2021年8月12日木曜日

五輪後の日本とコロナ対策 感染者数が支持率に影響も日常生活の回復急ぐべきだ ―【私の論評】政府はどこかで踏ん切りをつけ、感染者減だけに注力するのではなく、コロナと共存できる強靭な社会を目指せ(゚д゚)!



 東京五輪が閉幕し、24日からはパラリンピックが始まる。新型コロナウイルスは高齢者の感染や死亡が激減している一方で、入院患者の増加で自宅療養が増えている。年内の衆院選に向けて、新型コロナの状況は有権者の関心事になるだろう。

 ところで、厚生労働省が7月30日に発表した簡易生命表によると、2020年の日本人の平均寿命は男性が81・64歳、女性が87・74歳となり、ともに過去最高を更新した。女性は世界1位、男性は世界2位だ。

 過去最高となった要因は、インフルエンザなどで亡くなる人が減少したためだという。もともとインフルエンザによる超過死亡者は1万人程度あったが、それがなくなり、新型コロナによる死者が置き換わった形だ。要するに、新型コロナの影響は小さく、その他の要因が寄与して日本人の平均寿命が伸びた。

 本来は、新型コロナだけではなく、全ての要因による死亡を分析し、その結果で健康政策を判断すべきである。しかし、マスコミ報道は、新型コロナに偏っており、多くの国民も関心を持つ。その結果、新型コロナだけで政権を判断・評価することになってしまう。

 実際、菅義偉政権の支持率は、新型コロナの新規感染者数と大いに関係がある。

 新規感染者数と内閣支持率は、相関係数マイナス0・8程度と高い(逆)相関がある。つまり、新規感染者数を減らすと内閣支持率が高くなり、感染者が増えると支持率が低くなるというわけだ。

 筆者は本コラムで何回も書いたが、本来であれば、健康政策の見地から注目すべきは、新規感染者数ではなく、重症者数、死亡者数だ。しかし、現実の政治では、新規感染者数がポイントにならざるを得ないだろう。

 本稿執筆時点で、人口100万人当たりの新規感染者(7日間移動平均)について日本は80人程度だ。世界でみると、英国が380人程度、フランスが330人程度、米国が260人程度、イタリアが90人程度、ドイツやカナダが20人程度だ。

 これら欧米の例を見ると、ワクチン接種がかなり行き渡った後でも、新規感染者数は増加しうるし、そもそも新型コロナウイルスが根絶されることはほとんど考えられない。このため、この数字がゼロになることはないだろう。

 ただし、ワクチン接種が進めば、多少の変異株でも重症化リスクや死亡リスクはかなり低下するので、深刻な医療崩壊にはつながらないはずだ。欧米のように、ワクチン接種により日常生活を回復していくことが望ましい。

 新規感染者数であおられ、緊急事態宣言や蔓延(まんえん)防止等重点措置などが発令される。その結果、日常生活でも不自由が生じてストレスを人々に与え、政権批判にもつながるというのが最近の流れだ。

 ワクチン接種者には、各種自粛措置の例外を明確にした方が、ワクチン接種促進のためにもいいだろう。

 われわれ有権者も、新型コロナの状況を判断するのに、新規感染者数だけではなく日常生活がどうなるかに注目したい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】政府は、感染者が増えても、重傷者、死者を増やさず、社会経済活動を制限しないですむ強靭な社会の形成を目指すべき(゚д゚)!

国内感染者数と内閣支持率の関係を示すグラフをサイトで探してみましたが、あったのは、以下だけでした。少し古いですが、NHKのWEBニュースのものです。


このようにグラフにしてみると、確かに感染者数と内閣支持率には負の相関がありそうです。高橋洋一氏は、実際計算して、相関係数を求めていますが、そのようなことをする報道機関はありません。NHKでもこのようなグラフは出してはいるものの、相関係数を出すまでには至っていません。

相関係数など算出するのはかなり簡単なことであり、excelの関数などを用いれば、すぐに算出できます。相関係数は、算出できるなら算出して、高橋氏のように、記事を書く時などに利用すれば、記事に信憑性をもたせられますし、客観的に記事を書くこともできると思います。しかし、そのようなことをするような報道機関にお目にかかったことはありません。

