2021年7月14日水曜日

キューバの政府批判の大規模抗議デモ 米バイデン政権が支持―【私の論評】キューバ政府が民主的にデモを収拾できなければ、米・キューバ関係は改善されない(゚д゚)!

キューバの政府批判の大規模抗議デモ 米バイデン政権が支持


カリブ海の社会主義国、キューバで、経済の悪化などを背景に、政府に対する大規模な抗議デモが行われたことについて、アメリカのバイデン政権は支持を表明するとともに、多くの市民が不当に拘束されたとして、キューバ政府を非難しました。

キューバでは、経済の悪化に伴い食料不足や物価の高騰が問題となっていて、11日に各地で数千人が参加して、政府に対する抗議デモが行われました。

社会主義国のキューバで政府を批判するデモは異例で、現地の日本大使館によりますと、12日以降、首都ハバナ市内ではデモは行われていないものの、警察による警備が厳しくなり、国営の通信会社のインターネットもつながりにくくなっているということです。

抗議デモについて、アメリカのバイデン大統領は12日に「キューバ国民が普遍的な権利を主張することを強く支持する」と述べて、支持を表明しました。

また、アメリカ国務省のプライス報道官は13日に「キューバ政府は国民の声を封じ込めるためインターネットを遮断し、恣意的(しいてき)に多くのデモ参加者や活動家などを拘束した」と述べて、キューバ政府を非難しました。

一方、キューバのディアスカネル大統領は12日に、国民に向けたテレビ演説の中で「経済の悪化はアメリカの経済制裁によるものだ」と述べて、反発しています。

アメリカは2015年のオバマ政権時代に、キューバと54年ぶりに国交を回復しましたが、現在も経済制裁を続けています。

【私の論評】キューバ政府が民主的にデモを収拾できなければ、米・キューバ関係は改善されない(゚д゚)!

ドナルド・トランプ前大統領は12日にキューバのデモ抗議者に支持を表し、「彼らは恐れていない!」と声明で述べました。

「キューバとマイアミで共産主義キューバ政府に抗議する大きなデモが起こっている(現在キューバではデモ抗議者はゼロだという―それがどういう意味か分かるだろうが!)」とトランプは書きました。


第45代大統領は、キューバの人々の「自由のための戦いを100パーセント」支持すると続けました。

「政府は彼らに発言させ、自由にしなければならない!ジョー・バイデンは共産主義政権に立ち向かわなければならない―さもなければ歴史が記憶するだろう。キューバの人々は自由と人権を得てしかるべきだ!彼らは恐れていない!」

トランプはバラク・オバマ元大統領のことも追及し、カストロ家は「キューバの人々を投獄し、殴り、殺した」のにオバマは彼らと野球の試合に参加したと述べました。オバマは、キューバで行われた、キューバ代表チームとタンパベイ・レイズの間のMLB公開試合で、独裁者のラウル・カストロの隣に座りました。

トランプは、ジョー・バイデン大統領と民主党が自身の「キューバに対するとても厳しい姿勢」を覆す運動をしていたとも主張しました。

何千人ものデモ抗議者が12日にキューバ各地で行進し、同国の共産主義政権に対する不満と、基本的な必需品が得られないことへの不満を訴えました。キューバ人は報道によると32以上の都市でデモを行い、「自由!」「共産主義を倒せ!」また「祖国と生活(Patria y Vida)」と唱えました。




デモ抗議者は報道によると、食料、薬、ワクチンの提供と共産主義の終結を要求しました。

米国務省西半球局のジュリー・チャン次官補代理は、「自由」が叫ばれているにもかかわらず、デモはCOVID-19による感染と死亡に対するものだと主張しました。ロイターによると、以前キューバ市民は、4月のキューバ共産党議会の4日間の議会中にインターネット接続を遮断し、外出を禁止したとして共産党を非難しました。

報道によると、キューバのミゲル・ディアスカネル大統領はデモは米国のせいだと述べました。同大統領は、軍事介入を正当化するために「暴動を誘発」させようとして米国が意図的にキューバが生活必需品を得られないように制限したと主張した、とマイアミ・ヘラルドは報じました。

バイデン政権の対中南米政策で注目される国がキューバです。半世紀にわたる確執の後、バラク・オバマ政権はキューバとの外交関係を再開し、経済制裁を一部緩和するなど、両国の関係は雪解けを迎えたかにみえました。

