シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに…方針転換の根拠はイスラエルのデータ
シンガポールはコロナを「はやり風邪」の扱いに… |
4度目の緊急事態宣言が発出された東京の新型コロナウイルスの1日当たり感染者数がこのところ連続して1000人を超え、第5波の到来が懸念されている。
共生を目指す英国の動き
一方、世界に目を転じると、成人の過半数が新型コロナウイルスワクチンを接種した国々では「コロナとの共生」を目指した取り組みが始まっている。
中でも注目を集めているのは英国の動きである。
英国政府は7月19日、マスク着用とソーシャルデイスタンスの維持などコロナ対策の主要な規制を全面解除した。1日当たりの感染者数は5万人以上と日本と比べて格段に多いにもかかわらず、政府が大胆な措置に踏み切った背景にはワクチンに対する信頼がある。2回のワクチン接種を完了していれば、感染することはあっても重症化することを防げることが明らかになっているからである。英国では新型コロナウイルス感染症でこれまでに約13万人が死亡しているが、7月に入ってからの1日当たりの死者数は50人以下にとどまっている。
ジョンソン英首相が5日に「ワクチン接種が進み、感染と死亡の関係を断ち切ることができた。コロナと共生する新しい方法を見つけなければならない」と述べたように、これまでの感染抑制に重点を置いた政策からの大転換である。
ジャビド英保健相は「新型コロナウイルス以外の医学や教育、経済上の問題がパンデミックを通じて蓄積されており、感染者数が1日当たり10万人に達したとしても、社会を正常に戻す必要がある」として、今回の措置は新型コロナウイルスと一緒に暮らすことを学ぶプロセスの一部だとの認識を示した。
科学者の多くは今回の決定を不安視しているが、「これにより英国経済は第3四半期中にコロナ禍以前の水準に回復する」とする楽観的な予測が出ている。
「新型コロナウイルス感染症を撲滅するのでなく管理しながら共生すべきだ」とする方針転換は、英国を始めとする欧米諸国の専売特許ではない。日本ではあまり知られていないが、シンガポール政府が一歩先んじている。
シンガポール政府は6月下旬に「感染者数の集計をせずに重症患者の治療に集中する」と宣言、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザのように管理する戦略に切り替えた。
シンガポール政府の方針転換の根拠になったのはイスラエルのデータである。それによれば、ワクチン接種完了者が感染する確率は未接種者の30分の1、重症化は10分の1に過ぎないという。昨年の新型コロナウイルスの致死率は2〜3%だったが、イスラエルのワクチン接種完了者の致死率は0.3%まで低下している。この数字は季節性インフルエンザの致死率(0.1%未満)と大きな差はない。
新型コロナウイルスはインフルエンザのような「はやり風邪」になりつつあるとの認識が今後定着するようになれば、「社会としてどの程度まで感染の広がりを許容するのか」という判断が次の大きな問題となる。
残念ながら東京五輪の大部分の競技が無観客で実施されることになったが、「五輪の開催地がもし欧米の都市だったら、今の日本のような感染状況で無観客で実施されるだろうか」と疑問視する声が海外から上がっている(7月14日付ニューズウィ−ク)。
ワクチン接種は欧米諸国に比べて遅れているが、7月末までに希望する高齢者すべての接種が完了する予定である。日本でも海外と同様、感染者数の急増にもかかわらず、重症者数と死者数はかつてほど上昇しない傾向となりつつある。
「ゼロ・コロナ」を目標にするのは望ましいが、感染者数を基準に対策を講じている限り、8月22日の期限までに宣言が解除される見込みは立たない。いつまでたってもコロナ禍以前の状況に戻れないとの不安が頭をよぎる。
日本でも「重症数を基準にした対策に切り替えるべきではないか」との声が出始めているが、これに対して感染症専門家は「政治判断の問題である」としている。
社会心理学の分野で人々のリスク認知に関する研究が進んでおり、それによれば「危険は実在するが、リスクは社会的に構成される」という。毎年犠牲者を出しているのに軽視されるリスク(自動車事故など)がある一方、犠牲者の多寡にかかわらず、心理的に受け入れがたいリスクがある。新しく出現した感染症はその典型例とされている。