これは、やはり高橋洋一氏が語るように、大手新聞の記者は「ド文系」なのだからでしょうか。

さて、それはさておき、高橋洋一氏が上の記事の最後に「われわれ有権者も、新型コロナの状況を判断するのに、新規感染者数だけではなく日常生活がどうなるかに注目したい」と述べおり、確かに「日常生活を取り戻す」ことが政府の急務であるのは間違いないです。

これに関しては、他の国ではどうなのでしょうか。たとえば、シンガポールではすでにコロナを「はなり風邪」の扱いにしています。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに…方針転換の根拠はイスラエルのデータ―【私の論評】なぜ私達は「ゼロコロナ」という考えを捨て、「ウィズコロナ」にシフトしなければならないのか(゚д゚)!
シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに…


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。

 シンガポール政府は6月下旬に「感染者数の集計をせずに重症患者の治療に集中する」と宣言、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザのように管理する戦略に切り替えた。

 シンガポール政府の方針転換の根拠になったのはイスラエルのデータである。それによれば、ワクチン接種完了者が感染する確率は未接種者の30分の1、重症化は10分の1に過ぎないという。昨年の新型コロナウイルスの致死率は2〜3%だったが、イスラエルのワクチン接種完了者の致死率は0.3%まで低下している。この数字は季節性インフルエンザの致死率(0.1%未満)と大きな差はない。

 新型コロナウイルスはインフルエンザのような「はやり風邪」になりつつあるとの認識が今後定着するようになれば、「社会としてどの程度まで感染の広がりを許容するのか」という判断が次の大きな問題となる。

この傾向は、ご覧いただければおわかりになるようにこの記事にもありますが、イギリスでも同じような傾向です。というより、現状では、特に先進国では日本だけが感染者数に注目して、とにかく感染者数を減らそうとしているようにみえます。

日本ではコロナワクチンの接種は先進国では一番の速さという勢いで、すすんでいますが、まだ全国民の60%が2回以上接種をするまでには及んでいません。60%に達すると集団 免疫が獲得できるとされていますが、40%以上でもかなり感染者数、死者数が抑えられるようになるとされています。

それと、はっきりした事実があります。それは、この先長い期間(数年から数十年)期間にわたって、コロナ感染症を撲滅することはできないということです。コロナワクチンは、感染症予防に有効ですが、絶対というわけではありません。われわれは、否応なくこれから、コロナと共生していくしかないのです。

であれば、感染者数だけに着目して、感染者数を減らすことにだけ注力することは早晩不可能になります。それよりも、重傷者数や死傷者数に着目して、ある程度感染者数が増えたとしても、重傷者や死者数が少なく、社会経済活動に支障がでない強靭な社会を目指すべきです。

そうして、それにはすでに手本があります。それはインフルエンザです。インフルエンザも重症化すれば大変なことになります。特に、インフルエンザは小学生以下の若年層にも深刻なダメージを与えることもあり、実際過去にはインフルエンザ脳炎などで、なくなった若年層も存在します。

これを軽く考える人もいますが、一度対応を間違えば、インフルエンザも決して侮ることのできない、恐ろしい感染症です。そうして、2016年にはこのインフルエンザが蔓延して、1週間で200万人もの感染者が出ました。しかし、それでも医療崩壊は起きませんでした。

なぜ起きなかったかといえば、インフルエンザ感染症は、日本の分類では5類に分類されているためです。5類に分類されていれば、普通「風邪」と同じような扱いができるので、医療崩壊など起きないのです。

これについては、過去に何度かこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

“緊急事態”AI予測で14日に東京で5000人感染 死者数増も止まらず1カ月後に115人死亡も―【私の論評】日本では2016年にはインフルエンザの感染者数が1週間で200万超となったが、医療崩壊も経済の落ち込みもなかった、希望を失うな(゚д゚)!
緊急事態宣言から一夜明け、通勤客で混雑する品川駅=1月8日午前

この記事は1月8日のものです。 この記事を書いたときには、ワクチン接種はほとんどすすんでいませんでしたが、海外から比較すると、感染者数は桁違いに低いにもかかわらず、マスコミは連日コロナ感染症の脅威を煽り煽っていました。五輪も中止が当然という空気が流れていました。

しかし、この頃から私は私達はコロナと共存していくしかないと考え、しかも日本では重傷者、死者数が元々かなり低かったことから、コロナも「インフルエンザ」と同じような扱いにすべきと主張したのです。

