2021年7月11日日曜日

世界で拡大するウイグル問題 太陽光パネルの価格も上昇中…影響を過小評価すべきでない ―【私の論評】日米に先行され、稼ぎ頭を失いそうな中国の小型原発開発(゚д゚)!

世界で拡大するウイグル問題 太陽光パネルの価格も上昇中…影響を過小評価すべきでない 

高橋洋一 日本の解き方

豪雨の影響でパネルが地面ごとずり落ちた太陽光発電所=2018年7月26日兵庫県姫路市

 新疆ウイグル自治区の人権問題をめぐり、米国が中国の太陽光パネルの部品を輸入禁止とした。またフランスの捜査当局はウイグルの強制労働の疑いでユニクロなど衣料品企業の捜査を始めたと報じられている。欧米のこうした動きはどこまで本気なのか。日本はどう対応すべきだろうか。

 今回の動向はやはり米国の影響が大きい。トランプ前政権では、対中姿勢は強硬だったが、連携がなかった欧州は対中姿勢では同調しなかった。しかし、バイデン政権になって、欧州との協調路線が明確になるとともに、対中姿勢でも欧米は徐々に強硬姿勢に転じている。おそらく来年2月の北京冬季五輪まで、人権問題はうってつけの理由となるし、中国は対抗措置を取りにくいので、今の流れは続くだろう。

 フランスで捜査対象になったのは、ユニクロの他、スペイン、フランス、米国のアパレルメーカーだ。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が2020年3月に発表した報告書では、82社がウイグルの人権を侵害する現地企業と取引をしていた。今回捜査対象になったのは、その中の4社であり、NGOが提訴したものだ。

 こうした訴えは、フランス以外でも起こり得るだろう。

 太陽光パネルについては、バイデン政権が21年5月、強制労働を利用した疑いで中国製パネルを貿易制裁の対象製品に指定するか検討していると明らかにしたが、その結果、バイデン政権として大規模な禁輸措置になった。欧州でも中国製パネルを問題視する声がでており、この動きも欧州に広がる可能性がある。

 問題は、太陽光パネルの主原料であるシリコンは、ウイグル地区で生産されたものが世界の5割程度を占めていることだ。短期的には、代替地を確保するのが困難だ。そのため、シリコン価格は1年間で5倍近くに高騰。パネル価格も3~4割上がった。

 もっとも、この価格の動向は歓迎すべきだろう。というのは、これまでの太陽光発電は安価な中国製パネルで支えられて、必要以上に推奨されてきているとも言えるのだ。

 中国製が安価なのは中国政府の補助金のためだといわれてきたが、それも不公正で問題だが、ウイグルでの労働搾取でもあれば、それは人権問題からも容認できなくなるだろう。

 パネル価格は、そうした懸念のシグナルと見た方がいい。となると、脱炭素戦略としては、(1)太陽光などの再生可能エネルギー(2)既存火力の炭素ガス除去(3)安全な原発と3つに大別できる。安価な中国製パネルを前提として、(2)と(3)は消極的扱いだったが、もはや(2)と(3)も積極的選択肢になりうる。

 本コラムでは、安全な小型原子炉を紹介してきたが、エネルギー戦略として、ますます有望になっていくのではないだろうか。

 ウイグル問題は、各分野にさまざまな波及があるので、その影響を過小評価しない方がいい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日米に先行され、稼ぎ頭を失いそうな中国の小型原発開発(゚д゚)!

このブログにも以前掲載したように、太陽光発電業界の中国強制労働への依存がバイデンのクリーンエネルギー経済を脅かすことが懸念されていましたが、バイデン政権は太陽発電によるクリーンエネルギーに固執する考えはないようです。

それはなぜかといえば、バイデン政権は安全な小型原子炉を、クリーンエネルギー戦略の中心として位置づけたからだと考えられます。そもそも、いわゆる代替エネルキーとされる、風力発電、太陽光発電はあまりに不安定で、現在までの開発経緯から何かとてつもない突破口が見つからい限り、次世代を担うエネルギーになることは、考えられません。

特に、太陽光発電のネガティブな点は、以下の記事をご覧になってください。
太陽光発電業界の中国強制労働への依存がバイデンのクリーンエネルギー経済を脅かす―【私の論評】日米ともに太陽光発電は、エネルギー政策でも、安全保障上も下策中の下策(゚д゚)!
太陽光パネルの上に横たわる女性

この記事では、太陽光発電がクリーン・エネルギーとは呼べないし、結果として、ウイグル人のブラック労働に依存することになることを述べました。まさに、太陽光発電は、発電手段としては、下の下です。先にも述べたように、当初懸念していた、バイデン政権は太陽光発電への依存はしないようです。これは、冷静に考えれば、当然といえば当然です。

小型原子炉についても、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日米首脳共同声明で追い詰められた中国が、どうしても潰したい「ある議論」―【私の論評】小型原発を輸出しようという、中国の目論見は日米により挫かれつつあり(゚д゚)!

