2021年7月10日土曜日

米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを―【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!

米軍アフガン撤収 タリバン攻勢に歯止めを

9カ月間のアフガン派遣から帰国し、荷物を降ろす米兵(2020年12月、ニューヨーク州フォートドラム)

 米軍のアフガニスタンからの撤収完了を前にイスラム原理主義勢力タリバンの政府軍への攻撃が勢いを増しており、大きな不安を禁じ得ない。

米軍は20年にわたり拠点を置き、政府を支え、治安を守ってきた。撤収はアフガン国内のみならず、中央アジアを含む地域全体、あるいは世界を巻き込んだテロとの戦い全般に影響を及ぼさずにはおかない。

重大な岐路にあると認識すべきだ。アフガンがかつてのような内戦状況に陥り、「テロの温床」となる事態は絶対に避けたい。

米国は急ぎ、周辺国の協力を得て、バグラム空軍基地に代わる出撃拠点の確保など、いざというときの態勢を整えなければならない。日本を含む国際社会は、アフガンへの変わらぬ支援を表明し、関与の継続を明確にすべきだ。

バイデン米大統領は今年4月、米中枢同時テロから20年の9月11日までに撤収すると表明し、すでに9割以上が作業を終えた。

一方、タリバンは北部を中心に着実に支配地を拡大させ、劣勢に立たされた政府軍は1000人を超える兵士が国境を越え、タジキスタンに逃げる事態になった。

気がかりなのは、米軍撤収が早めのペースで着々と進められていることだ。内戦や政府崩壊を危惧する声も上がる中、慎重さを欠くのではないか。タリバンの攻勢に歯止めをかける必要がある。撤収がトランプ米前政権とタリバンとの合意に沿ったものとはいえ、「人権外交」を掲げるバイデン政権が、住民に厳しい規律を押しつけるタリバンとの合意を進めようとする姿勢に違和感を覚える。

バイデン氏は撤収表明の際、「中国との競争」に言及し、撤収で生まれる余力を対中国シフトに振り向ける考えを強調した。

その発想は正しいが、危うさもはらんでいる。撤収後のアフガンが混乱し、再度、本格介入を迫られれば、元も子もないからだ。

米軍不在となるアフガンには、中国、ロシアも無関心ではいられまい。中国は過激派流入を警戒する一方、アフガンを「一帯一路」の中核地域とみている。アフガンの北の中央アジア5カ国はロシアが「勢力圏」とみなす。

アフガンに介入するなら、この国の安定とテロとの戦いへの貢献につながるものでなくてはならない。やみくもに影響力拡大を競うなどもってのほかだ。

【私の論評】米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直しつつある(゚д゚)!

超大国がアフガニスタンで苦杯を喫するのは米国が初めてではありません。米国と入れ替わるようにアフガニスタンを去った旧ソ連は、親ソ政権擁護のために1979年から10年間駐留したましたが、武装勢力ムジャヒディーンの抵抗で1万4000人以上の戦死者を出し、ソ連崩壊の原因の一つにもなりました。

 それ以前に英国も、帝国全盛時代の19世紀から20世紀初めにかけて三次にわたりアフガニスタンで戦いましたが、1842年にはカブール撤退で1万6000人が全滅させられました。その後シンガポールで日本軍に敗北するまで「英軍最悪の惨事」と言われていましたた。

 こうしたことから、アフガニスタンは「帝国の墓場(Graveyard of Empires)」と呼ばれるようになり、米国もその墓場に入ったのですが撤退を余儀なくさせらました。

最貧国にあげられるこの国がなぜ超大国を屈服させられるのでしょうか。まず、国土の四分の三が「ヒンドゥー・クシュ」系の高い山で、超大国得意の機動部隊の出番がありません。ちなみに「ヒンドゥー・クシュ」とは「インド人殺し」の意味で、この山系を超えるインド人の遭難者が多かったことによるものとされています。

アフガニスタン ヒンドゥー・シュク山脈

 次に、古くは古代ギリシャのアレクサンドロス大王やモンゴルのチンギスハーン、ティムールなどの侵略を受けて、国民が征服者に対して「面従腹背」で対応することに慣れていることです。

 さらに、アフガニスタン人と言っても主なパシュトゥーン人は45%に過ぎず、数多くの民族がそれぞれの言語を使っているので、征服者がまとめて国を収めるのはもともと無理なことが挙げられます。