その頃は、一部にはありましたが私のような主張はあまりみられなかったですし、とても多くの人に理解していただけるような状況ではありませんでしたが、最近では新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが政府内でも議論を呼んでいます。

感染症では感染症を1~5類などに分類しており、入院や就業制限など、それぞれに実施できる措置等を定めています。新型コロナウイルスについてはこれまでSARSや結核など同じ2類相当としてきたが、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げることについて厚生労働省の内部で議論されていることが明らかになりました。

加藤官房長官は10日、「新たな科学的知見なども踏まえながら不断に見直しが行われていることが求められている」と発言しています。

私たちと新型コロナウイルス感染症との付き合いは、先程も述べたように残念ながらそれほど短い期間で終わるものではありません。コロナだけに特化し、他の疾病や事故を無視したり、どこまでも“ゼロコロナ”を目指したりするような政策を続けていては、それ以外のところで命を落とす人が山ほど出てくることになりかねません。

これについては、主に政府の分科会や日本医師会が懸念を示したことで今に至っていますが、医療現場や保健所等としては、“正直もうやっていられなくなった”というのが実態だと思います。

新型コロナウイルスはコロナウイルスの中でもSARSやMERSなど、2類相当するような致死性が非常に高いものではなく、むしろ季節性の通常のコロナウイルスに近い、いわば“新しいタイプの風邪のウイルス”だということがわかってきています。

通常の風邪になるまでにはさらに時間がかかるでしょうが、致死性を鑑みれば5類相当というのが多くの専門家の意見ですし、より早い段階で引き下げが行われるべきでした。


新型コロナウイルスは65歳以上の高齢者が重症化しやすいことがわかっていますが、その多くはワクチン接種を済ませた状況です。一方、医療現場のメインになってきているのが高齢者に比べて重症化リスクはかなり低い30~50代です。

それでも2類相当では原則入院にということになっているため、実際には軽症者がベッドを埋めてしまっているのです。また、開業医の団体であるところの医師会所属の医師の多くがコロナ対応を拒んでいることもあり、一部の医療機関に負担が集中、病床数も医療従事者も限られて重症者が入院できない、非常に困った状況になっています。

だからこそ軽症者は原則的に自宅対応とし、そのために医師会の協力を得て訪問看護ステーションや開業医に診てもらうという政府の方針は極めてまともですし、合理的な判断です。

日本では在宅医療が十分に進んでいるし、厚生労働省も進めてきています。酸素投与や薬剤投与もできます。本来はそういうことをオールジャパン、医療総動員でやらなければいけない状況なのに、2類相当にしている限りはそれは不可能です。


ワクチン接種は進んできていますが、デルタ株への置き換えが進んでいることもまた事実です。デルタ株の感染力は明らかに強く、水ぼうそう程度だとも言われています。感染力が強ければ感染者は増えるので、それだけ医療機関にも負担がかかります。

ただ海外の知見も踏まえれば、やはり重装備をしてコロナで陰圧室はやり過ぎのようですし、感染力が強く入院が必要な水ぼうそうも5類相当です。

5類相当のインフルエンザの場合、普通の風邪よりは辛いし、中には亡くなる方もいます。だから企業も感染者に無理して出社するな、学校も出席停止だ、という付き合い方になっています。

一方で、インフルエンザが広まっているからといって緊急事態宣言を出したり、飲食店を閉めたりすることはありませんでした。また、医療崩壊の心配もありませんでした。2016年のインフルエンザ蔓延のときを覚えている人もいらしゃるかもしれませんが、あの時もそのようなことはありませんでした。

残念ながら、私たちは既存のインフルエンザのように、これから長い間コロナと付き合っていかなければならないし、一時的に人の流れを止めたところで、後からまた広がることになります。それは致し方ないことです。そういう中で、いかに私達が日常を取り戻すのかということが、極めて重要なことです。

このまま経済状態が悪化すれば、失業率が上昇、自殺者数もさらに増加することになりかねません。政府もどこかで踏ん切りをつけて、コロナと共存できる強靭な社会を目指すようにすべきです。感染者を減らすことにだけ注力するのはもうやめるべきです。感染者が多少増えても、重傷者、死者を増やさず、社会経済活動を制限しない方向に舵を切るべきです。

現状ではまだ際立ったマイナスはありませんが、多くの国々がこの方向に転じようとしている現在、日本も例外であり続ければ、マイナス面が多くなることは目に見えています。

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