いったん「怖い」と判断したリスクについては、人はそれに対する認識を改めることは容易ではないことがわかっている。一方「リスクを制御できる」と考えるような状況になれば、人々のリスク許容度は格段に高まることもわかっている。
リスク・コミュニケーションの重要性が指摘されているが、新型コロナウイルスを脅威と感じている高齢者に対して、政府は「切り札」と位置づけるワクチンの効果を積極的にアピールして、「ワクチンを打てばコロナ禍以前の日常生活に戻ることができる」と推奨すべきである。さらに「自らがワクチンを接種することで社会全体が元に戻ることができる」という「明るい展望」を語れば、ワクチン接種に消極的な若者の考え方も変えることができるだろう。
変異株の危険性が喧伝されているが、米国疾病予防管理センター(CDC)は「ワクチンと控えめなマスクの着用を組み合わせるだけで変異株の感染拡大を防ぐことができる」と主張している。日本では欧米と異なりマスク着用に違和感が少ない。この利点をいかして「換気の悪い場所でのマスク着用」を条件とした日本独自の「ウィズコロナ」戦略を構築すべきではないだろうか。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。
デイリー新潮取材班編集
2021年7月27日 掲載
共生を目指す英国の動き
一方、世界に目を転じると、成人の過半数が新型コロナウイルスワクチンを接種した国々では「コロナとの共生」を目指した取り組みが始まっている。
中でも注目を集めているのは英国の動きである。
英国政府は7月19日、マスク着用とソーシャルデイスタンスの維持などコロナ対策の主要な規制を全面解除した。1日当たりの感染者数は5万人以上と日本と比べて格段に多いにもかかわらず、政府が大胆な措置に踏み切った背景にはワクチンに対する信頼がある。2回のワクチン接種を完了していれば、感染することはあっても重症化することを防げることが明らかになっているからである。英国では新型コロナウイルス感染症でこれまでに約13万人が死亡しているが、7月に入ってからの1日当たりの死者数は50人以下にとどまっている。
ジョンソン英首相が5日に「ワクチン接種が進み、感染と死亡の関係を断ち切ることができた。コロナと共生する新しい方法を見つけなければならない」と述べたように、これまでの感染抑制に重点を置いた政策からの大転換である。
ジャビド英保健相は「新型コロナウイルス以外の医学や教育、経済上の問題がパンデミックを通じて蓄積されており、感染者数が1日当たり10万人に達したとしても、社会を正常に戻す必要がある」として、今回の措置は新型コロナウイルスと一緒に暮らすことを学ぶプロセスの一部だとの認識を示した。
科学者の多くは今回の決定を不安視しているが、「これにより英国経済は第3四半期中にコロナ禍以前の水準に回復する」とする楽観的な予測が出ている。
「新型コロナウイルス感染症を撲滅するのでなく管理しながら共生すべきだ」とする方針転換は、英国を始めとする欧米諸国の専売特許ではない。日本ではあまり知られていないが、シンガポール政府が一歩先んじている。
シンガポール政府は6月下旬に「感染者数の集計をせずに重症患者の治療に集中する」と宣言、新型コロナウイルスを季節性インフルエンザのように管理する戦略に切り替えた。
シンガポール政府の方針転換の根拠になったのはイスラエルのデータである。それによれば、ワクチン接種完了者が感染する確率は未接種者の30分の1、重症化は10分の1に過ぎないという。昨年の新型コロナウイルスの致死率は2〜3%だったが、イスラエルのワクチン接種完了者の致死率は0.3%まで低下している。この数字は季節性インフルエンザの致死率(0.1%未満)と大きな差はない。
新型コロナウイルスはインフルエンザのような「はやり風邪」になりつつあるとの認識が今後定着するようになれば、「社会としてどの程度まで感染の広がりを許容するのか」という判断が次の大きな問題となる。
残念ながら東京五輪の大部分の競技が無観客で実施されることになったが、「五輪の開催地がもし欧米の都市だったら、今の日本のような感染状況で無観客で実施されるだろうか」と疑問視する声が海外から上がっている(7月14日付ニューズウィ−ク)。
ワクチン接種は欧米諸国に比べて遅れているが、7月末までに希望する高齢者すべての接種が完了する予定である。日本でも海外と同様、感染者数の急増にもかかわらず、重症者数と死者数はかつてほど上昇しない傾向となりつつある。