         小型モジュール炉「NuScale Power Module」
     高さ約23×直径約4.6m。加圧水型炉(PWR)を構成する圧力容器や蒸気発生器、加圧器など
     を1つのモジュールに収めている。(出所:米NuScale Power)


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずはこの記事から小型原子炉に関する部分を以下に引用します。

菅政権が「2050年カーボンニュートラル」を掲げたことを受け、経済産業省は20年12月25日にその具体的な産業施策として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を公表した。

その中で注目されるのが新型炉です。具体的には、[1]小型モジュール炉(SMR)、[2]高温ガス炉(HTGR)、そして[3]核融合炉、です。経済産業省は20年12月、カーボンニュートラルを実現するにあたって、既存の原子力発電所の再稼働と並行し、これら3つの新型炉の開発を推進するとしました。

3つの新型炉のうち、最も開発が進んでいるのが[1]小型モジュール炉(SMR)です。これは、文字通り小型の原子炉にモジュール化の発想を取り入れたもので、使い勝手がよく安全性も高いとされています。

小型モジュール炉についての詳細はこの記事をご覧になってください。 

さて、この小型モジュール炉の優れた点は、使い勝手の良さや安全性が高いだけではなく、他にも大きなメリットがあります。それは、工場で大部分を製造し、現場では据え付けだけですむということがあります。

既存の原発で主流の軽水炉は大型化が進み、1基当たりの出力が100万キロワット以上が主流なのに対し、数万~数十万キロワットと小さいのですが、原子炉の容積に対する表面積が大きく、原子炉を冷却しやすいのが特徴です。

プレハブ住宅のように、主要機器を事前に工場で製造してから現地で据え付けるため、初期投資抑制や工期短縮が可能です。建設費が1兆円を超えることも珍しくない軽水炉に対し、数分の一で済むようです。

安定的に発電できるため、天候に発電量が左右されがちな再生可能エネルギーにとって変わることが期待されるほか、比較的狭い地域ごとに発電所が散在する形が想定されており、万一の事故の影響も少ないとされます。

無論モジュール一個だけでは、発電量は少ないのですが、それは、このモジュールの数を増やすということで、増やすことができます。ただ、従来軽水炉のように、かなり広い地域に送電するのではなく、比較的限られた地域に送電することが想定されていますから、一箇所で多数のモジュールで発電することはないと考えられます。

この小型モジュール原子炉は、輸送もしやすいです。工場でほとんどを組みたて、船で運び現地で設置するという方式が考えられます。これだと、従来よりかなり簡単に運ぶことができます。現地での複雑な組立作業も必要がないので、原子力発電所の工期も以前より、格段に短くなります。

日立GEニュークリア・エナジー社と米国GE Hitachi Nuclear Energy社はSMRであるBWRX-300を開発中です。同社は、原子力発電所の設計・製造経験と、さまざまな製品のモジュール製造経験が豊富で、その経験を活かした原子力イノベーションを進めています。米国でBWRX-300初号機の建設をめざして、米国原子力規制委員会にはすでに安全審査項目に関する技術レポートを提出しています。また、カナダでの建設も視野に入れ、カナダ原子力安全委員会でも審査を開始しています。

従来型の巨大原子力発電所は時代遅れになる

中国は、これを強力に推進しようとしているようです。一つは、たとえば南シナ海に小型モジュール原子炉を積んだ船舶を派遣して、南シナ海の中国の環礁を埋め立てた地域の軍事基地などへの電力の供給に用いようとしています。

さらに、一帯一路の一環として、対象地域にこの原子炉を輸出しようと考えているようです。ただし、この計画いまのところは、スムーズには進んではいないようです。

中国の原子力開発を担う国有企業、中国核工業集団(CNNC)は3月19日、国産原子炉「華龍1号(Hualong One)」を採用したパキスタン・カラチ原発2号機が送電網に接続されたと発表しました。中国が初めて海外に輸出した原子炉が稼働することで、同国の原子力業界の海外進出が加速しようとしているようです。

原発は大きなビジネスとなるだけでなく、輸出相手国に大きな存在感を示すことができます。国の成長を支えるエネルギーを保証することで、政治的な結び付きの強化や国民の対中感情向上につながる可能性もあります。

華龍1号は英国ブラッドウェルB原発建設プロジェクトへの採用も決まっており、年内中にも設計承認確認書が発給されるとみられています。原発輸出が順調に進めば、中国の国際的影響力も高まっていきそうです。

ただ、そこに伏兵が現れたのです。先に中国は小型モジュール原子炉を開発を進めているのに、開発はスムーズには進んでいないことを掲載しました。

実は、これを最初に実用化しそうなのは、米国なのです。米国がこれの開発に成功して、世界中に輸出するようになれば、中国の出る幕はなくなります。中国にとっては、大きな稼ぎ頭がなくなってしまうのです。

しかも、実は日本もこの方向に進むと見られています。バイデン政権を見越して、米大統領選の直前の昨年10月26日、菅政権はギリギリのタイミングで「2050年カーボンニュートラル」を打ち出しました。それを受けて、経済産業省は12月25日、カーボンニュートラルを実現するにあたって、既存の原子力発電所の再稼働と並行し、新型原子炉の開発を推進するとしたのです。

日米欧どこでも、再生エネルギーには現状ではあまり多くを頼れません。あまりに不安定ですし、発電効率が絶望的に低いからです。主力は原発と火力にならざるをえません。カーボンニュートラルのためには火力で生じるCO2を回収・貯留する必要がありコスト高にならざるを得ません。となると、やはり原発が必要です。

といっても、従来の大型原発の再稼働も政治的に難しく、新設は事実上不可能に近いので、いずれ減らしていかざるを得ないです。その場合、カーボンニュートラルで、より安全な小型原子炉の開発が大きなカギを握ることになるのです。

日米が、小型モジュール原子炉に先行すれば、一帯一路で失敗ばかりしている中国は、最後の稼ぎ頭を奪われることになります。


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