2015年、米国とキューバは(キューバ革命後の)1961年以降断絶されていた外交関係を再開し、米国は対キューバ経済政策を一部緩和、2016年にはオバマ大統領がキューバを訪問して関係改善は大いに進んだのですが、トランプ政権はオバマ政権下の緩和措置を取り消し、キューバ軍関連企業との取引禁止、テロ支援国家の再指定等、制裁を強化して両国関係は一機に冷え込みました。

バイデン大統領は大統領選挙戦中からトランプ政権の対キューバ政策を撤回すると述べ、キューバもディアスカネル大統領が米国との建設的な関係への期待をツイートするなど関係改善が期待されていたましたが、バイデン政権発足後には米政府当局者が「対キューバ政策は最優先事項ではない」と述べる中、キューバの出方が注目される中4月には共産党大会が開催されました。

13年ぶりに開催された共産党大会

今次共産党大会の諸文書や演説では対米批判に多くが割かれました。ラウル第一書記の中央報告では33ページのうち7ページ強が対米批判に充てられ、ディアスカネル新第一書記は、米国の制裁が「人道に対する罪」であり「冷酷なジェノサイド政策」とまで評しています。

同時に「米国との間では、キューバが革命や社会主義の原則を放棄したり、主権と独立に反する譲歩をすることなく、、、相互に敬意を持った対話を進め、新しい関係を築きたい」(ラウル第一書記中央報告)として、関係改善には期待を表明しています。

対米批判と関係改善への期待という一見相反するメッセージは、キューバの発信手法としては珍しいことではありません。今回の共産党大会でも、キューバの体制や政策は変えるつもりはないが、米国からの「一方的な」歩み寄りを期待しているという趣旨でしょう。

共産党の世代交代とトップの禅譲という機微な事項を扱う党大会で、対米強硬姿勢を見せたのは当然とも言えるでしょう。

現在、トランプ政権下の制裁強化策は維持されたままです。その背景とされるのは米国内政事情です。2020年11月の選挙では最大のスイングステートであるフロリダ州において、キューバ系の反カストロ勢力が共和党躍進に一役買ったとされます。

連邦上院に議席を持つ3名のキューバ系議員は、共和党のルビオ、クルスのみならず、民主党のメネンデス上院外交委員長でさえ社会主義キューバに厳しい立場である等、2022年の中間選挙を控えるバイデン政権にとって、キューバとの関係改善は早急な成果が期待し難く内政上のコストが高い案件なのです。キューバも米国に対する歩み寄りの国内政治上のハードルは低くありません。

一方で、米国内にはリーヒー上院議員(民主党)を筆頭としてキューバとの関係改善を求めるグループもあり、キューバ系米国人の中にもキューバに残った親類を気遣う人も多いです。

何よりトランプ政権の対キューバ政策見直しはバイデン大統領の選挙公約です。キューバ側にしても、頼みの綱のベネズエラは依然混迷を続け、世銀もIMFも米州開発銀行(IDB)も支援が期待できず(キューバは加盟国ではない)、オバマ時代の関係改善によって観光増大、送金増加、諸外国からの投資機運の盛り上がり等で経済が上向いたことを覚えています。

双方とも、大きな国内の反発を呼ばないシナリオで、かつ適切なタイミングで関係改善に向けて歩を進めようとしていたようです。

第一歩を踏み出し易いのは、権力基盤の固まっていないキューバの新政権ではなく、米国側でした。タイミングの判断は難しいですが、人道的な措置、キューバの民主化に貢献する措置、技術的・事務的に対処できる措置は反発が少ないでしょう。

例えばキューバ系米国人からキューバの親類への送金制限撤廃、商業便の再開による親族訪問、オバマ時代に開始した政府間諸対話の再開、臨時代理大使に替えて本任大使の任命、さらに2万人/年の移住査証供与の再開等です。

一方キューバ側から米国に提供できる事は少ないですが、政治犯の釈放、革命時の接収資産補償交渉の開始等は、比較的ハードルが低いと思われます。とは言え、その第一歩の後も、キューバ側に抜本的な変革がない限り、関係改善は相当時間のかかるプロセスとなるとみられていました。

そうして、今回のデモ騒ぎです。バイデンとしては、国内の反キューバ派を意識して、バイデン政権はデモの支持を表明するとともに、多くの市民が不当に拘束されたとして、キューバ政府を非難せざるを得なかったのでしょう。

今後、キューバ政府が米国を納得させる形で、デモを収拾することができなければ、米・キューバ関係が改善されることはないでしょう。

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