「ゼロ・コロナ」を目標にするのは望ましいが、感染者数を基準に対策を講じている限り、8月22日の期限までに宣言が解除される見込みは立たない。いつまでたってもコロナ禍以前の状況に戻れないとの不安が頭をよぎる。
日本でも「重症数を基準にした対策に切り替えるべきではないか」との声が出始めているが、これに対して感染症専門家は「政治判断の問題である」としている。
社会心理学の分野で人々のリスク認知に関する研究が進んでおり、それによれば「危険は実在するが、リスクは社会的に構成される」という。毎年犠牲者を出しているのに軽視されるリスク(自動車事故など)がある一方、犠牲者の多寡にかかわらず、心理的に受け入れがたいリスクがある。新しく出現した感染症はその典型例とされている。
いったん「怖い」と判断したリスクについては、人はそれに対する認識を改めることは容易ではないことがわかっている。一方「リスクを制御できる」と考えるような状況になれば、人々のリスク許容度は格段に高まることもわかっている。
リスク・コミュニケーションの重要性が指摘されているが、新型コロナウイルスを脅威と感じている高齢者に対して、政府は「切り札」と位置づけるワクチンの効果を積極的にアピールして、「ワクチンを打てばコロナ禍以前の日常生活に戻ることができる」と推奨すべきである。さらに「自らがワクチンを接種することで社会全体が元に戻ることができる」という「明るい展望」を語れば、ワクチン接種に消極的な若者の考え方も変えることができるだろう。
変異株の危険性が喧伝されているが、米国疾病予防管理センター(CDC)は「ワクチンと控えめなマスクの着用を組み合わせるだけで変異株の感染拡大を防ぐことができる」と主張している。日本では欧米と異なりマスク着用に違和感が少ない。この利点をいかして「換気の悪い場所でのマスク着用」を条件とした日本独自の「ウィズコロナ」戦略を構築すべきではないだろうか。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。
デイリー新潮取材班編集
2021年7月27日 掲載
【私の論評】なぜ私達は「ゼロコロナ」という考えを捨て、「ウィズコロナ」にシフトしなければならないのか(゚д゚)!
世界中で新型コロナウイルスのワクチンの接種が進んでいます。しかし、ワクチン接種先進国である英国の専門家ですら、昨年の時点で、新型ウイルスがワクチンで消える可能性は低く、英国はこの先何年にもわたってこのウイルスと共存していくことになると、警告していました。
保健慈善団体ウェルカム・トラスト会長のサー・ジェレミー・ファーラー教授は昨年7月1日、英下院の保健委員会で「クリスマスまでに事態は収束しない」と述べました。この予想はあたりました。
続けて、人類は「数十年」にわたって新型ウイルスと共存していくことになると述べました。
ボリス・ジョンソン英首相は先週、クリスマスまでに平常の生活に戻るよう期待していると発言していました。この時、ジョンソン首相は新型ウイルス対策の制限緩和拡大を発表。レジャーセンターや屋内スイミングプールを今月下旬に再開するほか、今秋から大規模集会を認める見通しだとしました。
しかし専門家たちは、下院議員の超党派グループに証拠を示し、新型ウイルスが依然として存在していると、現実的に捉えるのが重要だと主張していました。
「この病原体はこの世界に永遠に存在し続ける。どこかへいったりはしない。それが現実だ」と、ベル教授は下院議員たちに述べました。
「こうした病原体を消滅させるのがどれほど大変なことか考えてください。例えばポリオの根絶計画は15年間続いているのに、ポリオはいまだに存在している」
「そのためこのウイルスの感染は今後も、増えたり減ったりする。このウイルスがまた活発になる冬が、たびたび訪れるようになる」
「このワクチンで長期的な効果が得られる可能性は低いので、継続的なサイクルでワクチンを接種しなくてはならない。そうするうちにまた感染者が出て、またワクチンを接種して、また感染者が出ることになる」
「新型ウイルスを撲滅するという考えは、現実的ではないと思う」とも語っています。ワクチン接種先進国である英国では、昨年からこのようなことが語られていたのです。
ゼロコロナは永遠もしくは、当面やってこないことは昨年からわかっていたことです。これについては、誰も否定できないと思います。結核も未だ、日本では毎年平均約18,000人が新たに結核を発症し、毎年約1,900人が結核で亡くなっています。