この国を征服しようとした超大国は、なす術もなくこの国を去ることになったわけですが、この後もアフガニスタンを自らのものにしようという帝国が現れるのでしょうか。

 一つ考えられるのが中国でしょう。中国が米軍撤収完了後のアフガニスタン安定化に向け、関与を深める姿勢を見せています。アフガンが「テロリストの温床」と化せば、隣接する新疆(しんきょう)ウイグル自治区への中国による弾圧に影響を与えかねないことなどが、その理由です。米軍撤収による混乱拡大を最小限に抑えるため、イスラム原理主義勢力タリバンを支援するとの観測も上がっています。

「中国は地域の国や国際社会とともに、アフガン内部の交渉や平和再建を推進するために積極的に努力したい」。中国外務省の汪文斌(おう・ぶんひん)報道官は8日の記者会見でアフガン情勢についてこう語り、安定化に向けて関与する意向を強調しました。

6月3日には王毅国務委員兼外相がアフガンとパキスタンの外相とオンライン会合を開催。「3カ国は意思疎通と協力を強化し、共通の利益に合致する方向へ情勢を進める必要がある」との考えを示しました。

古くはシルクロードの拠点だったアフガニスタンは、今中国が推し進めている「一帯一路」でも要地と位置付けるからです。 米国が去った後のアフガニスタンの空白を中国が埋めようとするかもしれないですが、おそらく「帝国の墓場」入りを避けることはできないでしょう。


さらに、中国は英国や米国とは異なり、新疆ウイグル自治区を介して国境を接しています。崩壊したソ連もこの状況に似ていました。

現在のロシアは、アフガニスタンと国境を直接接していませんが、当時のソ連は、連邦に加盟していた中央アジアの国々を介してアフガニスタンと接していました。


1979年、ソ連のブレジネフ政権が、親ソ政権を支援し、イスラーム原理主義ゲリラを抑えるために侵攻しました。反発した西側諸国の多くはモスクワ=オリンピックをボイコットしました。経済の停滞するソ連でも大きな問題となり、ソ連崩壊の一因となりました。

ソ連軍に対しイスラーム原理主義系のゲリラ組織は激しく抵抗、ソ連軍の駐留は10年に及んで泥沼化し、失敗しました。

ソ連のアフガニスタン侵攻に米国など西側諸国が反発し、70年代の緊張緩和(デタント)が終わって新冷戦といわれる対立に戻りました。これを機にソ連の権威が大きく揺らいで、ソ連崩壊の基点となりました。 

当時はソ連のアフガニスタン侵攻の理由は明確にはされず、諸説あったが、現在では次の2点とされています。

まず第一は、共産政権の維持のためです。アフガニスタンのアミン軍事政権が独裁化し、ソ連系の共産主義者排除を図ったことへの危機感をもちました。ソ連が直接介入に踏み切った口実は、1978年に締結した両国の善隣友好条約であり、またかつてチェコ事件(1968年)に介入したときに打ち出したブレジネフ=ドクトリン(制限主権論)でしたた。

第二位は、イスラーム民族運動の抑圧のためです。同年、隣国イランでイラン革命が勃発、イスラーム民族運動が活発になっており、イスラーム政権が成立すると、他のソ連邦内のイスラーム系諸民族にソ連からの離脱運動が強まる恐れがありました。

現在の中国も似たような状況に追い込まれることは、十分に考えられます。アフガニスタンのイスラーム過激派などに呼応して新疆ウイグル自治区の独立運動が起きる可能性もあります。

それに影響されて、チベット自治区、モンゴル自治区も独立運動が起きる可能性もあります。そうなると、中国はかつてのソ連や、米国のようにアフガニスタンに軍事介入をすることも予想されます。そうなれば、かつてのソ連や米国のように、中国の介入も泥沼化して、軍事的にも経済的にも衰退し、体制崩壊につながる可能性もあります。

意外と、トランプ氏はそのことを見越していたのかもしれません。米軍がこれ以上アフガニスタンに駐留をし続けていても、勝利を得られる確証は全くないのは確実ですし、そのために米軍将兵を犠牲にし続けることは得策ではないと考えたのでしょう。

さら、米軍アフガニスタン撤退を決めたトランプ氏は、中国と対峙を最優先にすべきであると考え、米軍のアフガニスタン撤退後には、その時々で中国に敵対し、中国を衰退させる方向に向かわせる勢力に支援をすることに切り替えたのでしょう。バイデン氏もそれを引き継いだのでしょう。誰が考えても、米軍がアフガニスタンに駐留し続けることは得策ではありません。

今後米国は、中国を弱体化させる方向で、対アフガニスタン政策を見直すことになると思います。その先駆けが、米軍のアフガニスタン撤退です。

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