えるべきです。新疆綿の場合、日本ではすでに綿を収穫する作業をする労働者は日本には存在しません。しかし、開発途上国においては、それを生業とする人も多いです。

新疆綿を用いるということは、こういう人たちの生活を奪っていることになります。さらに、綿を加工する事業も新疆で強制労働で行われるようになれば、日本でもそれを生業とする人がいるので、その人たちの雇用を奪うことになります。

さらに、他の産業でも同じです。中国は様々な製品を低賃金もしくは、強制労働で、製造しそれを輸出していますし、さらにその輸出量を増やすようにすれば、先進国の雇用も奪われることになります。それが、ローテク産業だけではなく、中国による技術の剽窃により、ハイテク産業にも及ぶようになったらどうなるでしょう。

現在の製造業では、賃金が占める割合はかなり減っています。しかし、ハイテク産業の技術者をも強制労働させて、様々な製品を研究開発させたらどうなるでしょうか。まともな賃金を支払う企業が中国と、競争することなどできません。すべての産業は中国の一人勝ちになり、世界は中国製品で埋め尽くされ、世界中の産業が崩壊し、中国の富裕層と、中国共産党だけが潤うことになりかねません。

そのような世界は暗黒です。そのような世の中で、まともなビジネスができるはずはありません。世の中が一昔前の中世以前に戻ってしまうようなものです。そのようなことはできるはずがありません。できるはずのないことを中国は本気で推進しているのです。このことを日本の企業経営者も良く考えるべきです。

それを目指しているからこそ、中国は最大の商売の相手である米国を本気で怒らせることをしても、突っ走っているのです。いや、中国共産党の幹部はそのようなことを考えていないかもしれません。彼らからすれば、当然と考えることを実行しているだけなのかもしれません。しかし、その結果として世界は闇になるのです。

そのことに気づいたからこそ、前トランプ政権は中国と対峙し始めたのです。そうして、バイデン政権もそれを継承しているのです。

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