ゼロコロナが当面やってこないならば、コロナと共存するしかないということです。このブログでは、過去には高橋洋一氏の記事を引用して、日本の感染や死亡は他国に比較すると桁違いに少ないことや、高齢者のワクチン接種が進んだ現状では、東京などの緊急事態宣言は必要ないし、五輪は有観客で開催すべきことを主張してきました。
現役医師でも、これと同じ主張をする人もいます。その代表的なのが、大和田潔氏です。
大和田氏は、「新型コロナの死者数は70代以上の高齢者が8割以上を占める。高齢者へのワクチン接種が急速に進んだ今、もうコロナは終わったと言っていい」と語っています。
無論、大和田氏の発言は、ゼロコロナを前提として語っているのではありません。コロナと共存すること、新型コロナ感染症をマネジメントすることを前提として語っています。
ただし、テレビによる感染報道や、専門家会議の発言などを聞いていれば、なかなかそうは思えないと思います。
そういう方々には、是非とも、大和田氏の以下の記事をご覧になっていただきたいです。
大和田潔氏 |
以下に大和田氏の略歴を掲載しておきます。
1965年生まれ、福島県立医科大学卒後、東京医科歯科大学神経内科にすすむ。厚労省の日本の医療システム研究に参加し救急病院に勤務の後、東京医科歯科大学大学院にて基礎医学研究を修める。東京医科歯科大学臨床教授を経て、秋葉原駅クリニック院長(現職)。頭痛専門医、神経内科専門医、総合内科専門医、米国内科学会会員、医学博士。著書に『知らずに飲んでいた薬の中身』(祥伝社新書)、共著に『のほほん解剖生理学』(永岡書店)などがある。
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを掲載します。
入手困難の時期にワクチンを世界から調達したのは、日本の信用と政府の力です。そして自衛隊の力を借りたり、地方自治体と直接連携をとったりしてワクチン接種を加速させ、成功につなげました。そこに専門家会議や医師会は存在しませんでした。この記事は、今月7日に掲載されたものです。政府が五輪「無観客開催」を決めたのは、今月9日のことです。当然入稿は7日より、もっと前にされているはずですから、大和田氏は五輪は「有観客」で開催されることも前提としてこの記事を書いたのでしょう。
前に進むためにオリンピック委員会や政府が独自にガイドラインを作って運用を始めたのも当然のことです。有観客も良い選択であり、今後の経験につながります。
高齢者が安全になり被害が起きなくなった局面を迎え、コロナはもう身近な季節性ウイルスとしてあつかうべき世の中になりました。全体行動を取る必要はもうありません。一般国民自身がおのおの考え、自分で行動して良い局面になりました。
私たちに植え付けられた「陽性者は隔離」の考えを、自分たちで終わりにさせないといけません。ウイルスと共存して安全な世界がやってきたのです。屋外ではマスクを外して、熱中症対策を優先するガイドラインを作りましょう。
オリンピックの成功体験自体が、私たちの財産になります。また、日本が模索し作りだす新しいスタンダードは、季節性になったコロナと共存するお手本となり雇用拡大と景気回復にこぎ出した世界へ貢献することになるでしょう。
1年前のこのコラムで予想した通りに経過しています。オリンピックや甲子園を楽しみつつ夏の旅に出ましょう。
ゼロコロナはあり得ない以上、政府も、私達もそれを前提として考えていかなければならないのです。交通事故と同じく、絶対安全などあり得ないてのです。コロナと共存しつつ、そのリスクを低減し、日常を取り戻すべきなのです。コロナ感染をゼロにしようとすれば、それは不可能です。
そのためには、菅政権にもどこかで踏ん切りをつけ「コロナと共存」の道を歩むことを宣言しなければなりません。それに反対する勢力も多数存在するでしょうが、それに対しては「ゼロコロナ」はあり得ないことを数々のエビデンスで納得させるか、納得しないのなら、彼らの考えが荒唐無稽で根拠がないことを明確に主張すべきです。
そうして何よりも大事なのは、私達自身が「ゼロコロナ」という考えを捨て、「ウィズコロナ」にシフトしなければならないことです。政府主導だけでは、このシフトは困難です。私達自身がシフトし、その観点から政府に様々な要求をつきつけるべきなのです。
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